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『剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、明日の朝日を拝める気がまったくしない』シリーズ

剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、もう二ヵ月ぐらいおっさんしか見てない

作者:U字
※本作は拙作短編『剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、明日の朝日を拝める気がまったくしない』の続きとなっています。
 ただ、本作単独でも一応は完結したお話なので、問題ありません。
 王様に言われるままにホイホイ出かけてみれば、もう二ヵ月間もおっさんしか見てないことに気付いてしまった件。

 何か二万人くらい引き連れて城を攻め落として来いとか言われたんだけど、二ヵ月もの間、だらだらと包囲戦やってんの。
 それで、今日もまた、おっさんの顔を見ながらよく分からない会議だ。
 自分の連隊は副連隊長と連隊付き士官さんに任せて、俺はじいやと一緒に難しい顔したおっさんを鑑賞する仕事である。

「であるからしまして、帝国側、ラウジッツ辺境伯の守る城塞都市ラウジッツの守りは固く、最近聞く『聖女』なる小娘の年齢の二倍の軍歴からくる老練な手腕は――」

 初陣で命からがら逃げ帰ってみれば、急に王様からお呼び出しくらって、たまにあちこち戦って来いって送り出される日々を過ごして早一年。
 そうは言っても、父親が買ってこっちに押し付けてきた連隊長職は定員割れの一千人しか部下がいないから、ちょこちょこっと戦って帰ってこれるくらいの小さなお仕事しかなかった訳だ。
 で、またそんな感じだろうと王様のところに呼ばれていけば、連隊長職と別働隊司令官職を兼ねろとか、こいつらが今回の指揮下の部隊指揮官だからとか言われておっさんどもと挨拶させられてとか、色々あって現状だよ。

「一方、陛下の率いる本隊の状況も、悪くもなければ良くもないものでして――」

 で、俺も男だから、性欲だってある。
 お仕事なんてちょろっと終わらせて行きつけの娼館にでも行こうと思い続けて、もう二ヵ月。

 いや、俺以外も男な訳で、そんな奴ら相手の娼婦さんが結構その辺には居るんだよ?
 でもさ、ガキのころからあれこれうるさいじいやが、性病がどうの、公爵家の人間が安い娼婦を買うなんてとんでもないだの、あれこれうるさいんだよ。
 あまりにもうるさいんで、こっそりお相手してもらおうと抜け出してみれば、胸が高鳴るようなお姉ちゃんと出会う前に、胸が騒ぐとかで何となく散歩してたじいやと出会ってしまう始末。
 散々に怒られるし、俺の連隊を実質的に運営している副連隊長や連隊付き士官さんの二人も巻き込んで、万全な監視体制をきずきやがった。
 お蔭で、ここしばらく、『女』という存在を見てすらいない。
 しかもこの世界、前世と違って、エロゲーも、エロビデオも、エロ本もありはしないのだ。

 あー、帰りたいなぁー。

「よって、本隊の戦況によっては『撤退』も視野に――」
「え、撤退していいの? マジか!? はよはよ!」

 やったね! 神は俺を見捨てなかった!
 転生した時に特に会わなかった神様は、俺を見守っててくれたんだね!

「この状況で撤退だと!? 司令官、何を考えておられるのか!」
「そうだ! 本隊とて決着はついていないのだぞ!? なぜ、まだ戦える我々が撤退なのだ!?」
「もしや、我々の実力をお疑いか!?」

「うっせぇ! 撤退していいんだから撤退するんだぞ!? あと俺、司令官! お分かり!?」

 うんうん。権力は偉大だよね。
 普段はがっつり丸投げしといて、必要な時には命令すりゃ黙ってくれるんだもんね――一人を除いて。

「ええ、分かっています。その上で、納得できぬと申しております」

 このムキムキな中年オヤジ。名前は……仮に『おっさんA』としよう。
 おう、何が悲しくておっさんの名前なんか頑張って覚えなきゃならんのだよ。

 まあ、おっさんAは、ここに十人ちょっと居るおっさんどもの中で、一目置かれているみたいだ。
 それで調子に乗ってるのか、ちょくちょく俺に訳の分からん話をふっては困らせて来るのだ。

 それに、俺は知ってるんだぞ。
 こいつらみんな、ちゃんと愛人連中を連れてきて、毎晩しっぽりヤってやがるってこと。
 じいや、お前も女買うのに色々文句付ける前に、そういう『常識』を先に教えろってんだ。
 くそっ、自分らだけよろしくやってるからって余裕ぶりやがって。そんなに城を囲んでるだけの簡単なお仕事を続けたいのか?
 俺は愛人付きなら続けたいぞ。

「とにかく、撤退ったら撤退だってんだ」
「ですから、仮に逃げるにしても、後方からの敵の追撃も考えられる――」
「ああ、もう! だったら、俺が先頭で、お前が一番後ろ! 残りは俺の部隊の横と後ろに固めて撤退! ハイ決まり! 後は任せるから好きにやって!」

 ガタガタ言われてもうるさいし、おっさんAはとにかく一番遠くにしとこう。
 まあ、俺は一刻も早く娼館に行くために先頭でないとだめだから、一番後ろしかないよね。あとは、横と後ろに肉壁を置いて、さっさと帰宅だ!

