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カグヤ
 轟音がやみ、異形の断末魔が消え去った後、一瞬の静寂が辺りに訪れた。
 いったい、何が起きてどうなったんだろう?
 ゆっくりと顔をあげると、そこには――何もない、闇の空間があった。
 先ほどまで異形の群れが視界を埋めていたのはウソのようだ。静穏な空気の中、青白く輝く剣を翳した黒髪の青年だけが佇んでいた。
 その姿に視線を奪われる。
 息が止まりそうなほど心臓が早い。
「レベル2施錠、通常モードにシフト――レベル1」
 トツカの声が響いて、剣の輝きが失われる。
「疲れただろう、戻れ、トツカ……音声認識、オフ」
 そのままトツカを収納したミコトは、すぐにあたしの方へと駆けてきた。
「無事かっ? テラス!」
「あ、うん、大丈夫」
 きょろきょろと見渡すと、どうやら全員無事なようだった。
 唯一、ヨミが頭を押さえて起き上った。少しばかりとばっちりをくったらしい……また喧嘩になるのが容易に予測できて、あたしは一瞬身構えた。
 が、意外にもヨミは怪訝な顔をしただけだった。
 少し首を傾げたが、まあ、諍いがないに越したことはない。
 あたしはミコトに向き直った。
「ねえ、今の何……?」
「神剣トツカ、レベル2解除により、開放系第3段階を発動。全方位攻撃によりすべての異形が1.78秒以内に消滅した」
 ミコトの代わりにヒルメが淡々と答える。
「異形すべて……?!」
 思わず驚いた声が出る。
「神剣トツカは聖槍ハクマユミや私に比べてMAXエネルギー値が格段に高い。だから、マスターへの反動も最大になる」
 反動。
 先程使った第2段階の反動ですでにあれだけのダメージを受けるのだ。第3段階を開放したミコトへの反動は計り知れない。
 もちろんミコトはそんなことおくびにも出さない。でも、きっと体に受けているダメージはかなり大きいはずだ。
 ヒルメは話を続けた。
「聖槍ハクマユミは回復力の速さでエネルギー不足を補っている。でも、私のエネルギー値は最も低い、回復力もハクマユミほど速くない。その代わり、私はエネルギー伝達が速い。起動してから間がなかったから先ほどは無理だったが、もう少しすれば開放系第1段階のみで連射可能。反動も最小限で済む」
「……それぞれ特性があるのね」
「ヒルメは遠距離戦闘用です。今のように近距離での戦闘には本来、向いていません」
 いつしか傍に来ていたツヌミが言った。
「エネルギー値の高い神剣トツカは前線、回復の早い聖槍ハクマユミを補助、遠方からの援護に梓弓ヒルメ。そういった設定でこの3つを作りましたから」
「これ、ツヌミが作ったのね」
「はい。ですが、基本となる設計図は私のものではありません」
「誰が作ったの?」
「それは――」
 ツヌミは一瞬詰まった。
 が、ミコトをちらりと見て、すぐに口を開いた。
「始祖の一人、『タカミムスビ』が作ったものです。イザナミと共にタカマハラと防御壁を作り、この街を放射能から守ろうとした機械工学の専門家」
「残りの始祖のうちの一人だね」
 ヨミが言う。
「私達の敵は、実はナミが最後ではありません。ナミはクローンですが、他の始祖もそれぞれ違う形でこのタカマハラに残っているのです」
「それがツヌミの言っていたナミよりも上に存在する者なの?」
「ええ」
 ツヌミは唇を引き結んだ。
「戻りましょう。こうなってしまった以上、カグヤと下層の一般市民が心配です」
「でも、どうやって?」
 首を傾げると、今度はカノが答えた。
