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女プレイヤーが振り下ろした大剣を横に跳びながら身体を捻って回避し、太刀で適当に斬り捨ててそのまま走り過ぎる。プレイヤー一人ひとりを相手にしている余裕は既にない。俺のHPは既に残り半分程まで減少していた。
時間が経過するに連れてプレイヤー同士の戦いが激しくなってきた。現在生き残っているのは協力しあっているプレイヤー達か、力のある単独プレイヤーだけだ。
最初の方は俺も襲い掛かってくるプレイヤーを迎え撃って倒していたのだが、徐々にHPが削られていき複数のプレイヤーに襲われ、戦わずに逃げないと危ない状況になっている。幸いな事にらーさんのように恐ろしく速いプレイヤーには遭遇しておらず、攻撃を回避しながら適当に反撃し、生き残る事が出来ていいる。俺がとどめを刺さずとも、隙が出来たプレイヤーには他のプレイヤーが襲いかかっている。さっき俺が斬った女のプレイヤーも今頃は他のプレイヤーに倒されているだろう。
前方から四人のプレイヤーが武器を構えながらこちらに向かってきた。仲間同士で組んでいるか、共闘しているのだろう。あんなのをまともに相手にしていたらHPがあっという間に無くなってしまう。勿論戦うつもりはない。俺はそのままそいつらに突っ込んでいく。相手は正面から突っ込んでくるとは思っていなかったようで、一瞬呆気にとられたようだった。その隙を見逃さず、俺は力強く地面を蹴って跳んだ。それから空中の何もない空間で地面を蹴り、もう一段階跳び上がる。《空中歩行》を使用したのだ。スタミナが持つ限り何度でもジャンプする事ができるが、今回は二回で充分だ。プレイヤー達の上を通り過ぎ、地面に着地する。そして無防備な背中を《真空斬り》で攻撃し、背を向け再び走りだす。《空中歩行》は切り札の一つではあるが、今のだけならば《二段ジャンプ》を使用しただけに見えるだろうから問題ない。
しかし今のように集団に襲われた時、他の方向からも向かってこられていたら面倒だな。そう思い、俺はあることを思いついた。この予選会場はかなり広いが無限に広がっている訳ではなく、進んでいけば壁がある。その壁はこの会場を四角く覆っている。つまりだ。その壁に沿って移動すれば攻撃される方向が限られると言う訳だ。回避しやすくなる。
そうと分かれば早速壁まで移動しよう。斜め後ろから突き出された槍を《ステップ》で回避し、一番近い壁に向かって走っていく。途中で何回も攻撃されたがそれらを全て回避し、ひたすら壁に向かう。《ブラッディーフォレスト》では一撃喰らうだけで致命傷の攻撃を何回も何回もひたすら避けていたのだ。あれに比べればプレイヤーの攻撃を避けるのは容易い。と言っても何回も掠っているし結構ヤバイ場面も何回もあったのだが。
「よし」
会場の隅にそびえる巨大な白い壁。ようやくたどり着いた。この壁を沿って移動していれば楽に生き延びられる。そこで後ろから攻撃され、慌てて回避する。そして振り返らずに壁を沿って走りだす。攻撃が来るのは前か後ろか左からかの三方向だけだ。回避するのは容易い。
俺と同じように壁を沿っていたプレイヤーが前から襲いかかってきた。大剣を持ち上げ、その刀身が青く輝いた。スキルを発動しようとしているのだろう。俺はそれが振り下ろされる前に走る速度を速め、空いている腹を斬り付ける。刃がプレイヤーを守るシールドに弾かれるが、構わずもう一度斬り付ける。これでもまだ倒せて無いのだが、いつまでも相手にしている訳にはいかない。蹴りを入れて地面に倒した後、もう一度壁を沿って走っていく。
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壁に沿って走っていけば楽に生き延びられると思ったが、どうやらそこまで甘くなかったようだ。壁際を走っている俺を潰そうと何人ものプレイヤーが攻撃してくるようになった。最初の方は回避して走れる程度だったのだが、三方向から何人ものプレイヤーが同時に襲いかかってきたら流石に壁から離れざるを得なかった。刃に肩を斬られHPはオレンジ色になってしまった。そろそろ不味いな。
壁際が駄目になったことで俺はどこに行ったら良いのか分からず、会場を適当に走る。そして協力しているプレイヤーに狙われ、追いかけられる。単独で行動している俺は良い獲物のようだ。
当然まともに相手にせずに逃げまわるのだが、逃げている間にも違うプレイヤーに狙われて、HPが少しづつ減っていく。まだ危険領域には入っていないが、それも時間の問題だ。やはり単独で行動するには無理があったようだ。段々と一人で行動しているプレイヤーは少なくなって来ている。このままでは集団になぶられて負けるだけだろう。
だったら俺も他のプレイヤーと共闘すればいいだけの話だ。迫ってくるプレイヤー達の攻撃をくぐり抜け、俺が向かったのは俺と同じように単独で戦っているプレイヤーの場所だ。そのプレイヤーの名前は。
「らーさん! 共闘しようぜ!」
黒髪ポニーテールを振り回しながら、素早くプレイヤーの攻撃を避けて槍で反撃している少女に俺はそう声を掛けた。らーさんは何も言わず、目の前の敵の胸を槍で突き刺し、怯んだ所を蹴り飛ばす。倒れた所に止めを刺して、らーさんはこっちの方を向いた。
「普通こういうのって本戦まで顔合わせないもんじゃないの……。再会するの早すぎでしょ……(;´∀`)」
「いやそうだけど……。このままじゃ生き延びれなさそうなんで共闘してくれよ。昨日の敵は今日の友って言うだろ!」
「まだ二時間も経って無いけどな(゜⊿゜)!」
「そうだけどさ!」
「それに、隠してる物を出せば生き残れるんじゃないの?」
「……」
そんなやり取りをしている間にプレイヤー達に囲まれていた。それぞれ武器を構え襲い掛かってくる。
「《ストームスタブ》!」
「《フォーススラッシュ》!」
らーさんの槍先から放たれた竜巻がプレイヤー達を吹き飛ばし、俺の太刀の刀身が青く煌き近付いて来たプレイヤー達を四連続で斬り刻む。
「まあいいや! 分かったよ! 共闘するぞ仮面君よおおおおお(ヽ゜д)!」
「ああ、恩に着る!」
「そのかわり本戦で当たったら全力で来いよ(゜∀゜)!」
「勿論!」