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「二日前、《攻略連合》が《ブラッディフォレスト》に送り込んだ主力部隊が全滅した。被害者の数は《連合》のギルドマスター、霧切を含め三十二名。午後四時半頃にPKギルド《屍喰らい》に襲撃され、五時半頃に応援が駆けつけた時にはもう誰も残っていなかった。《屍喰らい》についての情報は何一つ手に入っていない。足取りも不明だ。以上が《攻略連合》の第二部隊隊長センズキからの情報をまとめた物だ」
真っ白な壁に覆われた部屋の中央には大きな円卓が設置されていた。黒い艶のある木で出来たその円卓には何十人ものプレイヤーが座っている。俺もその一人だ。この《不滅龍》のギルドホーム、龍帝宮の一部であるこの円卓会議場の中には攻略組のギルドやパーティーなど、名のしれたプレイヤーが集合している。会議場の中には重苦しい空気が漂っていた。
円卓の中央には《不滅龍》のギルマスである玖龍が立ち、会議の進行役をやっている。
今までにも何度かこの様に第十二攻略エリアにある《不滅龍》のギルドホーム、龍帝宮の円卓会議場に多くのプレイヤーが集まって話し合いをする事があったらしい。俺はルークに来るようにメッセージで言われ、ここにやってきた。栞やガロンなど有名ギルドのギルマスはもちろん、、《巨人殺》や《海賊王》、《英雄》といった有名な二つ名持ちも揃っている。一応俺も《イベント》で活躍して名前を上げたのだからここに来ても問題は無いと思うが、この面子が揃うと緊張してしまう。
「討伐隊を組んで奴らと戦うべきだ。僕はもうPKギルドの横暴を許しては置けない」
玖龍が話をまとめていると、俺のすぐ近くに座っていた《英雄》が立ち上がってそう叫んだ。
黒いローブにいぶし銀の甲冑を装備し、背中には隠しエリアのボスドロップで手に入れたという片手剣『滅亡の聖剣』と表面に黒色の文様が入った盾が収められている。中性的な顔立ちをしており、背格好は華奢だ。ソロのプレイヤーで、攻略組であると同時に色々なエリアを回って人助けをしているらしい。過去に攻略組のギルドが大きなPKギルドに襲われている所に駆けつけ、PKギルドを退けた事から《英雄》と呼ばれているようだ。随分な二つ名だなぁ。
さっきまで全くの無表情で座っていたのに、急に立ち上がってそんな事を言い出すから少し驚いてしまった。まあ人助けをする性格からして根は熱い奴なんだろうか。
「と、言ってもなあ、《英雄》よ。お前の気持ちは分かるが肝心の《屍喰らい》の行方が分からんのだ。討伐隊を組んでもどうにもならんだろう」
《英雄》の意見に対してそう言ったのは二つ名持ちの中でもネタキャラ気味な《海賊王》だ。左目に眼帯を付け、ドクロマークの付いた三角形の黒い帽子を被った大男。背中にあるのは栞のバスタードソードと同じ希少武器のサーベルだ。
格好はとにかくとして、言っていることは正しい。《英雄》は「それもそうだな」と溜息を吐くと、静かに椅子に座った。
「ハッハッハッハ! だがしかし、お前のそういう熱いところは嫌いではないぞ、《英雄》よ! どうだ! 俺の仲間にならないか!」
「あ、お断りします」
などというやり取りもあったが、それからは特にこれと言って有益な情報は出なかった。《屍喰らい》については何の情報も無いし、それに並ぶPKギルド《目目目》の情報も殆ど出なかった。集まって情報を交換しては見たものの、俺達に出来る事はPKギルドの襲撃に注意して行動することだけだ。流石にもう《ブラッディフォレスト》には出没しないとは思うが、一応あの森には少人数で入らないようにと玖龍が皆に呼びかけた。
それにしてもあの森に行ったのは《連合》の主力メンバーだ。霧切のレベルは65だったらしい。相当の実力者だった筈だ。それに他に付いていったメンバーもかなりの実力者だった筈。力としては《不滅龍》や《照らす光》には劣る《連合》だが、それでも攻略組で活躍するプレイヤーが何人もいた。それが全滅というのはただ事ではない。《屍喰らい》には一体どれ程の実力者が揃っているんだ。
主力を失った《連合》だが、これからはセンズキがギルマスになってまとめていくらしい。あいつにギルドをまとめる力があるかは疑問だ。《連合》は恐らく荒れるだろうな。しばらく注意しておく必要がありそうだ。
「これから我々《不滅龍》はPKギルドが出現したらすぐに駆けつけられるように準備をしておく。もし何かあったらすぐに我々にメッセージを送ってくれ。それでは解散とする」
玖龍が解散を宣言すると、円卓に座っていたプレイヤー達はそれぞれに散っていく。俺も龍帝宮から出て《ライフツリー》に帰るか。会議も終わったし、もうここにとどまる理由は無いしな。そう思って円卓会議室を退室すると、後ろから追いかけてくる奴がいた。カタナだ。
「いやはや全く大変な事になったねえ」と全く緊張感の無い顔でそう言って来た。会議室で変なことを言い出さないか心配だったが、今日は何も言わなかったなこいつ。
「俺達がクリアしてすぐだもんだ。ちょっと時間がズレていたら俺達が標的になってたかもしれなかった」
「そうだね。第二部隊の人達は性格はともかく実力はそれなりにあったし、その上の第一部隊となったらもっと強かったんだろう。霧切とかいう人もいたしね。それを全滅させるとなると、確かに僕達でも危なかったかもしれないね」
「ああ……。最近はエリア攻略やら釣りやらでちょっと気を抜いていたけど、そろそろ本腰を入れてレベルやスキルを上げて行かないとやばいかもしれない。最近はちょっと危機感を忘れてたよ。ここはけして安全な場所じゃ無かった」
「あはは。まあゲームとは言え、実力は必要だしね。だったらアカツキ君。僕が上げたユニークアイテム、鍛冶屋に依頼して武器にしてもらったら? 今の武器でも強いと思うけどユニークアイテムなんだからもっと強くなるかもよ?」
「そうだなぁ」
「《イベント》で入賞してから専属の鍛冶屋になりたいってメッセージで送ってきた女の子がいるって言ってたよね。何回も武器や防具のメンテナンスをしてもらってるみたいだし。その子に頼んでみたら?」
「よし、分かった。早速鍛冶屋に行って新しい武器を作って貰おう。だけど本当にいいのか? お前がドロップしたんだから、お前が持ってた方がいいんじゃないか? 言ってくれればすぐに返すぞ?」
「あは、いいよ。前も言ったとおり、君が持ってたほうが面白くなると思うからさ」
「面白くってなんだ面白くって……」
俺らはワープゲートを使って一旦、《ライフツリー》に帰り、リンに会議の事を報告してから鍛冶屋の所に向かった。それにしても本当にカタナは厨二病だな。思わせぶりな事を言うのが好きみたいだ。
「そのうち分かるさ」と、いつもの爽やかな笑みを浮かべながら、カタナは言った。