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ちんこ短し恋せよ乙女 作者:真木あーと
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第八節

 さて、そんなわけで、俺はみせちんのプロ選手になったが、だからと言って学校に行かなくてもいいわけじゃない。
 次の日も月曜なので、俺はだるいが学校に行った。
「おはよう、鷹士」
「……おう、おはよう、伊澄」
 伊澄は相変わらず無表情に挨拶をする。
 俺は昨日の事を後で思い返して物凄く恥ずかしくなっていた。
 俺、昨日、あれだけ嫌がっていたみせちんの舞台に出て、大活躍して、興奮してたんだよな。
 何も言わなくてよかった。
 いや、それどころか、昨日の興奮からして、伊澄に何かしてたかもしれないと思うと、自分の意思の強さにほっとするしかないくらいだ。
 しかもその後大久保さんの邪魔が入ったが、メチャクチャ臭い事言おうとしてたしな。
 本当、邪魔が入ってよかった。
「ところで伊澄」
 俺は当たり前のように隣を歩く伊澄に言う。
「何?」
「昨日の事は、学校では言わないでくれないか?」
 当たり前の事だが、一応釘を刺しておこう。
 さすがに学校でバレたくない。
 先生にばれるのはもちろん何らかの処分もあるだろうが、それ以上に友達にバレるのは絶対に避けたい。
 特に可愛にバレたくない。
 あれだけ俺を庇ってくれてたんだからな。
 それを真っ向から裏切って選手になって大活躍したなんて、知られたら気まずいし、そもそも女の子に股間見せて喜んでる変態と思われるのは絶対に避けたい。
「うん、分かってるわ」
 さすがにこいつでもそれが分からないって事はないか。
「せめて日本チャンピオンになるまでは言わないって事ね」
 やっぱり分かってなかった!
「いや、世界チャンピオンになっても言うなよ?」
「どうして? 鷹士がギフテッドだってことが証明される名誉な事なのに」
「それが名誉かどうかは、受け取った側が決めるんだよ」
 こいつは自分の主観が全てだと思ってんじゃないか?
「分かったわ。私がその時には広めてあげる」
「やめてくれ!」
「でも、鷹士は奥ゆかしいから、自分から自慢しないし」
「いや、自慢したくないからしないだけで、して欲しいわけじゃないんだよ」
「でも、こんなに名誉な事を黙っているなんて出来ないわ」
「そこは頑張ってくれ」
「でも」
 くそ、これはまずいな。
 こいつは言い出したらなかなか聞かないからな。
 クラス数十人いれば、一人くらいはみせちんを知ってる奴だっているだろうし、伊澄が説明すればそれがどんな行為か分かってしまう?
 しかも、あれだけ反対してくれた可愛にもばれてしまう。
 どうにか出来るのか?
 ……いや、俺にはこれを打開する方法が一つある。
 出来れば使いたくなかったが……仕方がないか。
「お前、何でも言うこと聞くって言ったじゃないか」
 言った瞬間、やっぱり後悔した。
 伊澄の「何でも言う事を聞く」は、もっとこう、アレな時に頼むつもりでいた。
 いや、あくまできっかけとして、合意の上でだな。
 だが、そんな俺の計画が、今の一言で吹き飛んでしまった。
「そこまで言うなら仕方がないわ。言う事聞くって約束したし」
 少し残念そうに、伊澄が言う。
 その百倍ほど残念な気持ちで、俺は伊澄を見る。
 何も変わってないし、すぐそばにいるのに、伊澄が遠くなった気がした。

「おはよう、亜様くん」
 教室に入ると、ストレートロングが話しかけてきた。
「おう、おはよう、可愛」
「うん、棚華さんも」
「おはよう」
 可愛はまだちょっとあれ以来、伊澄とはぎこちない感じだ。
 伊澄の方は一切気にしていない、ように見えるが、幼馴染の目は誤魔化せない。
