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あれから無事に洞窟までたどり着けた俺は、地面に倒れ込み目を瞑った。戦闘の疲労があまりにも激しくて起きてられなかったからだ。
死への恐怖。兎にトドメを刺された時の感覚は多分一生忘れられないだろう。もう助からないという絶望と諦め。モンスター一体と戦闘しただけでこの有様だ。こんなんでこの森から出ることが出来るのか? 頭の片隅でそんなことを考えながら、闇の中へ沈んでいった。
目を覚まして最初に感じたのは強烈な空腹感だった。外の果物を持ってきて全部食べたが全然足りなかった。回復のために取ってあるフィレの実は食べることは出来ないし、どうしようか。しばらく考えていると、サソリの肉の事を思い出した。正直サソリの肉なんか食べたくないけど、このさい仕方がない。アイテムボックスから紅殻蠍の毒肉を選択して取り出した。
「うわあ……」
出てきたのはサソリの殻に包まれた紫色の肉……のようなもの。正直もの凄くまずそうだ。……。でも腹が減っているし仕方がない。まずかったら食べるのを止めればいい。堅い殻を手で取り、紫色の肉を取り出す。手で触ってみた感じ、プリッとしていてエビのようだ。味はどうだろう……。恐る恐る肉を食べてみる。
「おっ」
結構美味かった。食感も味もまさにエビのようだ。塩味も効いているしこれはイケる。一つ目を全て食べ終わったが毒状態になる気配はない。幸運なことに毒には当たらなかったようだ。もう一つ食べてみる。今度は流石に毒状態になったが、削られるHPは大した量ではない。もう一つ手にとって食べる。三つ目を食べ終わると脳内に文字が浮かんできた。
『スキル《毒耐性》を会得しました』。
おお、耐性系のスキルなんてあったのか。だったら麻痺耐性のスキルもあるかも知れないな。毒になる確率が下がり、しかも毒状態でいる時間が半減するようだ。これは良いスキルを手に入れた。
腹が膨れて満足した俺はまだ疲れが癒えてないのを確認し、湧き水で喉を潤した後もう一眠りすることにした。今日はもう一日休憩しよう。
次に目を覚ましたのは夕方だった。体を起こしてみると大分疲れが取れていた。この分なら明日には全快してそうだな。この手の疲労は回復薬やスタミナドリンクでは癒すことが出来ない。しっかりと休む必要があるのだ。
湧き水で喉を潤した後、俺はあの兎を倒したことでゲットしたアイテムを確認することにした。
手に入れていたのは、痺角兎の毛皮、痺角兎の角、痺角兎の尻尾、痺角兎の麻痺肉×2、痺角兎のモモ肉。
部位アイテムが手に入っても現状ではどうする事も出来ないためからあんまり嬉しくない。でも肉系のアイテムが手に入ったのは良かった。今回は三つか。麻痺肉は兎も角として、モモ肉ってのは何だか美味しそうな響きだな。
説明文によると、ホーンラビット亜種のモモ肉。引き締まった肉はとても美味で食べた者の動きが俊敏になる、だそうだ。
うむ……美味そうだな。今日は兎肉祭と行こうか。
アイテムボックスから麻痺肉×2とモモ肉を取り出す。二つとも生肉だけど多分食べられるだろう。まずは麻痺肉から食べてみるか。
一口かじるとしっとりとした生肉の食感が伝わってくる。味はピリっとしており少し辛い。熊肉とはまた違った食感だ。あっちは堅かったけどこっちは柔らかい。美味かったので二つとも食べてしまう。すると麻痺状態になって地面に倒れることになる。
麻痺状態が治るのをまっていると、頭の中に『スキル《麻痺耐性》を会得しました』という文字が浮かんできた。やはり麻痺耐性のスキルもあったようだな。これは《毒耐性》と同じでスタミナを消費しない方のスキルだな。毎日ボレロの実とビレレの実を食べてるから、確かに耐性が出来ていてもおかしくない。
麻痺状態が解けた俺はモモ肉を口にした。麻痺肉と違って弾力があって美味しかった。食べ終わると『称号【俊足】を入手しました』という文字が浮かんでくる。今日何にもしてないのにスキルと称号が三つも手にはいるとか何か複雑な気分だな……。
夕食も食べ終えやることが無くなった俺は自分のステースを確認することにした。日頃の修行と今日の戦闘により大分上がっているはずだ。少しワクワクしながら、ステータスを開いてみる。
筋力値:100、俊敏さ:130、耐久値:50、体力値:90、器用さ:60
ここに来たときとは比べ者にならない程に上がってるな。修行の成果も出ているし、今日の戦闘で筋力値と俊敏さ、体力値がかなり上がってる。耐久値と器用さは鍛えていないから高くないけど……。
自分の成長ぶりに満足した俺はもう寝ることにした。固い地面に転がって洞窟の天井を眺める。ゴツゴツとして堅そうだった……。
明日からは今まで通りに修行をすることにしよう。外に出るのは危険だ。だけど何とか勝つことが出来たし、あの兎ならもう少し鍛えれば死なずに勝てるような気がする。満足するまで鍛えたらもう一度兎に戦いを挑むことにしよう。当然一対一でしかやらないけどな。
フィレの実は桃のような味。ボレロの実は柿のような味。ビレレの実はオレンジの味。