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ちんこ短し恋せよ乙女 作者:真木あーと
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第十二話

 気がつくと、控え室でベルトを腹に置いて寝ていた。
 自分のパンツとズボン穿いてるから着替えたとは思うんだが、自分でやったのかどうかも分からない。
 あと、なんだか右脇に結愛がいるんだけど、俺が抱き寄せたのか結愛から来たのかどっちだろう。
 結愛が俺に少なくとも好意を持ってくれているのは、マネージャやってくれてる時点で分かってるけど、あの日以来そんな話してないしな。
 結愛と伊澄で俺に関する協定でもあるんだろうかと思うが、そういう話はしなくなった。
 だが、それ以降、二人は喧嘩しないどころか親友になっているし、俺としてはそうしてくれる方がありがたい。
 で、その結果として、結愛が俺に気があったのかどうかはっきり分からないままなわけだが。
 気がないのに俺から抱き着いて困らせてたら申し訳ない。
 だけどすげえ幸せそうな顔で寝てるから、多分困ってはなかったんだろうな。
 で、だ。
 それはいいんだ。
 結愛だからどっちにしても俺にはご褒美だし、怒ってても後で謝れば許してくれるだろうし。
 問題は左脇だ。
 そこには大久保さんがいた。
 すっげえ幸せそうな顔で、おっさんが寝ていた。
 偉い人だけど、もう殴ってもいいよね、いや、さっき蹴ったけど。
 ただ、俺が連れ込んだというぎりぎりの可能性もあるので、今はやめよう。
 俺は二人を起こさないように起きる。
 幸せそうな大久保さんにイラッと来たので、結愛の隣に並べて置いた。
 これ、写真に撮っておいたらこのおっさん、女子高生と寝てたってことで人生終わりに出来るかもしれないな。
 そんなことを考えていると、電子シャッター音が響く。
「伊澄?」
 いつの間にか、というか多分ずっといたんだろうけど、伊澄が、スマホを構えていた。
「これは将来の交渉材料になるわ」
 表情を変えないままそんな事を言う伊澄。
 こいつの頼もしさは凄いな。
 こいつの親父さんも爺さんも、生き馬の目を抜く業界で生きてる人たちだからな。
 同じ血が流れてるこいつは、お嬢様って以上に心がタフだろうな。
 結愛が俺を売って大久保さんと交渉したけど、こいつは脅して交渉か。
 俺の周りの女の子は、物凄く可愛いけど、それ以上に恐ろしいな。
 絶対に敵に回しちゃ駄目だ。
 俺は溜息を吐きながら違うソファに座った。
 心地いい程度にだるい。
 冷たい水を一杯飲みたい気分だ。
「ちょっと歩かない?」
 俺が冷蔵庫を漁ろうとしていると、伊澄が言う。
「ああ、いいな」
 俺はとりあえず、冷蔵庫からスポーツドリンクと、グレープスカッシュを取り出して、グレープを伊澄に渡す。
 伊澄は黙ってそれを受け取る。
 昔からの伊澄の好みだ。
 とりあえず、人が寝ている部屋はどこかしら気を使うので、外に出たいところだ。
 俺は、伊澄に続き、控室を出た。
 会場は、メインイベントを終え、数時間経っているため、観客は既に帰り、片付けもかなり済んでいる様子だ。
 このイベントのメインが俺だったなんていまだに信じられない。
「そう言えばさ、俺って自分で服着たのか?」
「私が着せたわ。全裸で寝たから」
 全裸で寝てたのかよ、俺、何してんだ。
 ていうか、全裸から服を着せたって事は、当たり前だが全部見られてるって事か。
 まあ、伊澄ならしょうがないって言うか、今更だしいいや。
「大久保さんが、『このままでは風邪を引いてしまう、私が着せよう』って言ったから、私が着せたのよ」
「あーうん、ありがとう」
 大久保さんが服着せると思うと、何をするか分からないからな、あのおっさん。
「そのせいで両脇を二人に奪われたけど」
「そこは取り返して欲しかったなあ、大久保さん側」
 俺はくい、とドリンクを口にする。
 少し甘く、冷たいスポーツドリンクは、俺の疲れた身体に沁み渡って行くようだった。
 少し向こうで、「チャンピオン決定戦」の看板を三人がかりで運んでいるスタッフがいる。
 そう言えば俺、日本チャンピオンになったんだよな。
 たった二回の試合で日本チャンピオンか。
 なんだか実感が湧かないなあ。
「日本、チャンピオンかあ……」
「そうね。鷹士はあっさりここまで来れたわ」
「だからかもしれないけどさ、何の実感もないんだよなあ」
 俺は心に思っていたことを口にする。
「そうね、それは仕方がないわ。だから、今日鷹士が何をしたのか教えてあげるわ」
 そう言うと、伊澄はスマホをいじり出す。
 触っているのは、電卓のようだ。
「……ここからプロモータ料金と保険料を引いて……今日の鷹士のファイトマネーはおよそ九十万円よ」
「きゅうじゅ……って、マジか?」
「本当よ。前回もあったけど、九万くらいだったから、十倍ね」
「……なんて、世界だ……!」
 俺、女の子に股間見せているだけで約百万稼いでしまった。
 確かに、一般サラリーマンの年収からすれば少ない額だが、これを例えば月一でやったらどれだけになる?
