挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ちんこ短し恋せよ乙女 作者:真木あーと
3/17

第三節

「鷹士、みせちんになりましょう」
 次の休み時間、いきなり伊澄がそんな事を言いながら俺のところに来た。
 口調は、「今日の午後、お茶に行きましょう」という感じの口調だった。
「……なあ、お前、俺にその前に何か言う事ないか?」
「これ以外特にはないわ」
「あれだけのことしておいて謝るとか、そういう気持ちはお前にはないのか!」
「ないわ」
 そんな曇りのない目で言われると、俺も困る。
「そんな事より、みせちんに出るのよ」
「何のことか分からないし、分かったとしても確実に出ないだろうからもう言わなくてもいい!」
「みせちんっていうのはね、名前の通り、ちんちんを見せる競技なのよ」
「挫けないなあお前!」
 女の子が教室のど真ん中でちんちんとか大声で言うなよ!
 まあ、周りが伊澄の異常性を知ってるから、そこまでざわついてないけど、ちんちんとか聞いて女の子がみんなどことなく恥ずかしがって聞こえなかったことにしてるという気まずい空気になってるじゃないか!
 隣の可愛がいないから俺はそこまで気まずくはないけど、もしいたら、朝見せてしまったという気まずさもあるし、死にたくなってくるよな。
「それで、女の子にそれを見せて、どれだけ表情を変えられるかで勝敗を決めるのよ」
「それはただの犯罪だな」
「そう思うのは素人の朝香さんよ」
「え? わ、私?」
 伊澄の言葉に種村朝香本人が驚く。
「あー、関係ないからほっといてやれ。後で謝らせに行くから」
 俺はわけが分かっていない種村に言っておく。
「例えば、街中で殴り合っていたら、それは暴行罪になるわよね? でも団体に所属して、ルールに則って試合形式で行えばそれはボクシングというスポーツになる。つまりそういう事よ」
 ちょっと、何言ってるのか分からない。
「つまりなんだ? 団体ってのがあるって事か?」
「その通りね。WMA(ワールド・ミセチン・アソシエーション)、つまり世界みせちん協会って団体が管理してるわ」
「分かった、頑張れ、じゃあな。そろそろ次の授業だ。席に帰れ」
「私は頑張れないわ。なぜなら、ちんちんがないから……」
「そんな事悔しそうに大声で言うな!」
 今日のこいつ、本気でヤバいな。
 いやね、普段から奇行の多い奴なんだけどな、今日は特別にヤバいんだよ。
「私は、本当に悔しい。だから鷹士に出て欲しい」
「嫌だね。そんなわけの分からないもんに出られるか!」
「でも、鷹士はギフテッドなのよ! みせちん選手として天から才能をもらっているのよ! 鷹士なら世界が狙えるわ!」
 世界? 何を言ってるんだこいつ?
「世界戦になったら、報酬が数千万数億の世界よ? 一試合で人の一生分が稼げるのよ?」
 伊澄の、いつにない真剣な表情。
 数千万数億の世界だと?
 え? 変態が股間露出するだけだろ? 何でそんなに稼げるんだよ?
