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忙しくて書く時間がない…
「チッ!」
大量のスケルトンが地面から沸き出してくる。前後ろ右左、あらゆる方向から骨が殺到してくる。一体一体の強さは大した物ではないが量が多い。《真空斬り》で前から来る奴らを倒してリュウとリンを先に行かせ、スケルトンを相手取る。《間合い斬り》で近づいてきたスケルトンを一気に斬り付ける。首が地面に落下してカラリと乾いた音を立てる。
やっぱり掲示板に書いてあったようにまともに相手しない方が進みやすいな。経験値を稼ぐためとはいえこれは面倒すぎる。ここで経験値集めをするなら六人ぐらい必要だと書いてあったがまさにその通りだな。
ある程度片付け終わったから前で待っていた二人の元へ行く。リンが心配そうな顔で尋ねてきた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
あいつらの攻撃じゃ殆どHP削られなかったしな。二人は回復薬とスタミナドリンクを使用したようで、HPもスタミナもマックスになっていた。
「これでようやく墓の半分だ。この先にはゴーストとボーンナイトが出てくる。油断するなよ」
「「はい」」
それにしても凄い数の墓だな。これだけ進んでもまだ半分とか……。約三万個あるんだっけか。ここに置かれている墓石には誰の名前も刻まれていない。ただの石だ。
しばらく進んでいくと墓石から急に青い手が飛び出してきた。リンに向かって手が伸びていく。俺が手を出すより先にリュウが斧を振っていた。青い手が斧がぶつかるとスッと消えてしまった。次の瞬間、耳を塞ぎたくなるような叫び声が青い手が伸びてきた墓石から発せられた。リンがビクッと体を震わせて怖がっている。……可愛いなおい。
叫び声は数秒で止んだ。その変わり、そこら中の墓から青色の半透明な物体がヌウと姿を現す。ゴーストだ。長く細い腕に苦痛に歪んだ顔。滅茶苦茶気持ち悪い。リンが「あぅああ」と言いながら震えている。リュウは表情を変えず冷静にゴーストを観察している。この気持ち悪い奴らを見て表情を変えないなんて流石だな。
ゴーストはおおおぉおおと低い声で呻きながら一斉に飛びかかってきた。クソ、なんでこのエリアはモンスターが大勢で一斉に襲いかかってくるんだよ。右から襲いかかってきたゴーストの顔面に刃を突き刺してやる。手応えはない。だがゴーストはさっきのように悲鳴を上げてスッと消えていった。これで倒したことになるらしい。《ライト・スクエア》で手を伸ばしてきたゴースト数体を倒して、さっさと進むことにした。ゴーストの攻撃は厄介だ。
「リン! 足下!」
リュウがリンに向かって何かを叫んだ。足下? リンの足下を見てみると地面から小さな青色のボタンが出ていた。リンは何を言われているのかよく分からないようで、ゴーストに槍を突き刺しながらボタンに向かって踏み出した。クソッ! 俺は体勢を低くしてゴーストの攻撃を避け、リンに向かって全速力で走った。
「おおおお!」
間に合った。足がボタンを踏む前にリンを思い切り突き飛ばすことが出来た。リンは墓石に思いっきりぶつかり、HPを少し減らす。リンを庇った俺はそのまま勢い余ってボタンを踏んでしまった。その瞬間、いきなり槍が四方八方から飛んできて俺に刺さる。HPが四分の一削られた。
「っ!」
槍は防具を擦り抜けていた。槍が刺さっている部分からまるで燃えているかのような痛みが襲ってくる。そして槍先が冷たい。燃えるような熱さと共に凍り付くかのような冷たさが同時にやってくる。俺は立っていられなくなり膝から崩れ落ちた。リンとリュウの叫び声が聞こえるがなんて言っているのか分からない。痛みのせいで何も考えられない。しばらくして槍が光の球となって消えていった。だがまだ痛みが残っている。
俺が痛みが治まるのを待っている間もゴーストは襲ってくる。動けない俺の体に数体のゴーストが体当たりしてきた。物理的なダメージはないが全身を凍らせられたかのような感覚が襲ってくる。それが何回も何回も連続してやってくる。リュウ達は何をしてるんだ。ゴーストが体を擦り抜けた瞬間、目の前がグニャリと歪み始めた。脳が熱くなり自分が何をしているのか分からなくなる。気持ち悪い。吐き気がする。クソ、混乱か。目が回って立ち上がれない。背中から凍り付くような感覚が体の中を通って胸までやってきた。
「大丈夫ですか!?」
唐突に感覚が正常に戻った。混乱が解けたんだ。それでもすぐには立ち上がれず、何度か倒れそうになってようやく立ち上がれた。リュウが俺を見て安堵の表情を浮かべた後、すぐに顔を引き締めた。後ろでリンがゴーストと戦っている。俺とリュウはすぐにリンの所に行き助太刀する。俺が混乱していた間に結構な数のゴーストを二人で倒していたらしい。残っていたのはほんの五体だけだった。
リンが槍でゴーストの顔を貫く。だがゴーストは消えず、悲鳴を上げながら腕を伸ばしてリンを捉えようとする。そこにリュウが更に頭へ斧を叩き込んで倒す。残りのゴーストはすぐに倒すことが出来た。
さっきの罠はレベル防具関係無しにHPの四分の一削る、というものだったんだろう。死ぬかと思った。それからレベルが上がれば相手の攻撃によって状態異常になりにくくはなるんだが、今回は運が悪かったな。縁起のいい称号を持ってた気がするんだがなあ。まあ〔幸運〕は稀少なアイテムやスキル、称号が手に入りやすくなるって説明文に書いてあったから状態異常に対しては効かなかったんだろうな。
リンが泣きそうな顔をしながら俺に近づいてくる。
「あ、あの……」
「それはこの先にある休憩地点で言ってくれ。ここで話しているのは危険だ」
リンの言葉を遮って俺は前に進んだ。リュウは何も言わずにリンの頭を撫でてやり、それから二人で俺の後に続く。良い兄を持って良かったな、リン。