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真・恋姫†無双 星巴伝 作者:桜惡夢

一章 天遣広噂  ☆


━━巻県


司隷・河南尹の県の一つ。

此れと言った特徴は無いが荒れ地が多く、彼方此方に森林が広がっている。

飛び抜けて高い山や山岳は無いが切り立った崖も多く虎や熊も少なくない。


そんな森の中に──

金色の髪が揺れている。


「読みが甘かったようね」


溜め息と共に呟く。

その青玉の双眸に映るのは“自分達”に忠誠を誓った四姉妹の内の一人の姿。


「……申し訳有りません」


青い髪の少女の橙の瞳には悔しさが滲む。

彼女が番えた鏃は自分へと向けられていた。


「…や…ろ…しゅ…ん…」


美しい黒髪は地面に広がり弱々しい声で少女は呟く。

右目は血で塞がり…
左目は矢で光を失った。

紅の双眸は自分と妹を見る事は叶わないだろう。

身体を染める様に流れ出す血量は素人目にも危険。


「…春蘭姉様…」


肩に掛かる程度の橙の髪を後ろへ上げて髪帯で止めた髪型の少女は中紅色の瞳を涙で潤ませる。


「…秋蘭姉様…」


背の中程の長さの橙の髪を右横で纏め、前髪は左側を下ろした髪型の少女もまた黄中色の瞳に涙を湛える。

しかし、二人の少女は何も出来無い己の無力さに唇を噛み締め、俯く。

何の為に強く成りたかったのかと胸中で叫ぶ。

それでも、少女達に出来る事は無かった。


「…早くしない秋蘭
貴女達を失ってしまっては会わせる顔が無いわ」


“誰に”なんて言わずとも私達の間では理解出来る。

秋蘭が奥歯を噛む。
そして、覚悟を決めた。


「華琳様──御覚悟っ!」


秋蘭が右手を矢から離すと鏃が風を切る。

見れば、秋蘭は目を閉じて顔を背けていた。


(駄目じゃない秋蘭…
戦場に於いて一瞬でも目を逸らす事は命取りよ?
そう、教わったでしょ?)


死の迫る状況下で考える事ではないのは判っている。

恐怖が無い訳が無い。
目を瞑ってしまえば少しは楽になれるだろう。

けれど、そうはしない。

最後の一瞬まで──
私は全てを見詰める。

全てから目を逸らさない。
それが、私の覚悟。

喩え、此処で私自身の命が潰えるとしても…
それも一つの結末。

勿論、諦めはしない。
しかし、逃げもしない。

僅かでも“隙”が生じたら私は“勝機”を見い出す。

それを掴む為には、決して目を逸らしてはならない。

緩慢にさえ思える不思議な感覚の中で、迫り来る矢を見詰め続けた。



━━二週間前


「邪教徒、ですか?」


洛陽は南宮の一室に華琳は呼び出されていた。

目の前には飴色の長い髪を首の後ろ側で一括りにした鈍色の瞳の女性。


「ああ、そうらしい」


聞き返してはみたが返事は曖昧な物。

まあ、調査も兼ねてという意味での話なのだろうが…
ただ“らしい”という点が引っ掛かる。


「本当なら私自身が出向き真偽を確かめたいんだが…
この有り様でな」


そう言って執務用机の上に積まれた書簡の山を見て、苦笑を浮かべた。

同性から見ても凛々しいと思う美貌を破顔させると、子供っぽい雰囲気になる。

その姿を知る者は少なく、信頼を勝ち得た者だけ。

心を許されていると思うと少しの優越感を覚える。


「出来るなら手伝いたい所ですが、内容的に無理だと思いますので…
頑張ってね、棗姉さん」


クスッ…と華琳は微笑み、彼女を“応援”する。


姓名は皇甫嵩、字は義真。
真名は(なつめ)

左将軍の地位に有る女性で亡き母・芹華の愛弟子。
洛陽に来てから実姉同然の付き合い。

武勇で名を知られがちだが文官としても優秀。
秋蘭や玲奈と同様に文武を兼ね備えた希少な才媛。

可能なら、直ぐにでも引き抜きたい人材だ。


「本当、芹華様に似てきて厳しいわね…
年寄りは敬うものよ?」

「誰が“年寄り”よ?
それに──
立っている者は親でも使えが、お母様の教えなの」


机に突っ伏し、上目遣いに見てきた棗を、小さく息を吐き笑顔で一蹴。

“黙って、働きなさい”と暗に含む。

棗は大きく溜め息を吐くと一度顔を伏せた。

暫し、動きを止めてから、ゆっくりと身体を起こす。

抜けた気合いを入れ直した様で、表情には凛々しさが戻っていた。


「愚痴は彼奴に吐くか…」


矛先を向けられるであろう人に直ぐに思い至り胸中で“御愁傷様”と呟く。


「今回の任務は調査が主体になるからな…
小規模な編成で二百以下の兵数が妥当な所だろう
兵の方は県令が用意する様手筈を整えてある
詳しい事は──
畢嵐に聞いてくれ」