 伊澄も結構気にしている。
 喧嘩ってのは最後までやりつくせば、何らかの結論が出る。
 そうなれば、何らかの結末が出て、二人はもう二度も顔も見たくないくらいに絶交するか、大の親友になれると思うが、この前は中途半端に終わったから、どうにも消化不良なんだろう。
 で、それについて俺が何かできるかって言うと出来る事はないと思う。
 俺の事が元での喧嘩だが、喧嘩の内容はもう俺を離れていたと思うしな、意地の張り合いというか。
 だから今はこのままにしておくしかないわけで。
「ねえ、今日さ、放課後時間あるかな?」
「え? いや、うん、あるけどさ」
「じゃあさ、帰りにどこかに寄ってお話しない?」
 衝撃。
 なんだか、何か圧倒的な存在に吹き飛ばされたような気がした。
 少し照れた感じでそう言った可愛の表情と合わせて、何だか衝撃が走って、何も考えられなかった。
 俺と可愛は席が隣になってからは仲良くしてる。
 クラスでは伊澄と一二を争う可愛い女の子と仲良くなれたので、俺も嬉しかった。
 だけど、どうせ席が隣の間だけの仲だと思っているし、その程度の関係だと思っていた。
 だから、その可愛がこの前、俺を庇って伊澄からの誘いを本気で断ってくれていたのには驚いたくらいだ。
 まあ、俺だって伊澄と幼馴染ってくらいだから、可愛い女の子に免疫がないわけじゃない。
 だが、伊澄の可愛さと可愛の可愛さって別だろ? つか、ややこしいな!
 そんな可愛が放課後にどこかで話がしたい、などと言い出した。
 これってさ、放課後デートだろ?
 放課後に男女二人で、ファストフードとかカフェにでも行ってちょっと話をするって……いや、これ、伊澄とよくしてるわ。
「……駄目?」
 不安げに俺を見上げる可愛。
 くっそ、可愛い。
「いや、駄目じゃない、駄目じゃない!」
 俺は慌てて否定した。
「うん、じゃ、行こう!」
 可愛が嬉しそうに笑った。
 これは、勘違いじゃないよな?
 俺は、こんなに心が浮き立つのは初めて……いや、最近もっと興奮したことあったな、試合とか。
 いや、そんな事は今、どうでもいい。
 俺は「可愛から誘ってくれた」という、これだけで心の底から嬉しかった。
 それだけで、天に昇るような気分だった。
 その日の授業はもほとんど覚えていない。
 テストに出るらしいけどもうどうでもいい。
 俺はただ、放課後を待った。
 放課後になれば、あの可愛とデートだ。
 いつも教室でしか会わない可愛と、長い話が出来るなんて、夢のようだ。
「鷹士、帰りましょう」
 そんな事を思っている間に放課後になった。
 いつものように伊澄が声をかける。
「いや、俺、今日は可愛といろいろ寄って帰るからさ、お前は一人で帰ってくれ」
「……?」
 伊澄が不思議そうに俺を見上げる。
 いや、分かるだろ。
「そういう事だから。ごめんね? 棚華さん」
「駄目よ」
 主語がないから何にかは分からないが、伊澄は否定した。
「駄目って何がだよ?」
 俺が聞き返す。
「とにかく駄目」
 意味が分からない。
「お前にそんな権利はない」
「じゃあ、私もついていくわ」
「いや、何だよそれ。それこそ駄目に決まってるだろ」
 せっかくの放課後デートをそこまでして邪魔したいのかよ。
「駄目な理由がないわ。友達同士誘い合ってどこかに寄って帰る。友達は多い方がいいわよね」
「いや、そうだけどさ……」
 デートだって言ってんだろ、言ってないけど。
「分かった。じゃ、三人で行こう?」
 可愛が言う。
 そりゃ言うだろ! 可愛の立場ならさ!
 そう言わさないようにしたかったんだよ!
 全く、伊澄は。
 俺は伊澄を睨むが、伊澄はそんな事はものともせず、俺を見返した。
 くっそー、可愛ってな、目立たないけどクラスどころか学年で一二を争う美少女なんだぞ?
