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「すいませんでした!」
街に帰った俺達はリュウとリンが泊まっているという宿に来ていた。さっきまで金髪達が「っべー。マジっべー。ちょ、ガチありがとうございました」とか言ってきてうざかったな。金とか出そうとしてたけどもう十分あるから返してさっさと消えるように言ってやった。そしたら「っべー。マジかっけー」とか言って目を輝かせて見てきやがった。気持ち悪いからさっさと帰れ。
ここの作りは俺の泊まっていた宿と同じだが、NPCに頼むと有料でキッチンを貸し出してくれるらしい。俺の所は泊まるところしかなくてキッチンとかは無かったはず。
頭を下げるリュウとそれを不安そうに見つめるリン。やっぱり俺が苛めてるみたいだ。ちょっと罪悪感を覚えないでもない。
宿に着いた後、俺はリュウに妹を危険に晒した事を怒った。若干余計な事しやがって、という俺の私怨も混ざっているような気もする。
「兄は妹を守ったり助けたりするために産まれるから、“兄”って言うんだ。その兄が妹を傷つけてどうするんだ、リュウ。リンをしっかり守ってやれ」
リュウはその言葉に感動したようでコクコクと何回も頷いた。全く、どの口が言うんだか。というか当初はエリアで他のことに気を取られるな、という事を言おうとしてたのに何で兄とは何たるかの話になってるんだよ。俺訳分からなさすぎ。こんな事言うなんて俺らしくないぞ。キャラがブレブレだ。しっかりしろ、俺。
「その、暁さんは妹か弟がいるんですか?」
リンが不思議そうに聞いてきた。まあ一人っ子がこんな事言うわけ無いからな。兄失格な俺としてはあまり答えたくない質問だぜ。
「いるよ、妹が。あいつもこの世界に来てる。今何してるのかは知らない」
「そうなんですか……見つかるといいですね」
「…………」
俺は栞を見つけてどうするつもりなんだろうか。さっきまで会って謝るとか盛り上がっていたけど、謝ってからどうするつもりなんだ。あいつには確か仲間がいた。その中に混ぜて貰うのか? それ以前に栞は俺を見捨てたんだぞ? あの状況で見捨てると言うことは言外に「死んでも構わない」と言われていたと言うことだ。それに今更謝ってどうにかなるのか? 「はぁ?」と聞き返されて終わりなんじゃないのか? 俺の心の中に黒い感情が渦巻いていくのを感じた。心の中で自分が尋ねてくる。本当にお前は栞に謝りたいのか? 謝ってどうしたいんだ? 栞をどうしたい?
――――お前は自分を見捨てた栞が憎くないのか?
「暁さん、どうしたんですか?」
リュウに呼びかけられて正気に戻った。ボーッとしながら俺は何を考えてたんだ? 心の中でもう一人の自分と対話するとかどんなバトル漫画だよ。俺、自分に甘いから自分に勝つとか無理だぞ。
「悪い悪い。ちょっとボーっとしてた。それよりこれからどうするんだ?」
「どうしましょう……あっ、リンが料理を御馳走する約束してましたね!」
ああ、すっかり忘れていた。俺が聞いたどうするは、組んでいるパーティーをどうするかって事だったんだけど、まあその話は何か食べてからでも遅くない。
話を振られたリンがちょっと気まずそうな顔をした。
「えーっとね、そう言えば今材料切らしてたみたい。それで、なんか買ってこないといけないんだけど……」
リンが申し訳なさそうにそう言った。材料無いのか。結構腹減ってるからすぐに食べれないと聞いてちょっとガッカリ。
「それで、今から食材仕入れて来ようと思うんですが暁さんは何が食べたいですか? あんまり手の込んだ料理は無理なんですけど……食べたいのとかあったら……」
食べたい物か。いざ聞かれるとそんなに出てこないな。ここ一年果物と生肉しか食べてなかったからなあ。はあ。ニートしてるときに祖母が作ってくれた白いご飯とみそ汁と焼き魚と漬け物が食べたい。
「お米とかみそ汁とか和食って言うのかな。そう言う系作れる?」
一応聞いてみると意外そうな顔をされた。なんだよ、和食って素晴らしいんだぞ。炊きたてのお米とか熱々のみそ汁とかはまさに神だ。日本に生まれて良かった。
「暁さんて和食好きなんですね。作れますよ? お米とかお味噌とか売ってたはずだし。リュウ、私買い物行ってくるから暁さんよろしくね」
俺の注文を聞いたリンはリュウにそう言うと扉を開けて出て行ってしまった。元気な子だな……。リュウも音を立てて閉まる扉を見て苦笑いを浮かべていた。うん……お前も苦労してそうだな。頑張れよ。目で応援の言葉を送っておいてやる。伝わったかは知らん。
買い物から帰ってきても作ってる時間で結構掛かりそうだし、レンシアさんの所に防具を取りに行ってくるか。
「リュウ、俺はちょっと行きたいところがあるからちょっと出かける。料理が出来る前には帰ってくるから」
「えっ、はい。分かりました」
リュウにそう告げて宿から外に出る。向かう先はあの鍛冶屋だ。プレイヤーの視線を無視しながら小走りで向かう。もう場所は覚えていたからすぐに着くことが出来た。人の武器をジロジロ見るなんて不躾な奴らだな。
相変わらずささくれた扉を半日ぶりに開けると、「らっしゃーい」と相変わらず気の抜けた声が聞こえてきた。カウンターまで行くとレンシアさんが「待ってたよ」と眠そうに言った。
彼女の手から太刀と防具が急に現れ、カウンターに置かれていく。手品みたいだな、と思った。
「やっぱ凄い素材だったよ。こんだけしか作ってないのに鍛冶スキルが大分上がった。やっぱただ者じゃないねー暁君」
「それで、どれくらい払えばいいですか?」
「んっとー、十万テイル」
十万テイルって結構高いな。確か防具とか武器はレア度が高ければ高いほど作るのが大変だった気がする。そして鍛冶スキルのレベルが高ければ高いほど完成するまでの時間と完成度が高いんだっけ。まあ有名な鍛冶屋とかはレベルの高いエリアにいるだろうし、注目されるからここぐらいが丁度良いんだけどね。
「分かりました。ありがとうございました」
十万テイルが入った袋をカウンターにポンと置き、防具と太刀を回収する。因みに、お金を払わなかったり盗んだりすると、この世界の果てにあるという刑務所に強制ワープさせられる。そこで何かペナルティを受けるようだ。それと、何故かPKだけは強制ワープさせられない。ステータスにある『PK報告』というメールを運営に送らなければ罪には問われない。ここに運営の悪意を感じるのは俺だけじゃないはず。
「……毎度ありー。ああ、その防具と太刀にはスキルが付いてたから。後で確認しておいてね」
スキルが付いていたのか。出来れば《生命力》とかが欲しいな。即死が回避できれば生存率がかなり高くなる。防具を着るのは後にして、俺は鍛冶屋を後にした。後ろで「暁君かー。顔覚えたからねー」と聞こえたけど無視した。
っべーマジっべー