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やばい、エタりそう。
異能力物の小説書きたい。
起きあがって立ち上がり再び余裕の笑みを取り戻した虚空と向かいあう。さっきの表情の変化からしてやっぱり俺の事を見下してたんだな。見下している相手に一本取られるとかそりゃあ腹も立つだろう。だがやはり槍は戦いにくい。リーチがあっちの方が長いからな。俺が攻撃を当てる前にあっちの攻撃に当たってしまう。仮に避けて懐に潜り込んでももう同じ手は通じないだろうしな。どうした物か。
「僕から一本取るなんてやるね、君。ちょっとだけ本気で行かせて貰うよ」
虚空はそう言いながら槍を突き出す。太刀で弾いて後ろに下がって射程範囲から抜け出しどうやって戦うかを考える。このままではじり貧だ。槍を避けても斬り付けるには接近しなければならない。しかも突きの速度はかなり速いしな。ん。突き、か。……よし試してみる価値はありそうだな。
虚空が間合いを詰めてきて再び攻撃してきた。それを横に飛んでギリギリで回避する。突きを太刀を使わず《見切り改》と身体能力だけでかわしていく。突きは確かに速いが避けようと思えば避けれる。スキルを使われると話は別だが。向かってくる槍先を凝視し自分の体に当たる前に横に飛ぶ。それから十回ほど避けて、突きは大体見切った。突きを何回もかわされた事で虚空が苛ついて来ているのが見える。そろそろか。
「!」
突きが飛んでくるタイミングを見計らい、体を左に軽く捻りながら太刀から右手を離して左手だけで突きを打つ。片手突き。横目で槍先が右肩スレスレを通過していくのを確認する。左手に固い壁にぶつかる感覚が伝わってくる。刃先が虚空の喉元を捉えていた。硝子が割れる音が響き、突きを喰らった虚空が吹っ飛ばされる。俺も無理な体勢をしたせいでバランスを崩して倒れる。
「チィ…………」
虚空が喉を押さえながら鬼のような形相で睨み付けてくる。目が吊り上がり口からはギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてくる。プライドが高いんだろうなぁとは思っていたけど、こんな顔されるとは。怖過ぎる。
「僕を本気にさせたことを後悔するがいい」
虚空はボソッと呟くと叫びを上げながらスキルを発動した。
「《ビーハイブ》」
槍が凄まじい速さで突き出され俺に襲いかかる。太刀で槍を防ごうにも速すぎて受け止めきれない。突きは合計十回放たれた。《見切り改》と《ヘヴィ・スクエア》、《受け流し》の三つを使っても止めきれず首元に強烈な一撃を食らってしまった。さっき俺が突きを当てた場所だ。意趣返しのつもりか? スキルを使い終わったというのに《見切り改》が次の攻撃が来ると俺に告げる。《ステップ》で大きく後ろに跳ぶ。それなのに射程範囲から出られていないだと……?
「《コメットインパクト》!!」
虚空が槍を前に突きだして俺に向かって走り出す。槍が青い光を纏い始める。まるで彗星のようだ。青い光が尾を引きながら近づいてくる。もの凄い速度だった。スキルが発動してから俺の元に辿り着くまで殆ど一瞬。反射的に太刀を振りかぶって叩き付けるが威力に負けて思い切り吹き飛ばされる。突きが思い切り胸に突き刺さっていた。硝子の割れる音が響くと同時に、脳内に『Your Lost』という文字が浮かび上がってくる。恐らく虚空の脳内にはウインの文字が浮かんでいることだろう。クソ。なんで連続してスキルが使えたんだ。《ビーハイヴ》を使ってから次のスキルを使うまで全く間が無かったぞ……。
「僕の槍は第十エリアでモンスターが落とした物でね。稀少スキルが付いていたよ。《リプレイ》。スタミナを倍使うかわりに一度だけスキルを連続で使うことが出来るんだよ。どうだ凄いだろう」
虚空が僕を見下ろしながら勝ち誇った笑みを浮かべながらそう言った。最初の時のような馬鹿にした笑みではなく敵意剥き出しの表情だった。楽しかったよ、と虚空は言うとそのまま俺に背を向けて歩き出した。野次馬達は勝負が付いたのを見て解散した。倒れている俺にリュウとリンが駆けつけてくる。
「大丈夫ですか!?」
リュウが俺の手を掴み起きあがらせてくれる。
「すまない。負けてしまったよ」
「いや、それでも二つ名持ちに二本も取れるって凄いですよ! 彼ってレベル63で暁さんよりも上ですし」
「しかもあの《ビーハイヴ》と《コメットインパクト》のコンボは虚空さんの必殺技ですよ! 暁さんは二つ名持ちに必殺技を使わせるくらい強いってことです!」
二人が負けた俺を慰めようと言葉を掛けてくれる。ありがたいけど俺はちっとも負けたなんて思ってないぜ。奴は稀少スキルを使って俺に勝ったけど、俺は稀少スキル使ってないしな。イベントで戦えば勝てると踏んだね。
二人に礼を言い、宿に戻ることにした。
――――――
「あの鴉は俺が倒すからお前達は下がっておいてくれ」
俺達は夕食を食べながら今日の反省をしていた。エリアに行く前に情報収集はしてきたのだけど甘かったようだ。どこで何が出てくる、というのをもう少し詳しく調べておこう。
因みに今日の夕食はビーフシチューだった。人参、ジャガイモ、タマネギ、そして火牛という炎を吐くモンスターの肉が小麦色のルーの中に所狭しと入れられている。全てが良く煮られていてトロトロしている。牛肉は口の中に入れるとトロリと溶けていくほどの柔らかさ。結構分厚いのにすごくトロトロだ。人参とタマネギはトロリとしていて凄く甘い。ジャガイモはホクホクで美味しい。最高だ。
そう言えば、さっき掲示板を覗いてみると早速書き込まれていた。『仮面を付けた太刀使いが《槍騎士》と互角にやり合っていた』、と騒がれている。目撃者が多かったから信憑性も高い、なんて言われている。まあイベントで戦うときは全力を出すから《槍騎士》には勝てるだろうな。
俺達はご飯を食べ終わり自分の部屋に帰った。部屋割りは俺一人で一部屋、リュウリン二人で二部屋だ。俺はシャワーを浴びて防具を外し早めに寝ることにした。