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ちんこ短し恋せよ乙女 作者:真木あーと
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第十六章

 結局、当日まで、ボケとツッコミだけで話し合いが進み、何も浮かばなかった。
 何日かは俺が二人に強制的にちんちんを見せさせられたりしたが、それでも結局何も浮かばなかった。
 いや、俺ばかりずるいからお前らも見せろと言いかけて最後まで言えずに、二人から何が言いたかったか問い詰められる羞恥プレイもしたけど浮かばなかった。
 結局俺たちがやってたことって、結果だけ見れば伊澄の部屋で俺がちんちんを見せて、紅茶飲んで雑談してただけだった。
 何やってんだろうな、俺。
 俺一人だけで必死に考えていたんだが、やっぱり何も思い浮かばなかった。
「なあ、俺には二人が真剣に考えているとは思えないんだが、何故考えてくれないんだ?」
 試合の日も近くなって、何も考えついていない俺はイライラして、二人にぶつけてしまった。
 それが理不尽なのは分かっている。
 二人はマネジメントを手伝ってくれるが、試合に関しては俺が考えるのが筋だ。
 いや、本当はトレーナーがついてセコンドもトレーナーがこなすんだが、二人はトレーナーじゃない。
 だから、考える義務のない人間に真面目に考えろと言うのは理不尽な事だとは分かる。
 だけど、この時は本当にイライラしていたんだよ。
 もうすぐ親父との対決が迫っている。
 親父はあの日帰ったら既に海外へ出張に行っていて、それ以降帰って来ていない。
 これまでも出張で家を空けることは多かったが、今回はかなり長い。
 おそらく試合の日まで帰って来ないつもりなんだろう。
 つまり、俺に一切手の内は見せないってことだ。
 世界チャンピオンである親父の本気に、俺は勝たなければならない。
 そのプレッシャーは、これまでの比じゃなかった。
 だからこそ俺は二人にイライラをぶつけてしまった。
「真面目には考えているわ、一応」
「そうだよ、一応真剣に考えているつもりだよ?」
 ていうか、二人揃って「一応」って付けるなよ。
「でも、結局、戦うのは鷹士、あなたよ。私たちはどんなに助言は出来ても、戦うことは出来ない」
「そう、だな」
「私たちは、おちんちんを持っていない分、鷹士くんに自分たちの夢と希望を乗せてるの」
 結愛(ゆめ)が夢を、か。
「結局のところ、私たちは見せられる側。感想しか言えないわ。鷹士は何を見せたいの? 私たちに見せて、何を思われたいの?」
「それは……」
 俺は言葉に詰まる。
 伊澄が真剣に考えてないのではなく、考えられないって事は分かった。
 見せるのは俺。
 例えば伊澄に見せて、伊澄に何を思って欲しいか。
 結愛に見せて何を感じてもらいたいか。
 これは俺が考えることだ。
 芸人さんがよく言われているよな「芸人は笑われたらあかん、笑わせてあげるんや」ってな。
 俺は見られるんじゃない、見せるんだ。
 思われるんじゃない、思わせるんだ。
 そう考えた瞬間、俺はズボンからベルトを抜いた。
 ズボンはぱさりと落ち、そして、俺はパンツを下ろした。
 結愛も、伊澄ですら俺の行動に驚いている。
 こいつらにちんちんを見せるのは最早いつもの事に近くなっているが、俺が自分から見せたのはこれが初めてだ。
 そして、俺はブリッジをする。
 既に半アップ状態だったそれが、ゆっくりと立ち上がっていく。
 ブリッジでちんちんを見せる。
 それは特に新しくもない技だし、世界中で使われている技だ。
 俺の見てほしいものは、ありのままの俺だ。
 俺はちんちんが小さいし、包茎だ。
 これまでひた隠してきたこれが俺のありのままだ。
 女の子に見つめられればアップしてしまうし、おっさんにいじられれば萎えてしまう、そんな素直な俺自身の全てのバロメータがこいつだ。
 だから俺はただ純粋にこいつを見てほしい。
