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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―Free Life―
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 私とアカツキ君は第八攻略エリア《ライフツリー》にそびえ立っている生命樹の下に広がる森の中を走っていた。《ライフツリー》のエリアは広大で生命樹が生えているすぐ側にエリアボスが、森の北の方には湖が、南の方には果実や薬草、キノコなどが取れる場所が、と色々な場所がある。

 私とアカツキ君は生命樹の南側に昨日隠しエリアが見つかったと聞いて二人でその場所に向かっていた。向かっていたのだが……現在私達はモンスターを呼び寄せる罠を踏んでしまい、大量のモンスターに追われていた。

 毒ガスを撒き散らしながら歩くキノコ、ポイズンマッシュや、身体中が根や苔に包まれたグリーンゴーレムなどの数種類のモンスターが後ろから追いかけてくる。異形の物を引き連れながら走る私達は、そう、まるで百鬼夜行の主の様だ。妖怪大戦争だ。

 と長々と話しておいてからで何なんだけど、私の事が気になっている人が多いと思う。何故私の一人称なのか。そして私は誰なのか。私は何故アカツキ君と行動しているのか。聞きたいことは山ほどあると思う。だけどそれらを一気に話して皆さんにお伝えしたい所なのだけれど、色々深く深くそれはもうマリアナ海溝よりも深い事情があるので順を追ってゆっくりと丁寧に語って行きたいと思う。そう焦らないでほしい。それにしてもいま思ったのだけど、あせるとげる。意味は違うのに何故漢字が一緒なのだろうか。『焦』という漢字は近くでじっと眺めていると何だか人が二人ベンチに腰掛けている様に見える。ベンチに腰掛けるとか全然焦っている様子がないね。真夏だったら確かに降り注ぐ太陽の光を浴びて焦げているのかも知れないけどどういう事だろう。

 あ、閑話休題。

 そういえば私についての話だったのにいつの間にか『焦』という漢字に摩り替わっていた。一体何が起きている? どこからか攻撃を受けているのか!? これは焦るね!!

 私の正体、それは長い銀髪を持つ痩身の美人さんなんです。私の美貌にはアカツキ君もメロメロで、街で料理を作っているえっと誰だっけ? あー……ダニエルさん? そうそう、ダニエルさんみたいな名前の女の子なんでもう目じゃないくらいに超美人。

 そんな私の名前とはッッ!?!?


 










  …………と、走りながらカタナが叫んだ。


「あは。可愛い女の子かと思った? 残念! カタナ君でした!」


 息も切らさず、舌を出しながらカタナが俺の方を向いていってくる。あ、ウインクした。うっわぁ殴りてえ……。何だコイツマジでドン引きだよなんだよこのハイテンション。誰がメロメロやねん。

 と思わず関西弁で突っ込みたくなるぐらいにカタナはどうかしてる。つーかダニエルって誰だよ! 一文字もあってねえよ! もしかしたら初めて表計算ソフトを開発したというあの偉大なブリックリンさんの事を言いたいのかもしれんがブリック付けなくてもいいし何よりもわかりにくすぎるんだよ! どんな間違い方したらそうなるのか皆目検討もつかんわ!

 そして『焦』で二人がベンチに座ってるってどんな見方だよ! あれ……いや……そう言われてみればそう見えないことも……ない……のか?

 確か焦るとか焦げるっていうのは『火で焦げているから焦っている』みたいな感じじゃなかったっけ? 下の四本の点々が火を表してるとか何とか。いや……あってるかは知らないけど。つーかそれどころじゃねえ。 

 

 

 さっきカタナが説明してくれた通り、俺とカタナは《ライフツリー》で発見されたという隠しエリアに向かっていた。その途中においてあったあからさまに罠だと分かる宝箱をカタナが開け、今に至る。いや「こんな分かりやすいところにある宝箱は最初に来た奴らがゲットしてるって」と言って止めたのだが、カタナはいい笑顔で「残り物には福がある!」とか言って開けやがった。その瞬間、けたたましいアラームが鳴り響き、大量のモンスターが押し寄せてきたのだ。アラーム系のトラップが発動した時、アラームを破壊しないとモンスターは次々に襲って来るわワープロープは使えないわというやばい事態に陥るので、最初にアラームを破壊するべきなのだがモンスターが来た瞬間にカタナが俺の手を掴んで逃げ出しやがったのだ。お陰で走ってモンスターから逃げるハメになった。

