試験日当日
「退院おめでとう」
朝早く荷造りを終えた俺は病院の前で待っていたエマに迎えられ、そう告げられた。
「ずいぶん早いな、てっきり俺の事を忘れて寝てるもんだと思ったんだがな」
「いやまぁそれでもよかったんだけど、今日用事あるしね」
「用事? いったい何があるんだ? ここは普通に俺の退院祝いじゃないのか?」
おそらく退院祝いではないだろうなと、わかっていながらもあえて聞いておこう。
さすがに退院した直後に、仕事って事は無いだろうし。
そんな期待を裏切るように、エマが重大な発表を繰り出す。
「えっと、今日は夜明けの月の入団試験を実施します」
「はい!?」
おいおいおいおい、これはちょっと予想外なんですけど。
「ちょっとまて、ちゃんとわかるように順々に説明してくれないか?」
「まぁそれもそうね、説明しましょう。うちみたいな、設立して間もない傭兵団に入団希望者がでてきた訳を」
エマはそういって、病院の庭のベンチへと腰掛ける。
俺も同じようにエマの横へと腰を下ろした。
「この前私が、レベアルの換金をしてきたのは知ってるわね」
「あぁ、コドラに頭をかじられたときに聞いたな」
エマのいたずらに、少し嫌味を込めて切り返す。
「コホン、まぁ、そのことはおいといて、大事なのはレベアルを倒したって事なのよ」
たしかにレベアルはSSランク、多少騒ぎが起きても不思議ではない。
「アキラも知っている通り、レベアルはSSランクでも上位の魔物よ、それをたった2人の傭兵団で討伐。しかも実質Cランクのあなた1人で倒したのよ? これが噂にならないわけ無いでしょ」
「なるほど」
たしかに、いわれてみればレベアルは俺1人で倒したように見える。
実際は誰かに助けられたはずなのだが、今のところはその事を伏せているので、エマでさえ知らない事実だ。
「夜明けの月には、レベアルを倒す凄腕がいる。あの傭兵団に入れば安心だ。って噂が瞬く間に広がっちゃって、ギルドに行く度に入団を希望してくる傭兵が後を絶たないのよ。確かに、仲間が増えればより安全に仕事ができるけど、やっぱり人って相性ってあるじゃない? だからすぐに入団させるって訳には行かないと思うの。だから入団テストを行うことにしたのよ」
「とりあえずは入団希望者と、入団テストについてはわかったが、何で今日なんだ? 明らかに俺病み上がりなんですけど」
「なにが病み上がりよ。病院で筋肉トレーニングしてたくせに、まぁでも退院初日からってのは私もどうかとは思ったんだけど、最初に入団希望を出してきた人って3週間も前なのよ、さすがにこれ以上待たせるのはどうかなと思って」
「たしかにこれ以上またせると悪いな。うん、わかったそういうことなら仕方ないか。それで、試験の内容はどうするんだ?」
一通り話の内容はわかったが、今度は試験内容のほうが気になってきた。
「それについては、ギルドについてから話すわ。希望者のみんなが待っていることだと思うし」
そういい終わるとエマは立ち上がり、ギルドへの道を進み始める。
俺も、その後を追いギルドへと向かい歩き始めた。
ちなみに、コドラはというとエマに抱かれていたのだが、朝早くということもありいまだに寝ている。
退院したんだから、少しはコドラからも祝いの言葉を聞きたかったな。
「女の人は私に、男の人はこっちのアキラについていってね」
ギルドについたエマは集まっていた入団希望者達に、入団テストの内容を説明を開始した。
入団テストの内容は、パーティーを組んでの魔物退治。
最近被害が多い、Cクラスのコロラドとスヌーがターゲットだ。
選考基準については、より魔物を倒したかではなく、チームプレイがちゃんとできるかどうかというもの。
確かに個人技は重要だが、これから一緒に仕事をしていくのだ、何よりも相手の事を考えた動きが出来なければダメということだ。
「はい、これ男の人たちの名前の一覧表とランクね。一番高い人でCランクだからアキラと変わらないわね」
レベアルを倒した事になっている俺だが、ギルドの自分よりも強い魔物を3匹以上倒すという規定があるため、SSランクの魔物を倒しても俺のランクはまだ変わっていない。
まぁランクが上がらなくても、仕事はエマが請けるからいいんだけど。
受け取った表には、14人ほど名前が書かれていた。
「あらためて見てみるとかなり多いな。女の子はどれぐらいなんだ?」
「こっちは11人かな? そっちよりは少ないけど、もともと傭兵自体男性が多いから、これでも相当集まったほうよ」
全部で25人、いったいどれだけの人数が残るのかな? っと自分が審査員なのにもかかわらず、傍観者のような気分でいる。
「あ、アキラ、そっちはコロラド狙いでお願いね。私あいつなんか生理的にちょっと無理だから」
エマがそう耳元でつぶやく。
なるほど、確かにあれは女の人にとっては受け入れがたいかも。
コロラドという魔物、いわゆる虫系の魔物である。
芋虫のような胴体と、バッタのような顔がついた形をしている。
動きが遅いために本来は動物の死肉を食べているらしいのだが、このところ異常繁殖し食べ物が少なくなったため、群れで行動し強力な顎を武器に行商人を襲っているらしい。
「たしかに、あいつは見た目がグロテスクだからな……うん、わかった。あいつらのところへはこっちのパーティーでいくとするよ」
「良い返事。それじゃよろしくね」
倒すターゲットの割り振りも決定し、いよいよ入団試験が始まる。
「みんな今から魔物退治に行くわよ。くれぐれも怪我の無い様に気をつけてね」
「おーーーー!」
そういい終わると、周りからは気合いの一声があがる。
エマと俺は、それぞれのパーティーメンバーをつれ、エマは南、俺は北の入り口へと向かい、町の外にある狩り場へと歩みを進めるのだった。 |