「ここはおそらくカグヤと第5層の間にある空間です。天井は防御壁と同じだろうから壊せないけれど、下はいけるでしょう? 先程の感覚からすると、かなり薄いようですし」
「僕の出番ってことだね」
 そう言ってヨミが進み出た。
「さあ、いくよ、ハクマユミ」
 ヨミが手にした黒塗りの槍がぼんやりと光を帯びる。
「マスターネーム・ツクヨミ、ハクマユミ、緊急事態によりレベル2解除」
「レベル2解除、開放系第3段階までを許可」
 初めて聞くハクマユミの声は、男性とも女性ともつかないけれど、歌うように美しい声だった。
「開放系第3段階、はやせ……『闇淤加美神くらおかみのかみ』!」
 ヨミの声で視界が一変した。
 いくつものガラスが割れる音と共に、目の前に青白い光が戻ってくる。
 先ほどのナミの研究室だ。
「レベル2施錠、通常モードにシフト――レベル1」
「ありがとう、ハクマユミ。戻っていいよ……音声認識、オフ」
 足元に、ガラスチューブを満たしていたはずの液体が零れている。足を踏み出すと、ガラスを踏みならす乾いた音と共に、ねっとりとした感触が足にからみついてきた。
「ナミは何処?」
「分かりません。見当たらないようですが……」
 ツヌミが辺りを見渡し、先の方にあるモニターへと向かう。
 何も映っていなかったが、ツヌミが操作し始めると様々な信号が点滅し、警告を示し始めた。
「ああ、大変です……」
「どうしたの、ツヌミ?」
「ミコトを助けるためにカグヤへ入った時、労働者たちにテラスを見られていたようです」
「それが何か問題なの?」
 そう聞くと、ツヌミは言いにくそうに漏らした。
「労働者たちにとって、テラス、貴方は救いの神なのですよ」
「……どういう事?」
「いつからか知れないのですが……おそらく、ナギと交流のあった研究者の一人がカグヤに送られた事があったのだと思います。その研究者によって、コードを持つテラスの存在が労働者たちに知られているのです」
「……それは」
「それはいつしか、古代の神話と混同し、予言めいた言葉で言い伝えられることとなりました。美しい女神が閉じられた岩戸を出た時、太陽が再び輝きを取り戻す、というものです。女神は、萌黄色の瞳と淡い金の髪を持つ、美しい少女の姿で現れる、と――」
「……!」
 あたしは思わず声を失った。
「労働者はテラス、貴方を見つけた。放射能の恐怖から解放するコードを持つ貴方を。だから、今……カグヤで、反乱が起きました」
「反乱?!」
「カグヤで強制労働を強いられている者達は生産をやめ、労働厩舎を破壊し、指導者に反抗して武器を取りました。おそらく、ナミはそれを治めに行ったものと思います」
 蒼白なツヌミ。
 カグヤの労働者が反乱を起こした。今、タカマハラが大きく揺らいでいる。
「ね、それって、好都合じゃない? 便乗してついでにタカマハラを乗っ取っちゃおうよ!」
 ヨミの楽しそうな声。
「賛成です。この混乱を無にする手はありません」
 これはカノ。
「じゃあ、行くか?」
 ミコトの問い。
「行きましょう」
 あたしは頷いた。
「カグヤへ。この支配を終わらせて、ナミから主導権を奪い取るの」
 ようやく見えた、物語の終わり。
 あたしたちは強い気持ちでカグヤに向かった。異形を生み出す場所、そして、この街で唯一太陽を知るその場所へ。
 それはすべてのはじまりの場所で、おわりの場所であるカグヤへ――


「カグヤへ行くには一度ここを出なくては……実験室ヤマトを突っ切るのが一番早く着きます」
 ツヌミの言葉で、全員が弾かれるように行動を開始した。
 ヤマト、ときいてカノは自嘲気味に笑った。