 勝つとか負けるとか、ファイトマネーがどうとか、それも確かにあるけど、俺はこれをただ見てほしいだけなんだ。
 そして、本当に見てほしいのは、見せられ少女じゃなく、いつもそばにいる、この二人だったんだ。
「これが俺の全てだ。今更格好つけてもしょうがない。俺はこれで行く」
 その言葉は、これまでの長い作戦会議の全てを否定していた。
「鷹士がそれで行くならそれでいいと思う」
「うん、頑張って」
 だが二人はそれを承諾してくれた。
 それ以上、俺たちには言葉は要らなかった。
 俺たちは俺たちのままで世界と、親父と戦おう。

          ■

 親父との試合の当日になった。
 コロシアムは満員御礼らしい。
 まずはこれまで通り前座の戦いが続いているが、俺たちは試合数時間前から控室に入っていた。
 メインイベント選手の控室にはケータリングやドリンクバーが完備されていて、固めの椅子からふかふかのソファまで、多くの人が座れる椅子が多数用意してあった。
 で、俺と伊澄と結愛がいるのは当然なんだが。
 何故か、大久保さんと屈強な二人組がケータリングを馬鹿食いしている。
 いや、何でいるんだよ、誰が呼んだか大体想像がつくが。
 それでもあえて聞こうか。
「大久保さん、何でいるんですか?」
「そりゃあもちろん、亜様くんの晴れの舞台を演出するために剃りに来たんだよ」
 でしょうね。
「私が呼んだんだよ」
 でしょうね!
 思った通りの成り行きに、俺はただため息が出るばかりだった。
「じゃあもう、さっさとやってくださいよ」
 俺は着ていた服を脱いで全裸になって寝転がった。
「亜様くん……」
「鷹士」
「鷹士くん……」
 三人と、屈強な二人が驚いたように俺の表情を窺うが、別にただ単に覚悟を決めているからこのくらいどうって事ないってだけだ。
「早くやってください」
「分かったよ。さて……」
 屈強な二人が手持無沙汰のまま、大久保さんが準備を始める。
「おっと、クリームと間違えてローションを持ってきてしまったよ。まあ、これでも剃れるから問題はないかね」
「いやちょっと待ってくださいよ!」
 俺が勢いよく起きようとしたのを屈強二人組が押さえる。
「ちょっ! 待っ! 助!」
「大丈夫だよ、痛くしないから。いや、むしろ痛くしないためのローションというかね……」
 ヤバい、このおっさん、穴に指突っ込む気満々だ!
「君はもう、この世界で三本の指に入るギフテッドとして扱われているんだから、私も丁寧に扱わないとね」
 大久保さんのいやらしい手つきで、ローションが俺の股間やら尻やらに塗られていく。
「とりあえず、私は君を三本の指が入るギフテッドに育ててあげよう。覚悟は、出来てるんだったよね?」
「いやぁぁぁぁぁっ!」
 俺は叫んだ。
 空き教室から物音が聞こえたから、覗いてみたら、不良がいてそのまま引っ張り込まれて不良たちに次々に凌辱された女の子のように叫んだ。
 その後、俺がどうなったかは言いたくない。
「よかったよ」
 剃毛を終えた大久保さんはそう言って何故か乱れてもいないネクタイを直して出ていった。
「鷹士、早くコスチュームを着て」
 そして俺は泣くことも許されず、コスチュームを着ることになった。
 ちなみに結愛は鼻血の出過ぎで貧血を起こして倒れている。
 みんなしねばいいのに。

「そろそろ試合よ」
 伊澄が言う。
 俺はケータリングで少し早い夕食を取っていた。
 ちなみに伊澄は俺がしくしくと泣きながら服を着ている時に食べていた。
 結愛は食欲がないみたいだが少なくとも数時間前から何も食べた様子がないのに「もうおなか一杯」とわけの分からないことを言っていた。
「分かった行こうか」
 俺は立ち上がる。
「ごめん、私まだちょっと無理かも。先行ってて」
 貧血気味の結愛が弱々しく言った。
 とはいえ、ここまで三人でやってきたのに、結愛だけを置いていくわけにはいかないだろう。
「一緒に行くぞ? ほら、腕貸せ」
 俺は結愛の腕を首の後ろに回して、担ぐように立ち上がった。
