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ちんこ短し恋せよ乙女 作者:真木あーと
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第一節

 ある日、幼馴染の伊澄(いずみ)からいきなりこう言われた。
「鷹士、あなたのちんちんが見たいわ」
 それは晴れた、とても天気のいい日だった。
 いつものように無表情な幼馴染。
 その意図はさっぱり見えないが、とりあえず今の言葉は冗談なんかじゃないのは分かる。
 何故なら、俺の股間を凝視していたからだ。
「いや、お前、何言ってんの?」
 俺がそう言い返すのを、おかしいと思う人間はいないだろう。
 俺とこいつ、伊澄は、確かに高二の男女としては仲はいい方だ。
 幼馴染と言ってもこの年齢になると、性別が違えば自然と疎遠になっていくものだが、俺と伊澄は、まあ、友達、いや親友レベルの付き合いはしている。
 とはいえ、別に恋人でもないし、そういう目であまり見たことはない。
 少なくとも、学校帰りに唐突にそんなことを言いだすような、そんな関係では決してない。
 一緒に風呂に入った覚えはないが、母さんによれば小学校に上がったくらいには入っていたらしい。
 だが、俺は伊澄の裸を見たという覚えはないし、伊澄に裸を見せた覚えもない。
「だから、あなたのちんちん見たいって言ってるのよ」
 俺の幼馴染の棚華(たなか)伊澄は、呆れたように言い返す、なんだこいつ。
「何でだよ? お前おかしいぞ?」
「何で? ちんちんを見たいと思うのに、理由なんか必要?」
「普通は、必要だろ」
 理由が必要じゃないって奴は人類が進化してきた過程で淘汰されたに違いない。
 あれ、こいつって、こんな奴だっけ?
 伊澄は確かに突拍子もない事をいきなり言い出すこともよくあるが、その思考は伊澄の頭の中でつながっているし、伊澄の考えの延長に過ぎない。
 だから、こんなことを言い出すのも何らかの理由があると思うんだが。
「理由なんてない、見たいからよ」
 いきなり否定されれた。
 あまりに清々しい言い分に逆に可愛く思えてしまって困る。
「夢なのよ、小さい頃からの──」
「小さい頃なら、ただの好奇心で済んで、何の罪もなかっただろうな。今更は駄目だ。そんな夢は捨ててしまえ!」
「嫌よ。私は夢を叶えるために生きてきたんだから」
「俺の幼馴染はそんな残念な人生を送っていたのかよ!」
「人生の価値なんて死ぬ瞬間まで分からないものよ。私は笑ったまま死ぬって決めているのよ」
「笑って死にたいなら普段から笑えよ、まったく」
 普段は無表情なくせにな。
 くるり、と一回転して俺を見る伊澄。
 ボブカットに赤カチューシャの伊澄は一般に言うところのお嬢様だ。
 爺さんの名前は棚華定冶(さだじ)
 日本を代表する経営者だ。
 それも、会社を創業してそれを巨大企業にしただけじゃなく、あっさりその会社を売却して、今度は他の傾いた会社に経営者として入り、立て直してきた、敏腕経営者だ。
 その報酬は年間数億と言われている。
 親父さんもその下で経営を学んで、今はまた別の会社を自分で創業して、そこの会長をしている。
 で、伊澄の家は、日本でも有数の、金持ちしか住んでいない地域に居を構えている。
 顔もよく、頭もよく、口調はなんだかお高くとどまっている感じがなくもないが、奇怪な行動や、誰にでも分け隔てなく話をする姿勢が庶民的に見えるらしく、男女ともに人気がある。
 まあ、確かに客観的に見て、伊澄みたいな無表情で上品な言葉遣いの子が、不思議な行動を取っていれば、物凄く可愛い。
 あれだ、上品な血統書付猫がゴミの中から顔を出していると可愛く見えるようなあの感じだ。
 それはでも、あくまで遠くから見るからであって、大抵その当事者か保護者のような立場になる俺からすればたまったもんじゃない。
「いやさ……」
 何て言えばいいだろうか。
 まあ、別にどうしても見たいって言うなら、写真を撮ったりビデオを撮ったりしなければまあ、伊澄なら見せてもいいんだがな。
「お前がどうしてもって言うなら、別にお前相手に恥ずかしくもないから見せても──」
 俺がそう話している瞬間、伊澄の姿が消えた。
 あれ? と俺が思っている隙に、ズボンから重みが。
 伊澄は俺のズボンを下ろそうと、俺の腰にしがみついていた。
 もちろんベルトがあるので下ろせない。
「何やってんだお前!」
「見せてもいいって言ったわ! 早く見せて! さあ! さあ!」
 俺がバランスを崩して尻もちをつくと、伊澄がそのままマウントを取り、ベルトを外そうとしている。
 こいつ、本当にお嬢様か?
