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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第三章 五大陸魔法学園交流戦 前編
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第五十三話 十二家VS十二家

 本選に残った四つのギルドは、翌日の朝、闘技場へと集められた。既に多くの生徒たちが観覧席に押し寄せており、賑わいを見せている。何しろ今回は『上位者ランカーズ』が率いるギルドが二つも出てくるのだ。注目せずにはいられないだろう。可能性としては、『上位者ランカーズ』二人の激突もありうる。そんなありうるかもしれない激レアマッチに生徒全員がこの本選に注目していた。

 そして、エリカは四つのギルドがすべて闘技場に揃ったのを見ると頷いた。


「どうやら揃ったみたいね。それじゃあ、これから本選を始めるわよ。試合形式だけど、今回は予選の時とは違って各ギルド代表者を一名選出しての一対一のバトルで、勝利条件は相手を降伏させるか相手のクリスタルを破壊するか。組み合わせは発表した通りで、まずはAブロックの試合からはじめるわよ」


 Aブロックといえばソウジたち『イヌネコ団』と『スコーピオ』の対戦だ。

 今回は一対一ということで闘技場の方で行う為に準備が手早くて済む。

 試合をするギルド以外は全員がその場を後にし、観覧席にまわる。

 ソウジたちイヌネコ団はというと、代表者一名を選出して対戦フィールドへと送り出すところだった。


「では、いってきます」


 昨日もらったばかりの真紅のマフラーを風になびかせながら――――フェリスが、戦いの舞台へと一歩踏み出そうとしていた。


「あんなチャラ男、サクッと倒しちゃいなさい、フェリス!」


「……がんばって」


「フェリスさん、がんばってください」


 クラリッサ、チェルシー、ルナの三人はフェリスにエールを送り、ソウジたちも同じように応援する。最初、ソウジは自分が出ようかと思っていた。だがそれはフェリス自身に止められた。


 ――――朝、今回の本選について話し合っていたとき。


「ソウジくんは、二回戦に備えて体力を温存しておいてください」


「いや、でも俺には回復能力があるし、傷ついてもすぐに治るぞ? だから別にフェリスが出る必要は――――」


「だめです。いくら回復能力があるからって無茶は禁物ですよ。それに……回復できるからってわたしたちの代わりに傷つこうとするのは、やめてください」


 図星を突かれて思わず黙り込む。相手は『上位者ランカーズ』。戦いも生半可なものではないだろう。それこそ、どんなダメージを負うかは分からない。だからこそ多少の傷を負っても回復できる自分が出ようと思っていた。だけどそれはフェリスたちにはお見通しだったようだ。

 クラリッサは申し訳なさそうにため息をつきつつ、


「……まあ、正直言ってこの中で『上位者ランカーズ』に対抗出来そうなのが正直なところフェリスとソウジぐらいしかいないのよね。ごめん。結局、ソウジ頼みになっちゃって。自分が情けないわ……」


 しょんぼりと落ち込むクラリッサ。何だかんだと戦闘面ではいつもソウジに負担をかけて申し訳ないと思っており、また自身の実力の無さに対しても落ち込んでいるのだろう。実際、ソウジがいなければイヌネコ団のここまでの快進撃も無かった。

 とはいえ、ソウジからすればクラリッサもかなり頑張ってくれていると思う。この場合はたまたまソウジが一番実力があったというだけであって、それ以外の部分ではクラリッサはよく頑張ってくれているとソウジは思う。戦闘という分野ではたまたまソウジがこのギルドで一番だったということに過ぎないのだ。

 しょぼんとするクラリッサの頭を、ソウジは優しく撫でる。


「そんなことないよ。俺だって普段はクラリッサやみんなにはお世話になってるし。だから逆に言わせてもらうと、こういう時ぐらいは働かせてほしいぐらいだよ」


 実際に、このギルドのみんながいなければきっと今ほど学園生活が楽しいなんて思えなかっただろう。外の世界に出てきてよかったと思えなかっただろう。だからこそソウジはこのギルドには感謝している。黒魔力である自分を受け入れてくれたみんなには、どれだけ感謝をしてもしきれない。だからこそ、みんなの代わりに勝手に治る傷を負うことぐらいはしたかった。

 だけどフェリスが戦うと決めて、それを譲るつもりが本人にはなさそうなので結果的にフェリスに譲ることになった。彼女の決意を受け止めたからには、しっかりと彼女を応援するつもりだ。


