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ブログに短編を投稿しておきました。
アカツキとカタナの話です。
二人が雑談したりイチャイチャするので注意
だったのですが、何故か表示されないので明日なろうに投稿します…。
栞の方は話し合いが終わったようで、疲れたように椅子に座ってドルーアと何かを話していた。一緒に食べるつもりだったので、トレイを持って栞の方へ向かう。その途中、エッグワンと会った。前に《ブラッドフォレスト》を一緒に攻略した『ラケット』のメンバーだ。話す機会は無かったが今回のボス攻略にエッグワンは参加していた。他の『ラケット』のメンバーは参加していなかったが。
ちょうど気になったので聞いてみると、元々エッグワンはソロで攻略組として活動していたらしい。何故『ラケット』のメンバーと一緒に活動していなかったと言うと、彼はβ版経験者だったからだ。ゲームが始まってすぐにエリアに乗り出し、必要なアイテムを揃えてレベルを上げた。その間、他の『ラケット』のメンバーは街に引きこもっていたらしい。死の危険があるエリアに出たくなかったからだそうだ。最終的にエッグワンのレベルが高くなり、街にいた仲間をエリアに連れて行き守りながらレベルを上げさせる。今はまだエッグワン以外はボス攻略に参加するレベルには達していないが、次かその次のボス攻略には参加出来ると思うと言っていた。
色々な事情があるんだな。
今日のパーティには他の『ラケット』のメンバーも来ているらしい。
「それじゃあ、僕は栞の所に行くんで。ボス戦お疲れでした」
「……ああ、そうだ。一つ聞いてもいいか?」
「?」
「前にお前が《屍喰らい》に襲撃されたのって《ライフツリー》にあるモグラ叩きだよな」
モグラ叩きというのは掲示板で付けられたあそこの俗称だ。
「ああ、そうですよ。カタナに教えてもらったんですけど。それがどうしたんですか?」
「いや、ちょっと興味があってな。それじゃあ、お疲れ」
そう言ってエッグワンは仲間の元へ戻っていった。
なんであの場所の事を聞いたのだろうか。
疑問が頭の中に浮かんだが、それはすぐに消えていった。
「こんばんは……」
栞の所に行くと、俺とリンの顔を見て少し気まず気にそう言った。俺もだが、リンも栞との関係はなんとも言えない微妙な感じだからな。リンも気まずげに頭を下げた。
「よし、じゃあボスも倒したし今日は皆で楽しもうぜ。栞、まだ料理持ってきてないだろ? 取りに行ってこいよ」
その空気を破る為に俺は頑張ってテンションを上げた。気まずい空気とか無理。
栞はそうですね、と少し笑うと料理を取りに歩いて行った。既に料理を持ってきているドルーアはその背中と俺の顔を見てニヤニヤと笑っている。
「こんばんはー」
「どうも」
栞と入れ違いに料理を持った林檎と七海がやってきて机に座る。この二人が席に座ったことで、残りの席が俺の正面だけになった。こいつらまた……。
「それにしてもアカツキさん、今日は私達の栞を助けてくださってありがとうございました」
林檎がおっとりとした笑みを浮かべながらそう言った。ドルーアも七海も「ありがとうございました」と一緒に声を合わす。改まって礼を言われるとなんだかむず痒いな。
「本当なら私達が助けるべきだったんですけど……」
「毒のせいで動けなかったんだからしょうがないさ」
「そういえば……アカツキはどうして動けたの?」
「あー、俺《毒耐性》ってスキル持ってるからそれのお陰で毒を喰らわなかったんだよ」
「なるほど……」
しばらく会話していると、急に三人がまたいやらしい笑みを浮かべだした。一体何を考えているんだこいつらは……。
「それにしてもアカツキさん、栞の名前大声で叫んでましたよね」
