盗撮された下着泥棒PDFで表示縦書き表示RDF


この物語はフィクションであり、実在の事件、人物などとは一切関係ありません。
盗撮された下着泥棒
作:頬白丼


「ああ、ツクシ、ちょうどいい所に来た。彼女とコレを観てくれ」
 新聞部員、春日ツクシ(かすが つくし)が部室に入るなり、僅か二名の新聞部員のもう一人、桜井龍人(さくらい りゅうと)に、そう言われた。
 部室には龍人の他にもう一人、女子生徒が来ており、端にある応接用のソファに、龍人と向かい合わせで座っている。長い髪をポニーテイルにした、どこか落ち着いた印象のある生徒だ。
 ツクシは彼女に軽く会釈をし、龍人に歩み寄る。どうやら、龍人が言う“コレ”とは、DVDのようだ。サイズからして、家庭向けのビデオカメラに使用する物だろう。
「別にいいけど、リュートは観ないの?」
 龍人は首を振り、ツクシにDVDを渡す。
「女のツクシにしか頼めないことだ」
 そう言われ、DVDの内容に察しがついたツクシは、テレビをつけ、パーテーションを移動させ、外から見えないようにした。龍人はすでにパーテーションの外に出ている。
「あの、ええっと……」
 女子生徒に確認しようとして、まだ名前を訊いていないことに気付く。
「あ、宮野涼子(みやの りょうこ)です。桜井くんと同じ、二年一組です」
 丁寧な自己紹介に、ツクシも恐縮して。
「あ、春日ツクシです。二年三組です」
 と、丁寧な自己紹介で返す。
「……で、宮野さん。このDVDには、宮野さんのプライバシーに関わる映像が入っていると思います。これから上映しますが、いつでも停止していただいて結構です。また、私も内容を確認しますが、いいですか?」
 涼子は同意の意思を、大きく頷くことで示した。
「解りました。では、流します。リモコンをどうぞ」
 ツクシはDVDデッキの再生ボタンを押し、テレビのリモコンを涼子に渡した。いざというときは、テレビの電源を消してくれ、ということだ。
 テレビには、誰も映っていなかった。ツクシは軽く拍子抜けするも、カッコよく決めた手前、黙って画面を視る。場所はツクシも見覚えがある。プールの更衣室だ。全体を広く捉えたアングルで、更衣室の奥の隅、ロッカーの上辺りに設置されているのだろう。
 数人の女子生徒が入室した後、涼子が入り、入口から一番近いロッカーで着替え始めた。
 水着に着替え終えた涼子はそのままプールへ繋がるドアを開け、退出。
「……えーっと、これだけ?」
 思わず口をついて出てしまう。もっと過激な映像を想像していたからだ。
「いや、重要なのはその先だ。早送りしてみるといい」
 パーテーションの向こうから、龍人の声が聞こえる。ツクシは周りを確認してみるが、龍人が覗いている様子はない。
 龍人に言われたとおり、早送りをする。
 やがて、更衣室から誰もいなくなったころ、一人入室した。
「これ……え?」
 入室したのは、服装から見て男性。しかも教員のようだ。
「体育の松川!」
 体育教師の松川広志(まつかわ ひろし)だ。三十代半ばで、どちらかというと厳しく、生徒の評判は悪い。
 松川はゴソゴソと手探りをすると、涼子の下着を持って退出した。
「松川先生が……私のパンツ……」
 それを聞き、思わず視線をスカートに向けてしまう。裾からは、体育着のハーフパンツが覗かれる。
「入ってもいいかな?」「大丈夫ですよ」
 パーテーションをずらしながら、龍人が入ってきた。
「宮野さんの下着を盗んだのは、体育科の松川教諭で間違いない、と。宮野さんはどうしたい?」
 龍人が涼子に尋ねる。
「どう……って、例えば?」
 涼子は、どう答えればいいか、解らないようだ。
「記事にしていいかどうか。記事にする場合、もちろん宮野さんの名前は伏せます、が、周囲に知られる可能性が高いですね。当然、記事にしない場合でも、我々は変わらず協力します」
 龍人の長い説明も、涼子は理解しているようだ。
「私が下着を盗まれたのは、もうみんな知ってます。だったら、松川先生の悪行を公開して欲しいです」
 しっかりとした口調で、そう言った。
「あの、あげ足取るようで悪いんだけど……」
 おずおずと、ツクシが割って入る。ところが、後に続いたのは龍人だ。
「記事にする方向で調査しますが、宮野さんを含め多数の生徒が盗撮されていたことは、我々しか知らない。盗撮に関しては、どうしますか?」
 まさにツクシが言いたいことだった。この場にいる三人が、ちゃんと盗撮を認識し、涼子がどこまでを同意したのかの確認である。
「リュート……相手は女の子なんだから、私が訊かないと……」
「あ、失礼しました」
 男性に“盗撮されている”などと言われれば、あまり良い気はしないだろう。ただでさえ盗撮されているというのに、追い撃ちをかけるようなものだ。
「いえ、気にしないで下さい。桜井くんには手伝ってもらってるんですから……それで、盗撮の方は……考えさせて下さい。盗撮の被害者は私だけではないんですから……」
 無理もない。そう即決できるものではないだろう。
「解りました。盗撮犯も解ってませんし、記事になるのは当分先のことでしょう。では、後は任せて下さい。宮野さんは、下校してもらって結構ですよ」
 しかし、涼子は動かない。
「あの……一人じゃ……その……」
「リュート?」
「……ツクシ、調査は明日からにしよう」
 この日は、そのまま三人で帰ることになった。