 結愛の腕の柔らかさとか、胸がちょっとあたってるとか、いい匂いがするとか色々なことは隠して、ちょっと男前気味の横顔を見せた。
「……ごめん、マネージャが選手にさせることじゃないよね」
「俺たちはさ、三人でやってきたんだ。誰が選手とか関係ない」
「鷹士くん……」
「そうよ」
「ふぐっ」
 反対側から、伊澄も俺の首に腕を回して身体を押し付けてきた。
 二人とも軽いとはいえ、二人がかりになるとやっぱり少し重い。
 そして、やっぱり柔らかいしいい匂いがするんだよ二人とも。
「伊澄、お前は元気だろ!」
「三人で一つなのよ」
「意味が分からないって! 重いからやめろ」
「失礼ね。私は重くないわ」
「いや、それは知ってるけどさ! 二人ともだとやっぱり重いんだよ!」
 俺の重い発言に怒ったのか、伊澄は全体重を俺に預けてくる。
 俺はふらふらになりながらステージ裏まで歩いて行った。
 一見すると俺が美少女二人と腕を組んでハーレム状態で歩いているように見えるんだろうな。
 まあ、俺が少しは幸せだってことは分かってるけどさ。
 伊澄だけの時でもよく言われたもんだ。
 「あれだけの美少女の面倒を見て困らせられる立場」って男として幸せなことらしい。
 俺だってそのくらい自覚してるって話だ。
 迷惑をかけられても離れないってことはそういうことだからな。
「あれ? 道間違えた?」
 コロシアムはあまりにも広くて、俺は迷ってしまった。
「しっかりしてちょうだい」
「ごめん、って俺が怒られるのかよ?」
「だって、鷹士が私たちを連れていってるんでしょ?」
「いや、そうだけどさ、少なくともお前は俺を誘導できる立場だろ」
 結愛が動けないのは仕方がない。
 だが、伊澄は別に貧血でもなければ体調不良でもないのに、同じように俺に抱えられているだけだ。
「それは、結愛ちゃんは貧血になった原因を考えてもそう思うの?」
「それは……」
 言葉に詰まる俺。
 そういえば結愛が貧血なのって、俺が三本の指を入れられていた時の叫び声に思いっきり鼻血を吹き出したからだった。
「その……私は置いていっていいから……」
 結愛が申し訳なさそうに言う。
 そう言われると置いていくわけにはいかないだろう。
「全く、置いていけるわけないだろ?」
 俺は二人を両脇に抱えたまま、再び歩き出す。
「ありがとう、大好き」
 俺は結愛に頬をキスされた。
 ヤバイ、めっちゃ嬉しい。
 ちょっとにやけてしまう。
「ずるい、私も」
 それを見ていた伊澄が反対側から唇を寄せてくる。
「だから! お前はいちいち対抗しむぐっ!」
 何でもかんでも結愛に対抗すようとする伊澄にツッコむため、そちらを向いた。
 だからこれは事故としか言いようがない。
 俺の口は、頬にキスしようとしていた伊澄の唇に塞がれた。
「…………っ!」
 俺もそうだが伊澄もこれは想定外の事だっただろう。
 驚いた表情で真っ赤になって俺から離れる。
 これは俺にとって女相手のファーストキスであり、俺の知る限り、伊澄にとってもファーストキスだ。
「いや、伊澄、これはだな……」
「え? 何かあったの」
 逆側から俺自身に遮られて見えていなかった結愛が聞く。
「そうね。これは事故ね……」
 まだ赤い顔のまま、少し潤んだ目で俺から目をそらして言う伊澄。
 可愛いがそう言ってる場合じゃない。
「ねえ、何があったの?」
 少しは回復して余裕のある結愛がしつこく聞いてくる。
 それになんて答えるかな。
「よう、こんなところで会うなんて偶然だな」
 そんな声に振り替えると、そこにいたのは俺の今日の対戦相手だった。
「親父……って、何してんだよ親父!」
 親父は、左右に寄り添う若い女性を従えて歩いていた。
「何ってこれから試合に向かう途中だよ。お前こそ何してんだこんなところで」
「いや、俺は迷ったんだけどさ! それより親父こそ何してるんだよ浮気かよ!」
「人聞きの悪いことを言うなよ、セコンドと心を一つにしてるんじゃないか」
「いや、セコンドって……」
 人生経験も明らかに親父より無いような、二十歳前後の若い女性が何のアドバイスを出来るんだろうか?
