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目を開くと真っ白な壁に覆われた大きな部屋の中にいた。周りには俺と同じプレイヤーが立っており、隣の人と何やら話していた。人の気配や熱気までリアルに感じられる。《ドリーム》のゲームって気配とか熱気とか細かい所にリアリティが無いから、やっぱ《Blade Online》ってすげーんだなぁと再確認する。
つーか、みんな大剣とか槍で武器に太刀を選んだ奴が全然居ないぞ……。β版をプレイした奴が作った攻略WIKIに、太刀はハズレ武器って書かれてたけど、そんなにハズレなのか……。確かに攻撃力でもリーチでも攻撃速度も全部半端だけどさ……。しかも結構扱いが難しいし。だけど敢えて太刀にしようってプレイヤーはいないのかよ……。きっと俺以外にも居るんだろうけどこりゃ相当少ないかもな。
この部屋に入れられてから十分程して、プレイヤーの一人が悲鳴を上げた。周りがそれに注目する。
「ログアウト出来ねえぞ!?」
そんな馬鹿な、とステータスを開き、画面の右上に表示されるログアウトボタンを探す。……無いぞ。嘘だろ。
周りのプレイヤーがざわざわと騒ぎ出す。折角のゲームだって言うのに運営がいきなり転けたな。というかいつまでこの白い部屋に入っていなきゃいけないんだよ。このまま出られないのではないか、そんな考えが頭をよぎる。
その時、部屋の壁に四角いスクリーンの様な物が現れた。画面にはテレビの砂嵐のように白い線と黒い線が動き回っている。プレイヤー達が黙ってそれに注目していると、そこから低い男の声が流れ始めた。
『約三万人のプレイヤー諸君、これから私が言うことを良く聞きたまえ。ログアウトボタンが無いのは運営のミスではなく、最初からそういう仕様になっているからなのだ』
プレイヤー達が再び周りと話し始める。
どういう事だ。ログアウトボタンが無いのが仕様? つまり故意にログアウトボタンを消したのか? 訳が分からない。
早いところガロンと合流したいが、この部屋にいる人間はかなり多い。ここから探し出すのは難しいだろう。
『それと現実世界からの干渉はほぼあり得ない。この世界では君たちの思考が《加速》されている。詳しい説明は省かせてもらうが、この世界での一年は現実世界での一秒にも満たない。ゲームを攻略せずにここから出られるとは思わないことだ。
プレイヤー達から上がる怒声や悲鳴を無視し、スクリーンからの声は続く。
『それとこの世界での死は現実での死に繋がる。君達プレイヤーの命、HPバーが無くなった瞬間、現実世界での君達の脳に特別な電波が送られ、ショック死する』
空気が死んだ。今まで面白半分に騒いでいた連中も顔を引きつらせ、スクリーンを凝視している。俺は現実で死んだような生活をしていたからこっちに来ても変わらない、なんて考えは浮かんでこない。
やべえぞ、これ。嘘だろ?
『それと、最後に一つ伝えておかなければならない事がある』
今まで無機質で淡々と喋っていた男の声に、僅かに楽しんでいるような色が混ざる。
『このゲームの設定はモンスターのレベルなど一部を除いてβ版と同じになっている。アイテムや武器などの設定は一切変更されていない。β版プレイヤーから送られてきた感想に太刀が使いにくいというものがあったが、残念ながら太刀の設定もそのままだ』
え? ちょ、待ってよ。それってβ版で滅茶苦茶使いにくかった太刀は、この正式版でも滅茶苦茶使いにくいって事ですか。そうなんですか。
周りのプレイヤーが一斉に俺の方を見てくる。視線には同情と蔑みが含まれていた。いや、え、そんな目で見られても……。
『ああ。β版との変更点はPKが可能になった、などだな。この世界で死ねば現実でも死ぬ。仲間にする人間はよく選んだ方が良い』
PK。プレイヤーがアイテムや経験値を得るために仲間であるはずのプレイヤーを攻撃し、殺す行為。マジかよ……。
『ではこれより君達を最初の街の広場に転送する。そうしたら即行動に移すことをおすすめする。ポップするモンスターは無限ではないから経験値を稼ぎたいのなら迅速に行動することだ。では存分に楽しんでくれたまえ』
スクリーンが消え、再び眩い光に包まれた。
――――――
Name:暁
Lv1
Weapon:太刀『錆びた刀』
Skill:
Title:
Strength:10
Agility:10
Endurance:10
Vitality:10
Dexterity:10
Skillはスキル、Titleは称号です。Strengthは筋力値、Agilityは俊敏さ、Enduranceは耐久値、Vitalityは体力値、Dexterityは器用さです。これらは作中では基本的に日本語で書くつもりです。