特訓、特訓
セリアの特訓が開始されてからはや3日。
天候にも恵まれ、雲ひとつ無い青空が続いている。
そんな中、繰り返し行われている基礎練習はすでに万は超えているのではないかと思わせるものだった。
初日は基本の型を一通り教わりそれを反復するというもの。
とにかく丁寧に行うということで、縦切り、横なぎ、突きこの3動作を100回行うのがやっとだった。
そして昨日も同じように反復練習である。
ただ初日との違いは丁寧さの中にも速さが出てきたことだ。
特に突きの動作はほかよりもぬきんでているものがあり、その鋭さはとても剣術2日目のお姫様とは思えないものだった。
そして終わる頃にはすべての動作を1000回は行われていた。
そんなセリアの今現在はというと、あいも変わらず基本動作の反復なのだが、その動作一つ一つが初日とは同一人物のものかと疑うほど洗練されているものになっている。
回数を重ねるごとに鋭さが増し、風の切る音が聞こえるようになってきていた。
まったくうらやましいほどの上達振りである。
俺も見張りのほかにやることは無いので、ジェシーがセリアを教えているのを聞きながら型の練習をしていたのだが、もともと武器の性質が違うこともあるとは思うが踏み込みが甘い、勢いが足りないなど色々とジェシーに怒られている。
基本の身体能力は高くてもセンスや運動神経というものは、はっきり言って俺は並も良いところだ、こういった技術面ではやはりセンスがあるものに一歩及ばずといったところか。
それでも少しの成長で喜びを感じることができるのは、多少なりに大人になったからであり、セリアの動きを見てなんとなく悔しく思うのはまだ男の子だからなのかもしれない。
繰り返し行われた反復練習は今日の特訓の終わりまで続くこととなり、何事も無く終了したのだった。
「今日はこのぐらいにしましょう。それにしてもさすが私の従姉妹だけあるわね。センスだけなら一級品だわ」
「当然じゃ、しかしまだまだ実践使えるまでとはいかんな。ただの型だけなら阿呆でもできるわ」
「それもそうね、それじゃ明日から実践を交えたものに切り替えるわ。本当なら1週間ずっと型だけにしようかと思っていたんだけど予想よりも上達が早いようだから良いでしょう」
「それにしても珍しいな、お主がわらわを褒めるなどと」
「失礼ね、私は努力しているものを笑うほど愚者ではありませんことよ」
セリアとジェシーはなんだかんだで相手を挑発するようなことを言ってはいるが、俺が横から見ていると二人は仲の良い姉妹と言って良いものだと思う。
ジェシーはしっかりとした剣術を教えるため、たまにきつく言う時はあるが俺が見てもこれはと思う型を出した時は満足そうに微笑んで、さりげなくアドバイスとともに遠まわしではあるが褒めている。
(本人が褒められていると感じるかどうかは別として)
セリアのほうはというと、普通型というものは地味でいてきつい特訓のうちにはいるのだがそれを何一つ文句も言わずこなしている。
しかも俺達との特訓が終わった後も一人で特訓していたらしく、マメなど作ったことなど無いだろう手を血マメを作っては次の日の特訓を迎えていた。
自分が言い出したことなのでしっかりやっているのだとは思うが、先生のジェシーの期待にこたえようとしているようにも見えた。
「それじゃ今日はここまで。また明日城の裏口にいますわ」
「いや、あそこはもう無理じゃな。騎士達が動き出したわ」
「あら、意外に遅かったわね。それなら西の水路はまだ大丈夫そうね」
「あぁあそこなら大丈夫じゃろう。あの道を知っているのはお主とわらわぐらいじゃからな」
なにやら怪しげな相談である。
そもそも町の外で練習など王女のすることではないと思ってはいたが、どうやら理由があってのことらしいが、その理由は立場上俺を不利な方向へと誘うものぽい。
確定されるのは怖いがやはり聞いておきたいものではある。
「なんか脱走の話してるみたいだが、やっぱりこれって城には無許可でやってるのか?」
「もちろんですわ」
「あやつらがわらわの外出許可など出すはずが無かろう」
さも当然とばかりに堂々と言い放つ二人。
ジェシーは冒険者である前にセリアの従姉妹だ、もしこのことがばれても軽くとがめられるだけだろうが、俺がばれた時は……悲惨な結果しか思い浮かばないのでこれ以上はやめておこう。
マイナスのイメージを首を振って消し去り気持ちを切り替え、明日の予定を決めておこう。
もうすでに3日間町の外に連れ出しているのだ、今ばれても後でばれてもおそらく刑に変わりないだろうし。
それならば予定通り1週間セリアの特訓に付き合うほうが面白くて良いだろう。
ここまできたなら毒を食らえば皿までもってことだ。
「ふぅ、予想通りといったところだよ。ところで明日から実践特訓っていったがなにやるんだ? まさか本気で斬り合いとかはしないよな?」
「さすがにそこまではしないわよ。ただ剣は使いますわよ? それとアキラにも協力してもらいますわ。あなたもいつまでも型ばっかりだとなまってしまうでしょうし」
いやいやいや俺としては型やったおかげで攻撃がスムーズにできるようになった気がするんだけど……もともと我流なうえ身体能力に任せた戦い方しかしてなかったから技術面磨くのが一番俺にはためになると思うのだが。
「そんなことは……」
「とりあえず明日は剣だけじゃなくて盾も持ってきて頂戴。それでセリアと戦ってもらいますから」
否定する間も与えずジェシーが言葉を口にする。
ちょっとまってください。
私の言葉を聞いてくれないばかりか、私がセリアの相手になれと?