 そんな子が向こうから誘って来たってのに、何で邪魔するんだよ。
 そりゃあ、一緒に帰るのを断ったのは悪かったけどさ、一日くらいいいだろ。
 まあ、友達に言わせりゃ、伊澄と毎日一緒に通学してるってのは物凄い幸せな事らしいけどさ。
 伊澄はこう見えて、クラスどころか学年で一二を争う美少女……あれ?
 俺、いつの間にか、学年一二の美少女を引き連れてどこか行くことになってるぞ?
「じゃ、行きましょ」
 最後に入った伊澄が、仕切るかのように歩きだし、俺と可愛もそれに付いていく。
 で、ほとんど会話らしい会話もないまま、俺達は駅近くのカフェチェーンに到着した。
 俺はよく分からないんで、とりあえずカフェオレを注文して、TとかGとか聞かれたので、ジャイアンツが好きだったので、Gとか言ったらやたらでかいのが出てきた。
 何だこれ、俺のジャイアンツ愛を試しているのか?
 まあ、こういうことからも分かる通り、ここのカフェ、よく外からは見るが、中に入るのは初めてだ。
 可愛と伊澄は、それぞれ、なんか二人でいろいろ話してメニューを選んでいた。
 キャラメルラテかとか、メープルラテとか、ラテ付ければいいと思ってんじゃねえ、みたいなメニューとタルトとかケーキを注文していた。
 そんなわけで、二人がドリンクアンドケーキで、俺だけドリンクのみという格差のまま、空いていた窓側の四人席に座る。
 ちなみに片側がソファーで、俺と伊澄がソファー側、可愛が俺の向かいの椅子に座った。
 美少女に囲まれた。
 そう聞くと羨ましいと思うかも知れないが、実際はなんていうか、物凄い緊張してる。
 だってさ、可愛なんてクラスで隣の席になったから話をするようになったけど、それまでほとんど話したことないし、学外で会うこともこれが初めてなんだぞ?
 緊張しないわけがないだろう。
 更に言えば、伊澄。
 こいつに関しては緊張する事はほぼないんだが、こいつが何かやばいこと口走って可愛に聞かせてしまわないかと緊張してしまう。
「それで、可愛は何か俺に用か何かあったのか?」
「え?」
「いや、わざわざ俺を誘うってことは、言いたいことがあったんじゃないかと思ってさ」
「……ああ」
 可愛が少し照れくさそうに笑う。
「亜様くんともう少し親しくなれたらなって思ったんだ」
 恥ずかしそうに、少し目をそらしながらそんなことを言う可愛。
 もう、ここまで来ると勘違いも何もないのか?
 もう、本気で勘違いしてしまうぞ?
 俺が浮き足立つと、それ以上に隣の伊澄が不機嫌になるのが分かる。
 俺も伊澄と長く一緒にいるから、こいつの考えていることは分かる。
 いや、分かっているはずなんだが、そこだけは実はよく分かってない。
 こういう、俺が女の子と優しくしていれば嫉妬するようなことをするし、普段から俺のことが好きなんじゃないか? なんて思うことも多い。
 だからといって、こっちから踏み込んでいくと、向こうは一歩引く。
 え? 違うの? と思って俺もそこで引く。
 結局こいつが俺のことをどう思っているのかはいまだによく分からない。
 そういう、こいつとのやり取りがあるからこそ、女の子が俺に気があると思っても、多分勘違いなんだろうな、なんて思ってしまう。
「で、親しくって、どういうことだ?」
 聞いた瞬間、後悔した。
 この聞き方だと、「お前俺の事好きなんだろ? さっさと吐けよ」って言ってるみたいじゃないか。
 案の定、可愛は困ったようにうつむいている。
「あんまりこういうことを言うと、気味悪がられるから、黙っていたかったんだけど……」
 少し困ったような、照れ臭そうな表情で、可愛が口を開く。
「私、実は一年生の頃から亜様くんを見てて、ずっと仲良くなりたいなって思ってたの」
「え……?」
 それって、つまりさ……え? 可愛が? なんで?
 俺はその言葉を色々な意味で捉えてみたけど、それってほぼ確実に、俺に、少なくとも好意は持ってるって事だよな……?
 しかも、一年の頃からだって?
