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いろいろ計算違いがあり、本戦参加プレイヤーは六四人まで増えてしまいした。すいません。
イベント本戦。プレイヤー同士の一対一の勝負を見るために、多くのプレイヤー達がスカイドームに集まって来ていた。
本戦は周囲を観客席に囲まれた四角いフィールドで行われる。観客席には破壊不可能な透明の壁がついているため、イベント参加者から観客に干渉することは出来ない。当然、逆も然りだ。フィールドの上には巨大なスクリーンが浮かんでいて、そこでも戦いの様子を見ることができる。
フィールドの長さは正確には分からないが、見たところ学校の体育館の半分くらいの広さ。フィールドには何の仕掛けもない。プレイヤー達が全力で戦えるようになっている。
参加者は各控え室で自分の番が来るまで待機している事になっている。
俺は椅子に座ってスポーツドリンクを飲みながら、設置されたモニターで本戦の様子を見ながら自分の番が来るのを待っている。俺は二試合目に戦うことになっている。対戦相手は勝負直前まで分からない。
モニターには一試合目の様子が映されていた。映っているのは武器をぶつけ合う二人の男だ。
目に眼帯を付け、頭に三角形のドクロマークがついている黒い帽子を被った髭を生やした大男。イベントには『黒髭』の名前で参加しているこの男が持つ二つ名は《海賊王》。掲示板ではネタで使われる事が多い人物だが、ここまで残っているということは相当の実力者だと言うことだ。
手には三日月の様に刃が曲がっている大きな剣が握られている。確か稀少武器のサーベルだった筈だ。その曲がった刃と半円型の大きな鍔が特徴的だ。
対する相手は小柄の少年だ。姿勢を低くして、まるで犬のような動きで《海賊王》のサーベルを躱しながら両手に持つ双剣で攻撃をしている。彼の名前は剣犬。《犬騎士》の二つ名を持つ人物だ。確からーさんと同じギルドに入ってるんだったな。
低い姿勢で相手に飛び掛るようなスタイルは確かに犬に似ている。しかしかなりの機敏さだ。サーベルをスラリと躱して、徐々に《海賊王》を追い詰めている。
『ハッハッハッハ! お前強いなあ! この戦いが終わったらどうだ! 俺の仲間にならねぇか!』
追い詰められているというのに《海賊王》はサーベルで剣犬の攻撃を弾きながら豪快に笑い、大声でそう言った。剣犬はフッと口元に笑みを浮かべると『お断りします』とだけ答えた。その返答に《海賊王》も笑みを返し、『残念だ』と嬉しそうに呟く。
剣犬の双剣がスキル発動を示す光を発した。双剣から二本のオレンジ色の巨大な牙が現れ、それが《海賊王》に向かっていく。あれは確か《双牙・巨獣》だったな。《双牙》というスキルの上位スキルだ。
《海賊王》もそれに対して何かのスキルを発動した。青い光を帯びたサーベルを大きく振りかぶり向かってくる二本の牙に向けて振り下ろす。すると青い衝撃波が津波の様に流れていく。
オレンジの牙と青の津波がぶつかり合った。勝ったのは津波の方で剣犬を飲み込んだ。
あとで知ったがこのスキルは《津波》というサーベルが持つ稀少スキルらしい。上位スキルに《大津波》というものもあるらしい。
《海賊王》は勝ち誇った笑みを浮かべ、観客席に向けて大きく手を振り、『海賊王に俺はなる!』と大声で叫んだ。もう勝負が付いた物だと思っているらしい。しかし、剣犬のHPはまだ残っていた。
隙だらけの《海賊王》に向け、巨大な二本の牙で連続攻撃をする。《双牙・巨獣蹂躙》という《双牙・巨獣》の更に上のスキルだ。どんな物かは知らないが、これよりもまだ上のスキルが存在しているらしい。
牙に文字通り何回も貫かれ、蹂躙された《海賊王》のHPがオレンジ色にまで削られる。剣犬の攻撃はまだ終わっていない。姿勢を低くした状態で一瞬で《海賊王》の前まで移動し、《双牙・巨獣蹂躙》を喰らってよろけている所を連続で斬り付けた。《海賊王》は慌てて防御体勢を取ろうとしたが間に合わず、そのままHPが0になりステージから消えていった。
《海賊王》……。デビルな実を食べて全身がゴムとかになってたら勝ててたかもしれないな……。残念だ。
残った剣犬は観客席に向けて笑顔を浮かべて手を振ると、光に包まれてフィールドから消えていった。
《犬騎士》剣犬。《海賊王》が間抜けなミスを犯したのもあったが、その実力は確かな物だった。見たところ、らーさんと互角かそれ以上のスピードを持っている。俺がこの試合を勝ち上がれば次に当たるのがこの剣犬だ。勝てるか勝てないか。どちらにしろ上位のスキルを使わざるを得ないだろう。【赤き紋章】が発動している状態ならば《双牙・巨獣蹂躙》もスキル無しで受け止める事が出来るけど、通常状態では無理だし、それに【赤き紋章】が発動するまで追い詰められる訳にはいかない。
まあどちらにしろ初戦で負けたら何の意味もない。勝ってから次のことを考えよう。
身体が緑色の光に包まれていく。どうやら俺の試合が始まる様だ。俺は大きく深呼吸し、目を瞑った。
次に目を開けた時、俺はフィールドに立っていた。周囲の観客の叫び声が響きわたっている。その迫力に一瞬気負されかけるが、気を引き締め、対戦相手を見る。
相手はガタイのいい男だ。武器は大きな斧。
俺の構えた武器を見て驚いているようだ。まあ太刀だしな。
「まさか初戦目でいきなり噂の太刀使いかよ。運がいいのか悪いのか」
「悪いんじゃないか? 悪いが俺が勝たせて貰うよ」
「それは俺の台詞だぜ。名前は?」
「シルバーブレード。二つ名はまだない」
「俺はステドラ。同じく二つ名は無い。だけどこの勝負で勝って二つ名ゲットさせてもらうぜ!」
『Ready fight!』という表示が目の前に現れ、ガラスが砕けるように音を立てながら砕け散った。