「それに、お前こそ何してるんだよ? 可愛い女の子二人も従えてさ」
「これは……セコンドと心を一つにする儀式って言うか……」
 俺は親父に、親父が言ったことと全く同じことを答えてしまった。
「だろ? そういうことだよ」
 親父が明るく言う。
 暗に「お前のこと黙っててやるから、俺の事も黙ってろ」ってことか。
 いやいや! 未婚彼女なしの俺と、結婚して子供も高校生のあんたとじゃ重みが違うだろ!
 が、そうは言っても言われたくない、という一点に置いては重みは関係ない。
 俺は黙って親父の元を離れることにした。
「なあ、鷹士」
 去っていく俺の背後から、親父が声をかけてきた。
「なんだよ?」
「いい試合にしようぜ?」
 それは、世界チャンピオンから格下の俺へのエール。
「ああ、俺は負けないからな?」
 だから俺は挑戦者としてそれに答えた。
 言葉はそれだけで、俺は親父と別れた。
「た、鷹士……」
 俺が親父と言葉と心を交わしていい気分になっていたせいか、伊澄とキスしたことをすっかり忘れていて、一度は離れた伊澄の腰に手を寄せて歩いていた。
 当然、伊澄の顔は真っ赤なままだ。
 ヤバい、どうしよう。
 いつも一緒にいるから深く考えてなかったけど、伊澄って実は深層の令嬢なんだよな。
 そんなお嬢様の唇を、伊澄の不注意もあったとはいえ奪ってしまったんだよな。
 何も気にしない伊澄ならよかったんだが、こいつは結構女の子という面に関しては普通なんだよな。
 こんな状態で戦いに行くのはきついだろう。
 どうする? どんな一言をかけておけばいい?
「気にしないで」
 そんな時、伊澄が俺の腕にギュッと抱き着きながら言う。
 顔は赤いままだ。
「私のことに構っている場合じゃないわ。今は試合に集中して。このことは後で話し合いましょう」
 そう言う伊澄の表情には、強い決意が宿っていた。
 伊澄がそう言ってくれるのはありがたい。
 これで俺は試合に集中できる。
 そう、今は試合に集中して、後で話し合う……ん?
 話し合うって何を?
 何で伊澄が強い決意の表情なの?
 何を決意したの?
 あれ? もしかして俺、やらかした?
「伊澄、とりあえずごめん、いや、本当に事故だからさ!」
「それは後回しよ。今は試合に集中して」
「いや本当にさ! 引っ張らないで! 話し合おうって!」
 俺が舞台裏で駄々をこねている最中にも、メインイベント開始の宣言が舞台上では行われていた。
「青コーナー、東洋太平洋チャンピオン、微笑みの貴公子、亜様、鷹士!」
「ほら、行って」
 後ろから思いっきり押されるので、俺はふらふらと舞台上に出ていくことになった。
 そこは、歓声の海だった。
 いや、俺がこれまで歓声の海だと思っていたものは、実は小さな溜池だった。
 一万人の歓声。
 これが、海だ。
 俺は歓声に溺れそうになる感覚に襲われた。
 こんな中では、俺自身の声すら聞こえない。
 足の感覚がない。
 宙に浮いているような気分。
 やばい、俺、マジで緊張してる。
 こんなところを、俺一人で泳いでいくのかよ?
