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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―Free Life―
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 イモータリィスカルソルジャーが最初にいた場所に緑色の光を放つ門が出現した。ワープゲートだ。

 ボスを倒したことを確認したプレイヤー達は張り巡らせていた緊張を解き、疲労しきった表情を浮かべた。今回の戦闘で何人かのプレイヤーが死んでいる。仲間の安否を確かめる為に仲間の名前を呼び始めた。中には仲間の名前を叫んで泣いているプレイヤーもいた。

 さっき、死んでしまったプレイヤーの中にカイバがいた事を思い出し、全身に震えが走った。死んだ。目の前で大勢の人が死んだ。知り合いだったカイバも死んだ。

 ひっ、と俺は情けない悲鳴を上げて立ち上がり、栞の姿を探す。栞は入り口のすぐそばで仲間と会話していた。俺はよろよろとおぼつかない足取りで栞の方へ歩いて行く。俺に気付いたドルーア達が声を掛けてくるが何を言っていいのか分からず、結局無視してしまった。様子のおかしい俺に気付いた栞が「兄さん……?」と声を出した。


「わ、わ」


 俺は栞の背中に手を伸ばし抱きついた。栞は驚いて後ろに下がったが抱きついてきた俺をどかす様な事はしなかった。栞を抱きしめる腕に力を込める。

 怖かった。戦闘中は必死だった。全てが終わってから恐怖が押し寄せてきた。あの時俺が間に合わなかったら栞は死んでいたかもしれない。カイバの様に死んでしまっていたかもしれない。そう考えると震えが止まらなくなった。

 声も出せずに抱きつく俺の頭を栞は優しく撫でてくれた。身体の震えが少しずつ収まっていく。そこに栞がいると認識出来たからか、それとも栞が頭を撫でてくれたからか。多分両方だろう。

 いつもリンの頭を撫でているけど、あいつはこんな気分なんだろうか。


「ありがと……兄さん」



 その後、プレイヤー達は皆ワープゲートを利用して解散した。何人かのプレイヤーは新しい街とエリアへ探索しに行く様だが、とてもじゃないが俺はそんな気分にはなれなかった。

 栞達は待機させておいたメンバーに探索に行かせるらしい。大きなギルドは人員に余裕があるため、栞達と同じように何人か仲間を待機させておくようだ。どこのギルドにも属さない俺にはそんな事が出来ないが、取り敢えず今はどうでもいいや、という気分だ。

 今回PKギルドの襲撃が懸念されていたが、問題なく攻略は終了した。ボス部屋の前に各ギルドから何人ものプレイヤーが見張りとして設置されたが、何も起こらなかったらしい。

 今は午後二時。戦闘が開始してから既に二時間も過ぎていたのか。

 ゲートを潜る前にドルーアが攻略祝いをするから来て欲しいと頼まれたので、一応行くことにした。近くで話を聞いていたらーさんとカタナが自分も行きたいと言ったので、俺以外の人も何人か来ることになった。

 途中、ガロンとその仲間を見掛けた。全員が暗い表情で俯いており、涙を流している者もいた。何か声を掛けようと思ったが、彼らの表情を見ると言葉が出て来なかった。ガロンは俺に気付くと涙を拭って「お疲れさん」と声を掛けてくれた。無理やり作ったその笑みが痛々しくて、俺は頷くことしか出来なかった。

 

 かくして第十二攻略エリア《バーサーカーグレイブ》は多くの犠牲を出しながらも、攻略組によってクリアされたのだった。


 クリアによってドロップしたアイテムやテイルは最初から均等に分けられる事が決まっていたので、ボスを倒すのと同時にアイテムボックスに収納されている。

 栞達と別れた後、歩きながら戦利品を確認する。リンに店を買った時にかなりのテイルを消費したが、今回のボス戦でそれなりの金額は手に入った。まあ店を買う前よりはかなり少ないのだが。

 アイテムボックスにはボスの素材などがそれなりの数入っていた。今のところは武器も防具も充実しているから、この素材で何かを作る必要は無さそうだ。アイテムボックスには空きがあるし、まあしばらくは取っておこう。お金に困るような事があれば売ればいいだろう。

