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 アルカディアの遥か上空に浮かぶ巨大なドーム。スカイドームと呼ばれるこの場所は《イベント》が近くなると各街のワープゲートから行くことが出来るようになる。勿論、通常時は行くことが出来ない。

 スカイドーム内には観戦用の椅子や選手の様子を映し出す巨大なスクリーンが設置されている。《イベント》を直に見たいプレイヤーはお金を払って席を予約しなければならない。三回目ということで今まで以上に席の予約があったらしい。掲示板内では席の売買なんかがあったりなかったり。 

 スカイドーム内ではここ限定の娯楽アイテムが発売されるため、それ目当てで来るプレイヤーも少なくないらしい。《イベント》でプレイヤーが戦っている映像や、活躍したプレイヤーの写真、前回のイベントで二つ名が付いたプレイヤーのポスター等、色々ある。デスゲームなのに何故こんなに遊び心があるのだろう。ちょっと怖いわ……。

 参加する選手も観客と同じように事前にスカイドームで参加登録をしなければならない。今回は参加するための条件として、レベル50以上である必要がある。レベル63になった俺は制限を余裕でクリアしているので普通に参加する事が出来た。

 今回のイベントはプレイヤーVSプレイヤー。参加する選手の数は百五十人程度らしい。まずプレイヤー達は幾つかのグループに分けられ、一定の数になるまで戦い合う。所謂予選だ。そして勝ち残ったプレイヤーがイベントの本戦に勝ち上がる事が出来る。因みにこの戦いの様子を観客達は見ることが出来ない。代わりに《イベント》終了後に予選の様子を映したアイテムが販売されるようだ。……。

 予選では大勢が一斉に戦い合う為、当然一対多数なんて事もあり得る。味方が居ない俺には不利な状況だが関係ない。あの森で得た逃げの技術を存分に使わせて貰おう。

 参加希望を出す時に表示される名前の希望を教えてくれ、と言われたので《シルバーブレード》と名乗っておくことにした。《オーバーレイ・スラッシュ》の色が銀色だった事から来ている。

 当然、《イベント》には仮面を被って参加する。何で仮面を被るのかって聞かれたら、顔を出して《イベント》で格好悪く負けたりしたら街を歩けないからって答えるかな。まあ絶対勝つけどさ。後は仮面付けてた方が格好いいと思うし。今思うと、《シルバーブレード》よりも《マスカレード》とかの方が良かったかもしれないな。


 イベント予選開始まで後四時間。俺はまだ宿に居た。

 気分を引き締めるためにシャワーを浴びた後、防具を着て緊張をどうにかするために手のひらに人という文字を三回書いて飲み込んだりしている。俺が大会で勝てるように気合を入れた料理を作ってくれるようだ。何を作ってくれるかって言うと、カツ丼。「勝負に勝つドン!」みたいな意味を込めてカツ丼にするんだと。ダジャレかよ、と思う人も居るだろうけど結構似たような意味を込めてカツ丼を食べる人って居るんじゃないだろうか。俺も高校受験の時は前日に「受験に勝つドン!」だったしな。大学受験の時は……知らない。記憶にない。覚えてない。

  そんな下らない事を考えて一人でクスクス笑ったり落ち込んだりしているとコンコン、と扉を叩かれた。ベットから降りて扉を開けるとリンが笑顔で立っていた。


「お兄ちゃん、ご飯出来たよ!」


――――――――――――

 

 リンの台詞を聞いて「これ何のエロゲ?」とか思った人も居るだろうけど安心しろ、俺もだ。何か気付いたらリンの俺の呼び方が「暁さん」から「お兄ちゃん」にチェンジしていたでござる。何というか、実の妹に「兄さん」とか言われても何も思わないけど、妹じゃない人にそう呼ばれると何かこう、キュンってくるよね。リュウに「僕の妹にブヒってんじゃねえぞコラ」って言われそうな気もするけど、俺はロリコンじゃないから大丈夫だ。断じてロリコンではない。

 まあそんな事はいいんだ、うん。俺はリンと一緒に下に降りていき椅子に座る。机にはトロリとした金色に輝く卵に包まれたカツを乗せられた丼が二つ置かれてあった。空へ昇る湯気がどこか神々しく見える。

 俺は唾をゴクリと飲み込み、リンに食べても良いかと目で訴える。リンは俺の様子を見ておかしそうに笑う。


「じゃあお兄ちゃん。今日のイベント頑張ってね」

「ああ……ありがとう」


 何かお兄ちゃんって呼ばれるようになってから照れくさくてリンの目を直視することが出来なくなってきてるな……。


「じゃあ食べていいよ」

「おう、いただきます」


 では早速いただきましょうか。まずは主役であるカツを一口。卵のふんわりとした柔らかさと、ふやけ切っていない衣のサクサク感、そしてプリプリで肉厚なカツ本体。こんな美味い物を食べれる俺はもう人生に勝つドンなんじゃないだろうか。いや意味が分からん。

 何で事を頭で考えながらカツに齧り付き、バクバクと食べていく俺だがさっきから気になっている事がある。リンが自分の分のカツ丼を食べずにジーっと俺の食べる様子を凝視している事です。あれだ、物凄い食べにくい。勉強とかもそうだけど、自分のやることを見られてるとやりにくいよね。これはあれか。「ん……おっおお! これ美味いな! ありがとうなリン!」ってラノベの主人公みたいなリアクションを取って欲しいって事だろうか。いやでもこれは流石に有りがちだしなぁ……。あのリアクションってなんとなく心がこもってないような気がするんだよ……。いやでも何か言ったほうが良いよな……。

 チラッ、と上目遣いで一瞬だけリンの方を見てみるとバッチリ目があって微笑まれた。おう……。何かドキッとしちまったぞ……。冷静になれ、俺。ここで興奮とかしちゃうとまたキャラがブレてるとか言われるぞ……。ここは素直に言うべきだ。


「ん……おっおお! これ美味いな! ありがとうなリン!」


 しまった、ラノベ主人公的リアクションを取ってしまった。なんてこったい。


「あはは。ありがとうお兄ちゃん」


 …………。

 今日のイベント、絶対に勝つドンしてきます。

 

 

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― 新着の感想 ―
ジンクス的には駄目だろ、それ。 どうして負けフラグを建てるの、お兄ちゃん?
[一言] 足手まといヒロインは物語を失速させますね
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