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前回の更新から間が開いて申し訳ありません。
書いていた小説が消失したショックからようやく立ち直る事が出来ました。
活動報告やメッセージで優しい言葉を掛けて下さった方、ありがとうございました。
まるで閃光の様な速さで、カタナの太刀が《震源地》玖龍に突き出された。玖龍はそれを大剣で防御する。太く大きい銀色の刃が太刀の刃を受ける。
カタナは攻撃を防がれたのを気にせずに太刀を振る。画面越しでは意識を集中しないと全く見えないような速度であらゆる角度から刃が玖龍を狙う。しかし玖龍はそれら全てを大剣を動かして防いでいく。
高速で何十もの攻撃を仕掛けたカタナだったが永遠に攻撃を続けられる訳ではない。数十秒の間玖龍の攻撃を許さない連撃を続けていたが、遂にスタミナが尽きて太刀を振る速度が鈍った。玖龍はその隙を逃さず、大剣を斜め下から振り上げた。太刀や双剣よりも重量のある大剣とは思えないほどの恐ろしい速度の攻撃だ。
カタナは身体を大きく後ろに逸らして直撃を逃れたが、大剣の風圧にバランスを崩しながら後ろに飛ばされる。
玖龍の大剣が青く輝いたと思うと、その巨体が一瞬にしてカタナの目の前まで移動した。そして大剣が横薙ぎに振られる。バランスを崩したカタナにはスキルによってシステムのアシストを受けた玖龍の攻撃を回避する術は無い。
流石に勝負が決まったかと思ったその時、カタナがあり得ない速度で地面に屈み玖龍の攻撃を回避した。それだけではなく、がら空きになった玖龍の足元を攻撃する。流石の玖龍もカタナの動きは予想出来なかったらしく、足を斬られてバランスを崩した。
そこに立ち上がったカタナによる青い光を帯びた太刀が玖龍に迫る。玖龍は大剣をギリギリの所で前に構え、カタナの攻撃を受けた。
ガキィンッ、と激しい金属音を響かせて、二人はその衝撃を利用して後ろに下がりお互いに距離を取った。
いきなり現れて《嵐帝》だと名乗った太刀を使う男カタナと《不滅龍》のギルドマスター《震源地》玖龍。
カタナが嘘をついていなければ最強に近い所にいる者同士の戦いだ。どんな勝負が繰り広げられるのか、非常に気になる。
カタナはさっき会った時と同じライダースジャケットとジーパンという防御力は低そうだが身軽そうな格好をしている。
対する玖龍はガロンを越える程の大男で、身に纏っているのは銀色に青いラインの入った鎧や篭手など頑丈そうな物ばかりだ。確かこの防具は前回の《イベント》の優勝商品の『ブルーナイト』シリーズだった筈。
《イベント》で上位に入ることが出来れば賞品が貰える様になっている。大量の金や回復アイテムからブルーナイトシリーズの様な装備一式などを手に入れる事が出来るのだ。
ブルーナイトは当然この世界に一つしかないオリジナルアイテムだ。その性能もかなり高い。
更に玖龍が装備している大剣も、エリア内にあった隠し迷宮の最奥部に居たという一匹しかいないユニークモンスターを倒して手に入れたドロップアイテムらしい。飾り気のないシンプルな作りになっているが、その銀色の刃からはそこらの剣とは違う何かが感じられる。
《震源地》玖龍。これらのレアなアイテムを完璧に使いこなすかなり実力のあるプレイヤーだ。
カタナとの戦闘を見ていても動きに無駄がなく、冷静に行動している。大剣捌きも相当な物だ。スキルを使わなくてもかなりの速さで大剣を振るっている。並のプレイヤーならば対応出来ないほどだ。
だが玖龍と戦っているカタナの動きもかなりの物だ。試合が始まると同時にスキルを使っているんじゃないかと思うほどの動きで玖龍を攻めている。玖龍の攻撃も正面から受けることをせずに太刀で軌道を逸らして回避している。
だが、この勝負は恐らくカタナは勝てない。
さっきから二人のHPバーを見ていると玖龍の一撃でカタナのHPが大きく削られているがカタナの連撃を受けても玖龍のHPは殆ど減っていない。
