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中腹まで戻ってきた俺達はボスについて話し合うことにした。挑むつもりだったということはある程度の情報は持っているだろう。
「えっとですね、ボスの名前はギガントゴーレムです」
ギガントゴーレムは鋼鉄で出来た巨大な体を持っていてかなり堅いらしい。足が無くて地面から生えているような形。弱点は頭だが背が高くて攻撃が届かない。攻略組は片腕を破壊して攻撃が緩くなったところに一斉攻撃を仕掛けて倒したようだ。体が硬くて倒すのに相当時間が掛かったらしい。
……聞く限りでは結構強そうだがこの二人はいったいどうやって倒すつもりだったんだ? 聞いてみると、リュウが斧で腕を壊してその隙にリンが胴体に攻撃して倒すつもりだったらしい。……呆れて物も言えない。攻略組が長時間掛けてようやく倒した相手を二人で倒せる訳ないじゃないか。向こう見ず過ぎるぞ……。
「うー……。だって適正レベル越えてたし、リュウも堅い相手に良く効く打撃系のスキル、結構会得してたから勝てると思ったんですよ……」
頬を膨らませるリンと頭をポリポリと掻くリュウ。こいつらには一度ボスモンスターの恐ろしさを教えてやる必要があるな。適正レベルを超えていたとしても3や4レベル程度じゃ駄目だ。ボスは集団で挑むようにレベル設定されてるんだからな。適正レベルをちょっと超えたからって余裕だな、とか調子乗ると九回ぐらい死ぬぞ。
「あ、そう言えばですね、最初のイベントの時に敵モンスターとしてギガントゴーレムが出たんですよ! その時にそのゴーレムを一人で倒した斧使いの人、知ってますか!?」
唐突に話題を変えやがった。こいつ全然ボスの怖さが伝わってないぞ……。リュウが妹の様子に苦笑している。リンって気が強そうだからお前も苦労してるんだな、と目で労いの言葉をかけてやる。伝わったかどうかは分からない。んー、でも一人でボスモンスター倒すって結構な事だよな。最初のイベントって事はまだ全員そこまでレベル高くなかったはずだし。少し気になる。俺が知らないな、と答える前にリンはその人について語り始めた。
「その人の二つ名は《巨人殺し》! 《兜割り》でギガントゴーレムの腕を壊して《スイング・スクエア》で止め刺すところ格好良かったなぁー! 赤色の髪をしてて滅茶苦茶イケメンなんですよ! あーあー、私がもうちょっと大人で強かったらあの人のパーティーに入りたかったなー」
リンの言い方だとその《巨人殺し》とやらはギルドには入ってないらしいな。そんなに強いって事は色んなギルドに勧誘されたんだろう。なのに何でギルドに入らなかったんだ? ギルドの方が安全だろうに。《嵐帝》といいそのイケメンといい、強いのにギルドに入らない奴が結構いるな。まあギルドに入ったらルールとかあるだろうし、俺は入りたくないけど。もしかしたらその人達も自由にやりたかったのかも知れない。それにしても赤髪が地毛って事はないだろうし外見の設定弄ってるだろ。俺ももう少しイケメンに設定すれば良かった……。
と言う風に何回か話がわき道にそれて結構時間を掛けながら、ようやくギガントゴーレムを倒す作戦を立てる事が出来た。リンって面食いなのな……。
作戦はこうだ。リュウとリンがギガントゴーレムの注意を惹き付けて、隙が出来たところで俺がゴーレムに攻撃する。頭が高すぎて届かないというなら《空中歩行》の出番だ。顔面にスキルをぶち込んでやれば倒せるだろ。リュウに初期装備ですけど大丈夫ですか、と聞かれたが、大丈夫問題ないと返しておいた。まあ防御面では多少不安だが避ければ問題ないだろ。
「じゃあ、行くか」
――――――
頂上に近づくにつれ周りに漂っている空気が変わっていくのが分かる。息苦しくなり肌がピリピリと刺激される。グルヴァジオの時と同じだ。リュウとリンの喉を鳴らす音が聞こえた。ぶっちゃけ情報が聞けたからこいつらは用済みなんだけど、何だか見捨てられない。兄妹だからだろうか。この二人を見ていると妙に心がざわめく。リンは栞に似てないのに何故か被って見える。……まあ見捨てないのは料理作って貰えるからだな。料理楽しみだ。
「っ!?」
地面が大きく揺れた。なんだ!? この先にはギガントゴーレム以外でないってリュウが言っていたぞ。もしかして誰かがギガントゴーレムと戦っているのか?