 そう考えると、かなりの額じゃないか?
「自分のやったことの意味、分かった?」
「ああ……いや、多分分かってない」
 俺がやったことの凄さは分かったが、実感はしていない。
「お金を稼ぐってことは、本来とても大変な事よ」
「まあ、お前が言うと実感があるな」
 親父も爺さんも実業家として大金を稼いでるからな。
「例えば、私はパンツを売れば一万になるわ」
「ぶっ!」
 いきなり何言いだすんだ、こいつ。
「ま、まさかお前、やってるんじゃないのか?」
「やってないわ。たまたま家庭が裕福だから、やらなくてもいいのよ。でも、もしお金に困ったらそうするかもしれない。その時の相場が、私なら大体一万円くらい」
 その相場はよく分からないし、高い気もするが、確かに、伊澄のパンツなら一万出しても欲しいって奴はいるだろうな。
 いや、何でこんな話してんだ俺ら。
「でも、私が毎日休みなしで使用済みパンツを売ったとしても、年収は三百六十五万円。サラリーマンの年収にもならないわ。これが私の限界よ」
 いや、もっと、あるだろ。
 お前の頭の中の才能は年収三百六十五万円レベルじゃないだろう。
「でも、鷹士は、一回のみせちんで九十万稼いでる。これが才能よ」
 分かったような、分からんような。
「私の身体ではどれだけ頑張っても稼げないレベルのお金を、鷹士は身体一つで稼ぐことが出来るのよ」
「いや、納得しかけたけど、お前の身体と顔があれば他に稼ぎようもあるだろ」
 春を売ったりさ。
「鷹士は私にそういう事をして欲しいの?」
「そういう話じゃないだろ。いや、絶対にさせないしするっていうなら殴ってでも止めるけどさ。それはパンツ売ろうとしても同じだ」
「そう……ありがとう」
 少し嬉しそうに微笑んだ伊澄。
 可愛いなあ、パンツ売ってたら買いたいなあ、くそっ!
「それで、ファイトマネーは本当にもらえるものなのか?」
「そうね、鷹士の場合、どこにも所属していないから、全部もらえるわ。だけど、所得税や住民税もかかる」
 途端に現実的な話だな。
「前回のファイトマネーはリングローブの支払いに建て替えたわ。だから残りは九十万くらいね」
「そうか……そこから、これからの経費として必要な金額を残して、残りから伊澄や結愛のマネジメント報酬を払うとして、その残額が俺の報酬か」
「私は要らないわ。好きでやってることだから。それに、たまたま家庭が裕福だから困ってもいないし」
 まあ、それを言えば俺もなんだがな。
 うちの親父は確か雑誌社か何かで、社長をやっているらしい。
 だから俺の家も金に困ってないし、欲しいものは理由が納得してもらえるなら大抵買ってくれる。
 それなら、生活に困っている結愛にって話になるが、多分あの子はそれを許さないだろう。
 あの子に受け取らせるなら、俺たちが均等に金を受け取らなければならない。
「なあ、結愛のためにも受け取ってもらえないか? 俺たちが報酬をもらわないと、結愛が──」
「このまえ、結愛ちゃんと、報酬はすべて貯金しておくと決めたわ。鷹士名義で。それで、将来誰かがどうしても大金が必要になった時に使おうって決めたのよ」
「俺がいないところでかよ」
 俺が稼いで、俺名義の金なのに。
「鷹士ならきっと納得してくれると思ったから。駄目なら違うやり方を考えるわ」
「いや、駄目じゃないけどさ。俺だって金なんて要らないし。まあ、将来起業でもするなら別だけどさ」
 少なくとも今、そんなことを考えてもいない。
「俺が絡む話なら、俺も交えて話し合えってことだよ」
「それは無理」
「何でだよ!?」
 伊澄は俺をじっと睨む。
「……恨みっこなしの結婚資金なんて、言えるわけがない」
 伊澄の言葉は小さすぎて、スタッフが話しながら通り過ぎていく中ではかき消されていた。
「何だよ、聞こえねえよ、もっと大きい声で言えよ」
「分かったわ。鷹士が女の子の話を盗み聞きたいって事をみんなに言いふらすわ」
「やめろよ! そんなこと言ってないだろ!」
 冗談かとも思うが、伊澄だから油断出来ない。
「……いや、言えないならいいんだけどさ。俺のいないところで俺の話が決められていくのは気に入らないっていうかさ……」
 俺はもういいわけしてたり、そもそも何でいいわけしてんのかとか、分からずに喋っていた。
「分かったわ。言いふらさない。これは私と鷹士の秘密よ」
 なんだか脅し文句にも取れるが、伊澄はこういう話の仕方が好きなだけだ。
「あー、まあ、ありがとうな」
 俺は一応感謝して、頭を撫でてやる。
 伊澄は少しだけ、頬が緩んだ気がした。
 その時、遠くから結愛の悲鳴が聞こえた。
 ああ、そう言えば大久保さんの隣で寝かしてたんだっけ。
 大久保さんの人生の終焉でも見てくるかな。
 俺と伊澄は、控室に戻ることにした。
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