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三人で旅行に…
作:石子


私は、会社の同僚二人と車で旅行に出発した。
二人とも気の置けない友達だ。

計画を立ててくれたのは、今、車を運転している麻子である。よく気の利く子で、仕事もテキパキこなすが遊びの計画もぬかりない。
そして、助手席に座っているのが愛美。おっとりとした性格で、自分で計画を立てるのは苦手、というタイプだがそこが麻子と馬が合うようだった。

「ごめんねぇ。わたし運転できなくて。麻子ちゃんはずっと運転してて大丈夫?」
と愛美が心配そうに言ったので、
「麻子、運転疲れたら言ってね。代わるから」
私も後部座席から呼びかけた。
まだ出発したばかりだが、確かにいつも頼りっぱなしというのも気が引ける。
「平気。わたし運転好きだから気にしなくていいよ。」
あっさりと言ってくれた。じゃあ、しばらく運転は任せておいていいだろう。
「ねぇねぇ。今日泊まる旅館の写真がこのガイドブックにも載ってるんだけどすっごい綺麗だよ〜」
嬉しそうに愛美が言う。どうやらガイドブックを今見ているようだ。
「車の中で読んでたら気分悪くなるわよ」
しょうがないなぁと思いながら、私は言った。以前も車の中で何かを読んでいた事があり、気分の悪くなった愛美は途中で車を止めてもらってしばらく休んだり、という騒動を起こしている。
「愛美。前にしんどくなって、皆に迷惑かけたこと忘れたの?」
麻子も私と同じ事を思い出していたらしい。
「そっか。えへへ。忘れてたよ〜。でもわたしいつもは車に酔わないんだけどなぁ」
懲りないことを言う愛美は、名残惜しそうにまだひざの上に広げているガイドブックを見ている。
「ダ〜メ。」
麻子が、横から愛美のガイドブックを取り上げると、後ろに投げて寄越した。
ちょうど愛美が見ていたページが開かれたまま私の横にぱさりと落ちる。
「あ〜! 麻子ちゃんひどいなぁ。今から旅館の周りの観光地を見るつもりだったのに〜」
愛美は抗議の声をあげるが、もちろん笑い混じりでたいして怒っているわけではない。
「没収ね」
私も笑いながら言った。
「観光に行くとこは、私が調べてるわよ。ちゃんと予定を言ったでしょう?」
麻子はやれやれという感じだ。
「そうなんだけど、見てると楽しいんだもん。」
……気持ちはわかる。実は私も、思わず愛美のガイドブックを眺めていたりする。手に取ると私まで目がはなせなくなりそうなので、ちょうど開いていたページを上から見ているだけだが。
出発前にも麻子がパンフやらを見せてくれていたが、改めてガイドブックの写真を見ていると、やはりわくわくしてしまうものだ。
「それにしても旅行なんてほんと久しぶり。なかなか休みも合わないしね」
「そうよね、うちは部署が違うと休みを合わせるのも難しいのよね」
麻子の言葉に、私も相槌を打つ。
「うん……。あんなこともあったしね……」
愛美はしばらく黙っていたが、独り言のように呟いた。
あんなこと……?
前を向いている愛美の表情は見えないが、寂しそうな顔をしているように感じられた。

なんだろう?
思い当たらない。最近、仕事帰りに皆で飲みに行ったりもしてないしなぁ。なんかあったのかも知れない。聞くべきか聞かざるべきか……。
「愛美、なんかあった?」「そのことは、もう言わないのっ!」
あ。麻子の言葉と思いっきりかぶっちゃったわ。
麻子は何か知ってるみたいだ。
「ご……ごめん! ついっ……。もぅ、やだなぁ……わたしったら。この話はしないって言ってたのにね。きっと、郁ちゃんにも気を使わせちゃうよね。ホントにごめん……」
愛美は慌てて取り繕う。ちなみに、郁というのが私の名前だ。
「別にいいけど……」
気になるが、無理に聞き出すこともない。言いたくなったら言ってくれるだろう。ずっとそういう付き合いをしてきたしね。

