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《Side Story》

リュウ視点での話。

 誕生日に二人分の《ドリーム》を買って貰い、《Blade Online》のサービスが開始されると同時に僕と妹はゲームを開始した。

 クリアするまで脱出不可能、そんな牢獄に入れられるとは知らずに。


 ゲームをプレイするとき、二人とも自分の名前から取ることにした。僕は竜之介りゅうのすけから取ってリュウ、妹はりんからそのままリン。ゲームの中で僅かな間だけ使う名前だと思っていた。だけど浅田竜之介あさだりゅうのすけという名前はこの世界では意味をなさなくなり、リュウというプレイヤーネームが僕を表す名前になった。それは他の人も同じ事だろうけど。斧を振り回してモンスターを倒すとき、自分はリュウなんだなと実感する。この感覚が何なのかよく分からないけど、自分が自分で無くなっていくような気がして気持ち悪かった。


 子供だから、と誰にも相手にされず途方にくれていた僕らを拾ってくれたのはタカという人だった。一緒にいるだけで安心できる、そんな雰囲気を持った人だった。タカさんは子供のプレイヤーを集めてギルドを作り、レベルの低いモンスターを安全に倒し、みんなのレベルを上げていった。第一エリアのボスを犠牲無しで倒した僕達は、新しい防具を作って貰い次のエリア《ダイナソージャングル》に向かった。そこでも同じようにレベルを上げていき、全てが順調に進んでいた。こちらに来てから弱気になっていたリンも大分笑うようになったし、こんな所でも平和に生きていけると思っていた。




 《ダイナソージャングル》のボスはダブルヘッドレックスという二つの頭を持ったティラノサウルスの様な姿をしていた。僕達はタカさんの指示に従いながら、時間を掛けてボスを倒した。翌日、新しい武器を手に入れた僕達は調子に乗り、エリアで日が暮れるまで武器の威力を試していた。あの日見た光景は今でも脳裏に焼き付いている。


 いきなり現れた槍使いのプレイヤーがタカさんの胸を貫いた。それが運悪く急所に入りタカさんは即死した。HPバーが一瞬で空になる。タカさんは目を大きく見開きながら、自分の胸に生えている物を見て信じられないと言った顔をした後に光の粒となって消えていった。人が死んだというのにそれだけだった。ただ光の粒になっただけだった。モンスターが死ぬのと同じであっさりとしていた。なんの余韻も残さず消えていく。やっぱりここは現実じゃなくて、僕はリュウなんだなと思った。


 みんなが唖然としている中、僕が思ったことはリンを助けなくては、だった。リンの後ろから近づいてきていた男に気付き、《フルスイング》を叩き付ける。反撃されるとは思っていなかったようで、その男は攻撃を受けた右腕を押さえて絶叫した。痛みは現実の世界と同じだからね。僕はリンの手を掴み、その男を突き飛ばして走り出した。リンはまだタカさんが死んだことが受け入れられない様子で後ろをジッと見ていた。僕はアイテムボックスからワープロープを取り出す。リンに使うように言ったが、まだ仲間がいると言って使おうとはしなかった。後ろから男達の声が近づいてきている。駄々をこねるリンにみんなだって馬鹿じゃない、ワープロープで逃げているさと言葉を掛ける。納得していない様子だったけど武器を持って来ている男達を見たリンは使う気になったらしく、ワープロープを取り出した。


「リュウ、手繋いで」


 リンはワープロープの放つ緑色に包まれながら、僕に手を伸ばしてきた。いつもは強気なリンだけどその表情は弱り切っていた。


「うん」


 リンの手を握り、僕達は完全に光に包まれた。行く場所は《ダイナソージャングル》の次のエリア、《ゴーレムマウンテン》だ。PKプレイヤーの居るようなエリアから早く逃げ出したかった。

 次に目を開けたとき、僕達は見慣れない街に居た。第二エリアよりもNPCの出している店が多く、夜だというのにプレイヤー達が歩き回っている。どうやら奥のエリアに進めば進むほど街の規模が大きくなっていくようだ。街のすぐ側にある大きな岩で出来た山を見上げながら、僕はそう思った。


 近くにあった宿に入り、泊まることにした。シャワーを浴びた後、僕達は何もすることが無く、寝ることにした。リンがPK報告しなくて良いの、と聞いてきたがあれをするにはプレイヤー名を知っている必要がある。何でこんなやり方にしたんだ。このゲームの運営が信用できないのは初日で分かってた事だけどね。


 防具と武器を置き、ベッドに入る。目を閉じるとタカさんが消えていく様子が再生され、眠れない。仲間はどうしたんだろうか。生きているだろうか。リンにはああいったけど、恐らくみんな殺されてると思う。タカさんが死ぬ様子を見てみんな呆然となっていたから、多分反撃できずに殺されてしまったと思う。


