防具屋にて
武器屋を出てすぐに防具屋は見つかった。
見つかったというか、なんと言うか防具屋は武器屋と道を挟んだ向かいに合ったのだ。
ちなみに、このことを知っていたエマは迷うことなく真ん前の店に入っていった。
ギルドからきた時に俺も向かいの店の看板を確認したはずだが防具屋だと気づくことは無かった。
これだけははっきり言っておこう。
断じて見落としたわけではない。
看板の文字が読めなかっただけそれだけなのだ。
やはり無知とは損をする。
早く文字を習得しなくては。
そんなことを考えて進んでいたため、俺は道を歩く人にぶつかりそうになったことは前を歩くエマには内緒である。
「さて、まずは今着ている物がどれぐらいになるか見てもらおうか。あ、おおよその値段だけ見てもらうだけだから、別に脱がなくても大丈夫だよ」
とりあえずは、簡易的にどれぐらいで売れるか見てもらうらしい。
その結果により自分の買える装備が変わってくるので、俺は少し埃っぽくなったスーツを軽くたたき少しでも綺麗に見えるようにする。
それにしても、思っていたものとはだいぶ違った防具屋である。
ごちゃごちゃとマネキンに鎧が着せられていて、壁には胸当てのような防具が無数にかかっている。
そんな風に想像していたが、どちらかというと洋服屋だろうか。
エマの着ているような迷彩色柄のパンツや、厚手で丈夫そうな上着、よくみれば綺麗な装飾がしてあるシャツなど防御力とはかけ離れた洒落たものまである。
もちろん、昨日エマが言っていたレザーメイルと思われるものや、鉄や鋼でできた鎧もおいてあるが、そんなものは数点でほとんどが洋服や靴など、普段町ででも使いそうなものが大半である。
「防具屋と聞いたから、鎧なんかがゴチャゴチャとおいてあるのかと思ったが、洋服がメインなんだな」
「防具屋なんてこんなものよ。武器と違って防具はサイズが合わないと、邪魔にしかならないからほとんどがオーダーメイドなの。あそこにおいてある鎧とかは、うちではこんなものが作れますよって意味でいわば飾りなのよ。だから必然的にすぐにお金に出来るものがなくなっちゃうでしょ? そうなってくると防具屋はつぶれちゃうでしょ。だから防具屋ってのは、洋服や靴なんかも売ったりしてるの。それに、防御力がなさそうな洋服でも一応着れば防具っちゃ防具だから、あながち間違いって分けじゃないし」
なるほど、経済的な理由から必然的に防具屋ってのはこういう形になったらしい。
そういえば、武器屋にも草刈鎌や鍬なんかが置いてあったが、あれも経済的理由からおいてあったんじゃないかと思う。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」
色々としゃべっていたら、奥のほうから店の主人と思われる人物があらわれる。
武器屋のオヤジとは違い、眼鏡をかけた細身の男で、男がつけているエプロンには洋服を作るのに使われる、ハサミや定規なんかが入っている。
いかにも、家庭科できますが肉体労働はちょっとって男だったので、このオヤジがあのマネキンに付けてある鋼の鎧を作れるのかと疑問に思ってしまう。
そんな考えもほどほどにし、用件を伝え服の鑑定をしてもらうことにした。
「とりあえず魔物と戦うんで丈夫な服が欲しくて。それと、今着ている服を下取りしてもらいたい。この服の値段も考慮してどんな服を買うか選ぼうと思ってるから、おおよその値段を知りたいんだけど」
「はい、かしこまりました。それでは失礼ですが上着だけ脱いでもらえますか? 生地と生地の状態をみますので」
そう言われた俺は、スーツを脱ぎ主人へと手渡した。
丁寧にスーツを受け取った主人はスーツをさわり、生地の状態を調べはじめた。
「なかなかいい生地を使ってらっしゃいますね。これでしたら、それなりのお値段で買い取らせてもらえますね。一応ズボンの方も確認しますので少し失礼します」
店の主人は、たちひざになり俺のズボンへと触る。
主人の手の感触が足から伝わり、なんともむずがゆい。
むずがゆいだけならばいいのだが、男にたちひざで足を触られるというのは、何か自分のなかで大切な物を捨て去っていくような感覚を覚える。
むずがゆさと消失感に耐えること30秒、主人は立ち上がり鑑定結果を下した。
「そうですね、上下あわせて8シーターぐらいですかね。ズボンの生地もスーツと同じもののようですので。良品として普通より高めに買い取らせてもらいますよ」
「わかったよ、ありがとう。買うものが決まったら持って来るからその時に買い取ってくれ」
「わかりました。それではごゆっくり」
主人は軽く会釈するとカウンターのほうへ歩いていった。
自分のスーツがどれぐらいで売れるかわかった俺は、いよいよ自分の防具選びと気持ちを切換えようとしたのだが、店の主人と話している間にいつの間にかエマが消えてしまっているではないか。
防具選びなどした事の無い俺にとって、エマのアドバイスは貴重である。
彼女の意見を聞きながら買い物をしようと思った俺は、消えてしまったエマを探し始めることとなった。
店はさほど大きくなかったためエマはすぐに見つかり、3列目の棚のジャケットが売っている場所であれこれと選んでいる。
どうやら、俺のためによさそうなのをピックアップしていてくれたらしい。
「どれぐらいになるって?」
「だいたい8シーターだってよ」
エマは近づいてきた俺に気づき、スーツの売値を聞いてきた。
「お、予想以上。それなら余裕ができるね。一応ジャケットはこれとこれのどっちかがいいと思うんだけど、どうかな?」
そういって、俺の前に二つのジャケットを提示する。
両方とも生地は厚手で丈夫そうではある。
色は両方とも同じで紺と深緑を混ぜたような色、二つの違いはポケットの数と位置ぐらいなところか。
どちらを選んでもそれなりに役立ってくれそうだが、俺はポケットの数多い4つのほうを選ぶことにした。
なぜなら少ないよりは多いほうがいいだろうという理論と、1つのポケットは銃の玉を入れておくのに使用してしまうの、いざという時に足りないってことになると困るからである。
「こっちかな、4つポケットがあるほうがいいな、何かと持つものが増えると思うし」
「そう、それじゃこれにしよう。あ、でも一応これも着てみてね」
そういわれて渡されたのは、大量の洋服だった。
もしやと思いエマの顔を見てみると、否定できない笑みを浮かべている。
これは間違いなく、俺を着せ替え人形にするつもりだ。
なんとかそれだけは避けようと言葉巧みに交わそうとしたのだが、財布を出されて目の前でちらつかされてしまっては俺は彼女に従うしかほかは無い。
ジャケットを選らんだ後は、うんざりするほど、いろいろな洋服を渡され着替えに徹することになってしまった。
そうして、ようやく着るものがすべて決まり、着せ替え人形から脱出し防具屋を出るころには、日はだいぶ傾き、夜の始まりをつげているのだった。 |