その名に、思わず顔を顰めそうになるが堪える。


「…確と、承りました」


そう言って華琳は一礼し、退室しようと背を向ける。


「華琳様、お気を付けて」


何かを危惧するかの様に、棗が静かに呟く。

華琳は何も答えず退室し、次の場所へと向かった。




「よく来てくれたな」


入室した華琳に笑顔を見せ“歓迎”の雰囲気を漂わす赤茶色の短髪の男。

姓名は畢嵐(ひつらん)

四十過ぎにしては顔は若く見える方だろう。
華琳的には“醜男”だが。

通称“十常侍”と呼ばれる十二人の中常侍の一人。


宦官では有るが…
裏では奴隷商から女を買い弄んでいるとの噂が有る。

去勢したからと言っても、性欲は存在する。
根も葉も無い噂と言うには些か無理が有るだろう。


「いえ、仕事ですので」


そう答えて頭を下げる。

但し──“仕事でなければ来たくもない”という棘を含ませて。


人身売買の件も有るが…
それ以上に畢嵐に対しては嫌悪感が強い。

祖父や母が要職に有った事から名と悪評は聞いていたけれど実際に会って見て、評価は最低の屑に認定。

また母が亡くなって以来、自分を排除したがっている事を知っている。
十常侍の中で唯一、曹家の危険性に気付いた為だ。


(でも、簡単に消せる程、私は易くないわよ)


