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モブの元RPGの進め方 作者:O.F.Touki

一章 ビンセントの歩み

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一章 20話 『三人でのディナー』

路地に灯る賑やかな光
 夕日が地平線に残り、地平線から広く放たれる赤みをおびた強い光は、街の建物を照らして全体に弱く反射する。
 東側は青く暗がり、詩人でもいれば歌の一つでも詠みたくなるような、街の中に自然の美しさが広がっていた。
 そんな街の中に広い路地がある。
 少し前までは人が良く通る場所で、露店も多かった為に賑わい場であったが、今道を通る者は三人組とその他二人程度だった。
 そんな寂しくなった路地でも、一つの店だけは明かりをともしている。
 店の扉を開放し、付け加えられた折り畳み式のオーニングが入り口部分を覆う。
 路地に小さくテーブルと椅子を展開した、オープンカフェのような店が三人の目に映る。

【デリツィエ クロイス店】
「やっててよかった」
 三人が店に入る。
「「いらっしゃいませ」」
 客を確認した二人の店員が迎え入れてくれた。
「お久しぶりです。ビンセント様、カミラ様、ミル様」
 挨拶をしてきた男の名前はトマス・リー。元商人で、現在はシェフ見習いをしている。
「お久しぶりですトマスさん、お元気そうで何よりです」
 以前ビンセント一行がネスタ山からクロイス国へ戻るときに、平原で出会い、知り合いとなった。
「どうぞこちらの席へどうぞ」
 店内は客で埋まっており、空いているオープンテラス席へと案内をされた。
「この広い路地、ここだけ賑わっていて驚きましたよ」
「そうですね、デリツィエは、私が見習いを始めさせていただきました日の限りから見ると、お客様が途絶えた日がございません」
 ちらっとキッチンカウンターを見ると、カウンター席に座っている客と話している、シザ出身の店長が料理をしている。
 客の顔も皆満足に満ちており、カウンターの話している客は笑いと笑顔が絶えない。
 流石はデリツィエオーナーである、ラースの弟子。
 与えられた看板で移動支店にもかかわらず客心を掴んでいた。
 店長がこちらに気が付いたのか、目の前の客に粗相無く、こちらにお辞儀をした。
「流石ですね」
「店長は流石です。こちら、メニューです。オーダーがお決まりになられましたら、いつでもお声がけください」
 トマスがメニューカードを三人に見せてテーブルに置いた。
「いい匂いだねービンセント、カミラ」
 スンスンと香りを嗅ぐミルの口からよだれが少し見えたが、彼女は垂れ流してはいけないことを学習していた。
 ジュルッとすすり、災害は免れた。
「そうだね、いい香り」
 多所から別の匂いが香るが、交わっても決して不快ではなく、全てが食欲を増加させる香りとなり、人々の嗅覚と食欲を刺激する。
「俺はもう、腹がすいてたまらないんだが、何にする」
「お肉! お肉食べたい! 」
「ミルは肉だな。何があるかな……」

 ・リードヴォーのステーキ
 ・マトンのステーキ
 ・煮込み肉と焼き野菜添え
 ………………

「肉でもいろいろあるわね。もうこれ、トマスさんに聞いた方が早いんじゃないかしら」
「カミラは決まった? 」
「私はこの、ブカティーニアマトリチャーナと、ウサギ肉の香菜とトマトのソースかけと、赤ワインにするわ」
「ぶが、てぃー、に? なにそれカミラ」
「スパゲティっていうやつよ。後で分けてあげるわね」
「やったぁ! 」
「ビンセントは決まったの? 」
「うーむ、どうしたもんか、二人とも肉だよな……、俺トマト煮食べたいな、トマトトマト……」