 その日の夜、ツクシの携帯電話に、龍人から着信があった。
「どしたの?」
『今日のことだが、全然説明してなかったんでね。本当は宮野さんが帰ってから話そうと思ってたんだけど、送るハメになったから、こうして電話した訳だ』
 確かに、ツクシはいつの間にか巻き込まれ、概要はなんとなく解りはするものの、龍人がDVDを入手した経緯などが解らない。
「ゼヒゼヒ教えて!」
 マイノートパソコンに、メモを取る準備をする。
『今日の四時間目、一組と二組の水泳が終わった後、宮野さんの下着がなくなってることが発覚した。まあ、ツクシはさっき観たから解るだろうけどね』
「それの犯人は松川だったね」
 体育科の松川。盗撮カメラがあるとは知らず、カメラの前で堂々と下着泥棒を働いた、運のない教師。まあ、彼には否しかないので、順当なだけだ。
『ああ。マヌケだが、同情はできない。天羅地網。悪は天によって裁かれるべし……って言いすぎか……で、昼休みに彼女は更衣室へ行って、改めて探したところ、指定の水泳カバンに入れられた、盗撮カメラが見つかった』
「ん? じゃあ、リュートは彼女からDVDをもらっただけ?」
『ああ。物が物だけに、自宅では観にくいし、他の子の姿も映ってるだろう……ってことで、再生機器もあるし、こういった事件の処理に慣れてるであろう新聞部に預けた……という経緯だ』
「なんか嬉しいね。信用してもらって」
 普通なら教師に預けるところ、新聞部に預けたのだ。少なくとも教師より信用してもらえていると考えていいだろう。当時は知らなくても、松川のような教師がいるわけだから、結果的に最良の判断だ。
『だから、その信用に応えなければならない』
「そうだねっ! じゃあ、明日は松川に下着ドロのことで話を訊かなきゃ!」
『いや、それはダメ』
 気合が入ったというのに、いきなりのストップ。しかし、龍人が言うからには、なにかあるはずだ。
『確かに松川の犯行だし、DVDを見せれば言い逃れはできない。でも、現段階で例のDVDを見せた場合、間違いなく“カメラは新聞部が取りつけた”と言ってくるね』
「ヒドイ! そんなこと通るわけないじゃない!」
『残念ながら通る。盗撮DVDを持ってるヤツが、一番盗撮犯っぽいだろ?』
「うう……でも仕掛けてないから、仕掛けたって証拠はないじゃない」
『その代わり、仕掛けてない証拠もない。となると、なぜこのDVDを持っているか、だ』
「それは宮野さんに預けられたからだよ。……あ! 宮野さんに証言してもら……っても、誰が仕掛けたかは判んないか……むしろ『証拠隠滅のために預かった』って思われるかも……」
『そうだ。逃げるために必死なヤツは、何でもしてくる。となれば、盗撮犯を特定しないことには、松川に証拠をつきつけられない』
「うう……犯人は解ってるのに……」
『ま、しかたない。半分は終わってるんだから、後半分と考えよう』
「そっか……そだね」
 そこで、彼女はふと気付く。普段のカバンの隣に置いた、指定の水泳カバンに。
「……ところでリュート、その盗撮カメラ、いまドコにあるの?」
『いまは俺の手元にある。明日の早朝、同じモデルのディスクを入れて、元の場所に置いておくつもりだ』
 元の場所、つまり……。
「って、リュートが盗撮してどーするの! 明日の六時間目は私も水泳あるんだよ?」
『正常に動くけど、レンズとマイクは殺してある。録画しても、なにも映らないし、なんの音も記録されない』
「……ホント?」
『ウソついてどうする』
「じゃあ、何で危険なマネしてまで、仕掛けるの?」
 なんとなく、ツクシも理由は解っている。が、それが予想通りだと確かめるのが、楽しみでもある。
『犯人をハメるために決まってるだろ』
 それはツクシの予想通りの答えだった。

