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 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオム!!!!

 新たな標的を確認したギガントゴーレムが咆哮する、凄まじい音量だ。突風が俺達を襲う。リュウとリンは悲鳴を上げながら後ずさった。まあ気持ちは分からないこともない。だけどやっぱりグルヴァジオの咆哮と比べちゃうと大した事ないんだよな。

 ギガントゴーレムは首をゴキリと音を立てながら回すと、もう一度咆哮した。突風が再び襲いかかってくる。この二人やっぱりびびってやがるな。よし。

 


「うらああああああああああああああ!!!!」


 ギガントゴーレムに負けじと叫びながら、《侍の気迫》を発動する。こいつより俺の方がレベル高い筈だから効くだろ。ギガントゴーレムは咆哮を止め、ビクリと体を震わせる。やっぱり俺の方がレベル高いようだな。ボスがビビってやんの。俺が嘲笑を浮かべると、ギガントゴーレムの口がピクリと痙攣したように見えた。


「来るぞ!」


 ギガントゴーレムの主な攻撃方法は普通のゴーレムと同じでように腕で殴ること。移動は出来ないが長い腕は頂上全域に届く。

 ギガントゴーレムの巨大な拳がゆっくりと近づいてきた。大きい分動きは鈍そうだな。作戦通りに行けば瞬殺出来るだろ。

 俺達は三手に別れ、拳を回避する。背後で地面が爆発するような音が聞こえたが、気にせずに近づく。リュウとリンがギガントゴーレムの左右で止まる。俺は二人より少し後ろの位置で様子を見ている。

 ギガントゴーレムが両腕を使ってリュウとリンに攻撃を仕掛けた。手を大きく開き、その掌で二人を押しつぶそうとする。それをギリギリで回避した二人は、地面にめり込んだ手にそれぞれの攻撃をする。


「《フォーススイング》!」

「《トライスタブ》!」


 二人の攻撃が手にヒットする。だがやはりギガントゴーレムはかなりの強度らしく、武器が弾かれてしまっていた。だけどそれで十分だ。


「《空中歩行スカイウォーク》」


 見えない床を蹴りながらゴーレムの顔まで一気に跳んでいく。スタミナを半分ほど消費したが、気にせず攻撃を仕掛ける。使うスキルはグルヴァジオ戦で会得した《オーバーレイ・スラッシュ》だ。まだ使ったことはないが説明文を見る限り強力な威力を持っている。倒せはしないだろうが大ダメージは間違い無しだ。


「オーバーれっ!?」


 リュウが攻撃しているはずの右手が、スキルを発動しようとしている俺の横から迫ってきた。銀色の掌で蠅を打ち押すように叩かれる。咄嗟に太刀で受けたが流石はボス、思い切り吹っ飛ばされた。リンのすぐ近くに隕石のように落下する。激突した衝撃で地面を抉る。


「グハッ……」


 HPが半分ほど削られている。クソ、やっぱ初期装備じゃきついか。俺が今のレベルじゃ無かったら即死してたぞ……。激痛に何とか耐えながら立ち上がり、アイテムボックスから回復薬とスタミナドリンクを取り出して嚥下する。HPが全快し、少しずつ痛みが引いていく。回復薬を飲んだからと言ってすぐに痛みが無くなるわけでは無いのだ。背中が熱い。


「だ、大丈夫ですか!?」


 リュウがこちらに駆けてくるのが見える。ギガントゴーレムが攻撃してきていることに気付かず。巨大な拳がすぐ側まで近づいてきたぐらいで、ようやく気付いたようだ。顔を引きつらせ体を硬直させる。俺はまだ痛みが引いていない。とても動ける状態ではなかった。それでも何とか動こうとして、俺より先に走り出したリンに気が付く。


「お兄ちゃん!!」


 普段はリュウと呼び捨てにしているリンが、お兄ちゃんと叫びながらリュウに飛びつく。ギガントゴーレムの拳は二人には当たらなかった。だが、攻撃の衝撃がリュウを庇ったリンの背中に直撃する。彼女のHPが四分の一ほど削られる。ダメージはそこまで大きくないが、激痛は感じる。リンは顔を顰めてぐったりとした。


 ああ。妹に助けられる兄を見るのってこんな気持ちなんだな。自分がいままで栞にしてきた行動を思い出すと吐き気がしてくる。なんて情けないんだ。格好悪いにも程がある。見ていられない。恥ずかしい。苛つくから後でリュウには説教だな。だからここで死なれちゃ困る。


