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 宿に戻るとリンは既に帰ってきていた。今キッチンで料理しているらしい。楽しみだ。もうしばらく掛かるとの事なので、リュウと話をすることにした。


「なあ、太刀使ってるプレイヤーって他に知らないか?」


 俺がそう話し掛けるとリュウは難しそうな顔をして答えた。


「うーんっと、少なくとも攻略組にはいないと思います。それとエリアで太刀を使っている人は最近は見ませんね。半年前まで運営があんな事を言ったのは太刀に何か秘密が隠されているに違いない、と使っている人を数人見かけたんですが……」


 確かに運営のあの言い方はおかしい。混乱している状況でああ言われたら信じてしまう人もいるかも知れないが、冷静になれば何かある、と思うのが普通だ。他の攻略組がどんな様子なのか直接見ていないので俺が何か特別な力を持っていても分からないが……。まあ武器を変えるには手間が掛かるし、熟練度が0になったり面倒だから俺はこのまま太刀で行くつもりだ。そんなに言われてるほど酷い武器でも無いしな。稀少武器レアウエポンを手に入れられれば一も二もなく変えるけど。

 稀少武器レアウエポンとは文字通りレアな武器だ。武器の熟練度を上げていると稀に手に入るらしい。どんな物があるのかは知らないが、熟練度はそのままらしいので是非欲しい。


稀少武器レアウエポンを使ってるプレイヤーとか知ってるか?」


 気になったので聞いてみた。


稀少武器レアウエポンですか。んーと、有名な方だと《流星》さんが片手剣の稀少武器レアウエポン“バスタードソード”を使っていますね。誰が持ってるとかはあまり詳しく知らないんですけど、“サーベル”とか“矛”とかあるそうです。この二つは稀少武器レアウエポンの中でもポピュラーで、どうやったら出るとか掲示板を調べれば出てくると思いますよ」


 ふむ。片手剣の稀少武器は“バスタードソード”なのか。何だその剣は。“サーベル”とか“矛”なら分かるけど“バスタードソード”は聞いたこと無いぞ。マスタードソースみたいな語感してるけど、どんな武器なんだ? 是非間近で見てみたいな。太刀にも稀少武器レアウエポンはあるんだろうけど、使ってる人が少ないからなあ。まあ殆ど使ってる人が少ないんじゃ太刀自体が稀少武器レアウエポンみたいな物か。


「一つ聞きたいんですけど、いいですか?」


 リュウが興奮を抑えるような顔つきで言ってきた。ん? 構わないけど。


「暁さんって稀少レアスキル持ってますか? 何か四段ジャンプよりも高く飛んでたし、消えてたし、見たこと無いスキル使ってたので……」


 あー、やっぱり見られたか。稀少レアスキルを持ってると知られると他のプレイヤーから根掘り葉掘り聞き出されそうだから人前で軽々しく使う物じゃないな。まあこいつなら言いふらすような真似はしないだろ。


「ああ、持ってるぞ。二つ」

「ほ、本当ですか!? うわははー!! 二つって、凄い!」


 リュウのキャラがよく分からなくなってきたぞ。うわははーってお前。


稀少レアスキルってどんなのがあるんだ? 出来れば教えてくれ」

「えっとですね、確か《流星》さんが《幻影》と《癒しの光》というスキルを持ってたと思います。それから、《移動城壁パーフェクトウォール》さんが《裁きの一撃リベンジ》を、《震源地》さんが《アースシェイカー》というスキルを会得していた筈です。他にも《嵐帝》さんが何か持っていた筈ですけど忘れてしまいました。すいません」


 有名なギルドのトップでも稀少レアスキルは持っていて二つか。もしかして俺ってかなりついてるんじゃないか。


「あとですね。比較的会得しやすい稀少レアスキルに《自然治癒》とかあります。《自然治癒》はあんまり回復薬を使わずに寝たりして回復していると会得出来るようですよ」


 そうなのか。やっぱり情報を集める事は大切だな。今日の夜、寝る前に色んな掲示板をしっかり覗くとしよう。仲間募集した時に何故か某掲示板のようなノリで対応されたけど、あれはなんだったんだろう。嫌いじゃ無いんだけどさ。


「……ギガントゴーレムを倒すとき、使ってたのってオーバーレイ系のスキルですよね?」


 オーバーレイ系って事は他にもオーバーレイの付くスキルがあるのか。


「そうだが」

「オーバーレイ系のスキルは使い手によって色と威力が変わってくるんですよ。緑色とか赤色とか人それぞれなんです。で、大体がそこまで強い威力は持ってないんですけど、一人だけ凄まじい威力のオーバーレイスキルを使っているプレイヤーがいます。その人の色は銀。暁さんも確か銀じゃありませんでした?」

「ああ……確かに銀だった。そのプレイヤーって誰なんだ?」

「《流星》さんです。この二つ名はイベントでオーバーレイを使ったときに見た目が“流れ星”みたいだった事から来ています。掲示板によると、同じ色をしたオーバーレイを持った人は滅多にいないそうなんですが……」


 《流星》と同じ色だった、か。その《流星》って言うのはいったい何者なんだ。


「色や威力が変わるのはどういう理由なんだ?」

「んーと、レベルとか武器とかは関係なくて、ハッキリとは分かってないらしいです。“運”で決まるって言ってたプレイヤーもいたような気がします」


 運か……。そう言えば、【幸運】っていう称号を持ってたはずだけど、あれは何か関係あるんだろうか。


「リュウー暁さーん、出来ましたよー」

「行きましょうか」

「ああ」


 リンが扉を開けて中に入ってきた。料理は下の食堂で食べることが出来るようだ。俺とリュウは話をやめ、食堂に向かった。近づくに連れ漂ってくる美味しそうな匂い。胃が早くよこせと騒ぎ立てる。