 そういうことがあり今回、一回戦に参加するのはフェリスとなったのだ。


「フェリス、頑張れよ」


「……っ。はいっ!」


 その表情はどこか嬉しそうで、彼女はとても魅力的な笑顔で頷いた。

 

 フェリスはソウジたちに見送られながら対戦相手であるギルド『スコーピオ』のギルドマスター、二年生のデイモン・レファードと向き合った。デイモンは目の前にやってきたフェリスをギロッ睨みつけると、明らかに気怠そうな声を漏らす。


「あ~? なんだ、テメェが相手かよ、フェリス・ソレイユ」


「お久しぶりです、レファード先輩」


 ぺこりと頭を下げるフェリス。

 目の前のデイモンと顔を合わせるのは以前に行われた『十二会議』の時以来だ。

 彼は『十二家』の一つであるレファード家の息子なので、フェリスとも面識があった。


「ハッ。会ったのは十二会議の時以来か。あの黒魔力のガキはどうした」


「今回はソウジくんが出るまでもないと思ったので、わたしがお相手いたしますよ」


 フェリスが言うと、デイモンはニヤリと楽しげな笑みを浮かべる。


「クックックッ……まァ、良い。あの黒魔力のガキを叩き潰せなかったのは残念だが、ソレイユ家の連中とは前から一戦交えてみたかったしな」

 

 正直なところ、フェリスはこのデイモン・レファードという人間が苦手だ。何しろ彼は基本的に壊すことしか考えていない。誰かを叩き潰すことしか考えていない。今回、フェリスがこの場に立ったのは一回戦の相手が彼だと知って、彼とソウジを戦わせたくなかったというのもある。もちろん、ソウジの実力は信頼しているが出来ればソウジには、デイモンのような相手と戦って傷ついてほしくなかった。そもそも回復能力があるからといって自分が『上位者ランカーズ』と戦って傷つけばいいと考えていたのだ。

 自らみんなの代わりに傷つこうとする彼を、デイモンのような人間と戦わせたくない。


「てめぇをぶっ潰したら、次はあの黒魔力のガキを暇つぶしにぶっ殺してやるよ」


 その言葉に、フェリスは自分の中で目の前の人物に対する怒りが溜まっていくのを感じた。暇つぶしなんていうくだらない理由で彼に手を出すのは絶対に許さない。この学園のルールにのっとった、ただの決闘ならばまだいい。コンラッドのように自分の実力を試してみたいというのならまだ分かる。だが目の前のデイモンという男はただ何かを壊したいだけだ。

 もうソウジに対してそんな理不尽な暴力を振るわせたくなかった。


「それは無理ですね。そもそもあなたはわたしに負けるので、そんなくだらないことはできないと思いますが」


「言うじゃねェか。世間知らずのソレイユ家のお嬢様に、先輩様が現実を教えてやるよ」


「ではご教授していただきましょうか。あなたのいう現実とやらを」


 互いに相手を睨みあい、戦いのゴングが鳴り響くのを待っていると――――




「ちょっ、フェリスたん!? フェリスたんが一人で戦うの!? ああ、フェリスたんが負けるわけないけど、もしものことがあったらお姉ちゃん心配! ちょっと待ってて今すぐそいつをぶっ殺すから今夜はわたしのベッドでにゃんにゃんしま、ぐへっ」




 雰囲気をぶち壊すエリカの腹部にコーデリアが拳を叩き込んで無理やり止めていた。


「それでは試合、はじめてください」


 エリカを鎮圧したコーデリアがにっこりとした笑顔で試合の開始を宣言した。

 それと同時に、デイモンが膨大な魔力を放出させながら迫りくるのが見えた。フェリスもそれに対応するべく魔力を展開させる。


「『スコーピオ・スパーダ』ァ!」


「『ヴァルゴ・レーヴァテイン』!」


 飛び掛かってきたデイモンが雷属性の魔力と共に紫色の剣を眷現させる。対するフェリスは真紅の焔と共に同じく剣を眷現させた。刃と刃が激突し、焔と雷の二つの魔力がせめぎ合う。

