生存競争・前
やばい、やばい、やばい、頭の中でその言葉だけがグルグルと回っている。
体もそれに呼応するように、体中の毛が逆立ち、熱くも無いのに汗が流れ始めている。
対峙しただけで感じるすさまじいプレッシャーは、俺の元いた位置に一撃を食らわしたこの大型の魔物から発せられている。
この魔物は図鑑の最後のほうにたしか描かれていた。
そいつのランクはSS、必要討伐人数はAランクが10人とかかれていた。
今の俺たちの戦力では到底勝ち目の無い魔物、名をレベアルという。
獰猛で、凶暴、非常に好戦的で、大食漢。
その巨体から繰り出される攻撃は、人間にとってすべてが致命傷となる。
説明文のところにはそう簡潔に書かれていた。
ほかの魔物と違い、情報が少なかったこいつだが、相対した事によりその理由がすぐにわかった。
出会ったら死ぬ。
それが理由だろう。
この場に居たくないと、体が拒絶し吐きそうになる。
エマもやつのプレッシャーに当てられ、表情には恐怖の二文字が浮かび上がっている。
(くそっ、なんでこんなこと思っちまったんだろ)
俺は恐怖に震え上がっている最中、とんでもない答えが浮かび上がってきた。
その答えが俺の生存を1%も許しちゃくれないことを俺は理解している。
だが俺はその答えを選んでまった。
なさけない、本当になさけない。
「エマ! さっきのリンクスとっ捕まえて町まで戻れ! そんで救援呼んで来い!」
「!!! ちょっとまって! それじゃアキラが!」
「いいから早くしろ! このまま一緒に死んじまってもいいのか! 俺が考えた中で、一番俺達が生き残る確率が高いのがこの判断だ! わかったらとっとと行け!」
「でも!」
「行け!」
そう言い放つとエマは迷った挙句、リンリンが逃げていったほうへと向かい走り出した。
幸いにもレベアルの注意はこちらにあったためエマを追う事は無かった。
「くっそ……」
俺は小さくつぶやく。
さっきエマには、一番二人とも生き残る確率が高いとかいったがありゃ嘘だ。
まず間違いなく俺は死ぬ。
俺が導き出した答えはエマを生かす、ただそれだけの答えなのだから。
偽善だろうが、自己犠牲による陶酔なのか、そんな事は知ったこっちゃ無い。
無数に存在した答えの中でこれが一番輝いていたんだ、選びたかったんだ。
俺だけが生き残る答えも、合ったのに選ぶことを拒否してしまった。
おそらくレベアルのプレッシャーにあてられたのだろう、きっとそうだ、そうに違いない。
じゃなきゃ自分が死ぬ選択肢を真っ先に選ぶはず無いじゃないか。
そう考えた俺はプレッシャーを跳ね返すのではなく飲み込む形で、吹っ切れた。
俺はここで死ぬ。
だがただで死んでやるものか!