「アホかぁぁぁぁぁっ!」
「きゃぁぁっ!」
 俺は軽い伊澄のマウントをものともせず跳ね返す。
「お前、何考えてるんだ! こんな街中で見せられるわけないだろ!」
 さっきすれ違ったおじさんが、いきなり俺の腰に抱き着いた伊澄にぎょっとした顔で通り過ぎていった。
「見せないなら今日からおやつ抜きね」
 無表情だが、どうも結構怒っているようだ。
「お前にその権限がない上に、俺、この歳で親からおやつなんてもらってねえからな?」
「じゃあ、パンツ抜き」
「適当な事を言うな! それはどうやってするんだよ!?」
「簡単よ、パンツ穿かないのよ」
 駄目だ話が通じない。
「でも、さっき見せるって言ったわ」
「いや……まあ、往来じゃなけりゃ」
「では、裏通りに行きましょう」
「いや、帰ってからでいいだろ」
「それじゃ、遅いわ。帰りがいいの」
 何でそこまで急いで見たいもんかね?
 俺の腕を少しすねた感じで引っ張る伊澄は可愛いが、付き合っていたら身が持たない。
「駄目だ、帰ってからだ」
「……分かったわ。では急いで帰りましょう?」
 伊澄は俺の手を握って駆ける。
 しょうがないから俺も後に続く。
 やれやれ、なんか面倒なことになったな。
 こっちも交換条件でこいつの裸見せろとか言ってやろうかな。
 さすがにこいつが浮世離れしているとは言っても、性的な部分の羞恥心は普通にあるから、死ぬほど恥ずかしがるだろうな。
 服の上から見る限りの胸は大きくは見えないんだが、こいつは着やせしているというかさせている奴で、大きいとばれるのが嫌だから、見られたくは──。
 ん?
 見られたく、ない?
 ばれるのが恥ずかしい?
 あ。
 しまった!
 やっべ、やっべやっべ!
 大事なこと忘れてた!
 俺、亜様(あさま)鷹士(たかし)十七歳は包茎です。
 しかもおっきしても被ったままの真性です。
 こいつに見られたらまずいじゃん!
 まあ、こいつに今さら包茎がばれても別にいいんだが、こいつが俺の形状がこうだったとか他の女子に言ったりしたら?
 普通なら言うわけないと思うが、伊澄だからな。
 いや、それどころかこいつ、俺の手術代カンパとか教室で募集するかもしれん!
 こいつならやりかねねぇぇぇぇっ!
「ちょっと待った!」
 俺はその場に立ち止まる。
 手をつないで走っていた、伊澄も強制的に止まる。
「? 何? 早く帰らないと、見れないわ?」
「いや、俺は見せない!」
「! どうして?」
 さっきまで心持ち明るかった伊澄の顔が険しくなる。
「見せたくないからだっ!」
「さっきは見せるって──」
「やっぱりやめた!」
「ずるいわ。ずるい!」
 言うが早いか、伊澄は俺のベルトに手をかけてっ引っ張る。
 それで落ちるわけもないが、その力に伊澄の怒りが込められている。
「いい加減にしろ! いくら仲がいいからって言っても男と女だぞ? 見せられるものと見せられないものがあるだろ!」
 俺が怒鳴ると、伊澄ははっとなって、少し目を潤ませて俺を睨む。
「……見せるって、言ったのに……」
「なんだよ、今日のお前、ちょっと変だぞ?」
「だって、見たい……」
 涙声で、拗ねた様子でそんなことを言う伊澄。
 あー、ちくしょう。
 何にもなければ見せてやってもいいんだがな!
 だが、俺には例えこいつでも、泣かれても見せられない。
 これは男の尊厳だ。
「とにかく、駄目だ。お前には見せない」
「もういいわ」
 伊澄は涙目のまま、俺に背を向ける。
 確かに、さっきのは俺も悪かった。
 一度は見せると言って見せなかったんだからな。
 でもさ、そもそも見せるもんじゃないだろ?
 それを伊澄だからまあ、見せてもいいかなと思ったけど、よく考えたらまずいという事に気付いたってだけだ。
「もう、鷹士の言う事は聞かない」
 それは、絶縁宣言にも聞こえた。
 俺と伊澄の仲が、この歳まで奇跡的に続いていた仲が、こんなことで切れてしまうと思うと寂しい。
 だけど、これは俺が悪いわけじゃない。
 いつかそれに気づいてもらえるまで、俺は待って──。
「こうなったら絶対に見るわ。無理矢理でも! 今日から鷹士に安住の場所はないと思うことね」
 そう言い残すと一人で走って行ってしまった。
 そうだ、こいつはこういう奴だった。
 こいつから離れるってことは多分かなり難しいんだろうな。
 思春期で俺は周りからの視線を嫌がって伊澄から離れようとしたが、あいつは逆にくっついてきたからな。
 ヤンデレとかそういうんじゃなく、なんかこう、必死だったんだよ。
 当時のこいつは友達もいなかったから、俺に見放されると誰とも話が出来なくなったってのもあるだろうが、俺はあの時、こいつを見捨てなかった。
 だから今がある。
 ま、あいつが情緒不安定なのは今に始まったことじゃないし、こんな日もあるだろう。
 走って行った先には俺の家もある。
 家は向かい同士だからな。
 俺は警戒しつつも、家帰って飯食ってだらだらしてから寝た。
 あれだけ大口叩いた伊澄も、この日は襲って来なかった。
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