畢嵐の仕掛けた罠や謀略は悉く看破した。

最近は静かなものだ。
油断はしていないけれど。


「此度の任務は邪教集団の存在の有無の調査だ
確認されれば対処して貰う事にもなるが…
まあ、庶民共の間で広がる噂に過ぎんがな」


そう言って、面倒臭そうに竹簡を差し出す畢嵐。

受け取り、内容を確認して見れば県令からの報告書。

河南尹は皇帝直轄の領地と有って“下”も対応の為に“上”に伺いを立てる。
現場判断は滅多に無い。


「……この噂とは?」

「何でも、白き衣を纏った天よりの使者が民を救いに現れた、とか何とか…」

「天の使い、ですか…」


何が“天の使い”か。
与太話もいい所だ。

だが、噂という物が厄介な事に変わりはない。

噂の元になった“何か”が有るにしろ…
“何者か”が意図的に噂を流したにしろ…

乱世に有って、民の弱った心を掴むには悪くない。

民衆を煽り、一揆を起こし大陸に戦禍を撒き散らす。

直ぐ脳裏に浮かんだ筋書きとしては妥当か。


御飾りの皇帝…
専横する宦官や外戚…
跋扈する匪賊…

そして──

煽動された民衆…

名と皮だけの国は内側から崩壊する。


「…状況は判りました
直ぐに向かいます」


華琳は一礼し退室。

予想される事態を想定し、対応策と処理案を練りつつ帰路に着いた。



━━巻県


調査を始めて三日が経過。


「華琳様、まだ件の討伐に出ないのですか?」

「そうですよ〜
早く討伐しましょ〜よ〜」


春蘭と理奈が退屈な調査に飽き不満そうに訴える。


「…姉者、討伐は“確定”した場合に、だ」

「姉さんも大人しくして」


秋蘭と玲奈が溜め息を吐きながら二人を窘める。

しかし、秋蘭にしてみても二人の気持ちが判らなくもなかった。

洛陽を離れ、巻県に入って四日が経った。

巻県の街に着いた日──
昼餉を食べに入った店内で早くも噂を耳にした。

噂は民衆の間にかなり浸透している様子だった。

“これならば早いか…”と思っても不思議ではない。

だが、事は簡単には進まず暗礁に乗り上げる。


噂自体は比較的簡単に把握する事が出来た。

噂は広まる過程で誇張され現実離れした内容になった物も少なくない。

しかし、そんな噂も収集し検分すれば“元々の形”が見えてくる。

そうして、明らかになった噂は次の通り──


 世が乱れし時──
 天より白き衣纏いし者
 光と共に舞い降りん

 その者、天の遣いなり
 乱世に立ちて臨まん


──と、云う物だ。

読み書きの出来無い民でも理解出来るだろう。

それに“噂”というのは、基本的に人伝だ。

内容は理解出来ていても、一言一句を正確に覚えられ伝えられる訳ではない。

才の有る者ならば兎も角、万人が出来る筈もない。

“変化”は起きるべくして起こっている。
それが“噂”の必然性。

市井に流言を流し、風評を操作する事は珍しくない。

だが、その為には幾度かの“梃入れ”が必須。
施行者の“望む形”に誘導しなければならない。

ならば──今回はどうか。

はっきりと言ってしまえば“操作”の痕跡はない。

それは、この噂自体が特に深い意味を持ってはいない事を物語っている。

そうなると、今回の一件は“餌”の可能性が高い。


(華琳様を誘い出す、か)


だが、気になるのは県令が伺いを立てて来た事。

調べた限りでは…
県令と畢嵐の間に繋がりは見えなかった。

安心するにはまだ早いが、それよりも噂自体が大きく成り過ぎている。

現時点では其方らを抑える事の方が重要だ。


「……華琳様?」


ふと、気付き先程から黙り一言も発していない華琳に声を掛けた。



秋蘭達と収集した噂の件を確認していた時だった。

ある竹簡で手が止まる。

両手で持った竹簡を注視し綴られた文字を読む。


 世が乱れし時──
 天より白き衣纏いし者
 光と共に舞い降りん

 その者、天の遣いなり
 乱世に立ちて臨まん


 天は乱れ、地は荒れて
 堕つ天には凶星が瞬く

 されど、宿星は在りて
 地より天へと昇り至る

 星は廻り、巡りて対す


 天も、地も、人も…
 全ては巴となり流るる

 ただ、理は不変であり
 星もまた、理に抗えず


 然りとて、星は輝かん

 その輝き、天地を染め
 新たな夜明けを齎さん


前文は検分により浮かんだ噂の元々の形と合致。
此処だけを見れば派生した物の一つと思ったとしても不思議はない。

問題は中文以降。
其処に綴られている文句は民の創作とは思えない。

明らかに、何等かの意図が秘められた文脈。


(まるで“予言”ね…)


此れを一読して理解出来る者が果たして何人居るか。

“噂”と断じ捨て置くにはあまりにも危険。
しかし、確認は出来無い。


「……華琳様?」

「──っ」


秋蘭に声を掛けられ自分が周囲が見えくなる程に集中していた事に気付く。


「何か、気になる事が?」

「いいえ、何でも無いわ
高が噂と言えど…
内容が此処まで来ると滑稽だと思っただけよ」


訊ねた秋蘭に平静を装い、呆れた様な笑顔で答えつつ件の竹簡を畳む。


「こんな根も葉も無い噂に縋る程に民心は弱っているのだと思うと、ね…」


そう言って話題を逸らす。

今はまだ、この竹簡の事は誰にも言えない。
いや、知られてはならない気がする。
理由は判らないが。


(…私らしくないわね…)


胸中で愚痴りながら思う。

此処に有る竹簡は噂を纏め上げた報告書。

それらを書いたのは自分が連れてきた直属の私兵。

見馴れない筆跡が有れば、当然直ぐに気付く。

しかし、事前に目を通した筈の秋蘭と玲奈はその事に気付いている様子がない。

つまり、この竹簡は後から紛れ込んだ──否。
誰かが故意に紛れ込ませた可能性が極めて高い。


(…あの字、何処かで…)