「実験室ヤマト、ね……嗚呼、わが故郷……ですか?」
「カノ、茶化すのはやめてください」
「図らずもここにいるのはヤマト出身者ばかりです。貴方も私も、そしてこの3人も」
 あたしは、これで最後になって欲しいと思いながらため息をつく。
「カノ。まだ隠してるなら今のうちに話して。ツヌミも。二人だけで理解し合うなんて、不愉快よ」
「不愉快、ですか。新しい表現ですね」
「誤魔化さないで、カノ。しまいに怒るわよ?」
 じろりと睨むと、カノは肩を竦めた。
「行けば分かります。今さら真実を知って、挫折するような貴方たちではないでしょう?」
 実験室ヤマト。
 それはあたしがタカマハラに着いた時、ナミに通された場所だ。
「ここに何があるって言うの?」
「……カグヤへの道はこの奥です」
 ツヌミが指し示す通りに資料の山と何に使うのか分からないモニターが並ぶ場所を通過していく。相変わらず薄暗いその場所は、息苦しかった。
 そして、細い通路を抜けた先にあったもの。
 それは。
「人間を作るチューブ……?」
 クローンを作る場所にあったものと同じ、青白い光を放つ液体に満たされたガラスチューブが、整然と並んでいた。
 まるで壁のように左右にずらりと並んだそれには、一つ一つ、小さな人間が――赤ん坊が浮いていた。やはり腹の辺りから伸びた細い管が天井に吸い込まれている。
「これは人工子宮です。ほぼ母親の胎内と同じ環境になっており、受精卵の状態から乳歯が生え揃うまでの時期、このチューブの中で人間を育てる事が出来るのです」
 カノが近くのチューブに触れながら言う。
 その中には、まだ人間とも呼べないような小さな塊が浮いていた。
「貴方たち3人や私達のような研究者は、第3層以下に住む一般民とは違い、このチューブの中で生まれました。選ばれた卵と選ばれた精子を掛け合わせて作られたハイブリッドとして」
「……?」
 もう理解しようとするの、辞めようかな。
 いやいや、そんなわけにはいかない。自分の事なんだから。
「特に貴方たち3人は、受精卵の状態でコードを埋め込まれています。ある意味で、ナギにコードを増殖させるモノとして利用されたのですよ」
「ごめん、カノ、もう少し分かりやすく言って」
 思わず頭を押さえて両手をあげた。
 降参。
「ええとですね……要するに貴方たちはちゃんと両親を持って生まれてきたんです。ただし、発生の初期段階を母親の胎内ではなくこの場所で過ごした、というそれだけの話です。そして、貴方たちが原初、たった一つの細胞だった時に、この場所でそのコードを刻まれた」
 あたしたちがたった一つの細胞だった時?
 それは、いったいいつ?
「誰しも最初は一つの細胞です。それが分裂し、増殖、分化して一つの生命体を作り上げていくのです」
 ううん、人間って複雑なんだなあ。体の形を決定し、作っていくプログラムを持っていたり、分裂したり増殖したり。
 まあ、でも、あたしはナミのように親が一人しかいない、というわけではないらしい。
 ただ幼い時に太陽を取り戻すためのプログラムを埋め込まれただけ。うん、それだけよ。
「カノやツヌミもここで生まれたの?」
「ええ、そうです」
「じゃあ、あたしたちは生まれた時から仲間なんだね」
 そう言うと、カノは驚いたように目を大きくし、でも、またいつもの優しい目に戻って眼鏡の奥で穏やかに微笑んだ。
「……そうですね」
 どうしてカノもツヌミも悲しそうな顔をしているんだろう?
 まだあたしの知らない事があるんだろうか? それとも、今の話をあたしが理解できていないだけ?