「本気で、考えてみて?」
「駄目よ」
 伊澄の真摯な声を冷たく否定したのは俺じゃなかった。
「可愛……?」
 そこに立っていたのは帰って来た可愛だった。
 その目はとても冷たく、睨むように伊澄を見ていた。
 おとなしい可愛が伊澄に反抗するなんてこと自体、まずありえない事だ。
「どうして? 鷹士は私が世界に連れて行くのよ」
「勝手に決めないで! 亜様くんはそんな道には行かないんだから!」
「それはあなたには関係ないわ!」
「あなただって、ただ隣に住んでるってだけで、亜様くんと関係ないくせに!」
「落ち着けって!」
 なんだか本域の喧嘩になりそうだったので俺は止める。
 まあ、伊澄は分からなくないが、可愛がここまでキレるのは見たことがないし、これ以上は見たくもない。
「落ち着けって、これは俺の話だろ? 俺抜きでやろうとするなよ」
「……でも、この子、鷹士を止めようとするから……」
「とにかく、俺が決める事だ。伊澄も可愛も関係ない」
 俺はぴしゃりと言い切る。
 おそらく、変な事に巻き込まれそうになっていると思って勇気を振り絞って助けてくれた可愛には申し訳ないが、両方の意見を受け入れない、と公平に言っておけば、伊澄もこれ以上は何も言えないだろう。
「……で、でも、鷹士はギフテッドなのよ? 世界を狙えるのよ?」
「だから、話は一旦これで終わりだ。放課後に聞いてやる。もちろん、可愛の意見も聞く。ちゃんと本気で考えてやる。それでいいだろ?」
「……分かった」
 渋々ではあるが、伊澄はそれを受け入れた。
 正直、これ以上俺の股間がどうとかで、クラスの二大美少女が喧嘩して欲しくはない。
 て言うか、ほっといてくれ。
 とりあえず、クラス中が注目している中でやられると俺の居場所がなくなるので放課後にひっそりやって欲しい。
「可愛もそれでいいな?」
「……うん」
 可愛の方は興奮から覚めたのか、自分がとんでもない事をしたという戸惑いで顔が真っ赤になっている。
 そこまでして俺の行く末を案じてくれたのかと思うと、素直に嬉しい。
「じゃあ、この話は終わりだ。次は放課後にな?」
「分かったわ」
「うん」
 なんだか二人が闘志を燃やしている、何だこいつら?

 そして、放課後は一瞬で訪れた。
 俺達は教室を変え、誰もいない空き教室で続きをやることにした。
 俺はもうどっちかが冷静になってやる気を失ってくれればと思ったが、二人とも一切闘志が落ちてなかった。
「鷹士はギフテッドだから、世界を狙える。だからこれは鷹士のためにもなることなのよ? 世界戦のファイトマネーは数億、世界的プロモーターのドン・チンコが主催するなら数十億だって行くんだから!」
「それは大成功したことだけを言ってるだけだわ。もし有名になる前に怪我したらどうするの? だって、男の人にとって一番の弱点を無防備に晒すんでしょ?」
「失敗することばかり考えてたら何も出来ないわ! 天からトゥルー・ウェアードを授かってる鷹士なら、確率として成功する方が高いわ!」
「根拠はあるの? 過去の統計は? 世界に行けば、そんな才能を持った人間ばかりじゃないの?」
「……でも……!」
 珍しい。
 あの伊澄が、あの可愛に言い負かされている。
 まあ、そもそも伊澄は可愛より成績もよくないし何でも勢いで方を付けるタイプだからな。
 頭のいい可愛が本気を出したら敵うわけがない。
 問題は何故可愛がここまで本気になっているかだが……。
 男として、これは期待してもいいのかな?
 可愛は俺が好きで、だから変な道へ進むのを全力で阻止していると考えていいのか?
「それでも、鷹士はみせちんになるべきなの! これだけの才能を無駄にするなんてもうこれは罪よ!」
「人に職業を強制するのも罪だと思うけど?」
「うるさいっ! 私はどんなことがあっても、鷹士をみせちんにさせてみせる!」
「じゃあ、私は全力でそれを阻止する。どんなことをしてでも」
 伊澄が感情的になった事から、可愛も徐々に感情を高めている。
 このままじゃさっきの続きになってしまう。
 ここは俺が入って冷静に議論させるべきか。
「可愛、どんなこともしてでも阻止するって、具体的に何するんだ?」
「例えば、クラスでカンパをして、亜様くんの包茎を手術するとか」
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
 おとなしい可愛の口から出たとは思えないアグレッシブすぎる言葉に、俺は悲鳴を上げる事しか出来なかった。
「ちょ! マジでやめろ! それだけはやめろ!」
 俺は半泣きで訴えるが、可愛は伊澄を睨んだままだ。
「ふっ、あなた、何にも知らないのね」
 大して伊澄は馬鹿にしたように笑う。
「何の話?」
「真性包茎は、保険が利くのよ」
「!」
「つまり、鷹士の包茎は、別にあなたのポケットマネーでも治せるわ。でも、それがどういう事か分かる?」
「あ、あなた、何を言って──」
「あなたが鷹士を引きずってクリニックへ連れて行って『この人包茎手術してください。真性だから保険適用でお願いします』っていう事になるのよ。クリニックの人はあなたたちをどんな関係だと思うかしら?」
「…………っ!」
 途端に顔を赤くして、悔しそうに伊澄を睨む可愛。
 いや、何これ?