 ・仔羊スネ肉の煮込み
 ・トマトとジャガイモのスープ
 ………………

「決めた。俺コレにするわ」
「ビンセント、それ好きね」
 軽く手をあげてトマスを呼ぶと、接客を失礼なく終わらせて三人のもとへ来た。
「ご注文をお伺い致します」
「トマスさんすみません、料理のことで質問いいですか? 」
「もちろんです。何なりと」
 カミラはミルにメニューを見せて、指をさして聞かせた。
「お肉の料理で、リードヴォーのステーキと、マトンのステーキというのが、あり、ますが」
 ぎこちなくミルが質問をする。
「このお肉料理は、どういうものなんですか? 」
 よく言えました! と、静かに両手を合わせて笑みを浮かべるカミラ
「リードヴォーとは、まだ乳飲み子の仔羊の胸腺肉でとても柔らかく、ほんのりミルクの香りがして大変美味です。一頭が小さく、とれる肉も少ないので貴重なお肉とされています。それを焼いてステーキにしております」
 わかりやすく説明をするトマス、ミルに与えられた情報は、貴重でお肉の量が少ないという事だ。これを伝えられたトマスは流石だ。
「マトンとは、先ほどの仔羊と違い成羊の肉です。リードヴォーと違うのは、程良く濃縮された旨味と肉の香り高さ、食感も大変食べごたえのある肉です。それを大きく焼いてステーキにしております」
 肉・食べごたえ・大きい。この言葉はミルの目に輝きを増加させるのには十分すぎた。
「こ、これにします! マトンのステーキで! 」
「承知致しました」
「あ、後、この子にミルクとパンを」
「承知致しました。この時間帯に料理を頼まれたお客様には、パンをサービスさせていただいております」
「それは助かります。ありがとうございます」
 ミルのわくわくは止まらない。
「ビンセント様、カミラ様は如何なさいますか? 」
「俺はこの、仔羊スネ肉の煮込みとトマトとジャガイモのスープ、と赤ワイン」
「私も赤ワイン、料理はブカティーニアマトリチャーナと、ウサギ肉の香菜とトマトのソースかけ」
「承知致しました。メニューをおさげいたします。ただいま今前菜をお持ちしますので少々お待ちください」
 トマスがお辞儀をしてキッチンへと戻って行く。
 店長にオーダーを伝えると、前菜を受け取り戻ってくる。
 デリツィエでは全ての接客を記憶で行っており、トマスの努力が見て取れる。
「お待たせいたしました。前菜の揚げたまねぎを乗せたナスとレタスのサラダです」
 前菜と食器類を出し終えると、浅くお辞儀をしてまた戻って行った。
「わー美味しそう! 」
 小さく切られたたまねぎがカラッと揚げられており、中口に切られた焼きなすとレタスの上にちりばめられており、酸味の効いたソースがかけられている。
 ビンセントがミルとカミラの小皿にサラダを盛って、最後に自分の皿にもサラダを盛る。
「お、ありがとうビンセント」
「ありがとうビンセント! いただきます! 」
「「いただきます」」
 それぞれフォークでサラダを口に運ぶが、ミルのフォークの持ち方はよろしくない。その持ち方は、ミルならば狩を行うときの持ち方だろう。
 横目で幸せそうなミルとその食器の持ち方を、カミラは表情変えずに見ている。
(また教えてあげないといけないわね、でも今日はいいでしょう、楽しく食べましょ)
「今日のサリバンさん、驚いたな」
 ビンセントが口を開く。
「なんとなく、そんな感じはしてたけどね」
「え、そうだったの? しかしカミラが力解放したときのサリバンさんは、怖かったな」
「恐ろしさに安心の喜びが勝ったような、別ベクトルのべドみたいな感じだったわ」
 べド・サイモンについて詳しく知っているモノは数少なく、ビンセントは知らないでいた。
 初めてビンセントがその名を聞いたのは、開拓の日、ミルと出会ったときにちらっと聞いた程度である。
 今日カミラからべドのことを聞いている時は、興味津々に聞いていた。
「宿屋で働く前にそんな奴と戦ってたんだな。氷の不死者って、その名の通り不死身だったんでしょ」
「確かに不死身だったわよ。体が氷になって、私がどれだけ砕いても笑ってたし、痛みもなかったんじゃないかしら」
「笑ってたのか……」
「大笑いよ。あいつは完全にくるってたわね、最後の最後まで変わらなかったわ」
「人がそんなんになるんだな」
「心が弱い人だったのよ。多分」
「なるほどね」
 暫く話す中、トマスが料理を持ってきた。
「料理をお持ち致しました」
 トマスがそれぞれの料理名を伝えながら、料理を三人の前に出した。
 肉の香ばしい匂い、赤ワインの柔らかで少し酸味のある香り、トマトの香りがテーブルを満たす。
「わぁ――――! 」
 ミルは目を輝かせて口を緩く大きく広げ、満面の笑みを浮かべている。
「他に何か必要なものがございましたらお伝えください。
 それでは、ブエン プロベーチョ(どうぞ召し上がれ)」
 料理を運び終えたトマスがお辞儀をして三人のもとを離れて、他の客の接客に向かった。
「よーし来た。食べるぞー」
「ビンセント、先に」
