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おとうさん
作:池田貢


 今でもはっきり、覚えています。
 もう20年も昔、ぼくが大学2年生の時のことです。
 
 友人に誘われたんです。
「知り合いがさあ、ホームパーティやるんだけど、オマエも来る?」
 その日は、特に用事もなかったので、なんとなく参加することにしました。
 
 パーティが開催されたのは、横浜のある邸宅でした。
 一度に10人以上も招待できるほどの広さですから、文字通りの邸宅でした。
 で、パーティに参加したはいいけれど、
 ぼくを誘ってくれたヤツしか、ぼくの知り合いはいません。
 10人以上の学生たちが、飲んで、食べて、おしゃべりして、
 愉快な時間を満喫しているというのに、ぼくだけは、妙に蚊帳の外、状態でした。
 女子どころか、男子すら、誰もぼくに話しかけてきやしない。
  でもまあ、いいか。肉食べれたし、酒飲めたし。
 ぼくは、密かに帰るタイミングを計っていました。
 
 1時間ぐらい、経過したころでしょうか。
 ホスト家の父上が登場しました。
「いやあ、今日はよくいらしたね。いつも晴美がお世話になっています」
 晴美がお世話に、って、ぼくは晴美が誰だか知らないんですけれど。
 
 もう、このシチュエーション、ガマンできない。
 よし、帰ろう。そう思った時、
 父上がぼくの方へ向かっくるではありませんか。
「キミは、晴美と同じ学科なの?同じサークル?」
 
「ええ、まあ」
 最初は適当に返事しようと思ったんですが、
 なんか、もう、酔っぱらっていたし、
 この方々とは、もうお会いすることもないだろうから、
「いえ、晴美と同じ学科でも、同じサークルでもございません。
 それどころか知り合いでもございません。話したこともございません。
 私はただ肉を食べて、ただ酒を飲みにやって来ただけでございます」
 そう、答えました。
 
「はははっ。結構、結構。そういうの、私は好きだよ」
 なぜなんでしょう。
 その後、父上と 不思議な交流がスタートしたんですよ。
 その場で、住所と電話番号を聞かれて、
 酔った手つきで、メモを渡しました。
 
 すると、翌日、早速電話がありました。
「なんか、うまいもん、食べに行こう」。
 当時のぼくは、ろくに学校へも通わず、ヒマを持てあます毎日でした。
 まあ、行ってみっか。本当に軽い気持ちで、指定された、とあるホテルへ向かいました。
 
 いやあ、いいステーキをいただきました。
 俗にいう、鉄板焼きっていうやつです。
 あんなおいしい肉は、食べたことがなかった。
 会計の時、何気なく、レジに目を向けると、
 4万とか、5万とかのデジタル表記が。。。
 いいのかなあ、とは思ったけれど、
 すごくデカい家構えているし、なんか、えらいお方のようだし、
 かなりのリッチマンのようだし。
 いいや、おごられちゃおう。
 
 すると、ですよ。
 それから、毎週のように誘われるようになったんです。
 ある日は、野球観にいったり。
 ぼくは巨人ファン。父上は大のトラキチ。
 なのに、観戦に行ったのは、ヤクルト対広島戦。
 
 またある日は、ゴルフ用具を買いに行くの、付き合ったり。
「君にパターをプレゼントしよう」
 買ってもらったのはいいけれど、
 って、父上、ぼくがゴルフやらないの、知ってるじゃないですかあ。
 
「ゴースト」って、映画あるじゃないですか。
 デミ・ムーア主演のすんごいラブストーリー映画。
  あれも、一緒に観に行った。
 館内は、もうカップルだらけ。
 男同士なんて、我々だけ。
 まったく、恥ずかしいったら、ありゃしない。
 でもラストは、ふたりで号泣ですよ。
 
 で、ある日ですね、
 酒の席で、父上から粛々と言われました。
「晴美と結婚、してくやしないか」と。
 あのう。。。
 結婚するも、しないも、晴美さんとはお話したこともないんですがな。
 
