今、テーブルの上ではロウソクの火が揺れている。
それなのに、その記念すべきケーキを対象とする者がいないことは滑稽だった。
整然と、厳かに並べられたナイフやフォーク。
今できたばかりの暖かい料理は、すぐにでも誰かを祝福出来る準備を整えている。
加代子は
「さぁ、祝いましょうよ」
と半分棄気になりながら言った。
それは実にくだらない儀式である。
私は、言葉を喉に溜め込みながら
「よし、お祝いだ」
と言った。
何にたいする祝福なのかといえば、愛する息子の為だ。
いや、正確には愛した息子の為だった。
このパーティーの中で、一人だけ、そう一人だけ心から息子を祝福している人間がいる。
父は、無邪気にも息子のいるハズのない空席に向かって話しかけている。
私達には、その姿はおろか声すらも聞こえない。
ロウソクを掻き消した。
拍手が空虚に響きわたる。
私は、息子の皿に生前と同じように切り取った一番大きなケーキをのせる。
加代子は
「ケーキは、ご飯が終わってからよ」
と言う。
そうゆうと父が
「今日ぐらいは、特別に良いだろう」
と嬉しそうに言った。
何度も繰り返されてきたプロセスをなぞる。
他愛のない会話の合間に、噛み合わない息子の話題が混じる。動揺してはいけない、全ては生前のままに。
息子の皿のケーキは、一口も食べられないままに、そこにある。
父が
「コウタは今日も良い子にしていたか?」
と聞くと。
加代子は
「悪戯すぎて困るわ」
と言う。
私も
「元気なことが一番だな」
と返す。
他愛のない会話。それなのに何故か悲哀を感じる。
父が席を立つ。それを合図にして、各々が用意したプレゼントを取り出す。
加代子は、目覚まし時計を贈り、私は万年筆を贈る。
生きていれば十三才。
父は、スポーツシューズだ。
父の中では、永遠に六才のままのコウタが歓喜を挙げる。
その靴のサイズもやはり、あの時から1ミリも成長していない。
永遠に停滞しているコウタの陰が、今も私たちを縛り付ける。
父が帰った後、七つ目になったスポーツシューズとコウタのケーキをゴミ箱に捨てた後、妙に静かな加代子がいった。
「狂いそう。狂ってしまえば私にもコウタが見えるのかしら?」
「違う、コウタは私達の心の……」
「綺麗ごとは、もう沢山よ。あなたも、そろそろ認めればいいのよ、コウタはそこに居るんでしょ。」
私にはコウタが見えなかった。
「コウタ、一緒に寝ようか」
闇に向かってそう言った私は、いつまでも還ってくることのない返事に耳を傾けていた。
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