「リュウ……一緒に寝ていい?」


 僕が返事を返す前にリンがベットの中に入ってきた。枕の上にリンも頭を乗せてくる。二人で向かい合う形になった。リンは結構綺麗な顔をしていると思う。知らない人が見たら恋人同士に見えるだろうか。


「タカさん……死んじゃったよぉ。みんなも……」


 リンが顔をクシャリと歪ませて僕の胸に埋めてくる。僕の目頭も熱くなり、涙が零れそうになるけど瞬きして堪える。僕は鈴の兄、竜之介だ。殆ど同時に生まれたとはいえ、僕が兄なんだ。妹の前で弱気になるわけにはいかない。今、こいつを守ってやれるのは僕だけなんだから。


「お兄ちゃん……お兄ちゃんはどこにも行かないで」


 リンが僕の体を強く抱きしめる。


「うん。大丈夫だよ。リンは僕が守るから」






 何種類ものゴーレムが空から落下してくる。モンスターハウスだ。クソ、まさかこんな所に罠があるなんて。

 殺到してくるゴーレムをリンと連携しながら倒していくが、駄目だ数が多すぎる。何をやっているんだ僕は。リンを守るって決めたのに、なんでこんな。

 徐々にHPが削られていく。モンスターの数は一向に減らない。このままでは僕達がタカさんと同じように死ぬのは時間の問題だった。


「加勢するぞ! 大丈夫か!」


 

 天は僕達を見放しては居なかった。誰かが助けに来てくれたようだ。彼は初期装備に太刀という常識外れな格好をしていた。それなのに、ゴーレムを次々と斬り倒していく。そして空を飛んで僕達の後ろまで一気に移動し、背後から攻撃しようとしていたゴーレムを切り伏せた。僕達を救いに来た天使と言うよりは、化け物のような印象を受けた。彼がモンスターを殺しているときの目からはどこか楽しんでいるような感じがする。この人はもう、完全にもう一人の自分になってしまったのだろうか。僕もいずれは完全に竜之介ではなくリュウになるだろう。そうしたら彼みたいになるのだろうか。それは少し魅力的で、だけど怖かった。


 リンは僕が守るから。


 今の僕ではリンを守れない。この人の実力なら、僕達を助けてくれるかも知れない。



「いえ……助け合うのは当然の事ですから」


 礼を言う僕達に、彼は爽やかな笑みを浮かべてそう言った。さっきまでの印象とは違う、優しそうな人だと思った。この人なら、リンを守ってくれるかもしれない。図々しいとは思うし、勝手だとも思うけど、僕は彼に頼んだ。パーティーを組んで下さいと。


 断られると思っていた。だけど彼は了承してくれた。やはり先程受けたような印象は間違っていたのかも知れない。


 話をしていると、彼がとんでも無く強い人だと言うことが分かった。何か話せない事情があるようだけど、それでも良かった。


 

 ギガントゴーレムを倒して宿に帰った後、暁さんに怒られた。


「兄は妹を守ったり助けたりするために産まれるから、“兄”って言うんだ。その兄が妹を傷つけてどうするんだ、リュウ。リンをしっかり守ってやれ」


 全くその通りだと思った。僕が身を挺してでもリンを守るべきなのに、僕が守られていてはお話にならない。

 暁さんにも妹がいると言うことが分かった。妹さんもこの世界に居るらしい。だけど、どこにいるか分からない。“妹”という単語を口にするとき、暁さんの目が濁る。上手く言えないけど、光が消えて真っ黒になったような。妹さんと何かあったんだろうか。でもそれを聞くことは躊躇われた。


「よければ、私のご飯を毎日食べて貰えませんか?」


 リンがいきなりこんな事を言い出した。思わず唖然としてしまう。暁さんも同じ様子だった。だけどどうやらパーティーを組んで下さい、という意味だったらしい。ビックリしたよ。パーティーをもうしばらく組んで下さい、と僕から暁さんに言おうと思っていたことだから、リンに先を越されてしまった。


 暁さんは迷っているようだった。僕はこの人が何を考えているのかイマイチ分からない。そりゃあエスパーでも無い限り人が何を考えているかなんて分からないんだけど、この人は時によって表情がガラリと変わる。断られると思ったけど、彼は次のエリアを攻略するまでなら、と条件付きだけどOKしてくれた。


 図々しいとは自分でも思う。まるで寄生虫だ、とも。だけど僕達がこの世界で生きていくには誰かの力を借りるしかないんだ。

 

 暁さんなら、僕に何かあったときリンの面倒を見てくれるかも知れない。僕が死んだときに面倒を見てくれる人がいなきゃリンはきっと生きてはいけないだろうから。何を考えているかは分からないけど、暁さんなら助けてくれるような気がする。


 リンを守るためだ。強い人と関係を結んでおいた方が良い。



 僕は鈴を守る。例え僕自身の手では無理でも。

少し印象と違うかも知れません。結構大人びています。

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― 新着の感想 ―
でもこの「お兄ちゃん」は妹ちゃんを泣かせて、妹ちゃんに見捨てられたお兄ちゃんだけどね。
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