旅の終わり
「こいつはすごいな」
今までいた町とは格が違う。
王都までの道をひたすら歩いてきたのだが、その姿が見えると思わず早足になってしまうほどだ。
中心にそびえ立つ城はその威厳を存分に解き放っていた。
町の外観はもちろん塀で囲われているが、その高さは今まで住んでいた町の2倍以上あると思われる。
また、ただ高く積み上げられただけというわけでなく、その塀は白い塗装がされており王都の神々しさを際立てている。
「とりあえず飯食って、ギルドに行くか。連絡はギルドついてからでいいだろうし」
長旅のためやはり疲れも出ている。
ここは食事でもしてそれを癒すのが先決である。
ギルドよりも食事を優先させたのは、干し肉や乾燥した野菜を水で戻して食べるボルホロに飽きていたこともある。
俺は道の先にある関所で手続きを済ませ、問題なく王都マグワレへと踏み入れることができた。
さすがに王都ともなると審査がいるらしいが、ギルドからもらった傭兵の証ギルド認定書を見せたらすんなりと入ることができた。
おそらくギルバーンの影響もあるのだろう、同じようにギルド認定書をもっている男達が王都へと踏み入れていく。
「あの何人かとは戦うことになるんだろうな」
そんな考えをめぐらせながらも、旅の疲れを癒すため食堂へと向かうのだった。
町についてまず探すのが酒場でなく食堂というのが、日本から来た者の習性というものだろうか。
こちらの世界では朝から酒を飲んでいても、別におかしくもなんともないみたいなのだ。
そのため酒場は昼から夜遅くまでにぎわっている。
朝から飲んでいてもおかしくないといっておきながら、昼からしかやっていないというのもなんだが、朝からやらないのはだいたいの店が、夜遅くまでやっているためである。
その代わり宿屋兼酒場の店では朝の食事のときに酒を出してくれる。
夜明けの月が利用している宿も宿屋兼酒場の店なので、エマやジェシーなどは出かける際に軽くエールを飲んでいるのことがある。
もちろん俺は朝から飲むような考えはないので遠慮しているが、朝からうまそうに飲んでいるのを見るとその考えも揺らいできていたりもする。
それにしても現代社会を生き抜いてきた俺にとっては考えられないことだが、傭兵という自由人がいるこの世界ではごく当たり前のことなのだろう。
なにせ下手すれば仕事に出てそのまま帰らぬ人になってもおかしくない職業だ。
そんな仕事をしているやつらに、酒の飲み方がどうとか言っても仕方ない。
酒について自分なりの答えを見出した頃、周りの空気のにおいが変わった。
その匂いは殺気じみた空気をはらんでいる訳でもなく、何の変哲もない料理をしたときに発生する匂い。
肉が焼かれ、香辛料が効いた匂いだ。
匂いの元を辺りを見回して探ってみると一軒の食堂が見つかった。
なんてことない小さな店だったが、空腹と入り口のところからちらりと見えたウエイトレスの娘が、なんともいえない朗らかな笑顔を浮かべていたので迷わず入ることにした。
店に入ると小さいながらも繁盛しているようで、ほとんどの席が埋まっている。
空いている席がカウンター席ならちょうどいいのだが、俺と同じように一人身の者達がどうやら多いようでカウンター席はすでに埋まっており、テーブル席の方で空いているところに合席するしかないようだ。
案の定先ほど笑顔を見せていた、おそらくここの看板娘だろうウエイトレスがそのことをつげに話しかけてきた。
「すいません、今カウンターの方は埋まってしまっていて。あちらに座っている方が合席しても良いと言っているのですが、お客様がよろしければ合席でかまいませんか?」
年はリットと同じぐらいだろう。
まだ高校も卒業していないような年齢で、ちゃんとお客のことを考えたいい接客だ。
そんな接客をされてしかも自分は空腹、合席なんてもってのほかだなんていえるわけもない。
「あぁかまわないよ。あっちの人のところでいいのかな?」
「はい。あちらの赤い髪の男の人のところです。あちらの方もお一人でしたのですけど、テーブル席しか空いていませんでしたので」
「なるほど、それで合席になる場合もあるかもしれませんがそれでもよろしければあちらでってことね」
そう娘に告げると苦笑を浮かべながらもうなずいた。
「それじゃメニューが決まったらまた呼ぶから、そのときはまたお願いするよ」
そういって挨拶して男のほうへと歩き出した。
赤い髪の男の方はというと、ウエイトレスと俺の様子を見ていたらしく、合席になるのを予想していたようで近くに来たときに声をかけられた。
「どうやらにいさんと合席になるみたいだね。短い間だけどよろしくな」
「あぁ後から来て悪いんだが合席させて貰うよ」
年のころはおそらく俺よりも少し上ぐらいだろうか、でもちょいとふけ顔の俺を見た相手は同年代か自分より少し上と取っているかもしれない。
「にいさんもあの子目当てで来たのかい? それなら失敗だな。俺みたいな奴と食事する羽目になっちまったんだから」