そして何処かで同じ筆跡を見た様な気がする。

ただ、それが思い出せずに苛立つが…
今考えるべき事ではないと思考を切り替えた。



巻県に来て一週間が経過。

今私は華琳様、秋蘭姉様と県令に会いに来ている。

春蘭姉様と姉さんは運良く──相手は不運だけど──入った盗賊の討伐に出た。

連れていった兵は二百。
今回の件で県令が用意し、指揮権を委ねられた兵達。

“今後”動く事を考えれば兵の実力を見る良い機会と華琳様が判断された。

二人の憂さ晴らしも兼ねて任せた節も有るけど。


連れてきた全ての私兵──三十人だが──は華琳様の指示で街に散っていた。

旅人や行商人に擬装させ、噂を打ち消す為の梃入れを県内の各地で行っている。

“天の遣い”という存在が何処にも居ないのなら噂は次第に終息していく。

もし居るとしたら何かしら反応が起きるだろう。

煽動者が居るのなら民衆にその姿を見せるだろうし、華琳様への罠だとするなら次の動きを見せる。

そういった狙いが有るし、何方らに転んでも無駄にはならない。


「此方へどうぞ」


侍女の声に我に返る。

目の前には装飾された扉。
しかし、開け放されており中には県令らしき男性。

歳の頃は二十代半ばから、三十代前半か。

短く刈り上げた後ろ髪とは逆に眉に掛かる位の前髪は赤茶色をしており、眼鏡の脇から見える瞳は濃緑色。

内装から見るに応接室だと思われるが、男性は竹簡が積まれた奥の机に向かって黙々と筆を走らせていたが気配を感じたのか顔を上げ此方へ振り向いた。


「おお、曹操殿!
良く来て下さいました」


男性は机を離れると笑顔で出迎える。


「私は巻の県令を務めます李晏と申します」


男性──李晏は恭しく頭を下げて挨拶する。

同時に案内して来た侍女と入れ替わりで茶器を持った侍女がやって来る。

応接室で待つ間まで仕事をしていた事を除けば対応は悪くない。


「随分と忙しそうね?」

「お恥ずかしい限りです
私の仕事が遅い上に仕事は次々出来るものでして…」


華琳様の言葉に李晏は苦笑しながら頭を掻く。

初見での印象から言えば、良くも悪くも平凡。
無能ではないが特筆すべき点も見当たらない。


「一応、名乗って置くわね
朝廷の命により派遣された曹孟徳よ
此方は夏侯妙才、韓義公」


私は華琳様に紹介されると秋蘭姉様に次ぎ会釈する。


「宜しくお願いします」


李晏はそう言って華琳様を席へと促す。

私は秋蘭姉様と一緒に席の後ろに控えた。



華琳様は茶器を手に取って一口飲む。

一見、無用心に見えるが、こんな場面で毒を盛る様な馬鹿は居ない。

それに万が一の時に備えて解毒薬も、私達四人が各々人数分を常備している。
抜かりはない。


「この間の事は申し訳有りませんでした」

「あの様子では余裕が無いのも頷けるわ
反省しているのなら二度と無い様に努めなさい」


頭を下げた李晏に華琳様は寛大な御言葉を掛けられ、お許しになられた。

この間の事とは…
指揮権を借り受ける兵達と顔合わせの場に都合で同席出来なかった事。

春蘭姉様や姉さんが居たら面倒な事になった筈。
居なくて良かった。


「それより噂の件に関して確認したいのだけど…
李晏、何故、高が噂如きで朝廷に対応の伺いを立てたのかしら?」


そう華琳様が御訊になると李晏の顔が真面目になる。


「…お気付きでしょうが、“あの噂”は危険です
地方での事ならいざ知らず司隷で起きては大問題…
放置は出来ず、かと言って下手な対応策は逆に民心を煽ってしまいます
然るべき形で鎮静する為にお伺い致しました」


正直、驚いた。

華琳様は態と“高が噂”と言って事の認識具合を確認しようとされた。

地方役人にしては見るべき物が見えている。

チラッと秋蘭姉様を見れば表情には出さないが瞳には感心が窺える。

恐らくは華琳様も同様に。


「そう…なら話が早いわ
噂の出所は不明だけど端を発した者が居るのは確実
もし何等かの動きが有った場合には此方で対処しても構わないわね?」

「…はい、御任せします」


李晏は僅かに考えて承諾。

逡巡するのは当然。
此処で“総指揮権”を渡す事は功績の放棄と同意。

幾ら地方役人と言えど──いや、だからこそ功を得る機会は重要になる。

もし仮に“自作自演”での功績作りなら此処で拒み、馬脚を現す所。
それが無かったという事は其方らの線は消える。


(となると…
やはり、華琳様への罠?)


しかし、そうなってくると益々腑に落ちない。

“罠”だとしても華琳様が簡単に誘いに乗ると思っているのだろうか。


(……もしも、そうなら…これまでとは違う相手?)


