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昨日更新できなくてすいません。完徹してやりたいことやってました。
ベッドに入って目を瞑る。今日った出来事が目蓋の裏で再生されていく。ゾンビは結構怖かった。あの生気の失せた顔、おぼつかない足取り、何かにすがるように伸ばされた腕。ゾンビ物の映画は好きだが見たその日はゾンビが襲ってこないかとドキドキしてしまう。ゾンビの事を頭の奥から振り払い、今日の《槍騎士》との戦いを思い出す。高速で繰り出される突きは凄まじかった。威力は俺でも弾けるくらいの物だったが速度でカバーされている。あの決闘の時、久々にゲームを楽しんだ。気を抜けばやられてしまうという緊張感、相手の攻撃を紙一重で避けるあの感覚。命の危険があったなら楽しめなかっただろうが、あれは安全な決闘だ。楽しかった。イベントに出ればあのような高揚感をもっと楽しめるかも知れない。今から楽しみだった。今回あいつから喰らった稀少スキルのコンボは同じく稀少スキルの《残響》があれば容易くかわせる。一度見せてしまえば警戒されるだろうけど最初の一撃で急所を斬れば問題ない。
イベントでの戦いを想像してベッドの中で悶えているとトントンと扉がノックされた。起きあがり誰かと扉を叩いた者に問いかける。宿の扉はロックすることが出来、寝込みを襲われることはない。ただし自分でロックを解くことが出来るため、気安く扉を開けて殺されたんじゃたまらない。
「暁さん……。入れて下さい」
リュウだ。こんな時間に何のようだ……と思ったがまだそんなに遅い時間ではなかった。扉のロックを解除して中に入ってくるように言う。扉がゆっくりと開きリュウが恐る恐るといった感じで中に入ってきた。俺はベッドに座るように言う。
「急にすいません。話したいことがあったので……。リンはもう寝ました」
リュウは俺の隣に座りながらそう言った。
「多分、今日の様子だと明日にはエリアがクリア出来るかな、と思って」
ああ。そういう事か。確かに今日の進み具合で行けば明日には《アンデッドカーニバル》は突破出来るだろう。ゾンビ達を蹴散らしながら墓に向かい、鴉は俺が《真空斬り》で倒す。それから墓で出てくるゴーストやボーンソルジャーなどを倒してボスであるスカルスパイダーを倒す。昨日は様子見で行った様なものだからすぐ帰ってきたが、明日は攻略が終わるまでやるつもりだ。
「ああ……。多分な」
そう言うとリュウは悲しそうに笑った。
「ずっと聞いてみたかったんだが、なんで俺について来たかったんだ? ゴーレムマウンテンなら引き籠もり組は少ないだろうし、宿も開いていただろ? あそこで安全に生活していた方が良かったんじゃないか?」
「……確かにゴーレムマウンテンなら安全に生活出来たと思います。地道に狩りをしていれば生活する金ぐらいは手に入ったでしょうし……。でもあそこでダラダラとレベルを上げているわけにはいかないんです。僕はもっと強くなりたい。出来ればずっと貴方のような強い人に守って貰って生活したい。その方が楽ですし安全だ。だけどいつまでも頼ってはいられない」
「どうしてそこまで強さを求めるんだ」
「前に言いましたよね……。僕が所属していたギルドはPKプレイヤーの集団に襲われたって。あいつらは低レベルのエリアにも現れて人を襲っていきます。あのままゴーレムマウンテンで狩りをしていてまたあいつらが襲ってこないとも限らない。だから強くなってあいつらを退けられるくらいになりたいんです」
PKプレイヤーか。掲示板でもどこどこにPKプレイヤーが出た、とかそういう書き込みがあったな。色んなギルドがPKプレイヤーを捕まえようと動いているらしい。PKプレイヤー達もギルドを作っているらしく、《屍喰らい(グール)》とか《目目目》なんていう暴走族みたいな名前の奴らが有名のようだ。
「それに今後行われるイベントの中に大量のモンスターが街に襲いかかってくる、とかいうのがあるっていう噂もありますし、レベルが高いプレイヤーは低いプレイヤーに威張ったりするので……」
……。イベントの話は飽くまで噂だろうから置いておくとして、確かにレベルが高いプレイヤーが自分より下のプレイヤーに威張る、というのはあるかもしれない。成る程……。手っ取り早く強くなりたかった訳ね。それには俺が丁度良かったと。見事に利用されたみたいだ。
「あの、取り敢えず今までありがとうございました、って言いにきただけなので……。その、僕はもう帰りますね。明日、頑張りましょう」
「……ああ」
リュウはそう言うと頭を下げて部屋から出て行った。全く、しっかりした兄貴だ。俺もしっかりしなくちゃいけない。
このエリアには墓地という場所がある。そこには死亡したプレイヤーの名前が刻まれた墓石が並んでいるらしい。俺は行ったこと無いから詳しく分からないんだが。フレンド登録をしているとそのプレイヤーが死んだときに、どこにその墓石があるかが分かるようになっているらしい。栞は生きているのか。それとも墓石に名前が刻まれてしまったのか。今は分からないが俺は墓地に栞の名前を探しに行くつもりはない。そんなんを女々しく探すくらいなら《アルカディア》中を探し回った方がいい。
さてと。もう寝よう。森にいた時は夕食を食べたらすぐ寝ていたからな。寝る癖がついてしまった。俺はもう一度目を瞑り、ゆっくりと意識を闇の中に落としていった。