ちょっと沈黙……。
そんな時、麻子がさりげなく音楽をかけてくれた。
あ……。この曲……。
「愛美、好きでしょこの歌。郁も好きって言ってたよね。これ聴いて元気に……なるかどうかわかんないけど、でも気まずい感じになるのはやめようよ」
麻子はさすがだなぁ。
それは私の学生時代に流行った曲で、その歌の話題で愛美と盛り上がったことがある。
愛美はそれを聴いて、「麻子ちゃぁん……。ありがと……」なんて言いながらちょっと涙ぐんでいるようだ。
「はいはい。泣かないの。とりあえず、三人で楽しい旅にしようよ」
と、麻子がその場をまとめ、しばらくは曲を聴きながら三人それぞれ景色を眺めていた。


「もうすぐよ」
麻子が言った。
私は、何のことかと怪訝に思う。
まだ出発してからそんなに走っていない。目的地には程遠いはずだ。
「何がもうすぐなの?」
私は尋ねるが、聞こえなかったのか答えは返ってこない。
そうこうしているうちに車は道端に寄って、停まった。
なんでこんなとこで停まるの?
と聞く前に、見覚えのある人が車に駆け寄ってくるのが視界に入った。
「こっちこっち!」
窓を開け、麻子が手を振る。
確かあれは会社の後輩のさやかちゃん?
こんな所で待ち合わせなんて聞いてない。一緒に行くのは構わないが……
「お待たせしました!」
……私が戸惑っている間に、さやかちゃんは車のドアを開けて乗り込んできた。
「さやかちゃんの家ってこの辺なんだねぇ。会社から遠いでしょう?」
愛美も、さやかちゃんが来る事は知っていたようだ。
「ちょっと、みんな! 私、さやかちゃんが一緒に来るって聞いてなかったわよ! そりゃ、人数が多い方が楽しいしさやかちゃんなら大歓迎だけど、一言くらい教えといてよね!」
きっと、私には言い忘れてたんだわ。
もちろんそんなことで怒るつもりもないけど、ちょっと文句を言ってみた。
「う〜ん。確かに通勤時間は長いんですけど、電車の乗り継ぎがないので大変じゃあないですよ」
笑顔で愛美の質問に答えるさやかちゃん。
あれ……?
「ねぇ、私の話聞いてる?」
「そっか。乗り継ぎがなかったら電車の中で本とかゆっくり読めるからいいかもね」
「ねぇ! 聞いてる?」
「麻子ちゃんは読書好きだもんねぇ」

……こんなに近くから呼び掛けても誰も答えない。誰とも目が合わない。
いたずら……ではない。
私のことが見えていない……?
声が聞こえていない……?
背中を、嫌な汗が伝う。
今日の会話を思い返してみた……。
最初から私の声は誰にも聞こえていなかった……?


「わたしがこの旅行に参加しちゃって、よかったんでしょうか?」
「さやかちゃん。来てくれて、感謝してるのはこっちの方だよ。……ホントはすごく迷ったんだよね。さやかちゃんを誘うかどうか。それに旅行を決行するかどうかも」
「そうだよぉ。前に旅行を計画してたときに、郁ちゃんが交通事故で亡くなった事はすごいショックで、もう旅行なんて絶対しないって思ったんだけどね。郁ちゃんならそんなの絶対嫌がる、みんなで楽しく旅行したほうが郁ちゃんも喜ぶはずだ、って麻子ちゃんに言われて……。」
「そうそう。その時の旅行はもちろんキャンセルしたけど、また同じような行程で計画立てて、郁とも仲の良かったさやかちゃんを誘ったんだ」
「そうですか。あれから随分月日も経ちましたもんね。きっと、郁さんもわたしたちが楽しめば喜んでくれますよね」
…………。
車は静かに、また走り出した。














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