「テラス、その心を忘れないで下さい。その優しい心こそが私達に光をもたらす希望――太陽への指標『テラス・コード』」
 カノはやっぱり、優しく微笑んだ。
「さあ、行きましょう。カグヤまではもうすぐです」
 いつしかあたしたちは青白いチューブが並ぶ道を通り抜けていた。

 転送装置が作動し、目の前が淡い光の扉で閉ざされた。
 遮光スコープを手渡され、装着する。
 カグヤに来るのはこれで3回目だ。1回目はナミに連れられ、2回目はミコトの救出に。
「開きます」
 ツヌミの言葉とほぼ同時に目の前に光が溢れ出した。
 遮光スコープがあるとはいえ、一瞬目がくらむ。
 ゆっくりと目を開いた時、あたしの前の前は緑に染まっていた。
 柔らかな風も、溢れる新緑も、弾けんばかりの太陽の光も、この間と変わっていなかった。
 しかし、広がっていた草原に、どこにいたのかと思うような数の人が集まってきていた。
「……!」
 刺さる様な敵意が群衆から湧き上がっている。歳も性別もバラバラ。纏った服は一様に薄汚れてはいたが、手にした武器――と言ってもこん棒のようなものや小さなナイフが主だが――にも共通点はない。
 しかし、彼らは同じものを求めていた。
 労働からの解放、そして、異形オズ化の恐怖からの離脱。
 その願いがもたらす大きなエネルギーに背筋がぞくりとした。
「アマテラスだ!」
 あたしたちに最も近い場所にいた男性が叫んだ。
 その瞬間、視線が一気に集約する。
 何百もの目に見つめられ、あたしは思わず息をとめた。
「本当だ! 伝承は本当だった!」
「これで救われる……!」
 口々に歓喜の言葉を叫びながら、こちらへ押し寄せようとする人々。
 あたしは、一歩引いた。
 無意識の行動だった。
 あまりに強い祈りと願いのエネルギーに押され、その期待の重さに押しつぶされそうになったのだ。
「アマテラス!」
「救いを!」
「我らに安心を!」
 伸ばされる手、手、手。
 人々の目は狂気に満ちている。まるで、ナミがあたしを見る時のように。
「いけません、皆が興奮しています。今、貴方が現れた事で、一種の集団トランス状態に陥っている」
 ツヌミがあたしと群衆の間に割って入る。
 が、流れ出した願いの勢いは止まらない。
「助けてください、アマテラス!」
「我らが女神……!」
 このままでは、あたしたちが押しつぶされてしまう……そう、思った時だった。
 凛とした声がカグヤに響き渡った。
「やめろ。女神の持つコードは、君たちカグヤに住む者たちの所有物ではない。静まれ」
 絶対的な信念に裏打ちされた、タカマハラ総長の声。
 あたしたちを異形に始末させようとした始祖イザナミのクローン。
 これを圧倒的なカリスマと呼ぶのだろう。有無を言わせぬ、それでいて強く納得させる安心感を持つ声が群衆の動きをピタリと止めてしまった。
 はっとしたあたしたちは、ナミの姿が太陽を透かすように空中に大きく描かれているのを見た。これは、立体映像?
 ナミは相変わらず憎らしいほどに整った顔立ちにいやらしい笑みを張りつかせて、こう告げた。
「カグヤはたった今、閉鎖した所だ。君たちはもうそこから出ることなどできない」
「……?!」
 あたしたちを、声も出ないほどの衝撃が駆け抜けた。
 一瞬にして静まり返るカグヤ。
 だが、徐々に人々の間にざわめきが広がっていった。
「だが、私とて鬼ではない。条件次第によっては、君たちを解放してもいいと思っている」
 ざわり。
 群衆が蠢く。
 ああ、一人一人は意志を持った人間なのに、集まるとまるで一個の生命体のようだ。大きな一つの意志を持った生命群体。
 代表してツヌミが進み出たが、誰も文句を言わずに彼の行動を見守った。
「一応、尋ねます。ナミ、条件とは何ですか?」
「テラスをこちらに渡しなさい。そうすれば他の全員を解放しよう。無論、カグヤにいた人員も防御壁内へ戻す事にする」
 やはり、とカノが呟き、ツヌミは顔を強張らせた。
「そんな手に乗るか! カグヤにいた人たちを見捨てると言ったのは、防御壁の中に引き入れてくれとテラスが言っても聞かなかったのは、いったい誰だ!」
 誰が答える前に、ミコトの叫びが響いた。
「俺達の事を異形に殺させようとしておいて、今さら助けるだと? そんな戯言が信じられると思うのか?!」
「ミコト、落ち着いてください。カグヤの皆が動揺します」
 見かねてカノが押さえる。
 が、ミコトは止まらない。
「何度騙せば気が済むんだよ、実験体の話だって、テラスの代わりに俺がすべて受けたはずだ! それなのに、お前はテラスまで殺す気なのか?!」
 実験体? それは、あたしが最初に来たとき、ナミに承諾させられた実験の事?
