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僕はM3リー

僕の記憶は第二次世界大戦中からある。

だが自我が芽生えたのはここ最近のことだ。


きっかけは耳をくすぐるような声。

甘いスコーンを思わせるような、

可憐な少女の通信が僕に心を吹き込んでくれた。

彼女の声をもっと聴きたい。

戦車内で行われる談笑や連絡以外にも、

日常で彼女がどんな事を話しているのかもっともっと知りたい。


僕はM3リー。戦車だ。


(オッケー!キミの願い叶えて上げるよ!ハハッ!)

だれ!?

(ボクかい?ボクはキミのすぐ側にいる友達さ!ハハッ!)

友達?どういうことなの?

(キミが強く願ったからちょっとだけ助けてあげたいと思ってね!)

願いが叶うの?

(モチロン!今から夕暮れまで魔法をかけてあげる!サア!魔法の世界へご招待!)


鋼鉄の体とは違う……。

軽くて柔らかいこの感じ……。

「僕、人の体になった!?」

(いいかい?タイムリミットは夕暮れまでだよ!あとはキミ次第さ!ハハッ!)

「ちょ、ちょっと待って!」

声は聞こえなくなった。

「僕、男なのに、なんで女子の制服着てるの……?」

スースーする。なんだか居心地が悪い。

でもよく考えたらこれで正解なのかな。

だってここは大洗"女子"学園だから。

校舎が騒々しくなり始めた、お昼休みか。

植え込みから人を探すが見つからない。

「うーん。優季さんいないなあぁ……」

「なにしてるのぉ?」

「ひゃう!?」

今の独り言聞かれた!?


後ろからひょっこり現れたのは探し人、宇津木優季さんだった。


不思議そうな顔で見つめられる。

どうしようどうしよう。

「優季いたー。なにしてるの早くいこー」

「はぁ~い、いまいく~」

そのまま彼女は仲間の元へ行こうとする。行ってしまう。

あれ?止まって、こっち振り向いた?

「ねぇ、貴方も一緒に行かない?」

お誘いを受けてしまった!?

しかしこのまま付いて行くのはちょっとどうだろうか。

「……はい」

ああっ!

考えるより先に返事しちゃった!

「あれ?誰その子?」

「えへへ~、誘っちゃったぁ」「え!ナンパ!?」

「優季ちゃんがナンパ!?」「優季やるー」

はぁ……このいつもの感じ落ち着く……。

なんて安心してる場合じゃないよ!

「貴女お名前は?」

名前!?そういえば人の名前なんて考えてなかった。

え、えーと、えーーーと。

「僕、リーっていいます……」

うわわわそのまま名乗っちゃたよ!

「外国からきたのー?」「僕っ娘です!」

「金髪ふわふわー」「あや触りすぎー」

あれれ?なんか受け入れられちゃったよ。


食堂まで連れて来られてしまった。

そういえばお金とか持ってないんだけど。

「私ランチー」「カレー!」「ラーメン!」「ドリア!」「……そば」

わー、どうしよう。

「好きなのたのんでいいよぉ」「えっ?」

「あたしが無理やり誘ったんだからぁ、奢らせて?」

助かったー、ってなんか情けない気もするけど……。

いや!いつかこの恩は必ず返します!

「あ、ありがとう……」

「あたしカルボナーラぁ」

「えっと、鮭定食」

箸。

しまった、使い方がわからない。

握って刺して、うう……ろくに食べれない……。

「リーちゃんどうしたの?」「あい?お箸使えないの?」

「外国じゃあんま無いもんね」「えっ、外国ってお箸無いの?」

「じゃ~、あたしのフォークかしたげるぅ、交換しよ」

「あ、ありがとうございます」

やっぱフォークは使いやすくていいなあ。


ん?これさっきまで優季さんが使ってたフォークだ。

僕の使ってた箸は……

あっ、優季さんがパスタを口へ運んで、

運んで……、唇へ……、唇……。

はわわわわ……。

シュポン。


……ん。

真っ白なベッド……?

そうか僕はオーバーヒートして行動不能になってたのか。

誰かが運んでくれたのかな……。

はぁ……。なんて情けないんだ僕は。

戦車の時はあんなに彼女たちと共に勇敢に戦えていたのに。

これならいっそ戦車のままだった方が、

「起きた?」

「えっ!?」

なんでここに!?

「あたしもさぼりぃ」

悪戯っぽい笑顔もまた可愛いなあ……。

「ねぇ。先生もいないし、おしゃべりしない?」

「う、うん!」

そうだった、僕は彼女とたくさんお喋りしたかったんだ。


もうチャイムが鳴った、いつも楽しい時間はあっという間だなあ。

いつも通り彼女たちはこれから戦車の練習に……。

あっ!その戦車がここに居ちゃだめじゃないか!

「あの、今日は色々ありがとうございました!」

「もう行くの?」

「うん」

本当に楽しかった。最高だった。

こんなにうれしい事だとは思ってもみなかった。

でも僕は戦車だ。戦車の乙女達のために走るのが仕事だ。

じゃあね優季さん、バイバイ。

「ねぇ、リーくん」

はっとした。今なんと?

「またね」

「はい!」

(ヤァ!時間はまだ残ってるよ!)

いいんです。僕はもう十分満たされました。

(ホントにそうかい?)

どういう事です?

(キミはもっと望んで良いんだ!

 この奇蹟は一回こっきりじゃない!

 もっと大きな可能性を開く事だってできるんだ!ハハッ!)

もっと……。

そうだ、またね、と約束したんだ。

僕はもっと、彼女と過ごしたい。

戦車であるという枠を越えて。

(キミの全ての人生を変えるのはキミ次第だよ!)


ん~ふふ~ん♪ふ~ふふ~ん♪

戦車を磨く。やさしく綺麗にぴっかぴか。


「あれ?優季ちゃん今日早いね?」

「おはようございまぁす」

「そういえば最近ずっと一番に来てますよね」

「えっ!うそうそ!?」

「昼休みもよく来てるぞ」

「えー!……って麻子!またそんなところで、さてはー」

「うぐっ……」

「でもどういう風の吹き回しですか?」

「はっ!そうだよ!?どうしちゃったの優季ちゃん?」

えぇ~、だってぇ。


「戦車が恋人でいいじゃないですかぁ~」



おわり


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