 翌日の昼休み、ツクシは部室に呼び出された。相手は当然龍人である。
「どしたの?」
「いろいろ。話しておくべきこととか、やって欲しいこととか、だな」
「結構大詰め風。犯人判ったの?」
 ツクシは冗談混じりに言う。
「見当はついてる」
「え! 誰?」
 ツクシは容疑者候補すら把握できていない。それなのに、龍人は犯人の見当がついていると言うのだ。
「とりあえず順を追って行こう。まず、更衣室にカメラを仕掛けやすい人は誰?」
 これは簡単な問題。ツクシにもすぐ判った。
「体育の先生ですっ!」
「そうだな。カギを管理してるのは体育科だし、更衣室、プール付近にいても不自然じゃない」
 教員用の更衣室は、生徒用更衣室の隣にある。“忘れ物をした”とでも言えば、見咎められることはない。
「でも、体育の先生六人いるよ?」
「不特定多数から六にまで絞り込めたじゃないか。いや、まさか自分が仕掛けたカメラの前で、下着泥棒をするバカはいないから、五だね」
 改めて確認することではないが、盗撮に関しては、最初から松川は除外している。
「なんか『特定されてきた』って感じだね」
「まだ特定していくぞ。ちなみに、現時点で、俺は一.五人だ」
「なにその小数点?」
「限りなくシロに近いが、可能性が残ってる人が一人。それがコンマ五」
 通常、人間は整数で数える。
「……それはいいけど、なんでそこまで特定できるの?」
「宮野さんの話だと、彼女は入口に一番近いロッカーを使ってたんだよな?」
 言われて、昨日観たDVDを思い出す。
「うん」
「松川は男だ。宮野さんの下着を取ったんじゃなくて、入口から一番近いロッカーの下着を取ったんだろうな」
「あ……そうか」
 いくら体育教師とはいえ、女子更衣室にいては問題。極力女子更衣室にいる時間を減らすために、一番近いロッカーを狙った……というわけだ。
「……それと盗撮犯になんの関係が……あ!」
「解ったみたいだな」
「うん。犯人は女の体育の先生!」
 カメラが仕掛けられていたのは、よりにもよって更衣室の一番奥。
 いつ他の教師や、生徒が来るか判らない中、更衣室内でそれなりの時間をかけて仕掛けるなど、男性では考えにくい。入口付近なら、見付かったとしても“見回り”と言えるが、室内では難しいものがある。その点、女性教師なら、作業中に見付かっても、さも“いまカメラを発見した”ように振る舞えばいい。むしろ、入口付近で作業している方が怪しいくらいだ。
「それで、だ。女性の体育教師は相坂先生、島崎先生、須藤先生の三人がいる。誰だと思う?」
「う……三分の一……」
「三分の一で犯人にするなよ」
「や……野球なら三割打者っ!」
「……解らないってことね。じゃあ、俺が調べた、この三人の情報を教えてやろう」
 そうして、龍人は三枚のメモを取り出した。一人につき一枚、情報が書き込まれている。


