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夜明けの月
作:BIRUSU



団長


(困ったわね)

 医者との交渉の末、アキラを1ヶ月で退院できるようにできたのだが、それでも困るものは困る。

(この人たちどうしようかしら)

 私は一枚の紙と睨み合う。
そこに書かれているのは、ざっと20人ほどの名前。
アキラがレベアルを倒したことにより、夜明けの月の知名度は一気に急上昇。
ギルドに行くたびに何人かに声をかけられ、団にいれてほしいと頼まれるのだ。
 団員が増えるのはいいのだが、あまりにも多い。
まだ作りたての傭兵団には異例の人数になってしまう。
 それにすべての人間を団に入れるのは危険である。
以前自分が所属していた傭兵団で、ろくに選別もせず新人を団に入れたところ、チームワークは最悪になり報酬の分配はもめにもめ、ついには傭兵団の解散になってしまったのだから。
それだけは、どうしても避けたい。
 そう決心して入団テストをしようと思ったのだが、人数が多く一人ではすべての傭兵を見ることはとてもじゃないがやっていられない。
そのため、すぐにでもアキラの退院が必要だったのだ。

「う〜ん仕方ないかな。テストはアキラの退院日にしよ。最初に入団希望だしてきた人は2週間も前だし、これ以上待たせるのも悪いしね。日程決まったしギルドの掲示板に書いてくるとしますか」

 私は病院を出てギルドへと向かう。
もちろん最高の抱き心地のコドラを忘れずに。

「それにしてもあんたあれだけダゴサクだっていっても、一回も返事してくれないんだもんね」

 コドラは、『コドラ』というのを自分の名前だとすでに解釈してしまっていて、すんごくきゃわいい『ダゴサク』という名前を受け入れてはくれなくなっていた。
 アキラが入院してる間言い続けてはいたのだが、結局反応してくれないので半ばあきらめ、私もちゃんとコドラと呼ぶようになっている。

「でも、ゴハンのときだけはしっかり返事するのよね〜」

 ゴハンの言葉にすぐに反応して、コドラが私を見つめてくる。
その表情は、ゴハンくれるの? っとそのクリクリとした目で期待のまなざし。

「ん〜〜〜〜かわいい〜〜〜〜! やっぱり、ギルド行く前に寄り道して食べ歩きましょう」

「キュイーーーーー!」

 私の言葉にうれしそうに返答するコドラ、この子ちょっと食い意地はりすぎかも。
ギルドから急遽屋台めぐりに変更した私たちは、屋台が立ち並ぶ町の中心へと歩を進める。
中心に近づくにつれ徐々に人が増え始め、屋台からはいい匂いが漂い、活気ある声が飛び交う。

「あらなんだかいつもよりも人が多いわね。それに、なにやら飾りつけも多いし…………あぁ! 今日って新春祭だったけ」

 いつも以上に活気づいていた、通りにはさまざまなオブジェが飾られていた。
そのオブジェの中で一番きらびやかに飾り付けられた、大きな看板が目に飛び込んでくる。
看板の中には、でかでかと新春祭の文字が春を思わせる鮮やかな色で書かれていた。
 新春祭という祭りは新しい春の訪れを祝い、無事実りの秋を迎えられる事を祈るイベントである。
もともと新春祭は農村地域で行われていたのだが、それがいつの間にか各地に広がり、今ではどこへ行ってもこの時期行われるイベントとなっている。
 そんな有名なイベント日だったのだが、この頃アキラの事やギルドの事で忙しくて忘れてしまっていた。
 ここは1つ日頃の事を忘れて楽しんでしまおう。
そう思った私は、コドラに向かって微笑み食い倒れ計画を提案する。

「コドラ、あなたついてるわね。新春祭ってことはおいしいものが豊富に取りそろってるわよ。屋台の食べ物を食べつくしちゃおうか?」

「キュキューー!」

 そんな私の提案に賛同したコドラは、早く早くとせかすように私と屋台のほうを交互に見つめて合図を送る。
普段でも愛くるしいのだが、期待されたまなざしで見つめられると、ぎゅっとしたくなる。
私はコドラにせかされた私は、人を掻き分け屋台を一軒一軒回っていく。

