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ボーンスパイダーが八本の足を使って猛スピードで俺達に突っ込んでくる。横に移動して突進を回避し、がら空きの背中に向かって《真空斬り》を放つ。透明な斬撃が蜘蛛特有の膨らんだ臀部に斬り傷を付ける。ボーンスパイダーのHPはあまり減らなかった。俺のレベルでも《真空斬り》では大したダメージを与える事が出来ないらしい。ボーンスパイダーの防御力が高いのもあるだろうが、やはりこのスキルはボス戦には力不足だな。
ボーンスパイダーが振り返りいきなり四本の足を使って立ち上がった。
「!」
ボーンスパイダーがそのまま俺達を押しつぶそうと倒れこんでくる。俺達は《ステップ》を使用して後ろに大きく跳んで回避する。この攻撃は倒れこんだときに周囲に衝撃波が放たれる。当然巻き込まれるとダメージを受けるのでボーンスパイダーが倒れてもすぐには近づかず、衝撃波が収まるのを待つ。この攻撃の後、少しの間ボーンスパイダーは動けないので攻撃のチャンスだ。俺達はダッシュで近づいて一斉にスキルで攻撃する。
「《フォーススラッシュ》!」
「《トライスタブ》ゥ!!」
「《へヴィスイング》」
俺の四連斬りとリンと三連突き、そしてリュウの新スキル《へヴィスイング》による強力な攻撃がボーンスパイダーの顔面に叩き込まれる。それによっていっきにHPを三割ほど減らすことが出来た。ボーンスパイダーが動けないのはスキルを一回使える程度と掲示板に書いてあった。なので俺達は攻撃が終わり次第後ろに退避する。それから数秒後、ボーンスパイダーが体を起こし、さっきまで俺達が居た場所に向かって骨で出来た鎌状の鋏角を勢い良く閉じて攻撃した。鋏角って言うのは蜘蛛の口についている二本の牙みたいな奴だ。あんな巨大な鋏角に挟まれたら一溜まりも無い。やはり情報収集は大切だな。
ボーンスパイダーがシャアアアと鋏角を震わせながら叫んだと思うと、地面から十体程のスケルトンが這い出してきた。なるほど。このスケルトンとボーンスパイダーを両方相手にするのが大変な訳だな。リュウとリンだけだったら相当大変だっただろうが、俺が居れば問題ない。即効で《真空斬り》で出て来たスケルトンを片付ける。
「もうチートって感じですね」
それを見たリュウが苦笑していた。この程度何ていう事は無いさ。攻略組ならこんな事は簡単にやって見せるだろうしな。
再びボーンスパイダーが動き出した。突進攻撃だ。俺達は左右に分かれて攻撃を回避する。
「っ!」
ボーンスパイダーの突進は一回では無かった。勢い良く振り返り、再び突進をしてくる。その先に居るのは、リン。驚いたような表情で固まっている。クソ、事前に突進攻撃は一回じゃ終わらないから注意しろと言っていたのに!
避けろ、と俺が叫ぶと同時にリュウが走っていた。リンを思い切り突き飛ばして自分の前に斧を構え向かってくるボーンスパイダーの突進を迎え撃とうとしている。無茶だ。あんな巨大な奴の突進に正面から立ち向かうなんてお前のレベルじゃ不可能だ。
俺は舌打ちして思いっきりダッシュする。《ブラッディフォレスト》で鍛えたスピードにはかなり自信がある。だが、やはり間に合わなかった。リュウはボーンスパイダーに向かって《へヴィスイング》を使って斧を勢い良く振り下ろした。斧がボーンスパイダーの骨で出来た頭に当たると同時にリュウは突進を受けて吹っ飛んだ。ノーバウンドで何mも飛び、数秒後落下してゴロゴロと地面を転がる。リュウのHPが恐ろしい勢いで減っていくのが見える。《生命力》のお陰で死にはしないだろうが、この世界での痛みは現実のものとほぼ同じだ。リュウは倒れたまま死んだようにグッタリしている。しばらくは動けないだろう。クソ、これじゃ前回のボス戦と同じじゃねえか。
リュウに駆け寄って抱き起こす。辛うじて意識は失っていないようだ。まだ何とかなる。
「リュウ、急いで回復薬を飲め!」
「……はい。すいません……」
リュウは苦しそうな表情で無理やり笑みを作り、アイテムボックスから回復薬を取り出してゆっくりと嚥下する。HPが安全圏にまで回復していく。よしこれで一先ず安心だ。回復薬を飲んだからといってすぐに痛みは引かないが、数分もあれば立ち直れるはず。
リンが俺達の所に駆けてきた。真っ青な顔をして瞳に涙を浮かべながら。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……お兄ちゃん許して……」
あの一撃でリュウが死んでしまうと思ったんだろう。生きている事を知って安堵の表情を浮かべた後、ポロポロと涙を流し始めた。……この様子じゃもう戦えないだろうな。しょうがない。この二人には下がっておいて貰って俺が倒すしかないか。
「二人は下がっていてくれ。あいつは俺が倒してくる」
「……待ってください」
そのままボーンスパイダーに向かっていこうとした俺をリュウが呼び止めた。振り返るともう立ち上がり、表情も大分楽そうになっていた。
「僕達も戦います。暁さんに任せっぱなしじゃ意味がありません」
「戦わせてください!」
リュウとリンが真剣な表情でそう言った。……。まあ戦えるというなら断る理由も無い。
「分かった。打ち合わせ通りに動いてくれ」
俺がそういうと二人は一瞬嬉しそうに表情を崩し、その後再び真剣な表情に戻した。
ここからは俺達の快進撃だった。ボーンスパイダーの突進やプレス攻撃を全て回避し、隙を見つけては一斉攻撃を仕掛ける。生み出されたスケルトンは即効で俺が倒すので問題は無かった。ボーンスパイダーが壁を這い上がって俺達の真上までやってきて体をブルブルと揺する。すると奴の体から大量の骨が落ちてくる。その分体は小さくなっていくのだがお構い無しだ。
落ちてくる骨を回避しする。確かこの骨が普通のよりも巨大なスケルトンになるんだったな。骨がくっついていき大きなスケルトンが三体現れる。その内二体は俺が《フォーススラッシュ》で片付け、もう一体は二人の《トライスタブ》と《フォーススイング》の連携によって倒された。
スケルトンがやられると一回り小さくなったボーンスパイダーがいきなり落ちてくる。この攻撃を喰らうと殆ど即死らしい。攻略組の何人かがこのいきなりの落下の餌食になったと掲示板に書かれていた。勿論俺達はこのことを知っていたため余裕で回避することが出来た。
ボーンスパイダーは床に叩きつけられたせいでHPを一割ほど減少させた。取り込んだスケルトンの破片が回りに飛び散っている。
「これで終わりだ!」
動けないボーンスパイダーに向かって俺達は最後の一斉攻撃を仕掛ける。それによってとうとうボーンスパイダーのHPは零になった。ボーンスパイダーは苦しげな叫び声をあげながら全身を震わせ、自身の骨を回りに撒き散らしていった。最終的に全部ただの骨になってしまいもう原型がなくなっている。飛び散った骨は粒となって消えていった。