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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

軽く読める短編集

悪役令嬢本格派 その2

作者:猫弾正
壮麗な宮殿は、陰気な沈黙に支配されていた。
先日の騒乱にて、死した王太子の葬儀が厳粛に営まれている。

バルクホルンが乱。
辺境において巨大な勢力を持つバルクホルン公爵家が長女アレクサが、王家によって捕縛の兵を向けられるも、剣を持って切り抜け、その際に王太子を初めとした少なからぬ王国貴顕の子息が犠牲となったのだ。
近年、辺境において異民族を幾度となく打ち破り、その勢力伸長著しきバルクホルンが叛乱となるのか。
辺境に逃げ込んだアレクサをバルクホルン家は如何に処すのか。

今、有力諸侯たちは、固唾を持って成り行きを見守っていた。
アレクサの手勢によって王都の3分の1が焼かれ、また、同じ東部出身の騎士や貴族たちは郎党を率いて、急ぎ東国へと還っていた。
アレクサを討つにせよ、同調するにせよ、遠く離れた都にいては話にならぬ。
少なくない貴族たちが先日の乱によって死に、また、自領に籠って王家の出方を窺っていた。

貴族たちが囁きを交わす宮殿の片隅。白亜の柱の陰で一人すすり泣く少女がいた。
そしてその傍ら、若き青年が涙を零す少女を慰めている。
「泣くな」

「くすん。だって……だって、みんなが!」

 青年が少女を力強く抱きしめた。
「きゃ!」
小さく悲鳴を上げた少女の耳元で青年が囁いた。
「お前が泣くと、俺が哀しくなる」

頬を赤面させる少女の涙を、青年が指で掬い上げた。
「どうやったら、その涙を止められる?」
「これ以上、人が死ぬのはやだよ」
「……ならば、お前の為に平和を創ってやろう」
青年が少女から離れた。
「……レオ君?」
少女は戸惑いながら、近隣最強の国家である帝国の王太子レオンハルトを見上げた。

青年は振り返らずに、廊下をまっすぐに歩きだした。
「だが、赦せ。俺は、お前のもっとも忌むやり方でしか、この戦乱を止めることを知らない」
囁いた青年の傍らに、影のように目つきの鋭い少年が付き従う。
「帝都に伝令を出せ。第一軍団に出動を命じろ。
帝国王太子の名において、アレクサ・バルクホルンを討つ」

柱にもたれかかった少女が、頬をにへらと崩して微笑んだ。
「……獅子帝のお嫁さんかぁ、追加ディスクのキャラでだけど。えへへ」
レオンハルトは、後の歴史に獅子帝とうたわれる英雄になる運命の持ち主だと少女は知っている。
彼が任せろと言った以上、もう、なに一つ心配することなんてない筈だった。




それは殺戮と言う概念の具現のようであった。

天空より飛来せし奇怪なる石を火山の灼熱を持って融解させ、更に悠久の時を持って創りだした至高の剣。
地に比肩する物とて無きその星の剣で薙ぎ払うたび、屈強の騎士どもが五人、十人と命をまき散らしていく。

精強で知られしアンガルム候が帝国鉄血騎士団が、まるで人に踏まれる蟻の如く逃げ惑っていた。
アレクサには、それが愉快でならぬ。
荒野を切り裂く暗黒の矢のように威容を誇った討伐軍の前衛を喰い散らかし、忽ちのうちに大将が目前へと到達した。

「化け物め!呪われた親殺しが!」
白髪の入り混じった壮年の武人が、血塗れのアレクサを見て叫んでいた。
だが、その顔も声も恐怖に引き攣っていた。

槍をしごきながら、候はアレクサに打ちかかり、二、三合を交え、しかし、既に老いていた。
人中の龍には勝てぬ。それを悟ったのは、アンガルム候の方であった。


「ほれ。ご老人、息が切れ始めたぞ」
漆黒の鎧に身を固めたアレクサが、邪悪な哄笑を響かせた。
忽ちのうちに老人の鎧は切り裂かれ、吹き出した血に朱に染まっていった。

アンガルム候。帝国で最強の武人。
列国に並ぶ者なき剛勇を謡われ、帝国の盾とうたわれし武将がまるで赤子扱いであった。

いや、龍と虫けらほども力が違う。これは人の力ではない。

なんという!なんという力だ!このような魔人がこの世にいてよいものか!

アレクサは強い。途方もなく強い。得物だけではない。
生まれつき身に備わった剛力は、鋼鉄を素手にて薄絹の如く容易く引き裂いた。


天性に加えて、生きてきた時間が違う。密度が違う。人生此れ鍛錬であった。
幼少にて騎馬を持って草原を掛けた日々は、体幹を良く鍛えて天性のバランス感覚を与え、
野山を駆け抜けた日々は、強靭な足腰を与えた。
前世の記憶を受け継いだ100年の戦闘と研鑽の記憶が、全身30兆の細胞をひとつ残らず賦活させ、
最効率を持って生を滅す殺戮者として機能させる。

勝てる筈もない。
億に一人、兆に一人の天与の才の主が、偏執狂めいた100年の高密度の鍛錬を行ったのだ。
戦乱の世で磨かれた殺戮の技を引き継ぎ、絶えず闘争に身を置き、なおも進化を続けている。