 いや、ちょっと、待てよ。
 これは、もしかして、ひょとして、
 晴美女史が、キャンパスで、かっこいい男にひとめぼれ→
 で、頼れる父に相談→
「任せなさ〜い」と父がひと肌脱ぐ→
 かっこいい男、それがワタクシ。
 ナルホドね。。。
 
 自分的にはこんなストーリーを想像してみたのですが、
 まあ、これは全くのアテ外れでございました。
 晴美さんは、ぼくにまるきり興味がないとのこと。by父上情報
 
 晴美さんには、妹がいるんです。
 姉も妹も、目鼻立ちが整って、とてもかわいくキュート。
 いわゆる美人姉妹ってやつです。
 ですが、父上は、ずっと息子が欲しくて、仕方なかったのだそう。
 後日、母上から聞きました。
 
 で、「白羽の矢」がオレかよ。
 もっと、よさげな男子学生、あのパーティに何人もいたよなあ。
 とは思いながらも、
 その中から自分をチョイスしてくれて、
 なんだか、ちょっぴり、うれしかったです。
 
 その後、ぼくも社会人となり忙しい日々を送るようになり、
 父上との交流は、しだいに月1回となり、半年に1回となり、
 次第に疎遠状態となりました。
 まあ回数は減ったけれど、それでも、年に1回ぐらいのペースでは、
 互いの、というか、ぼくだけの近況報告をかねて、飲みに出かけました。
 
 1998年でしたか。
 晴美さんが、結婚しました。
 結婚式の2、3日ぐらい前だったと思います。
 父上に呼び出されて、ふたりで飲みました。
 朝方ぐらいまで、じっくりとヒザをまじえて飲み明かしました。
 父上、かなり、アルコールが回られた様子で、
 とんなでもないことを口走りました。
「あのね、式の当日、”卒業”やってくれないか」
 卒業って、式の最中に、お嫁さんを強奪する、あの卒業ですかあ!?
 ふうぅ。できるわけないじゃないですかあ。
 まったく、ムチャなお方だ。
 
 実はですね。
 晴美さんのひとつ上に、兄がいたんだそうです。
 で、ちっちゃいとき、死んじゃったんだそうです。
 病気で。
 あのパーティの時ですね、
 集まった男子学生の中から、亡くなった息子さんに似ているヤツを探したらしいんですが、
 もちろん、そんな都合よく探し出せるわけがない。
 映画とは違って、現実なんて、そんなものです。
 で、ヤケッパチになって、
 だったら最もイメージとかけ離れているヤツを見つけて、飲み友達になっちゃえ、と。
 それが、ぼくだったというわけです(かわいくない、明るくない、センスない)。
 
 まあ、これは父上がベロンベロンに酔っぱらった状態で聞いた話なので、
 本当か、作り話かは、知る由もないのですが。
 母上に本当のところをたずねてみることもできるのですが、
 確認はしていません。する必要もないし。
 たぶん、作り話じゃないのかな。
 もしも、本当だったら、切ないよなあ。
 父上、一流のジョークだと思いたいです。
 
 ほんのつい先日、ぼくはあることに気づいたんです。
 今年、父上から年賀状が届いていないことを。
 最後に会ったのは、もう5年ぐらい前。
 でも、ずっと、年賀ハガキだけは元旦に到着していたんです。
 定年を迎えただとか、
 孫がかわいくて仕方ないだとか、
 今度は、いつ飲みに付き合ってくれるのかだとか。
 
 でも、今年は来ていない。
 もしかしたら。。。
 いや、でも、うーん。
 やっぱり、電話してみよう。
 イヤな予感よ、どうぞ外れておくれ。
 
 ワンコールで、出やがった、あのジジイー。
「年賀状?送ったさあ。届いてないの?おかしいね」
 まったく心配させやがって!
 ぼくの耳に、久しぶりに響く父上の声。
 なぜだか、さめざめと涙が出てきたよ。
 
 ぼくには、実のおとうさんと、そして、もうひとりのおとうさんがいる。
 おとうさんと、おとうさん。
 これからもどうぞ、お元気で。
 
 
 














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