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夜明けの月
作:BIRUSU



彼女の名はセリエラ


 落ち着いて考えよう。
 女の子の顔を呆然と見つめていた俺は何とか自我を取り戻し考えをはせる。
とりあえずはあの子があの男達に対して不満があったのは間違いなく、俺がやったことは限りなく正義に近い。
つまりは間違いではないのだ。
だからといってこんな子供に俺の考えていた見返りを期待するのは無茶、無理、無謀というもの。
 肩を落とし今までの不埒な考えを一掃し、なぜあのような状況になったのかこの子に聞いてみよう。

「いや、なにもついてないよ。ただなんでこんなことになってるのかなと思って」

「大方金目当てじゃろ。それかわらわの美しさに心奪われたか。どちらにしろ下種な男どもじゃ」

 そういって腕を組み冷ややかな目で倒れている男達を一瞥している。

(あぁ、なんか、うん、あんまりかかわらない方がよさそうな人種っぽいな)

 ちょっとしたイベントを探していた俺だがどうもこれは触れてはいけないイベントと感じ、会話を終わらせすぐに去ることにした。

「とりあえずは無事で何よりかな。こっちの裏通りは人通りが極端に少ないから気をつけなよ。それじゃ僕はこれで退散するよ」

 普段使わない代名詞で良いお兄さんを演じつつ、なるべくかかわらないようにその場から逃げ出す。
普通ならこの子を送るのが紳士の勤めだと思うのだが、第六感が危険と判断してるのでこれ以上かかわりたくない。
だがここまでかかわってしまったらすぐには退散できないだろうなという考えは捨て切れていなかった。

「またれよ。そなた名前は?」

「ん…………アキラ、アキラ=シングウだよ」

「そうか。ではアキラとやらわらわを案内せい」

「へ?」

 名前を教えようかどうか迷ったが別に問題ないと思い教えたのがあだとなったか。
教えずそのまま聞こえない振りをしてそのまま立ち去っていればなんてことなかったのに。
いや、すでに俺の考えの中に退散できないだろうなと思っていた時点で名前を教えていようがいまいが無理というものだっただろう。

「聞けえなかったのか、わらわを案内せいと申したのじゃ。わらわはまだこの町のことを良く知らん。じゃから案内せいと申したのじゃ」

「いや、聞こえなかったわけじゃないけど……なぜ俺が君の案内を?」

「男は黙って女の言うことを聞くもんじゃ。野暮なことを聞く出ない」

 女の子は堂々と言い放ち力強い目でこちらを見ていた。
その姿は女の子の年齢とはかなりかけ離れていたもので威厳に満ちたものだ。

「……わかった。うん、わかった。それじゃどこを案内しましょうかお姫様」

「!?……そ、そうじゃな、まずはあっちのにぎやかな道を案内せい」

「お任せください。迷わないようにお手を」

 いろいろ考えた末、このまま逃げ出してはさすがに男としてどうしたものか。
その結論にたどり着いた俺は毒を食らわば皿までもということで、とりあえず普段以上に紳士的に乗っておくことにしよう。
そう思った俺は以前見たドラマのワンシーンを思い出し実行。
恋人のわがままを聞く男の役だが、あまりにもくさい台詞なので使ったことはなかったが、まぁ紳士遊びにはこれぐらいあっても良いだろう。
 いきなりそんなことを言われた女の子はびっくりしたみたいだが、元がしっかりとした性格みたいなのですぐに平静を取り戻し、差し出した手を握り返してきた。

「そういえばお姫様、お名前を聞いてませんでしたね」

「そういえばそうじゃな、わらわはセリ……セリエラじゃ」

「わかりました、セリエラ姫。それでは参りましょう」

 何の因果かわからんがとりあえず一人でぶらぶらするよりはましか。
 セリエラと手をつなぎながら表通りのほうへと歩いていく。
基本的この通りをメインにいろんな道に分かれているので、ここを通っていればたいていの場所にいくことはできる。

「セリエラ、君はどんなところに行きたいんだい?」

「わらわか? わらわはこの町を見るだけで十分じゃ」

「ん〜〜〜〜それじゃ出店を回ろうか」

 この答えからしておそらくセリエラはどこぞの貴族かなんかだろう。
容姿もそうだが着ている服も顔に負けず劣らずきれいなものだ。
その上あのしゃべり方と存在感、そしてセリエラから出てきたあの言葉。
十中八九間違いない。
 そんなセリエラを楽しませるには、一般市民でにぎわっている出店がベスト。
そう思いこの選択をチョイスしたのだ。
もっとも一般市民でも面白いところではあるので、俺の予想が外れていても問題はないだろう。

「うむ、わかった。それでは案内してたもれ」

 セリエラと手をつなぎながら歩く俺は傍から見たら兄にみえ……ないか、もしそうとられたらセリエラに失礼だしな。
あまりにも顔のつくりが違うし洋服だって粗末なものだ。
おそらく貴族とその護衛が良いところか。
もし誘拐犯に見られてたらどうしようか。
さすがにそんな風に見られたらへこむしかないが、仲良く手をつなぎながら歩いているから大丈夫だとは思う、たぶん。
 客観的に自分達がどのように見えるか考えつつ、セリエラを見てなぜこんなところにいるか考えてみる。
貴族と思われる娘がこんなところに一人でいるってことはおそらく『外の世界が見てみたいの!』とか、『こんな家出て行きますわ!』とかいって家をおんでてきたんだろうな。
普通なら理由を聞いて真っ先に送り届けるのが良いんだろうけど、さすがにそれはかわいそう。
セリエラも自分の事情を話したら、家に連れて行かれると思ってるだろうし
しかし、何も聞かずに案内だけするってのも何かあった時に大変出しな。
 俺はいろいろ考えた末とりあえず案内してから理由を聞くという、彼女にとって有利な条件を提示することにした。

「あぁそうだセリエラ、一つ約束してくれないか? 今日1日できるだけいろんなところ案内するから、案内が終わったあとなんでこんなところに1人でいるのか教えてほしいんだ。もちろん無理にとは言わないけど」

「……考えておく」

 有利な条件と思っていたが、セリエラにとっては時間が必要な問題だったのかすぐには結論をくれなかった。
 考えておく、そう答えたセリエラの表情は一瞬どこか悲しそうだったが、俺の視線に気づくとすぐにもとの表情へと戻っていた。
もしかしたらめちゃくちゃめんどくさいイベントを背負い込んじまったかも、そんな考えを思い浮かべながら、俺はセリエラの悲しい表情に気づかない振りをしてやるだけで精一杯だった。












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