相坂早苗(二十七)
担任……一年三組
顧問……陸上部
授業……一年生女子全般
昨日の行動……二、五、六時間目の体育で水泳の指導。一年三組のホームルーム。放課後はトラックで陸上部の指導。ずっと陸上部に付き添っていた。


「相坂先生はシロね?」
 メモを読んだ直後、ツクシが口を開く。
「どうしてそう思う?」
「もし相坂先生が犯人なら、DVDは六時間目が終わったときに、更衣室の見回りをしながら入れ換えるはず。入れ換えなくても、チェックくらいはするでしょ? すると、昼休みの段階で宮野さんがカメラを回収してたから、カメラが無いことに気付くよね? そーなったら、部活の指導どころじゃないわよ。怪しまれないために少しは顔出すかもしんないけど、『ずっと』はムリだと思う」
「ん……少し弱いけど、まあいい。相坂先生ではないという点は、俺と一致してる」
 龍人と考えが一致しているだけで、嬉しさがこみあげてくる。
「とりあえず、島崎先生と須藤先生のメモ、読んでみろ」



島崎一恵(三十八)
担任……二年四組(副担任)
顧問……お笑い同好会
授業……二年一、二組。三年三、四、五組の女子体育全般
昨日の行動……三時間目、三年三、四組の体育(テニス)。四時間目、二年一、二組の水泳。更衣室の最終戸締まり。掃除監督場所……プール及び更衣室等



須藤光枝(三十六)
担任……三年二組
顧問……女子バレーボール部
授業……二年三、四、五組。三年一、二組の女子体育全般
昨日の行動……朝、更衣室を開ける。一時間目、二年五組の体育で水泳の指導。三年二組のホームルーム。放課後女子バレーボール部の指導。



「補足すると、プールの授業がある期間は、朝は須藤先生が更衣室を開け、放課後は島崎先生が更衣室を閉める当番になってるらしい」
「って、この二人がめちゃくちゃ怪しいじゃん!」
 毎日更衣室を開ける人と、毎日更衣室を閉める人。どちらでも、カメラを仕掛けたり、DVDの入れ換えは容易だ。
「さっきツクシが言った、『相坂先生が犯人でない理由』それと、朝も放課後も更衣室の開け閉めの当番じゃない。盗撮しようとするなら、立候補してでもやるはずだ。逆に、若い先生に当番を押し付けそうなものだというのに、彼女がやってないことで、年輩の先生がやってる不自然さが目立つ」
 つまり当番の教師どちらかが、“立候補してでも”当番になった可能性が高い、ということだ。
「なるほど」
「まあ、十中八九、犯人は『彼女』だろうから、決定的な証拠の回収を頼む」
「決定的?」
「ツクシ、俺がわざわざ盗撮カメラを元に戻しておいて、何も仕掛けないと思ってたのか?」
 ツクシは、その“仕掛け”の回収を命じられた。


