新生夜明けの月
「リット、そっちのソース取ってくれ。」
「………」
「おいリット、ソース取ってくれって。」
「あぁはい、どうぞ。」
「ん、ありがと。」
町に戻り、コドラをギルドから返してもらった俺達はいつも食事をしている食堂に来ていた。
「それにしてもアキラさん、食べすぎじゃないですか?」
「ん?そうか?なんだかいように腹が減ってな。」
「確かにあれだけ動けばおなかは空くとは思いますけど、女王の食事風景見て腹が減ってるだけでここまで食べられますね。」
半ば感心したようにリットが言い放つ。
今俺は、ここの日替わりメニューを3人前、A定食2人前、パコラ(スープスパゲッティみたいなの)4人前、その他おかず各種とすでに10人前近く食していた。
以前はさすがに3人前も食べれば限界だったのだが、こちらの世界に来てから徐々に恐ろしいぐらいに食欲があがっている。
なぜここまで食欲があがったのかは大体予想がつく。
おそらくは、俺の回復能力上昇に伴う副作用だろう。
こちらの世界に来て驚異的な回復能力が身についたが、その回復を促すための材料は食事である。
そのため、常に筋肉痛や擦り傷、切り傷、骨折など怪我の絶えない俺は怪我の治療のため多くの食事が必要になったようだ。
今回も、予想よりも遥かに上回る戦いを強いられたのでいつも以上に食事をしている。
「食える時に食う、ってのは結構大事だからな。ましてや傭兵やってる俺達みたいなのには必須スキルともいえると思うぞ。だからリットお前も食っとけ。」
そういい、ウェイターに追加注文を取る。
今回の報酬の半分近くは飯代に消えそうだな。
その後も食べ続け、12人前に突入しようとした時ちょうど入り口のほうからエマがこちらに向かってくるのが見えた。
「ん、えぐぞんっづんおわっだんらな?」(ん、エマそっちも終わったんだな?)
「ええ、終わったわ。それはいいからちゃんと飲み込んでから話しかけてよ。最初なんていわれたのかわからなかったじゃない。」
「あぁ、悪い。」
水で口の中身を一気に飲み干す。
「そっちは……その子が合格ってことでいいのかしら?」
「あぁ、名前はリット、ランクはさっきDにあげてきた。」
「よろしくお願いします。団長。」
「うん、よろしくね。」
今回、女王と兵隊コロラドの報酬はリットに換金をやらせることによりランクを上げることとなった。
兵隊コロラドはB、女王はAランクだったので俺が換金すればめでたくBとなったのだが、別段そんなに早くランクを上げる必要も無いので、リットのランクを上げることにしたのだ。
「ところでそっちはどうなんだ?もしかして0か?」
「それは見てのお楽しみ。ちょっと待っててね。」
そういってエマは店の外で待たせていた2人を連れてきた。
「合格者はこの2人、リオとジェシーよ。小柄のほうがリオで、金髪のほうがジェシーよ。それとジェシーの相棒のブルーアイの、のんちゃんよ。」
そういって紹介された二人は、なんとも個性的な2人だった。
1人はすごく小柄なのだが、その体に似合わない大剣を背負っているし、もう1人の金髪の子はお嬢様みたいな高貴の生まれみたいなオーラを発している感じがする。
そして、その子の腕に抱かれているのは地球で言うシャム猫。
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いしますわ。」
「あぁ、よろしくな。そっちも色々あって疲れただろう。とりあえずエマ達も食事を取って一段落してから改めて自己紹介ってことにしないか?」
「そうね。そうするわ。」
俺に言われたとおり、エマ達も食事をすることとなった。
食事を開始して30分、みんな一通り食べ終わり落ち着いて話せる状況となり、いよいよ自己紹介が始まった。
「ふう、それじゃここらで改めて自己紹介といきますか。」
「そうだな、それじゃエマ、まずは団長として最初にどうぞ。」
そういってエマに自己紹介をするよう促す。
普通に考えたら団長が一番最初だろう。
「む、なんかちょっとむずがゆい感じね。まぁいいわ。私が夜明けの月団長、エマ=ジャイコニーよ。気軽にエマか団長って読んでね。ランクはAとりあえず今のところは一番私がランクが高いと思うわ。」
言い終わると同時に俺のほうに目線を移す。
順当で言えば俺の番なのは当然か。
「んで、俺が夜明けの月の数少ない団員かつ副団長、アキラ=シングウ、まだランクはCで傭兵暦は1ヶ月ちょいだけどよろしく頼むよ。」
「「「えぇーーー!」」」
俺の自己紹介が終わったとたん新人達から驚きの叫び声が起きる。
その叫び声のおかげでほかの客から熱い視線が俺達のテーブルに注がれてしまった。
「おいおい、一体どうした?」
「いやアキラさん、僕はてっきりもっと年季が入っているものだと思って。」
「私もそう思ってましたわ。」
「私も。」
どうやらいろんな噂のせいで、事実がねじれにねじれまくっていたらしい。
「まぁ驚くのも無理ないわね。新人にも等しいのにレベアル倒しちゃうし。まぁおかげで1ヶ月入院する羽目になってたけどね。」
「「「えぇーーー!」」」
エマがそういうと本日2度目の叫び声が。
だから俺達のテーブルに熱い視線が注がれるから大声は出さないでいただきたい。
「そ、それじゃアキラさん、ぶっちゃけ傭兵として活動してたのってどれぐらいなんですか?」
「ん〜4、5日?かな。」
「確かにそんなものね。」
エマが相槌を打ったころには新人全員が唖然とした表情を取っている。
なんか俺まずいことでもいったか?