 お金で売ると言えば、《イベント》の三位入賞で手に入ったアイテムをどうしようかなあ……。飲む事で耐久力や敏捷性を上昇させる強化系のドリンクや、装備する事でステータスを上げる装飾品など色々なアイテムがあったけど、その中に扱いに困る物が入っていた。掲示板上のレアアイテム一覧などに乗っていて、買取たいというプレイヤーもいる程のアイテムだ。…………。小さなガラスの中に入っているピンク色に輝く毒々しいそのドリンクはプレイヤーの性別を一時的に逆転させる事ができる。

 殆どのVRMMOに言えることだが、プレイヤーは大きく骨格を変えることが出来ない。だからネカマのように性別を偽るのは難しいのだが……どうやらこのドリンクは俺の身体を変更するのではなく、他のプレイヤーの視覚を変化させる事によって性別を逆転しているように見せるらしい。つまり、実際は変わってないけど他のプレイヤーからは性別が変わったように見えるらしい。

 正直使い道がない。カタナにでも売りつけてやろうかな。

 そんな風に色々な事を考えてボス攻略の事を頭から追い出す。カイバの最期の姿が頭に浮かんでくる度に、違うことを考えて気を紛らわす。

 リュウが死んだ時に感じた喪失感とは違う、形容しがたい嫌なものが胸の中でグルグルと渦巻く。ボスの攻撃であっさりと死んでいくプレイヤー達。今回のボス攻略で出た死者は今までの攻略と比べて比較的多かったらしい。しかし今までの攻略でも何人かは死んでいる。死者が出なかった事も数回だけあったにはあったようだが。ここまで攻略してきたプレイヤー達は皆それを乗り越えてきている。皆はもう慣れてしまっているのだろうか。俺が《ブラッディフォレスト》にいる間、ここまでエリアを攻略してきたのだ。慣れていてもおかしくはない。それとも俺のメンタルが弱いだけだろうか。攻略祝いのパーティをするらしいが、もしかしたら今の俺のような嫌な感情を忘れるために開かれているのだろうか……。分からない。

 リンの店が見えてきた。歩調が自然と早くなる。俺は深呼吸して自分を奮いたたせる。

 俺はヘタレだ。部屋に引き篭って自分の世界に逃げるくらいに弱い人間だ。

 だけどリンの前だけは強い俺でいたい。

 

「ただいま」


 関係者用の扉から店の中に入る。料理を作っていたリンが手を止め、こちらに走ってきて抱きついてきた。そしてリンは少し潤んだ瞳で上目遣いで俺を見ながら口を開いた。


「おかえりなさい、お兄ちゃん」



 パーティの時間まで少し余裕があったから少しリンと話をした。ボス攻略で起こったことを説明した。……カイバが死んだことも話した。カイバはガロンと何度かこの店に来ている。黙っている訳にも行かず、俺は話した。

 リンはカイバの死について聞いてしばらく黙って、それからまた俺に抱きついていた。カイバとリンはそれほど付き合いが長い訳ではないし、話した事も数回しかないだろう。俺だって第一印象は最悪だったし、仲が良くなってから一緒に話したのは数回しかない。だけど、知り合いが死ぬというのは凄く嫌な感じがする。リンはカイバの死について悲しんでいるというよりは、怖がっているみたいだった。正直に言うと、俺も悲しみよりも怖いという感情が上回っていた。

 呼吸を整えて、俺は抱きついているリンの脇腹を摘む。ひぁと声を漏らすリンを無視して連続で揉みまくる。柔らかい手触りに満足した後は思いっきり擽ってやった。笑い転げるリンが俺の手を掴んで止めさせようとするけど、それに構わず擽り続ける。最終的にリンは笑いすぎて涙を流していた。ちょっとやりすぎた感がある。


「よし。そろそろ出掛ける時間だ」


 倒れているリンを起き上がらせる。リンはしばらく恨めしげな表情で俺を睨んでいたけどすぐにいつもの表情に戻って大きく頷いた。



「お兄ちゃんって本当にムニムニするの好きだね」

「まあ嫌いじゃないかな」

「夜一緒に寝る時も絶対揉んでくるし」

「はは」

「絶対栞さんのも揉んでたよね」

「はは……」

「変態」




 



 後日、栞に抱きついて頭を撫でてもらっていた所をいろんなプレイヤーに見られていた事を思い出してベッドで枕に顔を埋めてジタバタする事になるとは、その時の俺は考えていなかったのであった。

 それからムニムニはやっぱり素晴らしいと俺は再確認するのであった。

 変態ではないのであった。

 

 

しばらく放置していたブログを更新しました。

興味がある方はチラリと覗いてもらえると嬉しいです。

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