 フェリスは剣を振り上げて無理やりデイモンを弾くと返す刀で焔を剣に纏わせ、振るう。


「「『紅爆焔レッドバースト』!」


 フェリスから放たれた焔の一撃が、爆炎となってデイモンを襲う。だが当のデイモン本人はギリギリで爆焔から身をかわすと、空中で身を捻りながらアクロバティックな動きでフェリスとの距離を詰めていく。そして剣の刃を容赦なくフェリスに振り下ろした。


「『紫浸毒パープルポイズン』!」


 一瞬、剣で受け止めようとしたフェリスだったが直感でその場から一気に飛びのいた。先ほどまでフェリスがいたその場所を剣が切り裂き、剣の刃が地面に突き刺さる。途端に、剣によって切り裂かれた場所が謎の魔法の力に浸食された後、溶けた。紫色の煙をたてながら地面が溶解していくのが見える。


(ッ。溶解液……いや、毒? これがレファード先輩の持つ『さそり座』の星眷の力……!)


 デイモンが持つのは皇道十二星眷の内の一つ、『さそり座』の星眷『スコーピオ・スパーダ』。

 その能力はその星眷だけが持つ特殊な『毒』。

 しかし、これはただの『毒』ではなく、様々なものを浸食する『毒』でもある。

 いくらフェリスの持つ『ヴァルゴ・レーヴァテイン』でもまともに受けるのは得策ではない。ここは一度、距離をとるしかないとフェリスはデイモンから離れるが、敵がそれを許すわけがない。

 獲物を見つけた猛獣の如く飛び掛かってきたデイモンは、再びその毒の剣を振るった。今度も同じく『紫侵毒パープルポイズン』か、と思った矢先、剣から斬撃のようなものが放たれた。


「ッ!?」


 横凪の一閃。かわせない。

 ならばとフェリスは咄嗟に強化魔法で自身の体を強化して跳躍する。そのすぐ下をデイモンが放った斬撃が着弾し、その部分の地面をグズグズに溶解させていた。またもや紫色の煙と共に地面を溶かしてゆく。どうやらあの毒は斬撃としても放てるらしい。まともに受け止めれば物体を溶かす毒が浸食し、かといって距離をとっても毒を斬撃にして放ってくる。

 つまり相手には避ける、という選択肢しか残っていない。

 だが避けてばかりでは勝てない。


「『紅爆焔レッドバースト連鎖チェイン』!」


 ズンッと真紅の剣を地面に突きたてて爆発を起こす。その爆発は連なるようにしてデイモンに向かっていく。だがデイモンは今度は避けもせずに剣からまた斬撃を放つ。爆発に斬撃が激突した瞬間、フェリスの放った連鎖爆発は魔力が腐ったような色に変色したかと思うとすぐに霧散した。


「ッ! まさか、魔法まで……!?」


「そういうこった。オレの毒は魔法をも浸食する」


 ということは、防御手段が更に限定された。それこそ本当に避けるしかない。

 魔法をも毒で浸食してしまうとなると対抗手段が限られてくる。

 

(けど、まだ手が無いわけじゃない)


 フェリスの中に浮かんだ対抗手段。それはただの力押しなのだが、今は彼女にはこれしか残されていない。だがデイモンの表情がやけに二ヤついてるのが気になった。そんなにも面白いことがあるのだろうか。確かに今、彼は優勢だ。しかし、まだフェリスもそこまで負けているわけではない。少なくとも、彼が余裕の笑みを浮かべられるほど負けているわけでは――――


「……ッ。ぐっ!?」


 その時だった。

 がくん、とフェリスは口元を抑えて膝をついた。強烈な眩暈と吐き気。頭がくらくらしてまともに自立することも難しい。視界がおぼつかず、体が安定しない。これは、


(毒……!? でも、どうして……相手の攻撃は一度も当たってないはず……!)


 フェリスはデイモンの攻撃にかすりもしていない。だから毒が入り込むような隙間なんて無かったはずだ。


「ヒャヒャヒャヒャヒャッ! ようやく効いてきたか!」


 対するデイモンは悪魔のような笑みを浮かべ、跪くフェリスを見下していた。

 彼が何かをしたのは間違いない。だが、何を?