てっきり筆頭容疑者である畢嵐だと思っていた。

しかし、“新手”となると罠への対応策を一から練り直さないとならない。

夜に秋蘭姉様と話し合っておこうと思った。



━━その夜


秋蘭と玲奈は一時的に拠点として使用している宿場の自室に居た。


「…玲奈もそう思うか」

「はい、現時点では可能性の域を出ませんが…
万が一にも、と思います」


玲奈の言葉に秋蘭も頷く。

時を同じくして共に主君に仕えてきた。

それは同時に──
諸候等は勿論、曹家に縁の豪族や貴族による策謀との戦いでも有った。

暗殺は特に多かった。
毒や罠は勿論、刺客ですら珍しくもない程に。

それら全てから護り抜き、今に至るのは偏に幼き日の経験に学ぶ所が大きい。

備える事は決して無駄にはならない。

その事を常に念頭に置いて臨んできたのだから。


「しかし“新手”となると厄介だな…
実態が掴めぬ以上憶測での対応策しか用意出来無い」


秋蘭の言葉に玲奈も頷く。

“想定外”程、厄介な事は有りはしない。

“想定”は“事が有る”を前提とするのだから、敵を知る事は非常に重要。

しかし、それが出来無いと十分な備えは不可能。
必ず“穴”が生じる。


「…取り敢えず、解毒薬は全員違う物を持とう
それと玲奈…
“秘薬”はお前が持て」


そう言って、秋蘭は懐から桜色の小さな袋を取り出し玲奈に手渡した。

戦闘になった場合を考え、秋蘭は自分は前に出る事になるだろうと予測した上で玲奈を華琳の護衛に付ける方針に決めた。

玲奈も秋蘭の考えを即座に汲み取る。


「…判りました
解毒薬は春蘭姉様が神経、秋蘭姉様が混合物…
姉さんが植物、私が動物で良いですか?」

「ああ、問題無い」


秋蘭が頷くと玲奈は寝台の下から錠の掛かった木箱を取り出す。

次いで、常に首から下げている鍵を使って錠を開く。

開いた木箱の中には小瓶が幾つも並んでいた。

小瓶の中身は様々な薬。
解毒は勿論、腹痛や解熱に傷薬まで揃っている。

其処から一つの小瓶を手に取り中から丸薬を出して、水色の小袋へと移す。

秋蘭はそれと交換する形で赤い小袋を玲奈に渡す。


「…毎回思うが、これ等を使う様な事にならなければ良いのだがな」

「…そうですね」


毒は暗殺に限らず、戦場に於いても陰湿で厄介な物。

そして、使うのは決まって外道ばかり。

しかし“勝利”こそ全ての考えも間違いではない。
賛同は出来無いが。

二人が揃って溜め息を吐き窓から黒天を見上げると、静かに月が輝いていた。



━━別室


李晏から借り受けた竹簡を広げて目を通していた。


「……関係性は無し、か」


最後の竹簡を読み終えると畳んで積み上げた山の上に置いた。

ゆっくりと息を吐きながら椅子の背凭れに身体を預け目を閉じる。

頭の中に浮かぶのは情報を元にした様々な憶測。
それらを吟味していく。


先ずは──
畢嵐の企てた陰謀の確率。
これは極めて低い。
性格的に遣り口は陰湿では有るが我慢が利かない。
加えて自分に不利益になる様な策は用いない。


次に──
反乱・一揆の可能性だが、これは微妙な所。
民心を掴む噂を流したのにそれを放置したままなのが不可解。
煽動するなら既に顔を見せ存在を印象付けなければ、折角の噂も無意味。
動きが無い所が判断し難くしている。


最後に──
これまでと違う“新手”の可能性だが…
現時点では一番濃厚。
しかし、どうにも敵の策が見えてこない。
暗殺を仕掛けて来る様子も失脚を狙っての妨害工作も起きていない。
慎重を期しているのか。
それとも別の狙いが有るのだろうか。