「ん? 今、私が一番後ろとおっしゃいましたか? それに、『任せる』と?」
「お、おう」
「ふむ……」

 何か、急におっさんAの雰囲気が怖くなってビビる。
 しかも、よく分からないことをぶつぶつ言ってるし、頭でもおかしくなったのか?

「守勢に強い部隊でなく、攻勢に最も強い我が部隊が最後方で、突撃陣形を逆さに向けた逆三角の陣形のまま撤退する――なるほど、そういうことか! 撤退しましょう!」
「お、おう……」

 え、何これこわい。
 まあ、撤退してくれるんならなんでもいいんだけどさ。

「なれば、司令官のご期待に応えるためにも、後の段取りはすべて私にお任せください!」
「お、おう。どうぞどうぞ」

 本当に、おっさんAの頭でも打ったのかと言いたくなる変わりようは心配だが、なんか全部やってくれるんなら良いや。




 撤退を決めた翌朝。早くも馬上で撤退中である。
 囲んでた城のすぐ前にある、来るときに下ってきた台地にえっちらおっちら登ってるところだ。

 俺の心は、帰った後の娼館で誰を指名しようかとか考えて、ウキウキだった――その時までは。

「なあ、じいや。後ろが騒がしいんだけど、どしたの?」
「ふむ。ついに、攻勢に出たようですな」
「ああ、攻勢ね。……攻勢!?」

 いや、撤退だって言ったのに、何してんの!?
 てか、何か俺の連隊の左右の部隊も後ろに向かって全力疾走だし!?

「おいこら待て! ――おら、お前ら邪魔だ! 通せ!」

「ほら、お前たち! シャールモント子爵のおっしゃっていた通り、若様をお守りするぞ! 続けぇ!」
「やはり、連隊長はここで黙って見ていられないようですな。どこまでもついていきますよ!」

 そんなこんなで一緒に来た副連隊長と連隊付き士官さんが道を開けさせてくれるので、じいやを連れて一気にそこを駆け抜ける。

 なんか、モブが集まるところに一緒に行くとかフラグ臭いが、四の五の言ってる場合じゃねぇ!
 肉壁が俺の連隊の一千だけとか、敵地のど真ん中なのに少なすぎるってんだ! さっさとこの馬鹿騒ぎの責任者――たぶん、昨日なんか言ってたおっさんAにガツンと言ってやる!

 登ってきた道を下りに下って……見つけた! おっさんAだ!

「おーい! ちょっと待てやぁ!」
「おお、司令官! 偽装退却につられて追撃してきたところに、万全の準備を整え、上を取って一気に攻め下る! あらかじめ逆向きの突撃陣形を取ることで振り向くだけで突撃準備は完成するようにしておき、敵の追撃を食い止めるのが仕事の殿しんがりに一番攻撃的な部隊を置いて逆に打ち倒そうなど、よく思いつきましたね! 背中を見せれば喰い付きたくなるという人間心理を生かした、素晴らしい策です! 敵は散々にやられて退却しました!」
「……え?」
「では、私は全軍をまとめ直してから指揮権をお返しします。少々お待ちを!」

 おっさんAがそう言い残して去ってから見れば、帝国軍は続々と城に駆け込んでいくところだ。
 帰ろうと思ったら、敵がボッコボコになってた。――何を言ってるのか分からないと思うが、俺の方が分かってない自信がある。

 しかし、ここで俺の天才的脳細胞は一つの事実に気付いた。

 ――城塞『都市』なら、娼館くらいあるんじゃね?

 目の前に見えるのは、とても大きい城だ。
 万に近い軍勢が中にいるとか何とか言ってた気がするし、民間人の人口は知らないけど、一万人近く入れる大きさの城なら、性産業だって成り立つくらいは人口があるだろう。
 つまり、何日もかけて帰るより、目の前の『都市』で女を買う方が早い!

「司令官! 一応、部隊をまとめ終えました。指揮権をお返しします」
「おう、じゃあ早速、突撃な!」
「はい……いや、お待ちください様子がおかしいです」

 様子がおかしい?
 城を見ると、何か扉が開けっぱなくらいだ。

「って、チャーンス! 突撃だ!」
「お待ちください! 敵将ラウジッツ辺境伯は、老練な名将。我々がエサを使って罠にかけたように、何かの策があるに――」
「ほら、酒も飯も大判振る舞いするからさっさと仕事を終わらせろって他の連中にも言っといてくれ! じゃあ、我が連隊よ、攻めこめぇ!」
「「「「「「おぉーっ!」」」」」」

 さあ、今夜は酒池肉林でハーレムなぱーちー・・・・だ!