「…………アキラさんってあまりにも常識はずれですね。」
リットがそういうが俺はいたって普通のつもりなのだがな。
「ん〜とりあえずは俺のことは置いといて、次いこうぜ。次はリットお前からで。」
「は、はい。」
そういって勢いよく立ち上がる。
なんだか新人社員が入ったみたいで初々しいな。
「名前はリット=マクスロウ、ランクはさっきDにあがりました。傭兵暦は5ヶ月です。皆さんの足手まといにならないよう頑張りますのでよろしくお願いします。」
「おう!よろしくな。」
「よろしくね。」
リットは微妙に恥ずかしがりながらの自己紹介が終わり、自分の席へと腰を落ち着ける。
「次は女性陣ね。それじゃリットの隣のリオお願いね。」
「はい。」
そういったリオは、リットとは対照的に落ち着いた雰囲気で立ち上がりしっかりとした口調で自己紹介を進めていく。
「名前はリオ=マクスロウ、傭兵暦は1年と少しでランクはCです。どうぞよろしく。」
「あれ?」
エマがいきなり疑問の声を上げる。
ぶっちゃけ俺もその声を上げそうになった。
たしか今マクスロウっていったよな。
「あぁ、そうでした。言い忘れてましたが、リットとは姉弟です。」
「「なにーーー!」」
本日3度目の叫び声は、新人からではなくエマと俺の二人から上げられることとなった。
く、またも熱い視線を浴びることとなってしまった。
「私が姉でリットが1つ違いの弟です。」
「2人で夜明けの月の入団テスト受けようって、絶対合格しようって約束してたんです。」
「なるほど、それにしても俺達にそのことを言わずに両方合格するとは……。」
「ねぇちゃんのほうは実力があるので絶対受かると思ってましたから、後は僕だけが頑張れば何とかなると思ってたので。」
そういって、リットは照れたように左手で頭をかく。
どおりで危険になっても逃げなかったわけだ。
「それにしてもびっくりしたわ、それじゃ次はラスト、ジェシーお願いね。」
「ジェシー=シリウスト、ランクはCランクですわ。傭兵になって8ヶ月。そして私が今抱いているのがブルーアイの、のんちゃんですわ。」
そういってジェシーが持ち上げて見せたシャム猫は、猫とはかけ離れた鳴き声で『る〜』と声を上げた。
ぶっちゃけ普通の猫の鳴き声よりもかわいいかも。
「あぁよろしくな。」
こっちを見ていたジェシーに対しそう言葉を交わしたのだが、なにやらすごい勢いで目線をはずされてしまった。
ちょいショック。
「よし。みんな一通り挨拶が済んだわね。それじゃ新生夜明けの月を祝うため、今日は飲むわよーーー!」
そういって1人盛り上がるエマ。
俺もショックを受けてる場合じゃないか。
ここは新人歓迎会もかねての飲み会になるんだ、盛り上がっていくかな。
「そうだな、久しぶりに浴びるほど飲むとするか。病院じゃぜんぜん酒とか飲めなかったし、俺の退院祝いと新人歓迎会もかねてな。」
「え?」
その言葉に疑問を浮かべたのが1人リットだ。
「もしかしてアキラさん、今日って退院初日ですか?」
「あぁそうだ?」
「それで、コロラド数十体と兵隊コロラドや女王コロラド相手にしたんですか?」
「まぁそうなるな。」
「「「えぇーーー!」」」
本日4度目の叫び声が鳴り響くとさすがに店員に怒られてしまい、そのまま逃げるように酒場へと場所を移すこととなった。
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