 あたしの代わりにミコトが? いったい、何の話?
「これ以上、誰も殺させない。お前に何も渡すもんか!」
「……そうか、交渉決裂だな」
 ナミは狡猾な笑みであたしたちを見下ろした。
 まるで、こうなるのが予想できていたかのように。
「では、皆カグヤで朽ち果てるといい。心変わりする、というなら考えてやってもいいが」
 そしてナミの虚像は消え去った。

 その場に再び静寂が幕を下ろす。
 視線が痛い。ツヌミに、あたしに、そしてミコトに刺さるような視線が降り注いでいる。
 群衆からぽつりぽつりと声が漏れる。
「なぜ、アマテラスを引き渡さない?」
「そうだ、渡せば私達は助かったのに」
「ナミは助けると言った。それなのに、なぜ耳を貸さなかった?」
「信じられないのはお前達の方だ」
 ひとつ、瓦礫が落ちてしまえば、残りが崩れるのは簡単だ。
 群衆からは抗議と非難が溢れんばかりに流れ出し、あたしたちに突き刺さった。
「どうして勝手な事を言った?!」
「交渉の権利は、俺達にあったというのに!」
「我らの意志を無視するな!」
 豪雨のような糾弾に、あたしはまた一歩、後ずさる。
 それを庇うようにミコトが前に進み出る。
「何を言ってるんだ、ナミはもともとお前達を助ける気なんかなかったんだぞ?! 一般人にはテラスのコードを与えずに、見殺しにする気だったんだぞ?!」
「そんな事、ナミは先ほど言っていなかった!」
「そうだ、助けると言ったんだ!」
 人々の叫びは、あたしの胸に突き刺さった。
「何を言ってるんだ、助けようとしたのはこのテラスだ! ナミはそれに全く耳を貸さなかったんだぞ?!」
「もし仮にそうでも、今はナミが考えを変えたという可能性だってあったはずだ!」
「あいつの選民思想はそんな生半可なもんじゃない! ここの人間だけでなく、第2層の人間すべてを殺す気でいやがったんだぞ?!」
 ミコトの言葉に、さすがに一瞬押し黙った生命群体は、それでもすぐに反撃を開始した。
「だからといって、我々の命を引き換えにここで抵抗して何になる!」
「そうだ、私達の命を無駄にする気か!」
「つまらない意地と先入観で人間を殺していいと思っているのか!」
 すでに問題の論点がずれてしまっているのだが、ミコトは叫び続けた。
「それじゃ、自分の命が助かりたいから、といってテラスの命を代わりに潰すのか?! それこそ命の冒涜だ! そんな事、俺が許さない!」
 あたしを庇うように立つミコトの背に隠れても逃れ得ぬほどの強い意志が、集団から盛り上がってくる。時に突き刺さるように、時に押しつぶすようにあたしの心を揺さぶる。
 不毛な言い争いが目の前で繰り広げられる。
 すべて、あたしがナミの誘いを断ってしまったから。カグヤの人を助けるなんて、言いだしてしまったから。
 助けようとしていたカグヤの人にこれだけ恨まれて非難されて……あたしはいったい、何をやっているの?
 あたしが助けたかったものは何? 嫌だったのは何? 欲しかったのは? 守りたかったものは何?
 もう、何も分からなくなってしまっていた。
「いいよ、ミコト」
 泣きそうな気持ちを抑えて、ミコトの服の裾をぎゅっと引っ張った。
「もう、いいよ……」

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また、あした。
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