 歴史書『獅子しし王戦記』より、『ラウジッツ城攻防戦』の章から抜粋

 攻城戦も二ヵ月が経とうとし、陣内は重い空気に包まれる。
 獅子王の率いる本隊も、苦戦中であるとの報に誰もが落ち込む中、一人の男が口を開く。

「撤退する」

 『爪牙』の言葉に、周囲は言葉もない。
 その言葉の理由を理解できぬ諸将を代表し、ある男が言う。

「我らはまだ戦えまする。さらに、敵の追撃をどうなさるおつもりか?」

 後に『爪牙』の下でその手腕を振るい名を挙げる名将シャールモント子爵の言葉に、『爪牙』ははっきりとした言葉は返さぬ。

「私が先頭を進もう。我が連隊の左右及び後方に部隊を並べ、一番後ろにお主がつけ。後は任せる。良いな?」

 有能故に、シャールモント子爵は気付く。
 自分は、試されているのだ。
 これまでも多くの献策を行うが、どれもこれも取り合ってすらもらえなかった。
 だが、それも仕方ないことであった。

 殿しんがりまで含めての一丸の撤退など、ありえない。
 普通は、順々に引き上げるのだ。先に行った部隊を確実に逃がすためには、そうするのが当然。
 しかし、途中で残れとも言われない。しかも、自分の部隊は、お世辞にも守勢には向かぬ。
 これだけあれば、どうして気付かぬものか。
 ――司令官には、逃げる気はない。

 自分の策を思い返せばどうであったか。
 『城攻め』の枠にとらわれ、少々の犠牲もやむなしと、その枠を出ることがならなかった。
 されど、『爪牙』は、その前提から覆すのだ。
 不利な『城攻め』ではなく、五分の『野戦』に。しかも、撤退には台地を登らねばならぬ以上、高さの利も得るつもりなのだ。
 それらを直接伝えずに、なぜ『任せる』などと遠回しに言ったのか。
 さかしくつまらぬ策を語る自分に、この程度は気付く知性があるのかを確かめているのだ。

 それに気付き、シャールモント子爵はこれまでの自分の行いが恥ずかしくなる。
 あぁ、この若者は、滑稽こっけいな老人の語る視野の狭い策を、どのような心境で聞いていたのか。
 同時に、彼はこの若者の才についに気付いた。
 ――この者は、自分の人生を賭けて仕えるに値する人物である。

 この時、生涯『爪牙』に忠誠を誓い、多くの功績を挙げる猛将『ウェセックス伯爵家四天王』の一角『火竜のエドワード』が生まれるのである。

 『火竜』の初仕事は、『爪牙』の思い描いた通りに大成功に終わる。

 これに慌てるは、帝国の老将ラウジッツ辺境伯である。
 間違いなく名将と称されるだけの将器を持つ彼でさえも、『爪牙』の誘惑には抗えぬ。
 無防備にさらされる背に、喰い付かずにはいられなかった。

「ご当主、急いで籠城戦の準備を整えねば。なあに、もともと八千居た兵のうち、討ち取られた数はそう多くはない。まだ戦えまする」
いな。この敗北で士気は崩壊している。戦えば負けようぞ。」
「では、いかがなさいますか?」
「兵の収容が終わろうとも、城門を開いたままにせよ。こちらは、背を向ける敵というエサにつられた。ならば、閉じぬ城門というエサをあえて見せ、無用な警戒をさせるのだ。その間に、抜け道から撤退する準備を整えるのだ」

 されど、この策は『爪牙』が策なれば、の者にどうして通じようか。

「シャールモント子爵よ、汝は見事にやりきった。認めよう、その才を」
「いえ、私は司令官の策を実行しただけにありますれば」
「謙遜は不要である。机上の理論を実現させるその手腕は、間違いなく汝のものなり」
「ありがたきお言葉」
「では、私は敵城を攻め落とす。今ならば、我が連隊の精兵一千で十分。そなたは、酒も食料も十分に放出する故に、城内で略奪など行わず早々に制圧せよと全軍に通知し、それから全軍で続くが良い。民が苦しむのを見るのは、忍びない」

 その言葉に、『火竜』は驚く。
 開け放たれた城門に、敵将は名の知れた名将とくれば、罠を疑って当然であった。
 少なくとも、ただの締め忘れなどとはありえない。

 しかし、『爪牙』はその心配を一笑に付す。

「あの策は、我が策の猿まねぞ? どうして私にその真意が読み解けぬものか」

 言葉通り、わずか一千の『爪牙』の軍勢は、士気が崩壊し戦闘のできる状態ではなかった帝国兵をことごとく捕え、城主ラウジッツ辺境伯も、その手に落ちるのだった。



>では、これで年末年始の短編ラッシュは打ち止めです。
>しばらくは、連載作に集中します。
(拙作『剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、明日の朝日を拝める気がまったくしない』後書きより抜粋)

 しばらく=一週間ちょっと

 『しばらく』は『しばらく』だし(白目)

 あ、明日(2016.1.15)か明後日(2016.1.16)には連載作も更新するから、も、問題ないし(震え声)
 (※ただし、本作投稿時点で一文字も書いてません)


※2016/1/16 21:10ごろ、追記
 本作のおまけ『大河ドラマ「爪牙と聖女」第十二話『ラウジッツ攻防戦~火竜の誓い~』(短編『剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、もう二ヵ月ぐらいおっさんしか見てない』おまけ)』を投稿しました。

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