「ちょ、ちょっとまて! 盾持ってくるのは別に良いが何で俺が相手するんだ!? 下手したらセリアに怪我させちまうぞ」
「それは別にいいですわ。危機感の無い特訓なんて意味無いですもの。私が相手をできないのは強固な装備無いからですわ。私の剣術は守りの高い敵を力無い者がいかに倒すかですの。そう考えると私よりもアキラのがぴったりなのですわ」
たしかにそうかもしれないが。
ジェシーの防具といったら薄い鉄でできた胸当てぐらいだ。
とても守りが堅いとはいいがたい。
その点でいえば俺は両手部分はグローブでガードされているし、普通の奴よりも回復能力もあるから打たれ強い、それについこないだ手に入れた盾を加えれば守備という点で申し分なしだ。
だからといっていきなり戦うというのはどうしたものだろうか。
「話はわかるけど、さすがにいきなり戦うのは無茶だろ」
「確かに無茶かもしれないけど、これぐらいじゃないと意味が無いですわ。それにただ斬り合うだけではないですから大丈夫ですわ」
「へ?」
てっきり実践さながらぎりぎりな斬り合いでもさせられるのかと思ったが、さすがにそこまではしないということか、なんだかこの頃最悪のケースばっかり考えすぎてそれが最も確率が高いように思えてしまっている。
「頭と両肩そして両膝にフワリの実をつけてもらいますわ。それでそれを壊せば終了というものにしますわ。目的としては動く敵に対して的確に急所を突けるようになってもらいますわ。それにただの斬り合い特訓なんてやってしまったら経験不足のセリアが怪我をしてしまうだけですしね。さすがに従姉妹とはいえ王女を無理に傷つけるほどの権限はありませんから」
なるほど、実戦といいながらもなんだかんだでゲーム見たいな乗りか。
少しばかり安心したが、でも結局俺がやるのは変わらないんだよな。
「そういうことで良いですわね二人とも」
あまりよろしくは無いが選択肢は内容だしな。
「どっちにしろ、適役が俺しかいないなら仕方ないだろうな」
「わらわは怪我など気にせんから、斬り合いでも良かったのじゃがの」
「それはさすがにだめよ。なんだかんだであなたは王女なんですから。怪我でもしたら大事よ? それにあなたがいくらセンスが良くても身体能力では圧倒的に負けているアキラにかなうはずありませんわ。けどこのルールでしたら、怪我の心配もぐんと減りますし、あなたでも勝てるかもしれないわ」
そういうとジェシーはこちらを見ながらかるくウィンク。
そんな目で見られたらどきどきするじゃ、じゃなくて手を抜けってことか……。
しかしうまいものだ。
明らかに手を抜けということが伝わるようにして敵対心を持たせ、実のなる特訓を指せようとしている。
しかも安全を確保するためのフワラの実のルール。
やっぱりジェシーはセリアの従姉妹だな、言葉や人の操作じゃ俺は勝てそうに無い。
「これで明日の日程は決まりですわね。フワリの実は私が用意しておきますから。セリア今日はゆっくり休みなさい。明日は型より数倍疲れるはずですわ」
「うむ、わらわも疲れた体でこやつに勝てるとは思っておらぬ。今日はしっかり休むとしよう」
む、疲れてなけりゃ負けないってか。
手加減しろとか釘を刺されていると思うが、負けてやるほど俺は甘くないぞ?
セリアの言葉に男の子の顔を少しのぞかせた心を諌めて、平静を装いながら対応する。
「しっかり休んで疲れを取っておけよ。そんじゃ城の近くまで送ってくとするかな」
「そうじゃの、送られるとするかのう」
門番達に気づかれぬよう、軽く変装をしたセリアをジェシーと俺は2人で城の近くまで送るのだった。
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