 

「おいカタナ! 責任とってモンスター倒してこい!」

「僕達友達だろ! だったら連帯責任だよ!」

「ならば俺はこの瞬間、お前の友達をやめる!」

「何のためらいもなく言い切った!?」


 などと二人で叫びながら、走って走りまくる。カタナとはイベントで会ってからちょくちょく一緒にエリアに行ったり、街で受けられるクエストを一緒に受けたりしていたのだが、まさかこんなことになるなんて……。

 《ライフツリー》にポップするようなモンスターなら俺達のレベルで倒せるのだが、流石にあの数を相手にするのは骨が折れる。それにここに出てくるモンスターは麻痺や毒といった状態異常持ちの奴が多いのでなるべく戦いたくないのだ。俺は《麻痺耐性》や《毒耐性》を持っているから良いんだが、カタナは持ってないしな。

 

「うわ、前からグリーンゴーレムが一体来てるよ!」


 そう言われて前を向くと、確かにグリーンゴーレムがいた。こいつはアラームで呼び寄せられて来たモンスターではなく、元からいた奴なのだろう。

 グリーンゴーレムは俺達に気付くと、蔦が絡まった大きな腕を振り上げてこちらに走ってきた。クソ、邪魔だな。

 グリーンゴーレムが目の前まで来て、カタナを狙って腕を振るった。しかし、腕がカタナを捉えることは無かった。拳が当る前にカタナは太刀を抜き、加速してグリーンゴーレムの懐に潜り込んで斬り付けた。グリーンゴーレムの巨体が怯む。だが一撃では倒しきれない。そこへ俺が跳び、グリーンゴーレムの身体を両断する。光になってグーリンゴーレムが消滅していく。

 経験値が入り、アイテムがドロップするが俺達はそんな事を気にしている余裕はない。後ろからはまだアラームで呼び寄せられたモンスターが追いかけてきている。


「どうするカタナ! このままじゃ埒があかねえぞ!」

「取り敢えず一旦エリアから出よう。そうすれば罠の効果は無効化される筈だから」

 

 やっぱりそれしかないか……。問題は俺達が今どこをどうやって走っているのかが丸っきり分かっていないということだ。迷子になってしまっている。どこへどういったらいいのか皆目検討もつかぬ。


「あ! アカツキ君! あっちの方になんかプレイヤーが大勢いるよ! このモンスターどもあいつらになすりつけようぜ!」

「てめえ清々しいほどのクズだな! 絶対わざと罠踏んだだろ!? そしてモンスターをトレインしてなすりつけるとか下手すればMPKになるからな!」


 MPKとはモンスターを他のプレイヤーに擦り付けて殺す事である。昔やられたことがあるがあるがとんでもないマナー違反だ。いきなりモンスターを押し付けられて囲まれてどうすることも出来ないままになぶり殺される。ゲームの中でもとんでもない行為だがこの世界でやるのは不味い。こんなギャグみたいなノリで人を殺すなんて無理過ぎる。


「おおおい! そこのプレイヤー達! 逃げろ! 逃げろ!」


 とは言え俺達はそのプレイヤー達の方に目掛けて走っているので、今更方向を変えることも出来ない。大声で叫んで逃げるように促す。プレイヤー達は「え?」みたいな感じでゆっくりと後ろを向いて、俺達の引き連れているモンスターを見て目を剥いていた。


「あのねーこういう時、逃げろじゃなくて走れの方がいいらしいよ?」


 この野郎後で絶対ぶん殴る。

 プレイヤー達は迫ってくる俺達を見てキョロキョロと周囲を見回した後、思い切って、という表情で何かに跳び込んだ。プレイヤー達の姿が消える。

 ん? 跳び込んだ? 何にだ? ここには何も無いはずじゃ……。とさっきまで彼らがいた所を見ると、なんと地面に穴が開いていた。


「どうするアカツキ君!」

「ええい、ままよ! 穴に飛び込むぞ!」

「ええい、ままよとか実際に言う人はじめて見たよ(笑)」


 絶対に絶対にぶん殴る。

 そう決めて、俺は穴に跳び込んだ。



 

 その穴の中には非常に懐かしい光景が広がっていた。

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