 いや、でも、俺、その頃、可愛とは知り合いですらなかったし、クラスも違ったから、話どころか顔と名前すら一致してない程度しか知らなかったと思う。
 顔は知ってて、可愛い子だと思っていたけど、名前も知らなかった。
 可愛の方も同じだと思っていたし、そもそも俺、まあ、自惚れではない程度にちょっと格好いいな、とは思ってるけど、他のクラスの女子から何のきっかけもなく惚れられるほど格好いいとは思ってない。
 どこかで助けたとか、そんなことした記憶もないしな。
「ごめん、何かあったのかも知れないけど、全然覚えてない」
 覚えていないものは仕方がない。
 俺は素直に謝った。
「こっちこそ、気味の悪いこと言ってごめんなさい! 多分、何もなかったよ? 覚えてなくって当然だと思う……」
「え? どういうことだ?」
「……えっとね」
 可愛の言うことはこうだ。
 可愛は一年の時、伊澄と同じクラスだったそうだ。
 ってことは、俺もしょっちゅうクラスには行ってたと思う。
 で、ある時、いつものように伊澄が騒ぎを起こしていたそうだ。
 伊澄は浮いたりするけど、暇な学生ってのはこういうときに乗っかって盛り上がるため、いつもなら盛り上がるんだが、その日の騒いだ内容は、周りも困るような内容だった。
 まあ、簡単に言えば個人攻撃だ。
 とある女の子を、伊澄が言いがかりのような理由で責めていた。
 それはほんの些細な事だが、止めようとすれば、今度はそいつが標的になりそうな、嫌らしい理由だった。
 だから、クラスで誰も止められず、大人しくその様子を見守るしかなかった。
 そこに俺が入ってきて、何も言わず、伊澄の頭を殴ったらしい。
 こうして冷静に聞くとさ、いきなり入って来てわけも聞かず女子の頭を殴るとか、最低の奴だな。
 で、俺は伊澄の文句を一切受け付けずに、ただ一言「謝れ」と言った。
 すると、それまで怒っていた伊澄が一秒くらい黙ってから、さっきまで責めていた子に大人しく謝ったのだ。
 それで、俺の方からもその子に謝った後、今度は伊澄に謝った事を褒めて撫でていたそうだ。
 可愛にはその様子がとても印象に残っているようだ。
 なんだか、自分ではどうしようも出来ない猛獣をいとも簡単に操るのがすごい、と思ったらしい。
 俺からすればいつもの事ではある。
 伊澄は時々周りが見えなくなって暴走することがある。
 まあ、それ自体好きにすればいいし、場合によっては付き合うんだが、その暴走が人を傷つける事もある。
 そんな時はとりあえず再起動してやる。
 場合によっては殴ることもある。
 いや、伊澄は女の子だからもちろん加減はするが、少なくとも冷静になれる程度には痛みを込めていると思う。
 大抵はそれで冷静になる。
 で、俺は伊澄とはいえ、女の子を殴った事に罪悪感を感じるため、伊澄を褒めて撫でてやる。
 伊澄は昔から撫でてやると喜ぶからな、表情は変わらないが。
「それで私は凄いなって思ったの。あの自由な棚華さんを、思い通りに出来るなんてすごいな、って」
「色々待って欲しいわ」
 そこに伊澄が割り込んだ。
 まあ、来るとは思ってたけどさ。
「私は常識のある、一般人よ」
「え、あ、そ、そうだね」
 伊澄の少し怒った口調に、可愛は苦笑いで答える。
「お前は常識のない変人だ」
 俺が言うと、隣から肩にぶつかってきた。
 まあ、伊澄の身体程度がぶつかってきても大したダメージでもないので、スルーした。
「つまり、俺の伊澄の扱いが手慣れているから凄いと思ったって事か」
「う、うん。まあ、そうかな」
 可愛は伊澄を窺いながら、答える。
 まあ、言ってみれば、可愛が俺に好意を持ってくれたのは、伊澄のお陰だって事か。
「つまり、可愛さんが鷹士を好きになったのは私のおかげね」
 言っちゃった!
 はっきり言っちゃった!
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