5
重なる指、こんなにも簡単に指だけは重なるのに。
もし出来るのならば、あなたと心だけを繋ぎ合わせたい。
残り 5日
「寒くない?」
「大丈夫です」
「眠っていいよ」
「結構です」
「遥?」
「名前では呼ばないで下さい」
車に乗ったのがPM9:00過ぎ。今は既にPM11:00を過ぎている。
どこに寄るのかも決めずにただ確実に遥のアパート近くでは無い所に車は向かっていて、それは向かっているのか鈴木がただ向かう場所を決めずに車を走らせているのか、遥には判断がつかない。
止まれば終りだ、止まってしまえば終わってしまう。急くように走り続ける車はただひたすらに疾走を続け、その車の中も次第に沈黙に満ちる。
何も聞かないで、何も言わないで。そう思う一方で、責めて怒って欲しいと思う我儘な自分がいて、遥は途方に暮れる。
外は暗闇で乗ったばかりはちらほら見えていた店舗の明かりも全く無い、街灯とたまに擦れ違う車のヘッドライト。
相変わらず車の中には物静かな音楽が掛かっていて、たまに聞こえる煙草に火を付ける音と煙を吐く鈴木の息だけが濃密になっていく。漆黒の空には月は無く、素っ気なさ過ぎる空には星すらも見えない。
遥が寒くない様に付けられたヒーターは疲れた体に眠気を呼び込むいい促進剤になっていて、たまに気付くと落ちてくる瞼と遥の揺れる体を見て、鈴木が咽喉の奥でくつくつと笑う。
「眠っていいよ」
「結構です」
「頑固だね」
笑う鈴木の顔を見ない様に、遥は助手席の窓に寄り掛かって額を付ける。
何度繰り返したんだろう? 多分、私達は今きっとこの時に全てを曝け出して言いあってしまえばもっといい関係になれると思うのに。
互いに詰って、互いに罵って、互いに求めてしまえば案外簡単に上手くいきそうにも思えるのに。
擦れ違ったものと意固地になっている物が多すぎて、簡単には口に出来なくて。
主任? ただ傍にいてもいい?
主任? 嫉妬してしまうけれど、嫌わないでいてくれる?
主任? いつでも不安で、いつでも怖くて、自分に自信が持てない私だけどいいの?
主任? 好きって言って。愛してるって言って。言わないで私を手に入れられると思わないで欲しい。
俯いた遥の手に鈴木の手が乗る。
重なる指、こんなにも簡単に指だけは重なるのに。
この心を引き裂いて中身を暴いて全てあなたに見せつけてあげたい。こんなに不安に思うと、恋は簡単に狂ってしまうんだということ。嫉妬はこんなにも胸を妬いて、そんな感情を全く知らなかった自分の中身を腐らせて完結することでしか方法を見つけられない。
「遥」
呼ばないで。今まで殆ど呼びもしなかったのに。
「遥」
じゃあ、恋人同士になればよかったのに。タイミングがずれてしまうと、もう自分からは言えない。
「遥、何か言って」
遥は奥歯を噛む。歯の軋む音が頭蓋骨に響く気がする。
「声が聞きたい」
好き。
「遥?」
どうしたらいいの?
「俺がもう嫌い?」
違うの。
「もう、止めたい?」
違うの。
遥が応えられないまま、沈黙が流れる。車はただ疾走か、それとも迷走を続ける。
突然、車が見たことが無い場所に入っていく気配で、遥は失いかけていた意識を取り戻した。
公園の様な、遥には何かのモニュメントが見える。
街灯が申し訳程度に灯り、暗闇の中では海の近くなのか山の中なのか遥には見当もつかずに、上げた顔を訝しげに歪ませて遥は鈴木を振り返った。
鈴木はハンドルに両手を乗せて、その上に額を乗せている。具合が悪いんだろうか、激務続きの営業課の中で一際今日は鈴木の顔色が悪かったように遥は思っていた。苛ついていたのも、もしかして具合が悪いのか、俯いたままの鈴木の顔色は遥には見えない。
俯いたままの鈴木は全く動かずに、かろうじて呼吸だけはしているように見える。
震える指で遥はバッグを探る、携帯電話を探す指はその塊を見つけられない。携帯電話は鈴木の一件からずっと部屋のテーブルに置きっぱなしだった事に、やっと遥は気付く。
とりあえず意識があることだけは確認しようと、遥が運転席側に乗り出す。
「しゅ、主任? 具合悪いんですか?」
動揺して遥の声が上擦った。
「……大丈夫」
鈴木の返事は少し弱々しいものだが、すぐにある。安心したものの顔を上げない鈴木の肩に、遥はおずおずと手を伸ばした。
音が鳴って、次いで痛みが遥の手に走る。
「大丈夫、触らないで」
遥のその手は結構強めに鈴木に叩き落とされた。負けじと遥はまた手を出す。
「熱、あるんじゃないんですか?」
「ない」
「じゃ、額触らせて下さい」
「嫌だ」
「主任!」
「帰る」
座りなおして、鈴木が止めたエンジンをもう一度回す。間髪いれずに車が動き出した。
考えれば昨日営業課で抱きしめられた時も、息が少し熱かった気がした。今振り払った手も発熱していて、遥がよく見ると微妙に息も上がっているような気もする。
遥が車の時計を見ると既に零が三つ並ぶ時間は過ぎ去っている。
「主任、今日会社休みましょう?」
「嫌だ」
まるで駄々っ子のようだ。見たことの無い頑固さに遥はため息をつく。7歳の歳の差も今だけは全く感じられなかった。遥も今の今まで、表情と態度がいつもと変わらない鈴木の変化には全く気付かなかった。どれだけこの人は、遥に苛立ちが募る。
「駄目です、そんな熱なのに」
「嫌だ、今は休めない」
なんて勝手な、苛立った遥の声は鈴木を怒鳴りつける。母親みたいだと、一瞬思ったけれど遥は深く考えるのをやめた。
「他の皆さんにも迷惑掛かるんですよ! 勝手なこと言わないでください!」
遥が鈴木を睨みつける。ハンドルを握ったままで不機嫌な顔をしていた鈴木が呆気に取られて、こっちを向いているのが見える。
慌てて前を向いた鈴木から目を離さないまま、
「部屋までは一緒について行きます、仕事は休んで下さい。いいですね?」
有無も言わせず畳みこむ。
長い沈黙。その間も高熱が出ているとは全く感じさせない走りで、車は鈴木の部屋へ向かう。一瞬、躊躇する。また部屋に入っても大丈夫? そんな声も聞こえた気がしたものの、遥は無視した。
「主任! 聞いてるんですか!」
長い沈黙、まだ返事は無い。
「鈴木主任!」
「……分かった」
余りにも遅すぎる返事に、遥は大きくため息をついた。
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今日中に行ける所まで行きます。
予定変更、計画は未定。
今日の更新も明日の更新も気まぐれ次第。
確実に数日中には終わらせます。
疾走する物語は、もう少しで終わります。
では、タイミングがあれば会いましょう。

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