 いや、俺は一人じゃない。
 俺は、俺たちは三人でここまで来た。
 ここで、俺たちは伝説を作るんだ!
「赤コーナー、世界チャンピオン、お祭り男、亜様、鷲矢!」
 より一層大きな歓声。
 そう、俺は挑戦者なのだ。
 親父は、さっきのセコンドを従えて三人で入ってきた。
 場馴れした雰囲気は、圧倒されていた俺が敵う術もない。
「なお、この対決は、親子対決となります」
 アナウンスが流れ、その後数か国語でもアナウンスが流れた。
 更に大きな歓声。
 まさに地面が震えるような歓声だ。
「先攻、赤コーナー、鷲矢!」
「え?」
 親父が先攻を選んだ?
 どういうことだ、まさか俺に勝たせるために?
 いや、親父がそんなに甘い人間のわけがない。
 全力には全力で応じるのが親父だ。
 つまり、この先攻には理由があるってことか。
 親父がセコンドから離れ、線の前に立つ。
 親父の技はどんなものだろう?
 みせちんの大きな欠点として、映像が残らないことがある。
 映像は大半の国では猥褻物となるため、どんな技かは文章でしか残っていない。
「レディー・ルック!」
 扉が開く。
 出てきた女の子は、この巨大な舞台にも驚くことがなかった。
 伊澄によく似た、表情の少なそうな女の子だった。
 親父は、女の子の顔を見ることもなく、素早くレスラーブリッジに移行し、パンツを下ろした。
「…………?」
 女の子は表情を変えず、だが、ちんちんに興味を示したようでそれをじっと見つめていた。
 それが男性器だから興味を示したわけではなく、目の前に見慣れないものがあるから見たのだろう。
 そして、興味を示した瞬間を、親父は見逃さなかった。
「ワッショーイ!」
 親父の腰が揺れた。
「ワッショーイ! ワッショーイ! ワッショーイ!」
 そのまま、連続で腰を揺らし、ハーフアップからフルアップへと向かう親父のちんちんを大きく揺らしていた。
 その様子は、とてもコミカルで、何の知識もなくこれを見せられたら──。
「ふふふっ」
 女の子が、笑った。
 さっきまで表情のなかった女の子が、おかしそうに笑った。
 それは可愛い男の子がはしゃいでいる姿を見て、愛しげに微笑む少女そのものだった。
「そこまで!」
 扉が閉じる。
 これは、ヤバい。
 あの無表情な女の子を笑わせたのはかなりの得点になるだろう。
「得点、十九、十九、十九、五十七点!」
 一万の観客が騒めく。
 これは、先攻としての最高得点だ。
 そして、騒めきは大きな歓声の波に消えていく。
 先攻の親父が最高得点。
 世界基準では俺もこれまで取ったことがない。
 俺が前に取ったのは日本基準だ。
 俺は、あれに勝てるのか?
 今まで通りのやり方で、勝てるのか?
 歓声に飲み込まれる。
 宙に浮いたような気分になる。
 これは、勝てない。
 俺には技なんてない。
 俺と似たちんちんで、あんな技を出されては勝てない。
 負けた。
 これには勝てない。
 俺はもう、負けを覚悟した。
「鷹士」
 歓声に飲み込まれないように、俺の耳元で、伊澄が言う。
 何だよ、何言われてももう勝てないぞ、これは。
「負けたら、さっきのキスの責任を取ってもらうわ」
 伊澄は俺の耳元で、そんなとんでもないことを言いやがった!
「なんだよ責任って、あれは事故だろ? お前もそう言っただろ!」
 だが、俺が大声で叫んでも、その声は歓声に飲み込まれていった。
 ていうかさ、お前は一体何でこんな時にそんなこと言うんだよ?
 責任を取ると言われても、何をさせるつもりだ?