 カミラがワインのグラスを右頬に近づけて揺らす。
「あ、そうだな」
「「乾杯」」
 カミラとビンセントがグラスを三人の中心に少し掲げていった。
 それを真似てかミルも、
「乾杯! 」
 ミルクのはいったグラスを同じように持って二人の目を見る。
 ミルは、ミルクを飲んで、ナイフの使い方もわからずにフォークのまま肉を食べる。
 大きくて食べにくいことに気が付き、フォークで肉を切る。
 肉を口に頬張ったミルの破顔を確認した二人は、つられて一緒に笑う。
 二人もそれぞれの料理を口に入れ、ミルと同じような表情になったのは言うまでもない。
 ボウル部分が横に少し広いワイングラスは、ワインの香りを程良く包み込み、飲む際に舌と鼻を喜ばせるようになっている。
 そんなグラスをカミラが持ち、グラスを口に着けて香りを楽しみ、重力とグラスの内面に従って流れる赤い液体は、カミラの下に到着する。
 舌で舌触りと風味、味を確認して、自己拷問に耐えたのちに呑み込む。
 そんなカミラを見て、ビンセントは何を思うのか。
(……歳は俺より上だが、この幼い姿であんなにワインを美味しそうに味わうのもどうなんだろうか。店の人や俺らならわかるが、全く知らん人が見たら……)
 案の定何人かの客がカミラをちらっと見たが、トマスのフォローにより双方に対し失礼なくことを済まさせる。
「ん」
 ビンセントの目線はずっとカミラを見ている。
「どうしたビンセント、飲まないの? 」
 それに気が付いているカミラはニヤッとしながら首を少しかかげる。
「なんでもない。飲んでるよ」
 視線を濁してワインを飲みながら、好物のトマト煮を食べる。
 もぐもぐと食べ続けるミル。ビンセントもむしゃむしゃと食べ続ける。
 カミラも食べるが、ミルの視線を受けてか約束を思い出したのか、ブカティーニアマトリチャーナが入った皿をミルの方へ寄せる。
「これがさっき言ったスパゲティっていう食べ物よ」
 初めて見る形状の食べ物に興味津々のミル。
 カミラがフォークを使ってスパゲティを巻いて見せた。
「こうやって、フォークで巻いて、ソースを絡めて食べるのよ」
 スパゲティーが巻かれたフォークのをミルに渡す。
「おぉ――――! ほ、細い! 」
「ほ、細い。確かに、細いな! 」
 初めてスパゲティを見たミルの感想に、ビンセントは吹き出しそうになる。
 巻かれてかたまったスパゲティの塊を口に入れ、またもやミルは破顔する。
「うぉー! こりぇおいしい! 」
 細く、その割には噛みごたえのある弾力、その細長いものに絡むニンニクの効いたピリッと辛いトマトソースが、口内を楽園にする。
「食べ物口に入れたまましゃべっちゃだめよミル」
 ごくんと呑み込んで元気に返事をする。
「普通のスパゲティっていうのはもうちょっと細いのよ。このスパゲティは少し太めで、中が空洞で、ソースがよく絡むのよ」
 ふふん! と自慢げに語るカミラを見て、ミルも興奮してくる。
「もっと細いの!? 」
「もっと細いのよ」
 細い割に味が濃く、食べごたえのあるところが気に入ったのか、ミルはカミラのブガティーニアマトリチャーナを独占する。
「カミラ、料理詳しいなら、料理スキル強化すればいいのに」
「私の場合、スキル値が0.1でもあればカウンターストップしてるも同じなのよ」
「へぇ――」
 ミルにスパゲティをもっていかれて、少し寂しそうな表情をするカミラが、さらりと言うのは、ビンセントにとって、いやおそらく勇者一行以外全ての存在に対しての衝撃発言。
「……ぇ!? 」
 遅れてやってくるビンセントの驚き顔と声はカミラを笑いに誘う。
「あれ、言わなかったっけ。『力』は無限の力よ。スキル値が0でない限り無限に高められるのよ」
「あぁ、何度か聞いたけど、うん。今理解したよ」
 ビンセントが肉を頬張りながらカミラを見つめている。
「そんな顔しなくてもいいのに……。私からしたらビンセントの『境界』のほうが――、いえ、何でもないわ、ごめんなさい」
「あぁ、いや悪い、そういうつもりはないよカミラ。ただ、そんな力を持っていて、力に溺れずに制御しきれてるのが、やっぱり凄いなーって思ってさ。流石カミラだな」
 ビンセントの言葉に少し頬を赤くするカミラは、ワインを飲んでごまかす。
「俺も何気に料理スキル12あるからね。今度教えてよカミラ」
「ビンセントに料理教えたら、ご飯が全部トマト煮込みになりそうね」
 二人が笑い合う中、ビンセントが口を開く。
「なぜ、ばれた。美味しいし、いいと思うのだが」
「本気でやるつもりだったのね。少し驚いたわ」
「煮込みはいいでしょ。煮るっていう調理法は、無駄のない調理法だと思うよ」
「確かにそうだけど、毎日は飽きるわよ」
「美味しいし、栄養も無駄なく取れて、温かい。最高……」
「私が作ってあげるから、料理は教えない」
「えぇ、じゃあトマト煮の週にシチューの日はさむから」
「三食トマトシチューかな? いいわよ作ってあげるから」
 カミラが笑いながら答えて、半分必死のビンセントもつられて笑う。