 ちなみに包茎手術は大抵二十万くらいかかるから、保険適用しても、高校生がポケットマネーで払える額じゃないぞ?
 何で知ってるかって? 言わせるなよ!
「これで手術は出来ないわね! こうなったら、みせちんになるしかないわね!」
「くっ!」
 いや、何もしないって手もあるんだが。
「さあ、鷹士! あなたはこれからみせちんになるのよ!」
「いや、だからさ──」
「駄目っ! 絶対駄目!」
 可愛が立ち上がって反対する。
「絶対駄目だからね! 亜様くんをそんな道に行かせるなんて!」
 俺の事なのに、必死に止めてくれる。
 それはとても嬉しいんだが、俺と可愛は、まあ、男女としては仲がいい方だが、伊澄みたいに子供のころからの仲じゃないし、どこに住んでいるかも知らない程度の仲だ。
 悪い言い方をすれば、おそらくクラスが変われば途絶える程度の仲だと思っている。
 そんな可愛が、なぜいきなり反対するのか。
 だからこそ、色々期待してしまうのだ。
「なあ、可愛。なんでそこまで反対してくれるんだ? その気持ちは嬉しいが、そこまでの仲じゃない俺に、どうしてそこまで必死になってくれるんだ?」
 俺はそれを直接可愛に聞いてみた。
 聞くことで俺の高まる期待を減少させないと、それはどんどん膨らみそうだからだ。
「どうしてって、それは、亜様くんが将来困るからで……」
 なんだか、もごもごと、聞き取りにくい言葉で答える可愛。
 おいおい、そんな態度とられると、期待が膨らみすぎて、手がつけられなくなるぞ?
 多分、今の俺、格好いい男がする顔してるよね。
「大丈夫! 絶対困らない! 鷹士はそこらのみせちんじゃないから! 世界を狙えるギフテッドだから!」
「でも! 成功する前に才能が潰れたらどうするの? その競技しか知らない亜様くんがその後どうやって生きていくの?」
 お前はおかんか、つっこみたくなるが、言ってることはまっとうなことだ。
「その時は、私が責任をとるわ」
「どうやって?」
「私が鷹士を養う!」
 伊澄がとんでもないことを言いだしやがった。
「私はそこまでの覚悟を持って言ってるの! だから、私を止められないわよ!」
「うん、ちょっと待とうか」
 俺はとりあえず話を止める。
「何よ、鷹士?」
「お前、俺を養うつもりなのか?」
「だから、鷹士が失敗したらって話。その時は責任を取るわ」
 なんだかあっさりと言われると、逆に困る。
「責任を取るって、それって結……いや、それよりもお前、俺をどうやって養うんだ? 将来どんな仕事するつもりなんだ?」
「私は将来、ライ麦畑で、子供が崖から落ちないように捕まえる仕事をするつもりよ」
「そんな仕事はないだろ」
 少なくとも俺はそんな奴に養われたくはない。
「もうちょっと真面目に考えて? 棚華さんの人生も、亜様くんの人生も……そんな、女の子が簡単に責任を取るとか養うとか、言っちゃ駄目だから」
「お母さんと同じこと言わないで!」
 いや、そこはおばさんが正しいと思うぞ?