「いや、ここにくるのは初めてだよ。まぁあの子を見たから店に入ろうと決めたのは否定しないけど」
「なら俺と同じだな。俺もここにはくるのは初めてであの子につられたからな」
男はそういって娘の方を指差す。
素朴ながらもいい笑顔を持っている、俺と同じようにつられる奴がいてもおかしくはない。
「ところでにいさんは見たところによると傭兵みたいだけど、やっぱりギルバーン目当てかい?」
そういって男は先に頼んでいたであるろう酒を飲む。
酒場のように酒の種類は置いてないが、エールぐらいはどこの飲食店に行ってもあるもので男も食前酒気分で頼んだのだろう。
「まぁそんなところかな、一応これでも副団長って身でね。だけどそれをいいことに雑用まかされてギルドに出場の登録に向かわされてるところ。それとにいさんはやめてくれ、なんか不良少年みたいでなんかむずがゆく感じるから」
「わかったよにいさん、それじゃなんて呼べばいいんだい?」
本当にわかっているんだろうか。
多分わかっているのだろう、おそらく最後になると思ったからあえてにいさんと呼んだのだろう。
「アキラ、そう呼んでくれ」
「よし、アキラね。覚えたぜ。それじゃ俺の名前も教えとくわ。俺の名前はグレン。ギルバーンでぶち当たるかも知んないけどそれまでは仲良くしとこうや」
「あぁ仕事は仕事で割り切ってるからその点は大丈夫、とりあえず運悪くあたっちまったら手を抜いてくれると助かるんだが……それは無理みたいだな」
「ご明察、さすがに手を抜くといろいろとうるさいんでね」
グレンはまた酒で一息つく。
その姿は酒を楽しんでいるだけの男にも見えるが、戦いの話になった時の目はそれとは別のものだった。
なんだかんだと話しているせいで、いまだメニューすら見ていない俺は酒すらない。
このままでは腹の中の魔物が叫び声をあげそうなので、グレンが一息ついたときにメニューを見始めた。
メニューはいつも食べていた食堂と似たようなものが並んでいる。
どうやら、いつも食べていたものは日本で言うラーメンやハンバーグみたいなポピュラーなものみたいだ。
たまには違うのもとか思ってもみたが、始めてきた店でチャレンジというのは少々戸惑いを感じたので、いつも食べているものと同じようなメニューを頼むことにした。
「ちょっといいかいな」
「はいただいま」
手を上げ娘を呼ぶとすぐにテーブルの方に向かってくる。
忙しいときなのにもかかわらす、笑顔を絶やさない。
実にいい子だな。
「えっととりあえずこれとこれとこれ3人前ずつで全部大盛りで」
「え……全部3人前の大盛りですか?」
「そうそれで頼むよ」
「は、はいわかりました」
注文を聞いた後すぐに厨房の方へと下がっていった。
1人で食うには少し多い量を頼んだので軽く驚かれてしまったか。
確かに量は多いかもしれないし結構な出費になると思うが、久しぶりの暖かい飯なのだ贅沢にたらふく食いたい。
「へ〜〜〜〜結構頼むね」
「旅してきて久しぶりのまともな食事なんですよ」
そういうとグレンは軽く笑みを浮かべ俺の後ろの方を見ながらこう答えた。
「そいつはまたもや俺と同じだな」
グレンが俺の後ろの方を見ていたので気になり振り返ってみると、さっきの娘がグレンが頼んだものを運んできているところだった。
もしかしたらさっきの注文に対してあの娘が驚いたのは量の多さからではないのかもしれない。
いやそうだろうな。
なにせ頼んだ俺すら驚いているんだから。
俺が注文してからまだ数分と立っていない、つまりは今運んでいる料理はグレンが頼んだもので間違いない。
しかし驚くべきは先ほど俺が頼んだものと1つ残らず同じ料理がテーブルへと運ばれてきたのだ。
「グレン……これはあんたが頼んだものだよな?」
「あぁそうさ。アキラが頼んだものと種類、個数、大盛り、まったく同じだがな」
そういって俺の驚き顔を見てほくそえむ。
注文している時、奴が一番驚いていいはずだったのに、それを気づかせないようにしたのは驚いた俺を見たかったためだろうな。
なんとなく負けた気がしたが、後きた俺にとってはどうしようもないだろう。
「同じもん頼んだんだ、後であんたのもらうからさ、熱いうちに一緒に食べないか?」
「それはありがたいな。そうさせてもらうよ」
そのグレンの誘いに俺は乗ることにした。
待っていれば料理は来るだろうが、空腹時に目の前でバクバク飯を食われたんじゃ拷問もいいところだ。
「とりあえず俺たちの縁に乾杯といこうじゃないか」
「昼間から飲むのはやめてるんで水で勘弁してくれよ。それじゃ」
「「乾杯!」」
王都マグワレについてすぐに入った食堂での奇妙な出会いは、この後控えているギルバーンの波乱……いや俺自身の波乱を表していたのかもしれない。
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