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星屑の童話たち

雪まつりのゴン

作者:鈴木 りん
星屑による星屑のような童話。よろしければ、お読みくださるとうれしいです。
葵生りんさん主催の「ELEMENT2016冬号」の参加作品です。
なろう冬童話2016にも、参加してます。
 今年も、ゴンの国に冬がやって来ました。
 街は、そこもかしこも、ふんわりもこもこな雪であふれる、白銀はくぎん)の世界。
 車が行き交う道路わきには、人の背丈ほどの雪山が、もこっと積み上げられています。


 ゴンは、世界の北のはずれにある、小さな国の若い兵隊さんでした。
 だから、いざとなったら、この国を守って戦わねばなりません。
 でも、まだ兵隊さんになったばかりのゴンは、ほかの兵隊さんにくらべて体も小さく、「力」もありませんでした。それで今は、国と国の境目さかいめ守る兵隊さんたちに食べ物などを運ぶ仕事をしているのです。

(あーあ。どうしてぼくの仕事はこんなにも目立たない仕事なのだろう。これじゃ、ぼくの仕事でみんなを笑顔にすることもできやしない……。兵隊になったからには、もっと活躍してみたいよ)

 いつもそんなことを考えては、ため息ばかりをついているゴンでしたが、一方では、兵隊さんの仕事で涙を流す人がいることも、もちろん、知っています。
 だって、この国の兵隊さんが戦うのは、よその国の兵隊さん。
 その兵隊さんにも、大切な家族や恋人がいることくらい、ゴンにだって、わかりすぎるくらい、わかるのです。


 ――そんな、ある日の朝でした。ゴンは、隊長さんに呼ばれたのです。
 すぐに、隊長さんの所に向かうゴン。
 ゴンが隊長さんの部屋に入ると、隊長さんは、ぴんと左右に伸びた自慢のひげをみせびらかすように指でなぞりながら、黒い立派な椅子にふかぶかと座っていました。

「ああ、ゴン君かね。明日からしばらく、『雪まつり』の雪像せつぞうづくりを担当してほしいんだ」
「え、ぼくがですか? ぼくは体が小さくて体力もないですし、それはもっと力がある兵隊さんがやった方がいいと思います」

 そうなのです。
 雪のたくさん降るこの国では、毎年冬になると、『雪まつり』という大きなお祭りを開いていました。それは、この国の人々が、一年で一番、楽しみにしている行事。
 なんたって、雪まつりの会場には、人の背の高さの何倍もある立派な「お城」や、何十人もの子どもがいっぺんにすべることができる「雪のすべり台」など、この国の兵隊さんたちが心をこめてつくるきれいで楽しい「雪像」が、いくつもいくつも、あるのですから!

 そんな風に、国民みんなから愛されているお祭りの雪像づくりなのですが、ゴンは「地味な仕事だな」と思ってしまい、ついつい、隊長さんに口答えをしてしまったのでした。

「うん、そう言うと思ってな、私が君のために特別、これを用意しておいたよ」
 いつもそんなときには目をつり上げて怒る隊長さんが、今日はにこりと笑いながら、机の抽斗ひきだしから、見たこともないものを取り出したのです。

 ――それは、体に取り付けて使うらしい、不思議な機械器具でした。
 たくさんの太い金属の「ばね」が束ねるように付いていて、その先にある皮ひものようなもので、体に結び付けることができるようになっています。

「これは、なんですか?」
「雪像づくり兵、養成ようせいマシーンだ」
「よ、ようせい、ましーん?」
「そうだ。このばねでできた器具を、右と左の腕に取り付けて、それで朝から晩まですごしてみたまえ。すると自然に力がついて、雪像づくりがガンガンできるようになるぞ」
「はあ……」

 隊長からそう言われたゴンは、仕方なく、体にとりつけました。
 ご飯を食べるのも、文字を書くのにも、とにかく腕をつかうときには、器具のばねのおかげで、とにかく力が必要です。汗ダラダラ、鼻息ふんふん――今にも耳から湯気を出しそうに顔を真っ赤にしながら、ゴンは、一日を過ごしました。

 次の日からは、体にマシーンをつけたまま、雪まつりの会場となる大きな公園に、毎日出かけて行きました。
 困ったのは、腕を動かすときに出る、その音です。
 まるでロボットのようなぎごちない動きと、ぎしぎしときしむように鳴る、金属音。
 その動きや音に、そばを通りすぎる人々は皆、ゴンからは見えない場所に隠れるようにして、くすくすと笑いました。もちろんゴンは、雰囲気ふんいきでそれがわかっていましたけれど。

(いやー、これはちょっとはずかしい。雪像づくり、早く終わらしちゃいたいな)

 ゴンは日の暮れるまで、スコップで雪を掘ったり積んだりくっつけたり――ほかの兵隊さんの仲間たちと、雪像づくりにはげみました。

 
 ――雪像づくりが始まって、一週間。
 それは、お祭りの始まりの日まで残り一週間、ということを示していました。

(仕事もだいぶかたづいてきたよ。この「お城」も、もう少しで完成だ!)