「とにかく! そんなダメなことばかり考えてたら何も出来ないわ! 人生には少しのギャンブルは必要なのよ!」
 伊澄の言ってることもまあ、間違いじゃない。
 結局のところ、堅実な人生を送っていても何が原因で働けなるかは分からない。
 だから、自分のやりたいことをやっても同じじゃないのか、というのも分かる。
 ただ、俺、別にその、みせちんとやらをやりたいとはかけらも思ってないんだよな。
 そりゃあ、失敗しても、まあ、伊澄が結婚してくれるなら、それが不幸な人生かと言えばそうじゃないと思うが、伊澄がそこまで考えているとも思えない。
 勢いで言っただけなんだろうな。
「亜様くん、これは人生がかかってるんだからね? 本当にそんな人生でいいの? それで誇れるような職業なの?」
 伊澄に何を言っても無駄だと思ったのか、俺を直接説得しにかかった。
 うん、まあ、俺もよく考えたらちんちん見せて金稼ぐなんて嫌だ。
 誇れるどころか親にすら言いたくないよな。
 モテるかと言えば、正反対だろう。
「そうだな、冷静に考えたらあり得ないよな」
 ここは可愛に乗っておこう。
 伊澄は嫌いじゃないし、むしろ困ってたら積極的に助けるだろうが、これは付き合えない。
「そうだよね、あり得ないよね」
 可愛がほっと胸をなでおろす。
「どうして? 絶対スターになれるんだよ? おかしいよ!」
 いきなり劣勢になった伊澄が、必死の顔で食い下がる。
「いや、おかしいと言われてもな。普通に考えてみろよ。そのみせちんって競技がさ、なんで普通の人間が受け入れると思ったんだ?」
「受け入れるでしょ! みせちんだよ? そのスターになれるんだよ?」
「いや、お前の中でその競技がどの位置にあるのか知らないが、俺は多分お前と価値観が違うと思う」
「…………」
 伊澄は恨めしそうに俺を見る。
 こいつのこういうところに俺は弱いが、やっぱりここは譲れない。
「悪いが俺はそれには行けない。他を当たってくれ」
「鷹士の、ギフテッドの代わりなんているわけないじゃない!」
 半ば泣きながらそう叫ぶ伊澄。
「鷹士の、ばかぁぁぁぁっ!」
 叫びながら、伊澄は走って出ていった。
 何なんだ一体。
 意地になってるってのもあるだろうが、ここまで俺にこだわるのは何だろう?
 いや、伊澄が変わってるのは今さらだが、それでもこんなにしつこく絡まれた経験はない。
 もしかして、俺には本当に才能があって、将来何千万も稼ぐような人間で──。
「亜様くん」
 俺の没頭を妨げるように、可愛が声をかける。
「あ、うん、ありがとうな、可愛。俺のために怒ってくれて」
「ううん、何でもないことだから」
 可愛は恥ずかしそうに首を振る。
 可愛は多分、元来から優しい子なんだ。
 だから、隣の席の友達が変な道に連れて行かれようとしてたのを見て、止めてくれたんだ。
 普段では見ない剣幕だったのも正義感の仕業だろう。
 うん、きっとそうだ。
 勘違いなんかしないからな。
「じゃ、伊澄も帰ったし、俺も帰るよ」
「あ、うん……あの、さ、亜様くん」
 帰ろうと思い、荷物を持った俺を呼び止める可愛。
「? どうした?」
「あ、あのさ、棚華さんが責任取るとか言ってたけど、あれって何か約束してたのかなって……」
「ああ、あれはあいつが思いつきで言ったんだろ。そんな話したことない」
「そっか……」
 あからさまにほっとした表情の可愛。
 そんなに俺に勘違いして欲しいのか?
 それってもう、勘違いしていいってことだろ?
「じゃ、私も帰るから。またね」
 可愛は小さく手を振ると、教室を出て行った。
 一人取り残された俺は、色々と考えたいことはあったが、とにかく疲れたので帰ろう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