夜はいつまでも
ジージージー
虫の声が鳴り響く夜更け、森の一角を照らす焚き火の近くに俺達はいた。
「おい起きろリット、つらいのはわかるがお前が寝ると俺がつらい」
「わかってますよ…………ZZZzzz」
言葉の意に反してまったく持ってわかっていない。
もともと農村出身らいためリット、リオは寝るのが早い。
今回受けた仕事は本来なら彼らは行なうことは無かっただろう。
「たく……うらむぞエマ」
そんなつぶやき声は、周りから聞こえる虫の声によって呑まれていった。
ランクをあげると言い出したのは昨日のこと。
目標が成立し一夜明けると、すぐさまギルドへ向かうこととなった。
ランクを上げるだけなら自分より上位のランクの魔物を狩るのが一番手っ取り早いと思うのだが、それだけでは自力がついていかず大会を勝ち抜くことは出来ないだろう。
そう考えたエマが出した結論は、Cランクの仕事を片っ端から片付けてランクを上げるというものだった。
そんなわけで朝からずっと仕事詰めである。
仕事詰めな俺達はすでに3つの仕事をクリアし現在4つめの仕事を行なっている。
しかしここに女性陣はいなく、いるのは俺とリットのみ。
ハンスに関しては、拾われた鍛冶屋で腕を磨いてこいというエマの指示によりそちらにいっている。
ただ、エマが親方に『むちゃな武器は作らないよう、1週間徹底的にしごいて一人前として育ててください』そういって親方も快く了承していたので苦労していると思われる。
「夜更かしは美容の敵だからといって、何も俺達だけにやらせることは無いだろうに……明日違う仕事をやればいいだけなのに」
日付が変わり、昨日受けた仕事を今日も続けている。
何が悲しくてさんざん地球でやっていた徹夜を、ここに着てまでしなくてはいけないのかと考えてしまう。
「リット起きろ。起きないとリオに伝えとくぞ」
「だ、大丈夫です! 起きてます!」
うつらうつらと首を動かしていたリットが勢いよく目を覚ます。
普段は仲の良い姉弟なのだが、リットを鍛えるという時だけはリオは厳しかったりする。
「後2時間で終わりだから我慢しろ。調査隊が帰ってきた時までここを守ってればいいだけ何だから」
「わかってますよ。ただどうしても夜は苦手で……」
リットがそういうのもわからないわけではない、リットが夜が苦手なように俺も朝は苦手である。
苦手といっても8時頃には起きてはいるのだが、リットやリオのように6時頃に起きることは非常に難しい。
誰にでも苦手な時間というものはあるものだ。
「その気持ちはよくわかるが、今は仕事中だ。寝ていたら怒られちまう。それに奴らの夜食になるつもりは無いだろう?」
そういって自分の後ろを振り返らずに親指で指差す。
そこには1メートル近いワニのような奴らの群れが存在していた。
ワニのようなというかワニといって差し支えないだろう。
名前もアリゲールといってワニの科目のアリゲーターとよく似ている。
「たしかにそんなつもりはありませんね」
眠っていた時に支えとして抱きかかえていた剣の柄を握り、リットは戦闘態勢へと移行していく。
俺も余裕をこいてかみ殺される気はさらさら無いので、武器をチョイスし戦闘体制へと移る。
(おそらく外皮はそれなりに硬いだろうが剣でいけないわけでもないな、けど小回りの聞く武器はリットがつかってるから俺のフォローとかにも入れるだろうな。それならやっぱり実践でこいつを試してみるか)
そう思った俺は背中にしょっていた、スピアと盾を装備し重騎士へと変貌する。
「リット、フォロー頼んだ。俺はこいつを実践で試すからな」
「わかりました。でも、僕が危なくなったらその盾で守ってくださいよ?」
「あぁ、気が向いたらな」
会話が途切れると同時に行動が開始された。
(ぜんぶでひーふーみーよーっと6体か、まぁ足は遅そうだしなんとかなるだろ)
頭の中で数を数え敵の個体を確認し、相手の特性をその姿から想像する。
しかし、今回はその姿から想像した特性はまったく持って見当はずれなものだった。
ワニという動物の足の速さを忘れていたといっていい。
意外なほどのスピードで襲い掛かってきたのだ。
「なっ! く……先手は取られちまったかな」
襲い掛かる牙を何とか盾で防ぐとバックステップで距離を取る。
そして、今度はこちらから襲いかかれるようランスを付けている右手に力を込め繰り出す一撃の準備とする。
一方リットはというと、奴らとは何度か戦ったことがあるのか自分を優位な位置へと進めていく。
どうやら火にある程度の恐怖を感じる種類らしく、その習性を利用し中心に焚き火をすえ、横から迂回し攻撃しようとしてくる奴を確実に沈めている。
(はは、これじゃリットに示しがつかないな)
ここは副団長の尊厳を守るため最低でも半分はしとめないと。
そう感じた俺はすぐさま敵の殲滅を開始する。
ランスの特性をはそれは突き刺すことにある。
その長く鋭利な先端を並んでいるアリゲールへ、全体重と走ることによって生まれた運動エネルギーを足した力を加えうちはなった。
ランスはまるで豆腐でも突き刺すように、勢いよく簡単にアリゲールへと突き刺さっていく。
「こいつはたまげた威力だな。案山子のときも思ったが先端が異様に細いくせに頑丈だしハンスの奴マジで良い仕事しやがったな」
突き刺したアリゲールがぴくぴくと機械的に動いていたが、それもランスから払い落とすと動きが止まり完全なる死が訪れた。
「アキラさん終わりました?」
「あぁ、そっちはどうだ?」
「こっちも終わりましたよ。それにしてもすごい威力ですね。3匹まとめて串刺しですもん」
「やった俺もびっくりしてるよ。それにあんだけ力が加わったのに先端が折れてないしな」
ランスの先端は赤い血で濡れてはいるが、折れた形跡はなくすさまじいまでの破壊力に対抗できる耐久力が備わっていることを示していた。
「ふう、ちょっとしたイベントはあったがまだまだ時間が残ってるんだよな」
「内容が時間制限のものですからね……」
イベント時間は数分、残り時間は約2時間。
このまま待つだけではおそらくまたリットが寝てしまうだろう。
そうなればまた1人さびしく見張りの開始になってしまう。
それはどうしても避けたいところだ。
こんな何も無いところで待つだけというのはつまらなすぎる。
ここは1つ食事でもしておくとしよう。
そう考えた俺は魔物図鑑にも載っていたこいつらの特徴とは別の補足を思い出し、ある提案をしてみる。
「とりあえず、こいつら焼いて食ってみるか?」
「そうですね、こいつらって見た目よりもおいしいって話ですし」
リットもどうやら図鑑の補足の部分を知っているらしい。
肉は淡白で美味と。
俺達の夜はまだ続く。
香ばしい臭いを漂わせる焚き火のもとで。 |