この穏やかなる一日を
今、俺はコドラを肩車するような形で頭につかませ、町を歩いている。
昨日、コドラを見つけ捕獲、拉致した後、すぐにドーガーの尾羽を回収し、町へもどった。
途中、ほかの魔物に襲われることなく戻ることができ、戻った後はすぐにギルドへ向かい換金を済ませた。
尾羽を換金所で清算すると、ちょうど9ガルンほどになったのだが、エマが夜明けの月の運営資金とかいって、7ガルンほど持っていったため、俺の手元には2ガルンほどとなってしまっている。
エマには、色々と借りがあるのでひとまずはそれで納得しておこう。
換金終了後は、ランクアップ手続きをすることとなった。
当然のことながら格上の敵を倒した俺のランクは、Eから一気にCランクに上昇することになっり、傭兵として一人前のランクとなった。
まぁ、俺より2ランクも上の敵を、二人でとはいえ18匹も倒したのだ、一気に上がってもらわねば困ってしまう。
ランクアップの手続きなど済んだら、俺の怪我のこともあり病院へ直行。
傷は思った以上に深くは無いが、5針ほど縫い合わせることとなってしまった。
治療で縫い合わせたのはいいのだが、さすがに、麻酔無しで縫うのはかなり無理があった。
麻酔無しになった訳は、怪我をしたのは自分のせいでしょと軽くあしらわれた為、俺が払うことになったのだが、費用が1ガルン2シーターとお高かったので麻酔無しになったのだ。
いくら自分のせいとは言え、麻酔代はせめて運営資金のほうから出してもらいたい。
傷口をさらに抉るように縫い合わされたため、かなりの痛みをともない、思わず叫んでしまったが、その叫び声を笑いながら聞いていたエマに対し少し殺意を抱くこととなった。
いや、本当に痛かった。
そして、治療が終わると、だいぶ日が傾いてきたので宿屋に向かうことになり、だいぶ汗もかいたということもあって、風呂付の宿屋に泊まったのだが、風呂のお湯は容赦なく俺の傷口にクリティカルヒットを何度も叩き込んでは俺のうめき声を誘うのだった。
汗を流すために風呂に入ったはずなのだが、痛さのあまり脂汗がながれる。
なんとか傷口以外の部分を洗うと、すぐさま風呂をでて、エマの酒の誘いを断り眠りについた。
エマは、風呂に入った後、俺に断られたため一人酒をのんでいたが、コドラで遊びつつ飲んでいたので、俺のほうに酔っ払い特有の被害を受けることは無かった。
そして朝を迎えると、エマは案の定二日酔い。
俺の怪我があるから今日は狩りは中止! っと言ってはいたが、二日酔いがひどいためで歩きたくないだけだろう。
俺は、二日酔いもなく、晴れ晴れとした朝を迎えることが出来たので、いもむし状態のエマを放置してコドラを連れて、町の散策に出かけたのだ。
本当ならコドラは置いていこうと思ったのだが、昨日何かエマにされたのか、エマと二人っきりになるのが嫌らしく、こちらにしがみついてきたので連れ出すことにしたのだ。
ズボンのすそにつかまり、上目づかいで『きゅい〜』と哀願されたら誰だって連れ出してしまうだろう。
そんなわけで、俺達は町をぶらぶらと出歩いている。
途中、りんごのような果物が売っていたので、買ってコドラに渡してみると、丸呑みして食べてしまったのには驚いた。
体の1/5の大きさの果物を丸呑みしてしまったのだ、しかもさらに果物を要求してきたので、こいつの胃袋はどうなっているのか一度開いて確かめてみたいものだ。
ちなみに、肩車させたのはあまりに歩幅が違いすぎて、はぐれてしまいそうになるので、乗せたのだ。
最初は、なれない振動と高さによって暴れたりしていたが、慣れてくると、なにげにコドラは気に入ったのか、俺の髪の毛で遊びながら、きゅっきゅっと楽しそうな声を上げる用になっていた。
そんなわけで、一人と一匹は順調に町の散歩を楽しんでいる。
「きゅ〜きゅっきゅっ」
「ん、どうした?」
急に、コドラが騒ぎだした。
気になり頭上の方に目を動かしコドラを確認すると、どうやら左側のほうを見ながら叫んでるようだ。
俺も気になりそちらのほうを向いてみると、なにやら怪しげな人だかりがある。
好奇心旺盛な俺としては見過ごすことは出来ず、近づいて周りにいた人に尋ねてみる。
「いったい、どうしたんですか? こんなに集まって」