「ものすごい勢いでしたもんねー」
「終わった後も、栞に撫でられてた」
ニヤリと笑う三人を睨みつつ、隣で不機嫌そうな視線を向けてくるリンをなだめる。くそ、この三人たちが悪い。
「別にいいだろ……。栞を助けたのは兄貴として当然だ。それに昔あいつを守るって約束したからな」
そう言うと林檎はきゃーと嬉しそうに悲鳴を上げ、ドルーアと七海は笑みを深める。リンが隣で犬みたいに唸っているので頭を撫でてなだめる。
「いやーやっぱアカツキさん格好いいっすね」
後ろから声を掛けられ、振り向くとところてんが立っていた。
ところてんは《照らす光》の幹部にして《炎剣》の二つ名を持っているプレイヤーだ。高い実力を持っている。短い金髪と愛嬌のある顔が特徴だ。前の《ブラッディフォレスト》攻略には参加していなかったが、その他で何回か話している。ドルーア達と同じように俺と栞を弄ってくるのでこいつも厄介だ。
「ほら栞、早く座れって」
ところてんの言葉に顔が引きつる。見ると顔を赤くした栞がところてんの後ろに立っていた。ドルーア達が笑いを漏らす。こいつら栞が後ろから来てるの知っててあの話題を振ったな……。
「じゃあアカツキさん。俺ちょっと用事があるんで失礼するっす。もっと話聞きたいっすけどまたの機会と言うことで」
ところてんはそう言うと栞の肩をぽんと叩いてどこかへ行ってしまった。……はあ。
栞は顔を赤くしながら俺の前に座ると「じゃあ……食べましょうか」とボソボソと呟く。
それから料理を食べながら三人に嫌というほど弄られ、リンが不機嫌になり、栞が顔を真赤にして黙り込んだり、途中でらーさんとカタナが乱入してきたりと色々あったが、パーティはなんとか終了した。
終わったのは大分遅い時間だった。プレイヤー達が栞に礼を言って帰っていく中、リンが眠そうに瞼を擦る。そんなリンのほっぺたをつまんでニヤニヤ笑っているらーさんの首元を剣犬が掴む。剣犬は失礼しますと俺達に頭を下げ、右手にらーさん左手に瑠璃を持ちながら去っていった。ずるずると引きずられながら俺達に手を振るらーさんと瑠璃を見ると剣犬の苦労が伺える。剣犬君、お疲れ様です。
カタナがまたくっついてくるので剣犬を習って首元を掴み、ギルドホームの外に放おりだしてやった。身長高いから大変だった。
「今日はうちに泊まってってくださいよ」
眠そうなリンを見てドルーアがそう提案した。このままリンを背負って帰ってもいいのだが、せっかくの厚意だし泊まらせて貰うことにした。
林檎と七海がリンと一緒に寝たいと言うので、リンは二人に任せる事にした。俺はドルーアに連れられてギルドホームの中を歩く。
赤い絨毯が地面に引いてあったり、シャンデリアが飾ってあったりとホームの中はどこかの豪邸の様だ。これだけのホームを作るのに一体どれだけの金が掛かったんだろうか。多分リンの店じゃ比べ物に成らないほどの値段だろうな。やはりトップギルドの財力は凄い。
「ここです」
ドルーアの案内で着いた部屋の中には大きなベッドや鏡、ぬいぐるみなどの家具が置かれていた。ぬいぐるみの時点でちょっと違和感を感じるべきだったのだが、俺も眠かったので思考が鈍っていたのかそこには触れずにスルーしてしまった。
大きなベッドに横たわる。ふかふかして気持ちよかった。
「じゃあ俺はこれで」
ドルーアはそういうと出て行ってしまった。俺は「ああ」と力なく返事し、全身の力を抜いてぐったりとする。今日は疲れた……。
天井を見ながらしばらくぼーっとしていると段々と眠気がやってきて、うっつらうっつらとする。その時、キィとドアが開いて誰かが入ってきた。ドルーアか? 身体を起こして見ると
「……し、おり」
パジャマに着替えた栞が立っていた。
奴め、謀りおったな……!