 毒によって思考すらままならないフェリスの視界に、うっすらと紫色の霧のようなものが視えた。これでピンときた。


「これは、まさか……毒霧……?」


「正解だァ、お嬢様」


 デイモンが分かりやすいように視覚化したのか彼の持つ剣から何か、霧状の毒が放出されている。そういえば、デイモンが毒で浸食し、溶かした地面からも煙がふきだしていたのをフェリスは思い出した。


「オレの星眷は毒を操る。こうやって霧にしてばらまくことも出来るってわけだ。まァ、てめぇは毒のまわりが遅い方だからそこは誇っていいんじゃないか?」


「そんな……ことで……誇りたくは、ないですね……」


 これはまずいと思っていると、不意に目の前にデイモンがいた。彼はフェリスを見下ろすと、ニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべていた。


「ほォ、近くでみたらますます良い女じゃねェか。身体も良いしよォ。なァ、オレのモノにでもなる気はないか? 楽しませてやるぜ?」


「そんなの……お断り、します……!」


 決死の思いでキッとデイモンを睨みつける。だがデイモンはそんなフェリスの態度にますます気に入ったのか高笑いをあげている。


「ヒャヒャヒャヒャヒャッ! ますます気に入ったぜ! こりゃ是が非でも欲しくなってきやがった!」


 そのままデイモンはフェリスの胸ぐらをつかんで無理やり引き寄せた。

 フェリスは毒のせいかなすがままにされており、ただただデイモンを睨みつけていた。


「良いねェ、その表情。オレの好みだ。犯しがいがある。試合が終わったらたっぷり相手してやるから、楽しみにしとけよ?」


 舌なめずりをする彼にフェリスは、


「……ところで先輩、助言をしてさしあげましょう」


「あァ?」


「――――勝ってもいないのに油断していると、足元をすくわれますよ?」


「てめェ、何を言って……」


 轟ッ!! と、その瞬間フェリスの体が燃え上がり、彼女の体は紅蓮の焔に包まれた。

 デイモンはすぐに手を話したものの、放たれた拒絶の焔が彼の身を焼き尽くす。


「ぐあっ!?」


 焼け焦げた手をすぐに魔力で抑え込み、ギロッとフェリスを睨みつける。彼女の体は、彼女自身から放たれた焔の魔力によって包まれ、燃え上がり、渦巻いていた。彼女の身に秘められた膨大な魔力が、一気に解放されてゆく。彼女の身を包んでいた制服が真紅のドレスへと変化し、そして右手にはその形状を変化させた紅蓮の剣が握られている。

 これこそがフェリスの『最輝星オーバードライブ』。


「『ヴァルゴ・レーヴァテイン・スピカ』」


 その名を口にした瞬間、彼女の身を包んでいた焔は一気にはじけ飛び、焔の中から二本の脚でしっかりと大地に立つ彼女の姿が現れた。その姿からは毒に侵されていることなど一切感じられない。


「なっ……! 『最輝星オーバードライブ』だと!? いや、それよりも……オレの毒は……!?」


「体内の毒ならさきほど焼き尽くしました。とはいっても、毒を焼き尽くすのに少し時間がかかったので、そこは誇っていいんじゃないでしょうか?」


 艶やかに笑うフェリスに、デイモンは殺意を抱いたかのような表情を浮かべている。

 だがそんな彼に対してフェリスは凛とした表情を浮かべ、その剣を構える。


「もう一つ言っておきましょうか? 女の子に対して乱暴な態度をとるのは止めておいた方がいいと思いますが。レファード先輩の行動や発言は色々と問題があるので」


「チッ……! ぶっ潰す!」


 すぐさま毒の斬撃を放つデイモン。だがフェリスは避けることなく、剣で毒の斬撃を叩き潰した。毒はフェリスの剣を浸食する前に焼き尽くされ、跡形もない。また、毒霧も同じようにフェリスが周囲に放っている焔で悉く焼き尽くされている。もはやデイモンの毒は、完ぺきに封じられたも当然だ。


「それと、さきほどのあなたのものになるかどうかというお誘いの件ですが、改めてお断りさせていただきます」


 淡々と剣を構えるフェリス。それと対象にデイモンは怒り狂ったかのようにして剣を構えて突撃してきた。その速度は十分に速い。並みの生徒相手ならば毒の力を使うまでもなくたたき伏せられるほどに。ただ、『最輝星オーバードライブ』を使っているフェリスにとっては、頭の中にいる強さの象徴である姉や、追いかけている背中であるソウジと比べると……遅い。


「――――わたしには、好きな人がいますから。あなたのモノなんかになるつもりはありません」


 それだけを告げると、フェリスは焔の剣による一閃で、デイモンの星眷の刃ごとクリスタルを破壊した。




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