 水泳の授業が終わったあとに、龍人の“仕掛け”は回収した。その結果を龍人に電話したとき、“放課後、直接犯人のもとへ行け”と指示を受けた。セリフに関しても、である。
 目当ての教室へ行き、ホームルームが終るのを待つ。やがて、出てきた教師に、話しかけた。
「先生、女子更衣室で、盗撮カメラがみつかったんですけど……」
 教師に慌てた様子はない。
「そう、それがそのカメラね? どの辺にあったの?」
 ……だが、墓穴を掘った。
「先生、確かにカメラは水泳カバンに入ってましたけど、これは私のカバンです」
 教師の顔に、“しまった”と書いてあるかのようだ。
「不思議ですね。水泳カバンに入ってたって言ってないのに、私の水泳カバンと間違うなんて」
 教師は、視線が定まらない。
 そして、まったく別の方から声をかけられた。
「須藤先生、カメラはこっちです。廊下で立ち話もなんなんで、ちょっと部室までご足労願えますか?」
 龍人と涼子が、カメラを持ってやってきた。傍らには、カバンを持った松川もいる。打ち合わせ通りなら、須藤のカバンだろう。
「では、私は……仕事があるので」
 カバンを龍人に預け、逃げようとする松川に、龍人が声をかける。
「すいません、松川先生。カメラ発見の証人なんで、一緒に来ていただきたいんですよ」
 しかしまわりこまれてしまった。