カタナの話だと最近太刀を使い始めたばかりだから武器の熟練値が圧倒的に足りていないのだろう。《ステップ》や《見切り》などは別として、武器依存のスキルは武器変更した時に消滅してしまっているだろうし、圧倒的に火力が足りていない。
その証拠に、徐々にカタナは押されてきている。
玖龍の大剣がカタナの太刀に打ち込まれた。武器で防いだにも関わらず、カタナの身体は大きく吹き飛ばされる。HPもかなり減らされた。そこに玖龍が接近していき、スキルを発動して連続でカタナを斬り付ける。カタナは何のスキルも使わずにそれらを全て回避して自分もスキルで反撃するが大したダメージを与えられず、玖龍に反撃されてとうとうフィールドの端まで追いやられてしまった。残りのHPも残り僅かで、もう勝負の行方は明らかだ。
玖龍は油断なく大剣を構え、徐々にカタナに近づいていく。
カタナはそれを迎え撃とうと姿勢を取っていたが、急に構えを解いた。そして一言何かをつぶやくと、太刀で自分の首を掻き切った。
「なっ」
近くにいた玖龍も観客も、俺も見ていたものが驚愕する。
カタナのHPが急激に減っていく。0にはならなかったがもう本当に少ししか残っていない。と、俺がHPの確認をしていると、いきなりカタナの姿が消えた。
いや、消えたように見えた。
驚きによって動きを止めていた玖龍の斜め横にまで移動したのだ。画面をしっかり見ていた俺ですら確認することが出来ない速度で。
そして何かのスキルを発動し、それが玖龍の首に打ち込まれる。
「ッ」
が、太刀のバグである当たり判定の異常が発生したのか、玖龍のHPは殆ど減らなかった。カタナは玖龍が反撃してくるよりも早く後ろに下がる。
そして何か一言呟くと、もう一度自分の首を掻き切った。今度こそHPは0になりカタナは敗北した。光に包まれて自分の控え室に転送されていく。
玖龍はそれを納得いかなそうな表情で見つめていたが、大剣を仕舞うと観客達に手を振り始めた。
「…………」
カタナがあの時呟いた言葉。
『もう飽きた』。
あいつは本当にゲーム感覚でこの世界を生きているのかも知れない。
カタナと話していて思ったが、あいつは何かがズレている。身体が冷えていき、胸の鼓動が早くなっていくあの感覚。
あいつは一体何なんだ。
いつの間にか喉が乾いていて、俺はドクペを外に買いに行く事にした。自分の試合まではまだあるし、次の相手はキチンと調べている。そしてその相手に対して俺はかなり優位な立場に立っている。
相手の使うスキルに対して、俺の持つあのスキルはかなり役に立つだろう。あまり手の内を晒したくは無いが、この《イベント》もだいぶ進行している。この勝負に勝てば次は準決勝だ。そろそろ出し惜しみをする余裕は無くなってきている。まだ試合を見ていないが次の相手に勝てば俺が当たるのは最強の一角である《流星》。全力で戦わなければ勝ち目は無い。
次の試合の事を考えながらドクペを買っていると、後ろから誰かやってきた。
「やぁアカツキ君」
「カタナか……」
カタナは俺の姿を見つけると、手を振りながら近付いて来た。
「……お疲れ」
何も言わないのもあれだし、一応労いの言葉を掛けておく。
「ああ、ありがとう! まぁ負けちゃったけどね」
「負けたというか、飽きたから自分で自分のHP0にしたんだろ?」
「まあね。まあいいよ。終わったことだしね」
そう言うとカタナは自販機でドクペを買った。
なんだ、こいつドクペ好きなのか?
「なんだ、アカツキ君ドクペ好きなのかい?」
「ああ……。まあな」
「まさかこの世界でドクペの美味しさを理解してくれる人に出会えるなんてね。みんななんでこの美味しさが分からないのか理解できないよ。飲んでるだけで科学者になった気分になるよね!」
何だかんだで俺はカタナとドクペについて語り込んでしまった。
なんか気味悪い奴とか言ったけど、こいつ実は良い奴なのかもしれない。うん。