◆ epi.004 揺れ動く心
気付いた時には工藤邸を飛び出していた。けれど本当は解っていた。これ以上何も聞きたくは無かったのだという事を。
そして最近の事を顧みた蘭の脳裏には、納得せざるを得ない答えが確かにあった。
「あれって、そういう事だったんだね。だから……」
蘭は記憶を辿って見つけてしまった事実に重い息を吐いた。そして一層気分が落ち込んでゆく。
『悪ぃ蘭、当分帰れなくなっちまった。だから、もう無理して待ってなくて良いんだぜ?』
二ヵ月ほど前に新一から掛かってきた電話での会話の中で、そう言われた時は冗談だと思った。
実際の処は解らない。けれどその時の新一の話し方は飄々としていて、本気で言っているとは思えなかった。
「どうせ、いつもの『事件が長引いてて』じゃ、わたしが文句言うと思ってるんだわ。もしかしたらサプライズ狙ってんのかしら?」
結局、怖くて理由は聞けなかったし、電話を終えた時はそんな事を考えた。腹立たしくは感じたが大した事ではないと自分に言い聞かせた。
それも今思えば浅はかだったと、唇を強く噛む。
……新一があんな事、冗談で言う訳無いのにね。それに、サインを見逃してた……。
その電話を境にコナンの態度によそよそしさを感じる事があった。軽く詰問した時は「蘭ねえちゃんの気のせいだよ」とはぐらかされてしまったが。
「何が『気のせい』よ。どうしてちゃんと言ってくれなかったのよ! ……聞かなかったのはわたし、だっけ」
堪らず零した正負の混じった感情が蘭自身を突き刺す。心まで荒んでいくような気がして、蘭はふと空を仰いだ。
するとどす黒い雪雲が見下ろしていて、蘭の思いを掬い取ったような冷たい粒が落ちてきた。
「……雪? まるで、わたしの気持ちを見透かしてるみたい。でも――」
わたしはこんなに白くないけど、と言いかけて飲み込む。そして歩調を速めた。とにかく何処へでも良い。この現実から逃れたかった。
しかし、蘭は直ぐにその思いを失笑して打ち消した。
「そんな都合が良い場所なんか、ある訳ないじゃない。もしあっても、反って辛くなるだけだよ」
別に開き直った訳ではないが不毛な思考に終止符を打った。蘭はそうしてから深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐いた。
それで気持ちに整理をつけ、家路を辿る事にしたのだが――。
「いっけない! 新一の家に鞄忘れてきちゃった。……どうしよう」
一旦足を止めて考えたが、嘆息をついて踵を反した。進む事を躊躇う足を無理に前に出す。
まだ二人が居たら嫌だなぁ、と思うとまた気分が下降した。
「ヤバイなぁ。負けそうだよ。……仕方ない、気合い入れて行くしかないわね」
小さく呟いた蘭は、歩きながら空手の『型』を倣った。幸い周りに人目が無かった為、次第にのめり込んでくる。
そして、丁度通りの角に差し掛かった時、上段に蹴り上げた蘭の踵が何かを捉らえた。
|