そう思った時俺の体は自由に動くようになった、完璧に自分の思い通りの形に動くようになった、まるで体が最後の最後まであがき生を掴み取ろうとするかのごとく。
右手でベルトに挟んである銃を取り出し、左手で補充用の弾を胸のポケットから取り出す。
その様子を見てまるで強者が弱者をいたぶるように、ゆっくりと近づいてきていたレベアルの動きが急変する。
強者という者は、特に危機感知能力が優れているものらしい。
俺の取り出したものを危険と判断したレベアルは、俺へとその全体重と突進速度をプラスした体当たりをかましてきた。
その動きは、まるでスローモーションのように俺には見えた。
人間死ぬような体験をすると、回りが遅く感じるというがこれがそれなのかもしれない。
体当たりしながらも右手を上げ、その鋭い爪で引き裂こうとするレベアル。
まず俺はレベアルの振りかざした右手に二発、そして動きを止めるためその巨体には威力不足だろうが残りの四発を顔めがけて撃ち抜く。
それと同時に左へと回避行動に移った。
最初に撃たれた弾は見事にレベアルの右手に当たり、第一の攻撃を防ぐことに成功する。
しかし顔に向けて撃ちはなった残りの四発は、かなり近い距離で撃ったのにもかかわらず、レベアルの右頬を掠めただけにとどまる。
その凶暴さや、巨体からは想像もつかないほどの反射神経だ。
ただ凶暴なだけならば頭を使えば勝てる、ただ巨大なだけならばすばやさで翻弄すれば勝てる、その両方ならば頭を使いすばやさで追い込めば勝てる。
だがやつは違う、凶暴で、巨大で、すばやい。
俺の攻撃手段の中で最も早いのはこの銃による攻撃。
地球の物よりは格段に性能は劣るが、それでも普通の魔物には致命傷の怪我を負わせられるのに、こいつにはあてることすら難しい。
左に回避することにより、突進をなんとか避けることが出来た俺は、すぐに次弾装填し相手の出方を伺う。
残り18発、これらすべてを当ててもおそらくやつは倒れないだろう。
先ほど、右手に当たった弾によるダメージはおそらくかすり傷程度にしか奴は思っていないようで、ぺろりと傷をなめてそれでおしまいだ。
そんな右手から赤い血が流れているものの痛がる様子もなく、俺だけを見つめている。
このままでは活路を見出すことができない。
そう思った俺は先ほどとは違い、今度はこちらから動く。
レベアルもこちらの出方を見ていたのだろう、俺に合わせて動き出す。
俺は近くにあった太い木を奴との間に配置する。
移動の途中に攻撃されて、この形のポイントに移動することができないかもと思ったが何とか成功した。
これであの体当たりの心配は回避できただろう。
しかしその考えたのが甘かった、奴は俺に攻撃を加える事だけを考えていたのだ。
レベアルは俺との直線状にあった2本の小さな木をただの木材に変え、すさまじいスピードで向かってきていた。
その時の俺は奴の攻撃にはまだ気づいてはいない、太い木に隠れたことが裏目に出て、レベアルを確認することが出来なくなってしまっていたのだ。
目の前の太い木がドガッ! とすさまじい音を立てヒビが入る、このままでは危険と感じた俺だがすでに遅かった。
体当たりだけでは倒れなかった木だったが、奴の左から繰り出された追撃が振り下ろされたことにより俺ごと木を吹っ飛ばしたのだ。
木はそのまま勢い砕けながら倒れる。
その裏側にいた俺も奴の左手の振り下ろしの力を受け、吹き飛んでいった。
約2メートルほど吹き飛ばされる。
もしあの木が無かったら、いったいどれほどまで飛ばされていたのだろうか。
全力を尽くして攻撃してくる奴は、空中を舞い踊っている俺を見逃さなかった。
更なる攻撃を食らわせるため、すぐさま走り出し俺との距離を詰めてきたのだ。
その動きを空中で捉えることができた俺は、覚悟したはずなのに死への恐怖がまたも蘇る。
空中から落下した俺は、運良くすぐ立てる体勢であったためすかさず回避行動に移った。
今度は右へ思いっきりダイブ、レベアルの攻撃から何とか逃げようと試みる。
着地してすぐに回避行動に移ったためぎりぎりのところで交わすことが出来た、と思ったのだが、無情にも左足がレベアルの肩へと触れてしまっていた。
左足にすさまじいパワーが加わったことにより、空中にいた俺は勢いよく回りだす。
1回転半周り今度は背中から思いっきり落下する。
肺の中の空気は、すべて吐き出され、呼吸をするのもつらいほどの痛みが脳へと伝わってきた。
そんな状態になっても、俺は右手の銃だけは手放しはしなかった。
そう俺の考えられる作戦の中でこの鋼色に輝く銃だけが、俺の生をつなぎとめられる唯一の存在だとしめしていたのだから。 |