「腕相撲大会だよ。よかったら兄ちゃんも参加したらどうだい?」
中心のほうを見てみると、丸いテーブルが置かれごつい野郎どもが熱く相手の手を取り合いプルプルと震えている。
「これって何か賞品出るの?」
「あぁ10ガルン賞品としてでるぞ。」
「へ〜、それで参加方法はどうするの?」
「おぉ兄ちゃんやる気だね。参加方法は3シーター払えばいいだけだよ。そんでもって、あのいかつくて、ごつい奴に勝てばいいだけだぜ。」
おっさんが指を指す方向を見てみると、うむ、海坊主ってニックネームが似合いそうな、いかつくて、ごつくて、つるつるな大男が一人ふんぞり返って座っている。
どんなやつが相手でもかまわないといった感じだ。
海坊主の横には、すこし体型は小さくなるものの筋肉隆々の男が1人と椅子が1つおいてある。
男たちの上に賞金額が書いてあるので倒せば、その金額がもらえるというものだろう。
ただ小柄の方(小柄といっても俺よりでかいのだが)の男の金額の上には大きく×印が書かれているので、おそらく誰かに倒されたのだろう。
あの男を倒すのでさえ、俺ではまず無理だろうな。
そう考えていると、なにやら中央で騒ぎが起きる。
どうやら先ほどの、試合の結果がでたらしい。
残り1つの席に、汗だくの男が座ると、試合の進行役が男の上の賞金額に×を入れる。
挑戦者が勝ったようだ。
「さぁ、残る賞金は最高の10ガルン! しかし相対するは、この屈強で不敗の男! エメリヤーエンコ=ヒョードル! さぁ立ち向かう相手はいないのか!?」
「うん、こりゃ無理だ。」
10ガルンという大金を手にすることが出来ればこれから楽な生活が出来るが、名前からして無理ってもんだ。
なにせ、世界最強の男と同じ名前のやつとなんてやりたいとも思わん。
もう、賞金額がでるのは海坊主だけなので、また町の散策を楽しもうとした時、何を思ったのかおっさんが俺の手を取り無理やり手を上げさせる。
「この兄ちゃんも参加するぞ。試合組んでやってくれ」
「ちょっとまっ……」
俺が、反論する前に周りのギャラリーから、『頑張れよ』『応援してるぞ』っと言う激励をかけられ断れない状況に陥る。
あのおっさん恨むぞ。
「ここにきて、チャレンジャーだー! 何人もの男の腕が粉砕されてきた、このリング。勇気ある挑戦者に拍手を」
粉砕という言葉を聞いた瞬間、俺はなぜあのオヤジに声をかけてしまったのだろうかと後悔の念を募らせる。
昨日病院に行ったばっかりなのに、また行くとかしゃれにならんぞ。
しかも、今度は街中で怪我だ、エマに笑われるのが目に見えている。
だが、ギャラリーはそんな俺の心中をあぜけ笑うように、声援を送る。
あぁ、その声援が俺を引けなくしているというのに。
そんな不本意な声援に後押しされ、海坊主と向かい合う。
改めて見てみるがやはりでかい。
身長は2mは軽く超えているだろうか、体重もおそらくは200kgを超えているだろう。
それだけでもかなりのものなのだが、この男の腕は子供と変わらないぐらいの大きさだ。
それに比べ俺は、身長175cm、体重75kg、体脂肪率14%と一般人よりは筋肉質だが、明らかに負けている。
だが始まってしまったものは仕方が無い。
俺は進行役に金を渡すと、腕を捲くり上げひじを突く。
「坊主、覚悟は出来たのかい?」
男が、ニヤニヤとこちらを見ている。
おそらく、かっこうのカモだろうと思っているのだろう。
もしくはいまだ俺の頭の上にいるコドラを見て和んでいるのか。
「出来てないがやるしかあるまい、あそこで逃げたかったが、あんなに応援されて逃げちゃ男として廃る」
「いい心がけだ。その心意気に免じて全力でやってやるよ」
まじっすかー! っと心の中で叫ぶ。
そこは手を抜いて、怪我させずに帰して欲しかったのですが。
そんな、チキンな考えを悟らせないように、顔は男をにらみつける。
あぁ、やっぱ無理。
もともと、腕相撲は強いほうだったので、手を合わせただけで大体、相手の強さがわかるようになっている俺だったが、手を合わせた瞬間に敗北とい二文字が、俺の中にでかでかと筆文字でサクラの背景の上にレインボーに書き出されてしまっていた。
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