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「ふう、疲れたね」


 イベントの予選が終わり、俺とらーさんはスカイドーム内にある休憩室の椅子に座っていた。設置してある自動販売機から缶ジュースを買い、二人で予選通過を祝って乾杯する。このゲーム内にしかない変わった味の飲み物だけでなく、現実世界の自販機で売られている炭酸水なども自販機には並んでいる。詳しくは知らないが、支援する代わりにゲームの中で売るという契約を結んだらしい。だから飲み物だけでなく、食べ物も現実世界の物もいくつかある。

 俺はコーラを、らーさんは『エレキボムレモンサイダー』という変わったジュースを選んだ。疲れて乾いた喉を冷たく冷えたコーラの程良い甘さと炭酸のシュワシュワが通り過ぎていく。やっぱり慣れ親しんだ味はいいなあ、と思いながらエレキボムサイダーを飲むらーさんを見てみる。彼女の持つ缶の中からはバチバチビリビリとなんだか危険な音が聞こえてきている。それを何の躊躇いもなくらーさんは飲んでいく。口から缶を離し、おひょーと奇声を出した後、再びサイダーを口にする。美味しいのか美味しくないのかよく分からない反応だなあと思いながらしばらく彼女の事を見ていると、俺の視線に気付いたらーさんは俺がエレキボムサイダーを飲みたがっていると勘違いしたのか、缶を差し出してきた。

 

「ああ、すまん」


 危険な音を発する缶を受け取って一瞬間接キスがどうだのと頭の中に浮かんだが、まあ相手が気にしていないのにこちらが気にするのはどうかと思ったので口を付け、中身を飲む。口にサイダーが入ってきた瞬間、バチバチと何かが弾けた。そしてそれが広がっていき舌がビリビリと痺れるような感覚。ビリビリバチバチした液体がビリビリバチバチしながら喉を滑り降りていく。

 思わずむせてしまった。

 むせながら礼を言ってらーさんの缶を返すと、無表情で再びゴクゴクと勢い良く飲んでいく。一口飲んだだけでむせるぐらいだったのに、これをこんなに一気に飲むなんて……。よく飲めるな……。

 それからしばらくしてジュースも飲み終わった。

 因みに今俺がつけている仮面は骸骨をかたどっている物で、口が露出している。口まで隠す仮面は息苦しかったからな。


「いやあ、それにしても仮面君……えっと、シルバーブレード君だっけ? やっぱり強いねえ( ´∀`) 」


 ジュースを飲んでいた時の無表情はどこにいったのか、にへらぁと蕩けそうな笑みを浮かべながららーさんがそう言った。やっぱり表情の移り変わり激しすぎるだろ…。


「いや、らーさんの槍の方が凄いよ。周りのプレイヤーが近付けない程だったし」


 あれから俺達は近付いて来るプレイヤーを蹴散らしながらフィールドの壁まで移動し、さっきの俺のように壁に沿って移動し続けた。立ちふさがるプレイヤーは俺が斬り倒し、後ろから追ってくるプレイヤーはらーさんが貫く。最初の頃は二人だけならと襲い掛かってくる集団もいたが、最後の方はほとんどのプレイヤーが俺達を避けていたな。それでも俺達を狙ってくるプレイヤーは何人かいた。その中でも予選が終わる直前に戦いを挑んできた高校生ぐらいの双剣の男は相当強かった。前からやってきたので後ろをらーさんに任せて俺が戦ったのだが、動きが早く一撃一撃がかなり重い。二つ名が付けられてもおかしくないレベルのやり手だったと思う。負けるとは言わないが、あのまま戦い続けていれば確実に本気を出さなければ負けていただろう。それほどの相手だった。黒く短い髪と鋭い瞳。恐らくは外装をいじっていないのだろう。そしてあの男、どこかで見たことがあるような気がする。ぼんやりとしていて思い出せないのだが、あの顔を一瞬、どこかで……。

 

「いやあそれにしても疲れたね。HPも結構危なかったし、あのタイミングで予選が終わってよかったよ(゜∀゜)」

「……」

「シルバー君(・∀・)?」

「…………」

「シルバーブレード君(・∀・)?」

「ん……? ああ……。悪い、ちょっと考え事してて聞いてなかったよ。なんだって?」


 あの双剣の男が引っかかってすっかり自分の世界に入ってしまっていた。らーさんははぁああ……のジト目で俺を見ながら溜息を吐いた。


「い、いや悪かったよ」

「らーさんはシルバー君を見つめてそっと溜息をつきました。かと思えばそれはあくびだったのです」

「え?」

「そっとため息をつきました。かと思えばそれはあくびだったのです」

「え?」

「そう、あくびだったのです」


 いや意味が分からん……。らーさんははあぁ、ともう一度溜息(いやあくび?)を吐くと、おもむろに立ち上がった。


「つまり、私はもう疲れました。眠いのです。帰ります。家で寝ます」

「そ、そうか。今日は協力してくれてありがとう。本戦で当たったら約束通り全力で戦うよ」

「あいあいー」


 彼女はコクコクと頷くと休憩室から出ていってしまった。変わった子だなあ……。

 まあ何はともあれ、予選は見事に勝ち上がる事が出来た。本戦に勝ち上がれるのは六三人だけだ。今回はシード権を捨てたプレイヤーが三人もいるらしい。その影響で中途半端な数になっている。

 となると本戦で当たるのは相当の実力者だろう。出し惜しみをしていたら負けるくらいの力を持つプレイヤー達。俺の予選会場で刃を交えてみてかなり強いと思ったプレイヤーはらーさんと双剣の男を含めて四人。四人とも本戦で当たれば全力で戦わざるを得ない強敵だ。本戦が行われるまで何日か間がある。その間にエリアに行ってスキルをもっと磨いておこう。

 俺は立ち上がり休憩室から出た。宿でリンが俺の帰りを待ってる。早く帰って勝ち上がった事を報告しよう。お祝い用のご飯を作ると言っていたから楽しみだな。

 


 もう少し休憩室から出るのが遅かったら。

 もしくはなんとなしに振り返っていたら。

 俺はそいつに気付いていただろう。

 


 休憩室の中に入っていくそいつに。

 


 見覚えのあるその赤い髪の持ち主に。


 

そう、あくびだったのです。

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