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夜明けの月
作:BIRUSU



1年


「明君、折り入って頼みたいことがあるのだがね」

 そういって話しかけてきたのは、50はとうに過ぎているだろう老人だ。

「なんですか社長? また、転勤とか言わないでくださいね。つい二週間前に東京から九州まで行ってきたのですから」

 いやみとも取れる言動に対し、社長は苦笑いを浮かべている。
どうやらまた転勤らしいな。

「すまないね。うちには君ほど優秀で、融通の利く社員はいないのだよ」

「はぁ〜……わかりました。いったい今度はどこですか?」

「それがね、今回は少しばかり遠いのだよ」

 そういいながらタメをつくり、自分がどこに飛ばされるのか期待? させる。
まるでクイズ番組で出題された難問の後の答えを、CM後に回された感じだ。

「今度はアメリカとか言わないでくださいよ。さすがに自分でも英語圏で生活するのは、無理ですよ」

「いや、それについては大丈夫だよ。というかアメリカより遠い場所だよ」

 社長はにこやかに、答える。
 アメリカより遠い場所?
ブラジルって結末か!?
そんな、答えがよぎったとき、社長のCMがようやく終わり答えを告げた。

「異世界だよ」

 ガツッ!

 頭に、強烈な痛みが走る。
目をぱちくりと動かすと、そこには白くて見慣れない天井があった。
 俺はどうやら夢を見ていたらしい。
転勤に告ぐ転勤でかなりあわただしい毎日を送っていた気がする。
後半になってくると、日本から脱出することも多くなってきていたし。
 それにしてもここはいったいどこだ、それとさっきの痛みはなんだったんだ。
そう思い辺りを見回す。
 白で清潔感に保たれた部屋は、病院を思わせる。
先ほどの痛みについては、ベットの横にある椅子に座っているこやつせいか。

「まったく、けが人で遊ぶんじゃない」

「いつまでたっても起きないから、死んでるんじゃないかと思って試しただけよ」

 悪びれる様子もなく、エマがコドラを抱きながらそこには座っていた。
痛みの原因はエマがコドラに俺の頭をかじらせたようだ。

「いったい、あれからどうなったんだ? それと何日経った?」

 俺が気になるのは結末。
たしかに俺はレベアルに致命的なダメージを与えることには成功したが、奴はその攻撃を受けても膝を屈しなかった。
逆に力を使い果たした俺のほうが崩れ落ち、身動きが取れなくなった俺にレベアルは止めを刺そうとしていたはずだ。

「3日ほど経過しているわ。リンクスは無事捕獲で報奨金も支払われたし、あなたが倒したレベアルの報酬もいただいてきたわ」

 そういって、取り出したのは分厚い札束を2つ。
200ガロンはあるんじゃないだろうか。

「…………それがレベアルの報酬か? さすがSSといったところか」

「えぇそんなところよ。アキラに言われたとおり、救援で5人ほど雇ったからその分を差し引いてだけど」


「そうか……レベアルはどんな感じで倒れていたんだ?」

「アキラの横にうつぶせに倒れていたわよ。最後のとどめに背中に思いっきり切りかかったんでしょ?」

「!?」

 背中に傷? 俺はそんな攻撃一切していない。
それどころかほとんどの攻撃は銃によるもの、唯一のソードを使っての攻撃は最後に力を振り絞って突き刺したあの一突きだけだ。

「なぁ、エマ。俺のほかに誰か周りにいなかったか?」

「いなかったけど? ほかに誰かいたの?」

「いや……気のせいらしい。あんなにぼろぼろになったのは初めてだから、幻覚でも見たのだろう」

「……アキラやっぱりさっきの一撃が効いちゃった? 頭大丈夫?」

 そういってエマは俺の頭に手を当て先ほど、噛み付かれた場所をさする。
なんだかんだいって人に頭をなだれられるのは気持ち良いのだが、この年でそれをやられると恥ずかしいものがある。

「大丈夫だ。あれぐらいの一撃でおかしくなってるなら、レベアルと戦ったときに、10回は軽く幻覚が見えてるぞ」

「それもそうね。私たちがついたときには、周りの様子ががらりと変わっていたものね。よほど派手など突きあいしてたのね」

 あきれているのか、その表情は馬鹿を見るような感じだ。
俺だって好き好んで奴と、タイマンで喧嘩はしたくなかったのだがな。
それにほとんど一方的にど突かれていましたってことは、あえて言わないでおこう。
 俺は、エマの冷ややかの目線をどうにかするため、話題を変えることにする。

「エマ、ここ病院なんだろ? 医者は俺の怪我見て何日ぐらいで治るっていっていた?」

「歩けるようになるのに5ヶ月、完治するのは1年以上」

 エマから、淡々と発せられたその言葉はやけに重い。

「…………そんなにかかるのか?」

「擦り傷、切り傷、裂傷多数、打撲12箇所、ヒビ9箇所、骨折8箇所、複雑骨折3箇所、そして、左足は、治ったとしても、完全に元通りとはいかないらしいわ」

 改めて聞かされると、俺の体はこれ以上に無いってぐらいぼろぼろになっている。
左足の治療は、さすがに時間がかかるだろうなと思ってはいたが、完全に元に戻らないかもしれないってのはきついものがある。

「ふぅ……かなりの重症だな。現状が把握できたから俺は寝る」

 右手で顔を隠し、目を閉じ眠りにつこうとする。

「そうね、そのほうがいいわ。私はこれからギルドに行って色々と手続きがあるから、夜にまた来るわ」

 そういって、エマはコドラをつれて部屋を出て行いった。
部屋を出て行く際に、コドラがまたねといわんばかりに軽く鳴く。
まったくこんな体になっても、かわいいと思ってしまう。

「1年はなげえよな」

 そうつぶやき眠りについた俺だが、先ほど動かした右手は2箇所ヒビが入っていたはずなのだが、自然に動かせていたことをエマも俺も気がついてはいなかった。












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