 ゴンは、今自分の目の前にある、本当に王様が住めるのではないかと思うくらい大きなお城を、見上げました。そのお城は、キンと冷たい空気の中で、冬の青空を背に、りんとそびえ立っています。
 また、下を向き、雪像づくりのためにスコップを握りしめた、ゴン。
 両腕のマシーンのおかげで腕っぷしも強くなったからなのか、今ではその器具をつけていても、なめらかに体を動かくことができるようになっていました。


 こうして、お祭りの始まる二日前の夜に、お城が完成しました。
 めきめきと力が強くなったゴンは、実はここ数日は、マシーンを着けずに作業していました。もちろんそれは、隊長にはひみつでしたけど。

「やった、ついに完成だ! それにしても、すごいものをつくったものだ。うん、今のぼくなら、国境近くのたいへんな仕事も、すんなりこなせそうだぞ」

 完成したばかりのお城の迫力にたじたじになりながらも、これからの兵隊の仕事を想像して期待に胸をふくらませる、ゴンなのでした。


  ☆


 そしてついに訪れた、お祭りの初日。
 当然それは、国中の人々が楽しみにしていた日です。
 朝からぐっと冷え込んで、雪もちらりほらりと降っていましたが、そんな寒さにもめげず、子ども連れのお父さんお母さん、若い恋人たちなど、皆楽しそうに笑顔を交わしながら、ぞくぞくと会場に集まって来ました。

 ゴンは、自分のつくったお城を見た人たちがどんな顔をするのか、気になって仕方がありませんでしたので、本当はお休みの日でしたが、いそいそと公園へやって来たのでした。
 それはきっと、一年生になったばかりの子どもが初めて学校に行くときに、お母さんやお父さんがあとをこっそり追いかけていくときのような、そんな気持ちなのでしょう。

 お城の前までやって来たゴン。
 そのとき、ゴンの目の前で、何を思ったのか一人の少女が、雪でできたお城をよっせよっせと登りはじめてしまったのです。もちろんそこは、高いところまで登って落ちてしまったら大けがをしますので、誰も入ってはいけない場所でした。

 あまりのことに、ゴンは言葉も出ません。

 少女は、お城のバルコニーのような場所に、降り立ちました。
 と、そこが高くて危険な場所だということが、そのときやっとわかったのでしょう。
 ひきつった顔をした少女は足をすくませ、へたりとすわりこんでしまったのです。
 まだ小学校にも上がらないくらいの、赤いコートを着た小さな女の子。両足には雪と区別がつかないくらい真っ白な、毛糸のタイツをはいていました。

「おい、あんなところに女の子が!」
「誰か、助けてあげて!」

 お客さんたちは、声をそろえて言いましたが、誰もそこを登ろうとはしませんでした。
 女の子のお母さんも、声も出せずに、おろおろとするばかりです。

「よし、ぼくが助けてくるよ。ここで待ってて!」

 ゴンは、お母さんにそう話しかけると、たくましくなったその体をおどらせ、雪像の壁をごつごつと登っていきました。両腕に、力がみなぎります。

 と、すぐに女の子のいるバルコニーにたどり着いた、ゴン。寒さにガチガチと震える女の子にかけよって、声をかけました。

「もう大丈夫だよ。いっしょに降りようね」
「……ありがとう、お兄ちゃん!」

 女の子を背負ったゴンが、こんどはゆっくりと、下へ降りていきます。
 辺りから湧き上がった、拍手はくしゅ喝采かっさい

「さあ、着いたよ。お母さんのところへ、お行き」
「ありがとう! じゃあ……お礼に、今日一日、私がお兄ちゃんの彼女になってあげる! いっしょに遊ぼうよ」
「え?」

 ゴンにできた、初めての彼女。そして、ちいさくて可愛らしい、おませな彼女。
 名前は、あゆみちゃんといいました。
 あゆみにぐいぐいと手を引かれ、たくさんの雪像を見て回ったり、すべり台をすべったりして、ゴンは一日、楽しくすごしました。

「ゴン兄ちゃん、また遊ぼうね!」

 女の子は、辺りの雪を一瞬でとかしてしまいそうなほどのぽかぽか笑顔を浮かべ、お母さんと手をつないで、帰っていきました。
 ゴンはそのとき、自分のたくましい腕がつくった雪像を見て笑うあゆみちゃんの顔を想い出し、雪像をつくる仕事ができて良かったな、と思ったのです。

(最初はあれほど、目立たなくて嫌な仕事だったのにね――)

 母と娘――もうかなり小さくなった親子の後ろ姿を見送りながら、ゴンは、ほろほろと優しく笑ったのでした。


  ―おしまい―

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