「リュウ。話が違うじゃないか」
リュウは、ここにいるプレイヤー達はボスと戦わずにレベルを上げて帰るだけだから、先客はいないと言っていた。この世界のプレイヤーの殆どはボスに挑まずにレベルを上げ、次のエリアの適正レベルを幾つか超えたらそこに移動する、を繰り返して強くなっていくらしい。ボスと戦うにしても何日も掛けてパーティーを募集して念入りに準備するから誰かがボスに挑もうとしたらここを狩り場にしているプレイヤーはすぐに気付くはずだ。さっきまで中腹にいたがそんな雰囲気は感じられなかったぞ。
リュウはビクッと体を震わせた後、すいませんと頭を下げてきた。……そんなに責めるような言い方はしてないんだけどな。
「取り敢えず近づいて様子を見てみよう。ボスと戦っているときに乱入するのはマナー違反だから、誰か戦っていたらボスと戦うのは明日にしよう」
エリア内では基本的にプレイヤーは無干渉。よほどのピンチにになった時は例外だけど、それ以外は自分の力で乗り切らなければならない。
俺達は駆け足で頂上に急いだ。
「うわあああああ!! 来るんじゃねえ!!」
「おい! ちゃんとこいつの攻撃を惹き付けろよ! 逃げ回ってるんじゃねえ!」
ああ……。リュウとリン以外にも無謀な奴らがいたみたいだな。さっき中腹で俺に絡んできた金髪の二人がギガントゴーレムに追いつめられていた。ボスとの戦闘が始まれば倒すまでプレイヤーは逃げる事が出来ない。外から中に入って助けることは出来るけどな。
ギガントゴーレムは話に聞いた通りに巨大だった。鈍く輝く体はかなり硬そうだ。攻略組が苦戦するのも頷ける。何故か頭だけ岩で出来てるけどまああんだけ背が高ければ関係ないか。胴体が地面から生えており移動できないようだが、頂上の中心にいるため全方位に攻撃が届くようだ。腕で体を回転させて逃げ回る金髪達の方を向き、その巨大な掌で押しつぶそうとしている。
ボス戦に巻き込まれないように俺達は頂上の一歩手前に立ち、泣き叫ぶ金髪達を眺める。リュウとリンはギガントゴーレムの迫力に飲まれ顔を青くしていた。まあ一歩間違えば自分達が同じ状況に立っていたんだから無理もないだろう。
安全地点から眺めている俺達に気付いたのか、金髪二人がこっちに駆けてきた。二人ともHPが半分を切っており、スタミナも殆ど残ってない。
「お、おい! 助けてくれ!」
金髪達が透明な壁をバンバンと叩きながら助けを求めてきた。俺達から見るとパントマイムをやっているみたいでこいつらの動きは滑稽に見える。思わず笑ってしまった。
「な、なに笑ってんだよ! 早くこっちに入って助けてくれ!」
「やべえ、ゴーレムがこっち向いたぞ!」
馬鹿にしていた相手に助けを求めるとか情けない奴らだ。それに頼み方がなっちゃいない。そんなんで誰か助けてくれると思ってるのか?
リュウとリンが俺の方を見つめてくる。どうするのかは俺が決めて良いようだ。
「お前らは何でボスに挑もうと思ったわけ?」
理由を尋ねてみた。
「い、今はそんなことどうでも良いだろ!? 適正レベル超えたしいけると思ったんだよ!」
「おい! 早く助けろ! ゴーレムが攻撃してきた!」
ギガントゴーレムが二人に狙いをつけて拳を振り上げるのが見えた。こいつらの今のHPじゃあれをモロに喰らったら死ぬだろうな。だから俺はこいつらに言ってやった。
「初期装備でしかも超雑魚い武器を使う頭のおかしい俺じゃあ、あんたらを助けることは出来ません。それにー人の獲物を横取りするのはマナー違反ですしねー」
「ふ、ふざけんじゃねえ! た、助けてくれ! 頼む!」
「後で金ならいくらでも払う! 俺らの武器とか全部上げるから!」
どうしよっかなー。さっきあんなに調子乗ってたのにその態度の変えはちょっと気に入らないかなー。俺がニヤニヤと笑みを浮かべていると、肩を叩かれた。振り向くとリンが泣きそうな目で俺を見ていた。
「助けてあげてください……」
どうもこの二人といると調子が狂うな。しょうがない。こんな奴らでも死ぬのは後味が悪いからな。
「行くぞ!」
俺は太刀を抜いて頂上に踏み込み、金髪達の前に立ち拳を受ける。凄まじい衝撃に襲われ、堪えきれず後ろに吹っ飛ばされた。金髪達を巻き込んで透明な壁に激突し、意識が飛びかける。HPが少し減るのが見えた。
「暁さん!」
リュウとリンが壁を擦り抜けて中に入ってきた。これでもう後戻りは出来なくなった。ここから生きて帰るには目の前のギガントゴーレムを倒すしか無いわけだ。
「す、すまねえ……助かったぜ……」
「お、恩に着る」
金髪達がヘコヘコと頭を下げてくる。ああもう、鬱陶しいから下がってろ。
「今から俺達でこいつを倒すからお前らは標的にされないように逃げてろ」
金髪達を押しのけてギガントゴーレムを睨む。