「…私に対する罠にしては“棘”が少ないわね…」


静かに瞼を開き呟く。
蝋燭の明かりに照らされた天井が赤く染まっている。

明かりは私の呼吸に合わせゆらゆらと揺らめく。


「……拙いわね」


右手で視界を塞ぐ。

主導権を握り切れない事に己の非力を感じる。

大切な家族を──忠臣達をむざむざ危険に晒す訳にはいかないのに。


「…………ねぇ…
“貴男”ならどうする?」


同じ空の下、今も何処かに居る筈の半身に向け呟く。

何れ程求めても返る言葉は無いと判ってはいても…
ふとした瞬間に“弱さ”が零れてしまう。

勿論、一人以外の時は気を引き締めている。
自分が揺らいでは四人にも伝染してしまう。
だから、決して“弱音”は誰にも、微塵も見せない。


「………………ばか…
早く帰ってきなさいよ…」


遣り場の無い“寂しさ”を呟く事で吐き出す。

──いや、誤魔化す。

自分自身を騙し、誤魔化さなけば堪えられない。

“想い”は寂漠とした心に雪の如く募り積もり…
“冬”の様に凍てつかせ、埋もれさせる。

ただ“冬”は──
“春”を待ち侘びる季節。

長く、辛く、厳しい程に、“蕾”は強く育まれ…

花開く“季”を夢見ながら健気に訪れに思いを馳す。

“貴男”という“春”に。



◇キャラ紹介‐其の弐


姓名字:皇甫 嵩 義真
真名:(なつめ)
武器:穿槍・糸水
   (しすい)
年齢:27歳
容姿:
鈍色の瞳。
飴色の髪。
お尻に届く位の長さで首の後ろ側で一束ねにしているだけの簡単な形。
身長は175cm位。
スタイルは紫苑級。

性格:
面倒見は良いが面倒臭がりという面倒な性質。
男勝りというか、ガサツな所も少々有るが、家庭的な女性でもある。

備考:
『糸水』は所謂パイク。
騎馬戦も得意としている。
また華琳を始め、春蘭達にとっても“姉”的な存在。
宮中で女性人気高し。



姓名字:韓 浩 元嗣
真名:理奈(りな)
武器:甲拳・獅士吼
   (ししこう)
   対短剣・蛇津姫
   (だっき)
年齢:17歳
容姿:
中紅色の瞳。
橙の髪。
長さは肩に掛かる程度で、後ろ側で纏め上げて髪帯で止めている。ポニテ。
身長は160cm位で華琳と春蘭達の間位。
スタイルは平均的。

性格:
明るく真っ直ぐ天真爛漫な曹家のムードメーカー。
春蘭には同じ姉として特に懐いている。

備考:
『蛇津姫』はエッジナイフだと思って下さい。
速さと一撃必殺を武器に、近接戦闘を得意とし基本は拳で戦う。



姓名字:韓 当 義公
真名:玲奈(れな)
武器:綱鞭棍・棘孔雀
   (いばらくじゃく)
年齢:17歳
容姿:
黄中色の瞳。
橙の髪。
長さは背の中程で髪を右横で纏め、前髪は左側だけを下ろしている。サイテ。
身長は160cm位で華琳と春蘭達の間位。
スタイルは平均的だが胸は理奈より小さい。
その分、腰は細い。

性格:
真面目で落ち着きの有る、一歩退いて主/夫を立てる大和撫子タイプ。
姉依存は稍残るも卒業。

備考:
『棘孔雀』は鉄棍の片側に綱の鞭が付いている特殊な形状をしています。
癖が強く、扱い難い。
しかし、彼女は手足の様に使い熟し中・遠距離を制す腕前を持つ。



姓名字:曹 操 孟徳
真名:華琳
武器:死神鎌・絶
   細剣・花天沙颯
   (かてんささら)
年齢:15歳
容姿:原作を参照。
身長は140ではなく、150の設定です。

性格:
原作と違ってノーマル。
霍琅一途な恋する乙女。
但し、全ての女は美しさを磨くべきだと思っている為美容・お洒落には煩い。
原作よりデレ多め。

備考:
『花天沙颯』はレイピア。
嵩張る“絶”は戦場用で、平時は此方を帯剣。
戦い方は、速さと柔軟性に特化しており、相手の力を利用する。
また、袁紹とは同窓だが、真名は未交換。



姓名字:夏侯 惇 元譲
真名:春蘭
武器:剣・七星餓狼
年齢:18歳
容姿:原作を参照。
   身長は165cm位。
性格:
此方もノーマル。
華琳&霍琅信奉者。
原作より冷静さ・知的性が増しているのが特徴。
でも、春蘭は春蘭。

備考:
一応、漢の官位を持つ。
突貫だけでなく、戦術的に指揮を執れる。



姓名字:夏侯 淵 妙才
真名:秋蘭
武器:大弓・餓狼爪
   直刀・豹牙
   (ひょうが)
年齢:18歳
容姿:原作を参照。
   身長は165cm位。   春蘭より少し高い。
性格:
此方もノーマル。
華琳&霍琅信奉者。
姉依存は完全に卒業。

備考:
『豹牙』は直刀型の小太刀だと思って下さい。
弓に加え剣を使用する事で矢が切れても大丈夫。
後衛・補佐に限らず前衛で戦える様に。



尚、彼女達の使う武具類は大半が曹家の所有物。
蓮需の(暇潰しで造った)作だったりします(笑)。


+注意+
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