人の世の如何な武人であっても、アレクサと比しては人喰い虎を前にした生まれたての小鹿と同然であった。


それだけではない。意識からして違う。
彼女にとって闘争と殺戮は、生まれた瞬間より呼吸するように自然な行為だ。
その明敏な頭脳で四六時中、戦争の事ばかり考えている。飽くことも忌むこともない。
一瞬の時間を千に万に分割し、その一瞬一瞬を殺戮に費やしながら、意識の空白を生む事が無い。
修羅道に生きる魔人であった。油断は生涯のうちの一瞬にも在り得ない。

その魔人を解き放ったのは、王子だ。

アレクサは世界を憎んでいた。
平和を憎悪し、それを喜ぶ者共を唾棄し、泰平の世を呪詛し、乱世を渇望していた。

呪詛しながらも、受け入れていた。平和の汚泥の底で腐りながらも、此の侭、生きて死んでいくのだと、
歯噛みし、乱世を渇望しながら、鎖に縛られた龍は懊悩しのたうっていた。

だが、龍は解き放たれた。
解き放ったのは、王子であった。

鎖は、道徳であった。王国の司る法であった。情であった。
領主である父であり、郎党たる家臣であり、治めるべき領民であった。

だが、家族である弟がアレクサを弑そうと試みた。
秩序を司るべき王家の者が恣意を持って法を捻じ曲げようとした瞬間、
アレクサの魂を縛り付けていた道徳と法の見えぬ鎖も、砕け散っていたのだ。

もはや情もない。
父は殺した。妾の首を刎ねようとした娘に、ことも在ろうに命乞いを頼んできたのだ。
惰弱である。娘を殺す気迫で命じて来れば、或いは顧みたやも知れぬのに。
魂に残された最後の愛が軽蔑に変わった瞬間、アレクサを縛る全ての鎖は断ち切られた。
もはや従容として死を受け入れることなど在り得ず、愛した血族を殺した以上、和解の道も閉ざされた。
事ここに至っては、剣によって是非を問うだけであった。
天を握る以外、生きる道が在り得ようか。

老いたか。かつては、覇を競った父は、僅か数十年の泰平に拠って牙が抜けていた。
牙の抜けたオオカミに、もはや生きる価値はない。
王家の使者がやって来たのが役に立った。

父の首を刎ね、その場に居合わせた母と血族を鏖殺し、返す刃で使者を屠り、其の儘、王家の刺客の非を鳴らし、近隣に攻め込んだ。
近隣諸侯はことごとく鎧袖一触。要害で知られし大要塞も、半日で陥落せしめた。

嵐の如き勢いで東部を席巻した。
一族のうちに兵を上げた者がいた。殺した。
家臣に懇願する者がいた。殺した。
疑念を持つ者。躊躇する者。敵に情けをかける者。弱い者。逃げる者。抗う者。向かってくる者。全て殺した。


纏め上げた大軍勢を持って王都に進軍すべし!
天下を獲る!家族を斬り捨ててまで己が道を貫いたのだ!
ならば、せめて世界を我が手に納めてみせよう!
まさにその直前、後背の国境より急を知らせる伝令が駆け込んできた。
帝国に不穏な動きあり!国境に大規模な軍勢が集結しつつある模様。
歯ぎしりしながら、怒り狂ったアレクサは直属の500のみを率いて、国境へと駆けつけた。

血を浴びながら、アレクサは獰猛な笑みを浮かべていた。
六万の軍勢がただの500を前に、豪雨に降られた砂の城が如く溶け崩れていた。

此れが来世か。正しく極楽に違いない。
厭離浄土欣求穢土。
それがアレクサの思想であり在り方であった。生の形であった。
正しく阿修羅の化身。
終わらぬ地獄。永劫の闘争。醒めぬ悪夢が彼の者の望みであった。
生きることは戦うことだ。戦えぬ者は死ねばよい。
殺し、奪い、焼き払い、血の一滴残らず、殲滅せよ。
闘争によってのみ魂は涅槃ニルヴァーナに至るのだ。

アンガルム候を捻り殺し、恐怖に歪んだその首を蹴りで粉微塵に粉砕したアレクサが、
血に狂った灼熱の眼光を持って敗走する軍勢の彼方を見据えた。
その先には千年の栄華を誇る帝都がある筈であった。


※レオンハルト壊愚帝。昏弱帝とも。

帝国最後の皇帝。
王国の要請に応じてアレクサ・バルクホルンに軍勢を差し向け、連戦して連敗。
短期間で正規軍の4割を失った上に帝都を焼かれ、帝国の権威を大きく失墜させる。
全盛期を迎えつつあった帝国は、これによって異民族と列強によって分割され、滅亡した。
後に援軍は王国の要請ですらなく、現地で知り合った女への見栄に軍を動かしたことが知られると、
怒り狂った群衆に八つ裂きにされたと言われている。


書くかどうか迷ったけど、あの後の世界は大体こんな感じ。

これで終わってもよしと言う形やと思う。

其の3 書いたぞ
http://ncode.syosetu.com/n9249du/
あと、皆の期待に応えて、ヴァイオレットちゃん(中身・ 九州産の唐芋)があらすじに登場。

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