 部室に場所を移すと、龍人は語り始めた。
「須藤先生。あんな二時間ドラマや推理小説やマンガやアニメで散々使い古された手法で、あなたが盗撮犯と特定したわけじゃないですよ」
 暗に“須藤は使い古された手法にハマった”とも言っている。
「そ……そもそも私はそんなカメラなんて知らないわよ。彼女が持ってたから、それがカメラかと勘違いしただけ」
「テンプレートな言い訳、ありがとうございます」
 見越している、ということだ。
「とりあえず、昨日の昼休み、宮野さんがカメラを発見、回収したときのディスクについてです」
「き……昨日の昼休みに回収? なんで今日あったの?」
 須藤は、やはりカメラが回収されていたことに気付いていなかったようだ。驚きのあまり、つい口から出てしまったのだろう。
「今朝、僕が同じ場所に置いときました。ああ、カメラとしては死んでるので、盗撮にはなりませんよ。あと、今の発言は聞き流しておきます」
 龍人に言われるまで、自身の問題発言に気付かなかったようだ。
「い……いえ、今日発見したみたいだったのに、昨日だったから、驚いちゃって……」
「聞き流したので、言い訳すると不振点に気付いちゃいますよ?」
 もちろん龍人は気付いているハズ。須藤は、完全に黙ってしまう。
「で、ツクシ、昨日カメラにセットされてたDVDには、四時間目の映像だけしかなかったんだよな?」
「うん」
「で、全員、制服から水着に着替えてたんだよな?」
「ん……そうだね。逆はなかったなあ」
「僕も昨日の四時間目は水泳だったんですが、男子も制服から水着に着替える生徒だけでした。つまり、三時間目はプールが使われてない、ということです。これは確認しましたし、須藤先生、そうですよね?」
「昨日は火曜だから……そう……ね。三時間目だけプールが空いてたわね」
「その三時間目に、あなたはディスクを交換したんです」
 まさに直球勝負。はっきりと、断定口調。
「な……何をいきなり」
「三時間目に授業がない女性体育科教師は、あなたと相坂先生だけです」
「どうして私なの? 男は? 相坂先生は? なんで三時間目に交換したって?」
「矢継早に言わないで下さいよ。……まず、男性教師ですが、有り得ません。松川先生!」
「うわ!」
 突然話を振られ、驚いたようだ。もちろん、心当たりもイヤというほどあるのだろう。
「もし松川先生がカメラのディスクチェンジをするために女子更衣室に入るとしたら、どうしますか?」
「わ……私は女子更衣室に入ったことなど無い!」
 ムキになっているところを見ると、龍人が悪者に見えてくる。
「先生、仮定の話ですよ。それに、さっきカメラの回収に入ったじゃないですか」
「む、そうだった。私なら、あんな奥には仕掛けない。ディスク交換中にみつかったら大変だからな」
 まるで経験者が語っているようだ。
「ということです、須藤先生。なぜ三時間目なのかというと、単純に四時間目の直前の映像しかないからです。一、二時間目に水泳があったのに、その映像がありません。だとしたら、『三時間目にディスクチェンジして、次は翌朝』が自然なんです」
「相坂先生は? 島崎先生は?」
「両先生とも、午後に更衣室に行ってます。仕掛けたのがこのどちらかの先生なら、そのときにカメラがないことに気付きます」
「よく解らない。相坂先生と島崎先生がカメラがないことに気付いたらどうなるのよ」
 須藤は龍人が言わんとしていることが理解出来ないようだ。
「昨日なかったのに、今日はある。普通なら怪しがって、ディスクを交換するハズがありません。しかし、今朝仕掛けたときと、違うディスクが入ってるんですよ」
 龍人は、カメラからディスクを取り出して見せる。
「ディ……ディスクが違うって、どこに証拠が……」
「須藤先生。なぜ松川先生があなたのカバンを持ってるか、いまなら解りますよね?」
 須藤は黙る。沈黙で、龍人の問いに答えているのか。
「松川先生。カバンを開けてください。良いですね? 須藤先生」
 やはり須藤は沈黙。唇の端が、若干震えているようだ。
「勝手に開けちゃいますよ? じゃ、松川先生。よろしくお願いします」
 言われるまま、松川はカバンを開ける。中から、化粧品などと共に、昨日入手したDVDと、同じモデルのディスクが二枚出てきた。
「須藤先生、これはなんですか?」
 須藤は突然笑いだした。その声が、部室に響きわたる。
「それはバレー部の練習を撮影した物よ」
「なるほど。では観ても構いませんよね?」
「ダメよ。報道はお断り。他の学校に知られたら大変なのよ」
 情報公開をしないという理由で、決定的なものを見せない。これでは、疑わしくても、疑わしい止まりになってしまう。
「そうですか……ツクシ」
 だが、龍人は自信タップリだ。
「はいっ! ブラックライトー!」
「未来の世界のネコ型ロボットか? しかも大山ヴァージョン」
 ツクシがディスクにブラックライトを当てると、片方のディスクのレーベル面に“あなたが盗撮犯。by新聞部・桜井龍人”という文字が浮かび上がった。
「さっき言った通り『昨日なかったのに今日あると怪しい』んですよ。このディスクは僕が仕掛けた物です。更衣室にあったハズですが……バレー部は更衣室で練習してるんですか?」
 須藤は膝から崩れ落ちた。