「おっおおお! うわははー!!」


 机に並べられている料理を見て、俺は思わず変な声を出してしまった。だけどしょうがない。艶っぽく輝く湯気を出しながら茶碗の上に所狭しと盛られている。これだけでも嬉しいのに、隣には同じく湯気を立てるみそ汁が。更に焼き魚に漬け物、卵焼きなど、まさに俺好みのメニューだ。


「えっと、こんなんしか作れないんですけど……」


 リンが不安そうに俺を見てくる。


「いやいやいやいや! 最高だね! ありがとう!」


 並べられた椅子に腰掛け、早速みんなで食べることにした。全員で手を合わせて、「いただきます」。夕食なのに朝食っぽいメニューだけど気にしない。このメニューなら朝昼晩いつでも歓迎だ。

 やっぱり最初は白いご飯を食べよう。炊きたての良い匂いを嗅ぎながら、大きく一口。熱さにハフハフしながら良く噛んで味わう。炊きたてのほくほく感、固すぎず柔らか過ぎない絶妙な米、噛みしめるたびに染み出てくるお米独特の甘さ。まさかこんな旨い米が仮想空間で食べられるなんて驚きだ。次はみそ汁。火傷しないように息を吹きかけて少し冷まし、汁を飲んでみる。Oh……これは素晴らしい。俺は少し濃いめのみそ汁が好きなんだが、まさに丁度良い濃さだ。しょっぱいという程の濃さではなく、味噌の味がよく分かるぐらいというか。中に入っている具もいい。わかめにジャガイモ、豆腐に油揚げ。一つ要望を上げるなら、茄子を入れて欲しかったな。祖母のみそ汁に入っていた茄子は柔らかくて美味しかった。まあ無くても十分に美味い。それから漬け物、たくあんを摘む。黄色い体は美しく輝いており、それでいてなかなか太い。ずっしりとした重量感が箸から伝わってくる。噛むとコリッという小気味よい音とともにしっかりとした味が出てきた。それから焼き魚。焼き具合は表面の皮に少し焦げ目が付いているぐらい。祖母の焼き魚たまに真っ黒だったなあ。この魚の焼き具合はかなり良いと思う。箸で身をほぐし、皮を裂いて肉を取り出す。白い身は輝いており、神聖さすら感じられる。一口口に含むとほぉう、と感嘆が口から漏れた。脂が乗っていて良い食感だ。パサパサしていない。コンビニ弁当とか祖母の焼きすぎた焼き魚は脂が落とされて身がパッサパッサでとても食べれた物じゃ無いけど、この焼き魚は神だ。パサパサの焼き魚を食べると口の中の水分がなくなって、パッサパサ! パッサパサ! 口の中パッサパサ! どうしてくれんのパッサパサ! と叫びたい気分になるけどこれはそんなことは全くない。ほどよい塩味だ。白いご飯が食べたくなる。何の魚かは分からない。見たことがない形をしている。味もどこか今まで食べた魚とは違う。


「それは槍魚と言うそうですよ。槍みたいに頭で敵を刺して攻撃するから槍魚と言うらしいです」


 リンが魚を見つめていると教えてくれた。成る程槍魚と言うのか。現実では聞いたことがないからこの世界にしかいない魚なんだろうか。現実にいないのにどうやって味を決めているんだろう。うーむ……興味深い。槍魚、覚えておこう。

 そしてそれから卵焼き。俺は甘いのも塩辛いのも大好きだ。この卵焼きは……甘いな。だが糖分控えめ、って感じだ。甘すぎるとご飯に合わないからこの味付けは好きだ。形が整っていて焦げてない。そして身がとても柔らかい。よくこんな柔らかいのをこの四角い形に出来たものだ。卵焼きを頬張り、ご飯を一口。それからみそ汁を啜ってたくあんを囓り、焼き魚を食べてご飯を一口。約一年ぶりのちゃんとした料理はとてつもなく旨く、思わず何も言わないで黙々と食べてしまう。しばらくしてから、リンが不安そうな顔で俺の食べる様子を見ていることに気付いた。その横ではリュウが美味しそうに食べている。おい、お前焼き魚の身の出し方下手だな。バラバラじゃないか。しかもみそ汁零してるし、ちゃんとしろよお兄ちゃん。


「あの、どうですか?」

 

 リンが恐る恐るといった感じで尋ねてきた。どうですって、そりゃあこれ滅茶苦茶美味いに決まってるじゃないですかお嬢さん。やばい、なんかテンションが変なことになってる。ただでさえ最近キャラが安定してないのに余計おかしくなっちまうぞ。


「滅茶苦茶美味しい。これなら毎日でも食べたい」


 俺が率直な感想を伝えるとリンが嬉しそうに笑い、その後ハッと顔を上げて俺の事を見てきた。頬がほんのりと赤くなっている。褒められたのがそんなに嬉しかったのか? 毎日でも食べたいってなんかプロポーズみたいな感じだけど今更そんな解釈はしないだろうし。

 リンは下を向いて俯き、何かを呟き始めた。何事だよ。リンのキャラもよく分かんないな。リュウもテンション上がるとうわははー、とか言い出すし、みんなキャラがブレブレだぞ。

 リュウが俺とリンの様子を微笑ましそうに見ている。何だよその笑いは。


「その、暁さん……」


 リンが顔を上げてゆっくりとしゃべり出した。ん?




「よければ、私のご飯を毎日食べて貰えませんか?」


 


 ちょ……何この状況。っべー。まじっべーぞおい。


リンちゃんっべー、マジっべーぞ

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