 暫く話しながら食べて飲んでするうちに時間は経ち、あたりはすっかり暗くなっている。
 他の客もほとんど帰り、三人以外の最後の客が会計を済ませて店を出ようとしている。
「楽しかったです。皆様もおやすみなさい」
「「おやすみなさい」」
 会計を済ませた中年夫婦が幸せな顔をしながら、ビンセント達にも挨拶をして帰って行く。
「賑やか夜だな、クロイス国でこんなに賑やかな夜も久しぶりだ」
 ワインを空け、ビンセントとカミラは夜空を見つめている。
 ミルは――
「スースー」
 机にもたれて眠っている。
「私たちも宿に帰りましょうか」
「そうだな、そろそろ戻るか……ミル、おもいっきり寝ちゃってるな」
「かわいい顔ね」
 ぷにぷにとミルの頬をカミラが指で突くが、まったく反応無しである。
「店長遅くまですみません、お会計お願いします」
「はい。四千八百G(ゴールド)です」
 金額を確認したビンセントはポケットに境界を開いてお金を出した。
「ごちそうさまでした。相変わらずとても美味しかったです」
「その言葉が何よりもの励みになります」
「そういえば、クロイス国内はいつまでいるのですか? 」
「それが、少し決めかねております」
 苦笑しながら言う店長に対し、ビンセントも問う。
「おー、長くいてくださるのは私たちも助かりますが、また何でですか? 」
「ビンセント様とカミラ様が開拓を完了させるものですから、この国に未来を感じました。何よりも、皆様からはなれたくないっていうのもありますがね。ハハハハハ」
 店長が笑いながらそう伝えると、ビンセントも一緒に笑った。
「トマスさんも物覚えが早くて驚かされますよ」
 隣で聞いているトマスは少し照れくさそうにしている。
「そうですか、それは良かったです。私も、クロイス国を盛りあげられたらそうしたいと思っていますので、もう少しクロイスにとどまってもらえれば私たちも嬉しいです」
「期待させていただきます」
 笑顔耐えずに握手を求める店長に、ビンセントは固く握手をする。
(……開拓成功のこと、どこで聞いたんだろうな)
 ビンセントの中で少し疑問が残るが、気持ちの良い夜に疑問はすぐに忘れる。
「それでは私たちはこれで、ごちそうさまでした! 」
「ごちそうさまでした」
「「ありがとうございました」」
 ビンセントがミルをおぶり、カミラと共にデリツィエを出た。
 暗く静かな路地の上には青黒く広がる空。雲はなく、星が多く輝いている。
 涼しい風が吹く。
「気持ちの良い夜ね」
「そうだな」
 二人は微笑み、宿へと歩いていった。
気持ちの良い夜。ミルは夢の中。
+注意+
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