「じゃあ私はもういいな? 仕事が……」
 退出しようとする松川の手を、龍人が掴む。
「松川先生、昨日我々が入手したDVDには、四時間目の着替えの映像が入ってて、もちろん、みんながプールに出ていった後も映されてるんですよ」
 松川は青ざめる。
「さ……桜井。観たのか? 盗撮ビデオを……」
「僕は観てませんが、ツクシと宮野さんが確認してくれました」
「そ……それが……」
「なんでも、昨日の四時間目に、宮野さんの下着が盗まれましてね。その犯人が……誰が映ってたんだっけ? 宮野さん」
 涼子は一瞬困惑するも、毅然として、その名を挙げた。
「松川先生です」
「ツクシも確認したよな?」
「うん」
 この場にいる女子生徒二人に指名された。その上。
「だ、そうです。なんなら、観ますか? ご自分の雄姿を」
 龍人の言葉がトドメとなったようだ。
「な……なあ、桜井。目的は金か? 成績か?」
「そ……そうよ。桜井くん。私達にできることならなんでもするから……今回のことは忘れてもらいたいなぁ……」
 須藤まで。みごとに腐っている。
「ねぇ、リュート。こんなこと言ってるけど?」
「もうすでにムリです」
 情け容赦のない龍人の一言。
「どうして……来年の入試だって、指定校推薦を優先して……」
 往生際悪く、松川は好条件を惜しみ無く挙げるが、龍人が割って入る。
「『もう』ムリなんです」
「き……君たちが黙ってさえいてくれれば……」
「ヒントは二つ」
「なんのマンガよ……」
 指を二本立てた龍人に、思わずツッコミを入れるツクシ。
「あの隅にあるCCDカメラと……」
 龍人が指差した先に長さ10センチ程度の円筒が確認され、こちらを向いている。
「そこの机に置いてある、マイク。あと……」
 部室のドアが突然開き、黒いツヤのある髪をオールバックにした男が入ってきた。
「タイミングよく現れた、校長先生」
「……リュート、ヒント三つじゃない……」
「うん。じゃあ三つ」
 しかし、須藤と松川の耳には届いていないようだ。



 一部始終をカメラ越しに見ていた校長により、無事、須藤と松川は後日臨時の職員会議に掛けられることとなった。
「校長先生、ありがとうございます」
「いや、スマンなぁ。本来あってはならないこと。厳罰に処さねば」
「よろしくお願いします」
 校長は“あとは任せろ”と言って、退出していった。
「あの……ありがとうございました」
 涼子が深々と頭を下げる。
「別に大したことじゃない」
 龍人が事も無げに言う。
「でも……」
「あまり気にしないでね。私たちはヘンな犯罪がイヤなだけだから」
「そもそも、犯罪好きってヤツはあまりいないだろ」
 ツクシのフォローと龍人のツッコミに、涼子から笑顔がこぼれる。それを見て、龍人が一言。
「我々は、宮野さんに笑顔が戻ったことが、一番嬉しい」
「カッコいいこと言わないの。ほとんど趣味のクセに」
「趣味なんですか?」
「そう、趣味。そのうち、どっかのフリーのルポライターみたいに、不振人物として連行されるわよ」
「ルポライター?」
「それは困る。兄はいないし、肉親や知り合いに刑事局長はいない……」
「刑事局長?」
 涼子はさっぱり解らないようだ。それなりに有名な話なのだが。
「まあ、万事解決めでたしめでたし、だねっ!」
「いや、もう一つ残っている」
 龍人は、まだ仕事が残っているというのか。ツクシは何が来てもいいように構える。
「職員会議で使う映像の編集だ。昨日のDVDから、松川の犯行のシーンだけ抜き出せばいい」
 ツクシは敬礼のポーズをとる。
「りょーかいですっ!」
「ま、明日でいいだろ。今日は解散だ」
「あ、あの……」
 涼子が口を開く。
「今日も……お願いできますか?」
「平気平気大歓迎! 一緒帰ろ。事件も解決したし、優しいリュートがなんかおごってくれるよ!」
「……ツクシはそればっかだな」
「今日はアイスがいいなぁ」
「宮野さんには、ネタ提供の対価ということだから、やぶさかではない。だがツクシにおごる理由はない」
「いーじゃんいーじゃん。気にしないの」
 なんだかんだ、結局おごるハメになってしまうのが、いつもの二人なのだ。


お読みいただき、ありがとうございます。
以前投稿しました作品で、予想外の好評をいただいたためにリュート、ツクシのコンビ再登場となりました。
とはいえ、以前投稿した作品を読んでないと解らない……というような構造は嫌いなので、やっていません。この作品はこの作品だけでいいのです。
また。
ご感想等いただけますと、非常に励みになります。酷評も含め、必ず読ませていただいてますし、参考にさせてもらっています。よろしくお願いいたします。
そして、重ね重ね、ありがとうございました。













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