 地面に倒れたままの二人に向かってギガントゴーレムがもう片方の腕を使って攻撃する。今度こそ二人は避けられないだろう。リュウはともかく、リンは確実に死ぬ。二人はお互いに抱き合い、ギュッと目を瞑った。


 痛みが引いて動けるようになった俺でも、流石に二人同時に抱いて助けるなんて真似は出来ないな。だったら受け止めてやる。拳が二人を押しつぶす寸前に間に割り込み、全力で太刀を叩き付ける。全身に凄まじい衝撃が走りHPが二割ほど減少しする。だが拳を止めきる事が出来た。後ろの二人は無事だ。

 

「おい、リュウ」

「……な、何ですか」

「ちょっと後ろに下がってろ。このゴーレムは俺が相手する」

「なっ……で、でも」

「60レベルの俺を心配するなんて良い度胸だな。いいからリンと一緒に下がってろ」

「っ……はい!」

「おいっ金髪達! こいつらを守ってろ! こいつらが死んだらお前らを殺す!」

「「わ、分かった!」」


 リュウがリンを抱きかかえて後ろに走っていく。金髪達が二人に向かって走っていき、自分達の後ろに匿った。大剣を構えて震えている。頂上にいる限り安全な場所はないが、俺がこいつの気を惹き付けておけば問題ない。


「案外脆いんだな」


 目の前にあるヒビの入った銀色の腕を見ながら言う。ギガントゴーレムが空洞の目で俺を見つめてくる。そこに若干の恐れが見て取れた。いや見ては取れてない。そんな気がしただけ。


「《兜割り》いいぃいい!」


 ひびの入った部分に打撃技を叩き込む。手全体にひびが広がっていく。ギガントゴーレムはそうはさせないともう片方の腕で殴ろうとしてくるが、俺がもう一度スキルを使う方が早かった。二度目の《兜割り》により、鋼鉄の右手が音を立てて砕け散った。ギガントゴーレムは顔を苦痛に歪ませながら悲鳴を上げる。奴のHPバーが四分の一ほど減少した。


「《残響》」


 左手に押しつぶされる直前に発動し、ギガントゴーレムの背後に移動した。すると片腕を使ってギガントゴーレムがこちらに向く。こいつに不意打ちは出来なさそうだな。まあしなくても勝てるけど!

 再び《空中歩行スカイウォーク》で跳ぶ。左手が俺を撃ち落とそうと近づいてくるが攻撃が来ると分かっていれば何の問題もない。跳ぶ速度を上げ、余裕で攻撃をかわす。今なら弱点である頭がガラ空きだ。


「喰らええええええ!!!! 《オーバーレイ・スラッシュ》ゥゥゥゥ!」


 スキルを発動した瞬間、『血染め桜』が銀色の光を発し始めた。銀色の光が刀身を包み込む。太陽のように光り輝いているのにも関わらず、全くまぶしいとは思わない。俺はそのままギガントゴーレムの顔面を斜めに斬り付けた。それは一撃では終わらず、何度も何度もギガントゴーレムを斜めに切り裂く。刃が通った後には銀色の粒子が漂い、まるで“流れ星”のようだ。



「《流星》…………」


 下でリュウが何かを呟いた気がした。だけど上手く聞き取れず、何て言ったかは分からない。

 《オーバーレイ・スラッシュ》は十連続で相手を斜めから斬り付けるスキルだ。刃が一度岩の頭を斬るたびにHPが大幅に削られ、スキルが終わったときにはギガントゴーレムのHPバーは空になっていた。


 ゴアアアアアアアアアアアアア!!!!


 悲痛な叫びを上げながら、ギガントゴーレムが崩れ落ちていく。予想外の事も起きたが何とか倒せたな。地面に着地しながら安堵の溜息を吐く。ポーンと音がし、レベルが61に上がる。ボスって経験値馬鹿みたいに多いし、パーティー人数が少ないから結構入ったみたいだな。あの二人もいくつかレベルが上がったんじゃないか?

 おーい、とリュウとリンが叫びながらこっちに向かってくるのが見える。金髪達も興奮した面持ちで一緒に来ている。まあ、あいつらはどうでもいいな。それにしてもあの兄妹を見てると何か調子が狂う。情緒不安定だ。

 その時、ピローンと気の抜けた音が聞こえてきた。チャットが飛んできたようだ。送り主はレンシアさん。

 『防具と武器出来たよー(^^)/』。

 ああ。あの人顔文字とか使うのか……。


 頂上の奥の方に緑色の門が現れる。ワープゲートだ。


「帰るか」

 



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