「これ2本お願いね」

「はいよ、800ゾルドね」

 最初にたどり着いた屋台は串焼き屋、おいしそうにジューと音をたて、香ばしい臭いを漂わせてくる。
色々と焼かれている串焼きの中で、ちょうど焼きあがったタッブの串焼きを目にした私は2本ほど購入し受け取る。
コドラを抱えたままだと多少受け取りにくかったものの、この混雑している中でコドラを下ろしたりしたら迷子になること必至なので、このままの体制維持。
 右手で受け取った串焼きの一本を、早く早くとねだるコドラの口にくわえさせ食べさせる。
むしゃむしゃとかぶりつくコドラを見ながら、私もおいしそうな肉汁が出ている串焼きにかぶりつく。
噛み付くと口の中に、肉汁が一気に広がってくる。
網焼きで適度に油抜きされた串焼きは、油っぽすぎず、うまみだけを口の中に広げ、絶妙な塩加減と、香辛料のハーブがアクセントとなり非常においしい。

「うん、おいしい〜〜〜」

 この味なら私も、コドラも大満足である。
 与えた串焼きはすでに半分ほど消えていたが、それでもコドラは勢いはとまることなく、くしについている肉を次々とその口へと消していく。
日頃ご飯を与えない訳ではないのだが、それにしても早い。
この分だと私が半分食べ終わるころには全部食べ終えてしまうかな。
 それにしてもこの子はいろんなものをよく食べる。
アキラは人間の食べ物は体に悪いかもしれないといって、コドラにフルーツばっかり与えてたけど、この子ってそんなの関係ない感じで何でも食べてしまう。
 このまえ普通に私と同じメニューの食事平らげてしまったし、お酒も飲ませてみたらぐびぐびと飲んでしまう。
この事に気づいたのは1週間ほど前の事、ギルドの仕事を終えた後、食事をしている時に何気なく与えたのがきっかけである。
 先に串焼きを平らげたコドラがうらやましそうに見つめる中、その視線を見ないようにして串焼きを平らげ、見つめていたコドラの口周りをハンカチを取り出して汚れをふき取り、次の屋台へと足を進めていく。
そしてそんな行動を続ける事3時間、端から端まで見渡した頃には、新春祭も終わりへ近づいき人通りがさっきよりも少なくなってきていた。

「ふ〜〜〜ちょっと食べ過ぎたかも……」

 頼んでは食べて次へ行くというパターンを繰り返していたため、かなりの量を食べている。
おそらくこの3時間で1日分の食事を一気に取ったぐらいには食べただろう。
食べ過ぎのせいか、ちょっと体が重い。
もちろん私と同じように食べていたコドラの体重もかなり増えていて、支える手がきつくなっていた。

「とりあえずは、満足したかな?」

「きゅいきゅい」

 食べ歩きの終了宣言をつげ、素直にコドラがコクコクとうなずく。
話すことは出来ないが、もうある程度の人間の言葉を理解しているようで、このように反応してくれるのは少しうれしい。

「それじゃ帰りますか」

 私とコドラは地面に半分消えかけている太陽に背を向けて、まばらになった人通りをゆっくりと進みながら、宿屋へと向かっていく。
宿屋に着くとお風呂に入って、コドラと晩酌、そしてほろ酔い気分になって気持ちよくなったらふらふらとベットイン。

「ふ〜〜〜、今日も楽しかったね〜」

「きゅぃ〜〜〜Zzzz」

 たくさんの屋台を巡ったので疲れたのだろう、そう返事した後、すぐにコドラは眠りについていく。
 怪我で入院中のアキラには悪いが、祭りを存分に楽しんだ私たちは充実した一日を過ごすことが出来た。
コドラを抱えながらだったため、すこし疲れはしたが狩りをするときと比べればどうという事は無い。
今日の事を振り返りながら、コドラを見つめ微笑んだ後、私もコドラと同じようにゆっくりと目を閉じて意識を手離………………って

「ギルド行ってねーーー!」

 次の日、私は寄り道することなくまっすぐギルドへと向かいました。












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