 たかがキスだろ?
 いや、もちろん女の子にとってファーストキスが重要ってのは分かる。
 しかもあの伊澄だ。
 爺さんも親父さんも日本有数の人物であり、日本有数の資産を保有する棚華家の娘だ。
 その娘のファーストキスを奪ったんだよ、俺は。
「レディー・ルック!」
 え?
 俺が考え事をしている間に、扉が開く。
 とにかく、伊澄の責任問題はこれに勝てばいいんだ。
 どうする?
 目の前の女の子はいきなりの俺の登場に驚いている。
 いつも通りでいいか?
 いや、それでは勝てない。
 だが、あれに勝つにはどうすればいい?
 ああああっ! 分かんねえ!
 とりえず親父のマネをして、レスラーブリッジをしよう。
「それっ!」

 ゴン

 ってえぇぇぇぇっ!
 初めてレスラーブリッジをやった俺は、普通に脳天を床にぶつけた。
 俺はそのまま頭を押さえのたうち回った。
 これは慣れてない人間がいきなり固い床でやるもんじゃねえ!
 俺、何やってんだ。
 女の子の前で、下半身裸で、頭押さえてのたうち回ってるなんて。
「ぷっ」
 女の子が吹き出した。
 そりゃそうだ、目の前で下半身裸の男がいきなり頭打ってのたうち回ってるんだから。
「ははははっ! あはははっ!」
 本当に心からおかしそうに笑っている。
 俺は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
「そこまで!」
 扉が閉じる。
「お疲れ様、鷹士」
 伊澄の声に振り替えると、こいつ思いっきり笑いをこらえてやがる!
 俺も伊澄とは十数年の長い付き合いだが、こいつが笑いをこらえている表情を初めて見た。
 そして、その隣では結愛も笑いをこらえていた。
 ここまで可愛い美少女が、二人そろって笑いをこらえている表情を見られるのは、これからの長い人生でもなかなかないだろう。
 よし、お前らは後で説教な。
「得点!」
 レフリーの声とともに、審査員が点数を上げる。
「得点、十八、二十、二十、五十八点!」
 え?
 あれ? 親父って何点だっけ?
 えーっと、あれ、頭が全然回らない。
「勝者、新チャンピオン、青コーナー、亜様鷹士!」
 歓声が俺を飲み込む。
 まだ、俺はどうして自分の名前が呼ばれたのか、よく分かっていない。
 伊澄に抱き着かれる。
 結愛にも抱き着かれる。
 結愛の顔が寄って来ていると思ったら、唇を塞がれた。
 あれ? 何やってんだこいつ?
 歓声で何も聞こえない。
 俺のサードキスを奪った結愛をどかすように伊澄がぶつかって来て、俺のフォースキスを奪う。
 その後はもう、キスの取り合いだった。
 何が起こってるんだ?
 ああ、そうか、俺、勝ったんだ。
 親父に、世界チャンピオンに、勝ったんだ。
 そうか……。
 そうか!
「っしゃぁぁぁぁぁぁっ!」
 俺は叫んだ。
 自分でもその叫びが聞こえないくらいの歓声。
 俺は伊澄と結愛を両肩に抱いて、二人にキスしてやった。
 俺は勝った。
 世界チャンピオンだし、億単位の金を手に入れた。
 可愛い女の子たちに囲まれている。
 人生の勝利者と言ってもいい。
 このまま次の瞬間死んでも、もう仕方がないと思うくらい、一生分の運を使い果たした。
 親父は握手を求めてきた。
 俺はそれに応じる。
 親父が何か言ってるが聞こえない。
 だがその表情で分かる。
「これからはお前が頑張れ」って言いたいんだろう。
 大久保さんがどこからともなく表れたので、蹴り倒した。
 表彰の間も伊澄と結愛は離れなかったが、俺はそれを邪魔くさいとは感じなかった。
 俺は今ならこの世の全てを肯定できる気分だった。
 俺は、世界チャンピオンになったんだ。
+注意+
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